ドラゴンボール学園ラブコメ! オラ、恋愛わかんねぇ!
カプセル中学校へようこそ――日本のごく普通の学校。だけど、このクラスは何ひとつ普通じゃない。
転校生のカカロットは、野生の黒髪にいつもニコニコ笑顔、そして唯一の情熱は「昼食のおかわりをできるだけ多くもらうこと」。彼はのんびり屋で心優しく、食べ物と友情以外のことにはまったく無頓着。ところが、なぜか周りの女の子たちが次々と彼に恋心を抱き始めているのだ。
まずは幼なじみのチチ。賢く真面目で、いつか医者になることを夢見ている彼女は、ずっとカカロットのことが好き。毎朝告白の練習を欠かさないけれど、告白しようとすると必ずカカロットに「ねぇチチ、ハンバーグちょうだい?」と邪魔されてしまう。彼女は毎日心の中で悲鳴をあげている。
次にベジータ――ライバルで隣人、そして歩くプライドの塊。誰かを好きだなんて絶対認めないけど、クラスで一番自信満々なブルマに(下手に)アピールしようと奮闘中。その方法は? 彼女を罵倒すること。もちろん全然うまくいっていない。
カカロットの親友クリリンは、ひそかにチチに恋をしている。でもカカロットが親友だから、何も言えずにただ見守り、拳を握りしめるばかり。
第4話では大事
ドラゴンボール学園ラブコメ! オラ、恋愛わかんねぇ! - ハンバーグと板挟みの木曜日
チチが口をきかなくなって、3日が経っていた。
木曜日の朝。教室に入ったカカロットは、チチの席の横を通り過ぎながらいつも通り「よう」と声をかけた。チチは窓の外を見たまま、ぴくりとも動かなかった。
(……あれ、まだ怒ってる?)
カカロットは首をかしげて、自分の席へ向かった。本当によくわからない。あの日、チチが「最低」と言って帰ったこと。何がいけなかったのか、3日考えてもさっぱりだった。
その様子を、斜め前の席からクリリンがそっと見ていた。
(また無視された……)
水色の丸坊主頭が、すこし下を向く。
朝のホームルームが終わって、廊下に出たタイミングでクリリンはチチに近づいた。チチは参考書を抱えて、次の授業の準備をしているところだった。深緑の長い髪が整然としていて、眼鏡の奥のグレーの目は静かだ。でも、静かすぎる。
「[gentle]チチさん、大丈夫? カカロットのこと、あいつ悪気はないんだよ。本当に」
チチの手が、参考書の上で止まった。
ゆっくりと振り返る。グレーの目がクリリンをまっすぐに見た。
「[serious]あなたは、カカロット君の味方なの?」
「え——」
どきり、とした。
クリリンの喉の奥に言葉が詰まった。カカロットは親友だ。チチのことも——好きだ。どちらの肩も持ちたくて、だから両方の顔が浮かんで、どちらの名前も口から出てこない。
「そ、そういうわけじゃ……」
「……そっか」
チチは短くそれだけ言って、参考書を抱え直した。廊下の奥へ歩いていく。
クリリンはその背中を見送りながら、廊下の壁にぐったりともたれた。頭の中で声が渦巻く。
(チチの味方をしたい。でもカカロットは親友で——)
金色の目が、遠くを見た。窓の外、コモレビ丘陵の緑が揺れていた。
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3時間目は体育だった。
体育館でバスケの授業。モリノ先生が紅白帽を使ってチームを決めて、カカロットとベジータが同じチームに入った。
カカロットはそれを見て「お、ベジータと組むのか! たのしそう!」とニコニコした。ベジータは腕を組んで鼻を鳴らした。
試合開始のホイッスルが鳴った瞬間、ベジータが宣言した。
「[cold]オレにパスを出すな。シュートはすべてオレが決める」
チームメイト全員が顔を見合わせた。
カカロットがにこっと笑った。
「[gentle]えー、でもみんなで楽しくやった方が絶対勝てるって。ほら、分担した方がいいだろ?」
「[angry]黙れよ。オレのやり方に口を出すな」
「[gentle]そういう問題じゃなくてさ——」
「[angry]そういう問題だろうが! オレが一番うまい。オレが全部決める。それだけだ!」
ボールはコートの真ん中に置き去りにされていた。両チームが棒立ちで見守る中、カカロットとベジータが向かい合って言い合いを続けた。カカロットは笑顔のまま「でも楽しくないじゃん」と言い続け、ベジータは「楽しさで勝ちに行くアホがどこにいる」と返し続けた。
ピーーーッ!
モリノ先生の笛が鳴った。
「……二人とも。少し出てきてもらえますか?」
声は穏やかだった。でも目が全然穏やかじゃなかった。
廊下の隅。カカロットとベジータが並んで壁を背にする。モリノ先生が正面に立って、ポケットから白い錠剤を取り出した。水なしで飲む。
「もう少し……協力できませんか」
短い沈黙。
「……できませんよね」
先生は遠い目をした。カカロットが「すみません」と素直に頭を下げた。ベジータは腕を組んで顎を上げたまま、視線だけで「謝る気はない」を主張していた。
モリノ先生がベジータを見る。ベジータが逸らす。
(……あの子は、誰にも頼れないんだな)
モリノ先生は小さくため息をついて、もう一錠、胃薬を飲んだ。
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放課後。
夕日がミソラ市を橙色に染め始めた頃、カカロットは屋上にいた。
立入禁止の看板が下がっているが、非常階段から上がれることはクラス全員が知っている。フェンスにもたれて、眼下に広がるミソラ市の景色をぼんやり眺めていた。東丘台の住宅街、遠くにコモレビ丘陵、さらに向こうにハヤセ川が光って見える。
風が頬に当たった。気持ちよかった。
扉が開く音がした。
「[surprised]あれ——」
クリリンが顔を出して、止まった。カカロットを見て、ちょっと困った顔になる。
「[gentle]ここ、僕が考え事する場所なんだけどな」
「[gentle]マジか。かぶったな」
クリリンは苦笑いして、フェンスの横に並んだ。二人でしばらく、黙って夕暮れを見ていた。
「[gentle]なんかチチに怒られてる気がするんだけど」
「……うん」
「[gentle]オレ、何かしたっけ? 本当にわからなくて」
クリリンは夕日の方を向いたまま、しばらく黙っていた。フェンスに乗せた手の指が、ゆっくり握られる。
「[serious]……お前さ」
「うん」
「[serious]チチが、どんな気持ちでお前に話しかけてるか——考えたこと、あるか?」
カカロットが振り返った。クリリンは夕日を向いたままだ。その横顔が、すこし固い。
カカロットは真剣に考えた。眉をよせて、こげ茶色の目を細めて、3秒、5秒、10秒。
「[gentle]……うーん。給食のおかず、分けてほしいとか?」
クリリンの動きが止まった。
ゆっくりと両手で顔を覆う。
「[sad]……違う」
「[surprised]違うのか」
「[sad]全然違う。桁が10個くらいズレてる」
「[gentle]そっか〜。じゃあなんだろ」
クリリンは顔を覆ったまま、ため息をついた。長い、長いため息だった。
夕風がクリリンの水色の頭を揺らした。
(言えるわけ、ないよな)
チチのことを、好きだと思っている。その名前を口にするだけで、胸の真ん中がぎゅっとなる。でも今、チチが好きなのはカカロットだ。その事実を、クリリンはずっと知っていた。前の学校の時から、ずっと。
膝の上でそっと拳を握った。
「……まあ、いいや」
「[gentle]なんかいいことあった?って顔じゃないな、お前」
「[laughing]お前に言われたくない」
クリリンはやっと顔を上げて、苦笑いした。えくぼが出た。カカロットがにこっとした。
二人はそのまま、もう少し夕暮れの中にいた。
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翌日、金曜日。
給食はハンバーグだった。
給食室から漂ってくるソースの匂いが廊下まで届いて、カカロットは朝から少しそわそわしていた。ハンバーグは好きだ。今日は多めにおかわりしよう、そう思っていた。
でも、今日は違うことをしようと決めていた。
昼になって、トレーを受け取ったカカロットは、自分の席に座らずそのままチチの席の前まで歩いた。
チチが顔を上げる。グレーの目が「なに?」と言っていた。
「[gentle]昨日は怒らせてごめん」
チチの目が、少しだけ丸くなった。
「[gentle]お詫びに——オレのハンバーグ、あげる」
カカロットは自分のトレーから皿を取って、そのままチチの机の前に差し出した。湯気が立っている。ソースのいい匂い。
チチの口が、開きかけて、止まった。
顔が赤くなっていく。深緑の髪の奥まで赤みが広がるような勢いで。
「[surprised]べ、別に……そういうことで怒ってたんじゃ……!」
「[gentle]でも謝りたかったから」
「[surprised]そういう問題じゃなくて、私が言いたいのは——」
カカロットはにこにこしたまま、ハンバーグを差し出し続けている。引っ込める気配が全くない。
チチはハンバーグを見た。カカロットを見た。また、ハンバーグを見た。
「……もらっとく」
小さな声だった。皿を受け取る手が、かすかに震えていた。
「[excited]やった、仲直り! じゃあ明日もよろしくな!」
それだけ言って、カカロットはひょいと自分の席へ戻っていった。ハンバーグのなくなったトレーを持ちながら、まったく悩んでいない顔で。
チチはもらったハンバーグを見つめた。
(なんで……なんでそれで全部解決した顔してるの……)
胸の奥が、ドキドキしていた。うるさいくらいに。こんなことで、こんなことで——と自分に言い聞かせようとして、全然落ち着かなかった。ハンバーグのソースが、湯気を立てている。
チチはそっと、フォークを手に取った。
——教室の隅で、クリリンが静かにトレーを持ったまま立っていた。
一部始終を見ていた。カカロットが近づく瞬間から、チチがハンバーグを受け取るまで。チチの顔が赤くなるのも、カカロットがニコニコ戻っていくのも、全部。
視線がゆっくりと落ちた。
自分のトレーの上のハンバーグが、目に入る。ちゃんとある。手をつけていない。
クリリンは唇をぎゅっと噛んだ。
痛くはなかった。もっと深いところが、ずっと痛かった。