ドラゴンボール学園ラブコメ! オラ、恋愛わかんねぇ!
カプセル中学校へようこそ――日本のごく普通の学校。だけど、このクラスは何ひとつ普通じゃない。
転校生のカカロットは、野生の黒髪にいつもニコニコ笑顔、そして唯一の情熱は「昼食のおかわりをできるだけ多くもらうこと」。彼はのんびり屋で心優しく、食べ物と友情以外のことにはまったく無頓着。ところが、なぜか周りの女の子たちが次々と彼に恋心を抱き始めているのだ。
まずは幼なじみのチチ。賢く真面目で、いつか医者になることを夢見ている彼女は、ずっとカカロットのことが好き。毎朝告白の練習を欠かさないけれど、告白しようとすると必ずカカロットに「ねぇチチ、ハンバーグちょうだい?」と邪魔されてしまう。彼女は毎日心の中で悲鳴をあげている。
次にベジータ――ライバルで隣人、そして歩くプライドの塊。誰かを好きだなんて絶対認めないけど、クラスで一番自信満々なブルマに(下手に)アピールしようと奮闘中。その方法は? 彼女を罵倒すること。もちろん全然うまくいっていない。
カカロットの親友クリリンは、ひそかにチチに恋をしている。でもカカロットが親友だから、何も言えずにただ見守り、拳を握りしめるばかり。
第4話では大事
ドラゴンボール学園ラブコメ! オラ、恋愛わかんねぇ! - ダンス大会当日!金色の嵐と、友達じゃ嫌だっ!
朝のホームルームが始まる前の2年3組は、昨日よりもさらにざわついていた。
窓の外、カプセル中学のグラウンドに10月の朝日が落ちている。空は晴れていた。ペアダンス大会の当日にしては、ちょうどいい天気だ。
カカロットは最後列の窓際の席に座って、外を眺めていた。
(今日のダンス、また踏むかもしれない)
昨日の練習を思い返す。ステップを間違えるたびにチチに怒鳴られて、でも「チチと踊るの楽しいな」と言ったら一瞬だけ変な顔をされた。あの顔の意味が、まだわからなかった。
そこへ、ドアが開いた。
モリノ先生だった。いつも少し疲れた目をしている30代の国語の先生。今日は胃薬を胸ポケットに入れたまま教室に入ってきた。書類を一枚持っている。
「[gentle]えー、みなさん、おはようございます」
クラスが少し静かになった。
「[gentle]今日はペアダンス大会ですね。頑張りましょう。……その前に、お知らせがあります」
先生が、教室の入口に目をやった。
「[gentle]今日から、転入生が来ます。昨日から在籍予定だったのですが、手続きの関係で……どうぞ」
ドアが開いた。
金色の長い髪が、教室の空気を変えた。
ゆるいウェーブのかかった金色が肩から腰まで流れていて、光を受けてかすかに輝いている。背が高い。立ち姿が整っていて、制服が初日なのに妙に清潔に見えた。
琥珀色の目が、教室をゆっくりと見渡した。
誰も喋らなかった。
その目が——動いた。廊下側から窓際へ。机の間を、まっすぐに。一番後ろの列まで。
カカロットのところで、止まった。
昨日と同じだった。「ようやく見つけた」とつぶやいて、そのまま立っていた少女。
「[cold]フローラです。よろしく」
短かった。自己紹介、それだけだった。
教室が凍りついている。
フローラはモリノ先生に歩み寄り、静かに何か言った。先生が書類を確認して、困った顔をした。
「[sad]えっと……隣の空き席に移動したい、ということですか?」
フローラがうなずいた。
「[sad]カカロットくんの隣の席ですよね、それ……」
先生がカカロットを見た。カカロットがきょとんとした顔で先生を見返した。
「[gentle]オレは全然いいっすよ?」
「[sad]……はい、では、どうぞ」
先生の胃薬が、ポケットの中でかすかに音を立てた。
チチが自分の席——カカロットの2列前——から、その光景をじっと見ていた。
フローラが窓際の席に荷物を置く。カカロットとの距離、50センチ。チチの位置からだと斜め前方に、金色の髪がはっきり見える。
(なんで……なんで隣なの……)
手の中のノートを、ギュッと握った。指の関節が白くなる。
カカロットはフローラを見て、ニコニコした。
「[gentle]よろしくな。何かあったら言ってくれよ」
フローラは答えなかった。ただ、カカロットを見ていた。何かを確かめるような、探るような目で。
クラスがざわめき始めた。
「ねえ、あの子、カカロットに何の用?」「昨日も『見つけた』とか言ってたよね?」「それよりなんであんなに綺麗なんだよ」「え、カカロットのこと知ってるの?」
一気に口コミが走り、気づいたら3人の男子が「フローラさんをカカロットに紹介したい」と名乗り出ていた。前の席の子が「そっちが席近いから先に話せるじゃん!」と後ろの子に文句を言い始め、後ろの子が「別に俺が話したいわけじゃないし!」と言い返し、廊下側の列の子が「でも気になるよな……」と全員の本音を代弁した。
モリノ先生が前に立って、目を閉じた。
「[sad]……もう少し静かにできませんか」
静まらなかった。
「[sad]できませんよね」
先生は胃薬を口に入れた。一錠目だった。
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昼休みになった。
体育館前の廊下に、今日は人が多かった。ダンス大会の準備で生徒会が動き回っていて、「競技順は3番と6番が入れ替わります!」という叫び声がどこかから聞こえていた。
カカロットが廊下を歩いていると、フローラが前に立った。
琥珀色の目が、まっすぐ向いている。
「[serious]今日のダンス」
「うん?」
「[serious]ステップ、わたしが直接教えてあげる。今から時間あるでしょ」
カカロットが頭を掻いた。
「[gentle]え、でもパートナーはもう——」
「[angry]ちょっと待って!」
声が飛んできた。
チチだった。深緑の髪を揺らして、ノートを胸に抱えたまま早足で近づいてくる。グレーの目が、フローラをしっかり見ていた。
「[serious]今日のパートナーはわたしです。カカロットくんのステップを教えるのも、わたしの役目です」
フローラがチチを見た。
「[cold]知ってる。でも昨日の練習で何回踏まれたの」
「[serious]それは……っ、でも大丈夫です!」
「[cold]大丈夫に見えない」
「[angry]大丈夫なんです!」
二人が廊下で向かい合った。フローラは表情を変えない。チチは顔が赤い。
そこへ、足音がした。
「あら」
ブルマが通りかかった。薄い水色の髪が肩で揺れている。手元のタブレットに何かデータが表示されていたが、廊下の状況を見た瞬間に画面を下ろした。
「[sarcastic]まだやってたの、これ」
「[cold]あなたも何か用?」
「[sarcastic]べつに。ただ通りかかっただけよ」
ブルマがカカロットの隣に並んだ。自然に。何も考えていなさそうな顔で。でも、フローラとチチの間にしっかり割り込む位置に立っていた。
「[sarcastic]でも、せっかくだから聞かせて。転校初日にパートナーを奪いに来るって、なかなか面白い趣味ね」
「[cold]奪いに来たわけじゃない。助けに来た」
「[sarcastic]カカロットくんの足が心配なの? 優しいこと」
「[serious]そういうことじゃなくて——」
「[angry]カカロットくんはわたしと踊ります!」
「[sarcastic]そうそう、それが一番まとまるんじゃないかしら」
三人が、カカロットを囲んでいた。
カカロットは三人を順番に見た。チチ、フローラ、ブルマ。全員が何か言いたそうな顔をしている。
(なんか揉めてる……?)
状況がよくわからなかった。でも、ふと思い出したことがあった。
「[gentle]ところで、今日の給食って何か知ってる?」
廊下が、止まった。
三人が同時にカカロットを見た。
チチが固まった。ブルマが目をぱちくりさせた。フローラが、初めて表情を崩した——小さく、本当に小さく、唇の端が動いた。
「…………」
三人分の深いため息が廊下に漏れた。
その瞬間、廊下の角から覗いていたモリノ先生が、静かに二錠目の胃薬を飲んだ。
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午後の2時。体育館のステージに、カカロットとチチが立った。
観客席——といっても折り畳み椅子が並んだだけだが——に全校生徒の約半分が座っている。審査員のテーブルに先生が3名、PTA代表が2名。出番を待つペアが袖に並んでいる。
競技用の音楽が流れ始めた。
チチがカカロットに向き直った。グレーの目が真剣だった。深緑の髪が一本も乱れていない。練習のために昨日もおとといも、チチがどれだけ時間をかけたか、カカロットはぼんやりとしか知らなかった。
「[serious]今日は絶対に決めましょう」
「[gentle]うん、がんばろう」
音楽が拍子を刻む。
一歩、二歩。
ドスッ。
「[angry]また!!」
「[laughing]あ、ごめん。左だよな、左!」
小声で、でも必死なやりとり。観客席にいくらか笑いが漏れる。
カカロットはもう一度踏み出した。今度は合った。
二人が動き始める。チチのリズムは完璧だった。昨日何十回も練習したステップを、体が覚えていた。カカロットの手を引いて、向きを変えて、音楽に乗っていく。
(ちゃんとついてきてる)
カカロットが感じた。チチが自分のペースに合わせて動いている。速くも遅くもなく、ちょうどいい速さで。
演目の中盤。またステップを間違えかけた。でもチチが手の角度でそっと誘導した。気づいたら合っていた。
カカロットはそのとき、初めてちゃんとチチの顔を見た。
必死だった。
緊張して、でも諦めていなくて、ちゃんとステップを踏んで、音楽を聞いて、全部やろうとしている顔。
(……チチ、ずっとこういう顔でオレのそばにいたのかな)
急に思った。今日だけじゃない。昨日の練習も、廊下での「友達だもんな」という言葉の後も、この顔で隣にいたのかもしれない。
何かが、胸の中でかすかに動いた。
(友達、じゃなくて……)
うまく言葉にならなかった。でも何かが違う気がした。
演目の終盤、カカロットはチチの手を握り直した。
自分から。しっかりと。
チチがびくっとした。
一瞬、目が合った。
チチの目が丸くなった。グレーの瞳が、カカロットをそのまま映している。
(あ)
チチの胸の中で、何かが大きく脈打った。
カカロットはそのまま、最後まで手を離さなかった。
音楽が終わった。
観客席から拍手が来た。入賞ラインには届かない点数だったが、それはステージを降りてから知ることになる。
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ステージの端で、結果が発表される前。
カカロットはチチに向かって言った。
「[gentle]また一緒に踊ろう。チチと踊るのが一番しっくりくる」
チチが固まった。
(しっくりくる……)
「一番」という言葉が、胸に刺さった。痛いような、嬉しいような、もどかしいような——全部いっぺんに来た。
(友達だから、じゃないよね? ねえ、友達だからじゃないよね?)
言いたかった。「わ、わたしは友達じゃ嫌なんだけど……!」と叫びたかった。
でも、声が出なかった。
代わりに、目が熱くなった。
涙が来そうだった。こんなところで泣いてたまるかと思った。笑顔を作った。
「[gentle]……うん。絶対またやろう、ね」
声が少し震えていた。
カカロットが、チチの顔を見た。
「[gentle]なんで泣きそうなの?」
真っ直ぐな声だった。
チチが固まった。
(今、聞いた? カカロットくんが……聞いた?)
これまで何回も何回も泣きそうになっても、カカロットは一度も聞いてこなかった。「友達だもんな」と言って歩き出して、チチが一人でその場に残って。
なのに今日は——聞いた。
「…………」
何も言えなかった。
言葉が全部どこかに消えてしまった。涙をこらえながら、カカロットを見ていた。
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観客席から少し離れた場所で、クリリンはそれを全部見ていた。
水色の丸坊主頭に10月の日差しが当たっている。昨夜の屋上での涙の痕は、もう乾いている。
カカロットがチチの手を握り直した瞬間を見た。チチの目が丸くなった瞬間を見た。ステージを降りてからの二人の会話は聞こえなかったが、チチが泣きそうな顔で笑っているのは見えた。
クリリンは唇をきつく結んで、前を向いた。
ゆっくりと、小さくうなずいた。
(よかったな)
それだけだった。それだけで十分だった。
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大会が終わって、生徒たちが体育館から出ていく。
カカロットとチチが並んで廊下を歩いている。チチはまだ目が少し赤かったが、笑っていた。カカロットが何か給食の話を始めていた。たぶん、今日の夜ごはんのことを考え始めているのだ。
廊下の壁に、フローラが背中を預けていた。
腕を組まず、うつむかず、ただまっすぐに二人の背中を見ていた。
怒っていない。悲しそうでもない。
ただ、何かを待ち続けているような目だった。
「[whispers]まだわたしのことを、完全に忘れているのね」
声は小さくて、廊下の喧騒に溶けた。
そこへ、靴音が来た。
「[serious]お前」
ベジータが廊下を歩いてきて、フローラのそばで足を止めた。濃紺の逆立った髪、燃えるような赤い目。眉をひそめたまま、フローラを見ている。
「[serious]カカロットと何の関係だ」
フローラがベジータを見た。琥珀色の目が、一秒だけ向いて——それから、二人が歩いていった廊下の方へ戻った。
何も言わなかった。
ベジータが何か言おうとして、やめた。この少女から感じる空気が、何か妙にただならなかった。普通の転校生じゃない、という感覚だけがあった。
結局、ベジータは廊下の反対側に目をやった。ブルマが体育館の出口でタブレットを操作しているのが見える。今日のダンスの結果データをまとめているらしかった。
(……データが気になる、というわけじゃないが)
ベジータが歩き出した。ブルマの方へ。
「[serious]お前のデータは正確なのか」
ブルマが顔を上げた。
「[sarcastic]……当然でしょ。何の話?」
「[serious]ダンスの採点だ。審査員が正しく評価できてるかどうか、数字で証明できるか」
ブルマがベジータを見た。二秒。
「[sarcastic]……あなたって本当に、褒め方を知らないのね」
ベジータの耳が、かすかに赤くなった。
「[angry]褒めてない! 当然の確認だ!」
「[sarcastic]わかったわかった。せっかくだからデータ見てく?」
「……別に、見てやってもいい」
廊下に夕方近くの光が差し込んでいた。
フローラだけが、まだ壁に背中を預けたまま、誰もいなくなった廊下を見ていた。
その目が、静かで、深くて——何かを、ずっと待っているようだった。