ドラゴンボール学園ラブコメ! オラ、恋愛わかんねぇ!
カプセル中学校へようこそ――日本のごく普通の学校。だけど、このクラスは何ひとつ普通じゃない。
転校生のカカロットは、野生の黒髪にいつもニコニコ笑顔、そして唯一の情熱は「昼食のおかわりをできるだけ多くもらうこと」。彼はのんびり屋で心優しく、食べ物と友情以外のことにはまったく無頓着。ところが、なぜか周りの女の子たちが次々と彼に恋心を抱き始めているのだ。
まずは幼なじみのチチ。賢く真面目で、いつか医者になることを夢見ている彼女は、ずっとカカロットのことが好き。毎朝告白の練習を欠かさないけれど、告白しようとすると必ずカカロットに「ねぇチチ、ハンバーグちょうだい?」と邪魔されてしまう。彼女は毎日心の中で悲鳴をあげている。
次にベジータ――ライバルで隣人、そして歩くプライドの塊。誰かを好きだなんて絶対認めないけど、クラスで一番自信満々なブルマに(下手に)アピールしようと奮闘中。その方法は? 彼女を罵倒すること。もちろん全然うまくいっていない。
カカロットの親友クリリンは、ひそかにチチに恋をしている。でもカカロットが親友だから、何も言えずにただ見守り、拳を握りしめるばかり。
第4話では大事
ドラゴンボール学園ラブコメ! オラ、恋愛わかんねぇ! - 翌日の教室と、フローラの秘密と、クリリンの答え
月曜の朝、2年3組の教室に差し込む朝日は、土曜日のそれと何も変わらなかった。
でもチチの中身は、全然違った。
カカロット——あの瞬間のことが、ずっと頭から離れない。ステージの上で、手を握り直された瞬間。
「なんで泣きそうな顔で笑ってたの?」
あの言葉が、また脳内で再生された。顔が熱くなる。チチは教科書をノートの上に重ねて、顔を隠した。
そこへ、チカチカと髪を揺らしながらカカロットが自分の席に滑り込んできた。窓際の最後列。チチから見ると、二列前の真ん中から斜め後ろになる。
「[gentle]チチ」
なんでもない声だった。ごく普通に、ただ名前を呼んだだけ。
チチは返事をしなかった。教科書を顔の前で立てたまま、石になった。
「[gentle]昨日さ、なんで泣きそうな顔で笑ってたの? ずっと気になってたんだけど」
ここでも聞くのか、この人は。
チチの頬が、耳まで燃えた。教科書がぶるぶると揺れている。自分の手が震えているからだ。
「[angry]なんでもないです!! おせっかい!!」
叫んだ。叫んでしまった。教科書で顔を隠したまま、机に突っ伏す。
「[gentle]そっか」
あっさりしていた。本当にあっさりと、カカロットは引き下がった。椅子を引いて、窓の外に目をやっている。
その「そっか」が——逆に、チチをもっと悔しくさせた。
(もうちょっと食い下がってよ……!)
机に突っ伏したまま、チチは歯を食いしばった。自分でもわからない感情がぐるぐると渦を巻いていた。
斜め後ろの廊下側、クリリンがそれを全部見ていた。
水色の丸坊主頭が、少しだけうつむく。金色の目が、二人の間の空気を静かに追った。
(昨日より、カカロットの目が違う)
クリリンには分かった。あいつが「なんで泣きそうな顔で笑ってたの」と二日連続で聞いてくるのは——理由があるからじゃない。本当に、気になってしまっているからだ。
( 鈍いくせに、こういう時だけ律儀なんだよな)
複雑な気持ちで、クリリンは窓の外に目を向けた。
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ホームルームが始まる十分前、教室のドアが開いた。
金色の長い髪が、また教室の空気を変えた。
フローラだった。昨日と同じ制服、昨日と同じ歩き方。迷いがない。最初から目的地が決まっている足取りで、窓際の席——カカロットの隣——に荷物を置いた。椅子を引いて、涼しい顔で座る。
カカロットが振り向いた。
「[gentle]おはよ」
フローラは一瞬だけカカロットを見て、小さくうなずいた。返事とも言えないような動作だったが、拒絶でもなかった。
「[angry]……なんであなたがそこに座るんですか」
気づいたらチチが立ち上がっていた。二列前から、はっきりとフローラに向かって言っている。グレーの目が、きつく光っている。
フローラがチチを見た。琥珀色の目が、一秒だけ向いて——何も言わなかった。
「[sarcastic]……わたしも、同じことを思ってるわ」
廊下側の席から、ブルマの声が飛んできた。青い髪を片手でかき上げながら、腕を組んでフローラを見ている。
三人の視線が、カカロットの隣の席に集中した。
カカロットは三人に挟まれたまま、きょとんとしている。
「[gentle]みんな、朝から元気だな」
三人が同時に深いため息をついた。
廊下側の前の方、ベジータが黒板の方を向いたままペンをくるくると回していた。視線は板書の準備をしているように見えるが、指先が微妙に止まっている。
(なんでブルマがあそこにいるんだ)
ペンを少し強く握る。表情は変えない。変えないが、ペンがカリカリと音を立てた。
そこへモリノ先生が入ってきた。
いつもの疲れた目に、今日は朝から影がある。胃薬の瓶が既にポケットから顔を出していた。教室の空気を見渡して、先生は一度目を閉じた。
「[sad]……もう少し穏やかにできませんか」
誰も動かなかった。
「[sad]できませんよね」
一錠目が、静かに飲み込まれた。
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昼休みの廊下は、購買に向かう生徒でざわざわしていた。
クリリンがチチの袖を軽く引いた。
「[gentle]ちょっといいかな」
教室から少し離れた廊下の端、窓が一つある場所。二人が並んで立つと、グラウンドが見えた。サッカーをしている3年生が、遠くで笑い声を上げている。
クリリンは窓の外を見たまま、少し間を置いた。
「[serious]チチ、カカロットのこと、好きなんだろ」
チチが固まった。
「……」
笑顔を作ろうとして、作れなかった。グレーの目が丸くなって、クリリンの横顔を見ている。
「[surprised]……わかってたの?」
クリリンが少し笑った。えくぼが出た。
「[gentle]ずっとな。前の学校の頃から」
チチの口が、少し開いた。
「じゃあ……クリリンは——」
「[gentle]オレはお前の友達だよ」
一拍あった。その一拍の間に、何かが静かに封じられた。クリリンの声は穏やかで、笑っていた。でもわずかに——ほんの少しだけ——震えていた。
チチはそれに気づいた。気づいたけれど、聞けなかった。
「[gentle]だから諦めんなよ。カカロットのやつ、昨日から何か変わり始めてるぞ」
チチの目が、じわりと滲んだ。
「……ありがとう」
小さかった。声が、出なかった。でも届いた。クリリンが小さくうなずいた。
窓の外で、サッカーボールが転がっていった。二人は、しばらくそれを見ていた。
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放課後、部室棟への廊下は静かだった。
科学部室——部室棟2階、天井に焦げ跡がある、ブルマの城——に向かう廊下の手前で、フローラが立っていた。
壁に背中を預けて、腕を組まず、ただ待っている。カカロットが廊下を歩いてきた瞬間、フローラが顔を上げた。
「[serious]カカロット」
カカロットが足を止めた。
「[gentle]ん?」
「[serious]話がある」
二人が廊下の壁際で向かい合った。窓の外、コモレビ丘陵の稜線が夕方の光を受けていた。
フローラがカカロットをまっすぐ見た。琥珀色の目が、いつもより少し深い色をしていた。
「[cold]あなたのおじいさんのことを、わたしは知っている」
廊下の空気が、変わった。
カカロットの顔が——変わった。
いつものニコニコが消えた。目が細くなる。明るいこげ茶色の瞳に、初めて見るような真剣な光が宿った。
「[serious]……どういう意味だ?」
声が低かった。カカロットの声がこんなに低くなることを、チチは知らなかった。
廊下の角、少し手前。チチとクリリンがそこに立っていた。偶然だった。本当に、偶然そこを通りかかっただけだった。
二人は動けなかった。
フローラが一度だけ視線を廊下の奥に走らせた。チチとクリリンには気づいていないのか、気づいていて無視しているのか、判断できない。
「[serious]ここでは話せない。でも近いうちに全部話す」
それだけ言って、フローラは科学部室の扉を開けた。中に入る。扉が閉まる。
廊下に、カカロットだけが残った。
カカロットは扉を見ていた。硬い顔のまま、動かなかった。肩の力が抜けていない。ぼさぼさの黒い髪も、いつもと同じなのに、全体の雰囲気だけが別人みたいだった。
角の陰で、チチがクリリンの袖を引いた。
「[whispers]……フローラって、カカロットのことを知ってる?」
クリリンが静かに答えた。
「[serious]ただの転校生じゃないな」
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校門を出ると、夕暮れの風がミソラ市の住宅街を吹き抜けていた。ハヤセ川の方角から、少し湿った空気が来る。
カカロットとチチが並んで歩いていた。東丘台の方向、いつもの帰り道だ。チチの家はカカロットの家から三軒隣——この道を一緒に歩くのは、小学校の頃からずっとそうだった。
でも今日のカカロットは、黙っていた。
いつもなら「今日の給食あれ何だったんだろな」とか「腹まだ減ってる気がするんだけど」とか、どうでもいい話を延々としてくる。それがカカロットだった。なのに今日は——黙って、何かを考えている顔で歩いている。
チチには珍しかった。胸がざわざわした。
「[gentle]大丈夫?」
カカロットが少し顔を上げた。
「うん……」
間があった。
「[serious]なあ、チチ。おじいちゃんのことで、何か知ってることあるか?」
チチは首をかしげた。
「[surprised]え、何も……どうして?」
「[gentle]なんでもない」
すぐに笑顔に戻った。いつもの、丸い、明るい笑顔。でもチチには分かった。その笑顔が、少しだけ頑張っていることに。
(無理してる)
チチは何も言わなかった。代わりに、カカロットの隣に、そっと一歩寄った。
「[gentle]何かあったら、わたしに言ってよ」
カカロットが横を向いた。チチの顔を見た。
「[gentle]チチって……やっぱり大事な人だな」
独り言みたいだった。
チチの胸の奥で、何かが激しく脈打った。
「友達だもんな」——あの言葉が来るかと思った。いつもそこで終わるから。
でも、来なかった。
カカロットはそのまま前を向いて歩いた。何かを感じているけれど、それが何かまだ分かっていない——そういう顔で。
チチは前を向いて、口をきつく結んだ。顔が熱い。目が少し潤んでいる。
東丘台の空に、薄いオレンジ色が広がっていた。コモレビ丘陵の稜線が、黒くくっきりと浮かんでいる。
二人の影が、長く伸びた。
フローラの「近いうちに全部話す」という言葉が、チチの頭の中に静かに残っていた。