ドラゴンボール学園ラブコメ! オラ、恋愛わかんねぇ!
カプセル中学校へようこそ――日本のごく普通の学校。だけど、このクラスは何ひとつ普通じゃない。
転校生のカカロットは、野生の黒髪にいつもニコニコ笑顔、そして唯一の情熱は「昼食のおかわりをできるだけ多くもらうこと」。彼はのんびり屋で心優しく、食べ物と友情以外のことにはまったく無頓着。ところが、なぜか周りの女の子たちが次々と彼に恋心を抱き始めているのだ。
まずは幼なじみのチチ。賢く真面目で、いつか医者になることを夢見ている彼女は、ずっとカカロットのことが好き。毎朝告白の練習を欠かさないけれど、告白しようとすると必ずカカロットに「ねぇチチ、ハンバーグちょうだい?」と邪魔されてしまう。彼女は毎日心の中で悲鳴をあげている。
次にベジータ――ライバルで隣人、そして歩くプライドの塊。誰かを好きだなんて絶対認めないけど、クラスで一番自信満々なブルマに(下手に)アピールしようと奮闘中。その方法は? 彼女を罵倒すること。もちろん全然うまくいっていない。
カカロットの親友クリリンは、ひそかにチチに恋をしている。でもカカロットが親友だから、何も言えずにただ見守り、拳を握りしめるばかり。
第4話では大事
ドラゴンボール学園ラブコメ! オラ、恋愛わかんねぇ! - ダンス前夜の涙と、金色の嵐
放課後の体育館に、二人だけの足音が響いていた。
ペアダンス大会は明日だ。
チチは体育館の真ん中に立ち、腕を広げた。深緑の長い髪が肩から流れている。グレーの目が、カカロットをまっすぐ見ていた。
「[serious]いい? 左足から出て、右に一歩、それから……」
「[gentle]うん、やってみる」
カカロットが一歩踏み出した。
ドスッ。
「[angry]また踏んだ!!」
「[laughing]ごめんごめん」
もう一回。
ドスッ。
「[angry]左って言ったでしょ、左!」
「[gentle]左……えっとどっちが左だっけ」
「[angry]そこから!?」
体育館の壁際に、クリリンが座っていた。
水色の丸坊主頭を壁にもたせかけて、二人の練習を見ている。金色の目が、静かだった。笑ってはいた。でも、笑いの質が少しずれていた。自分でも気づいていなかったけれど。
カカロットはまた踏んだ。
ドスッ。
「[angry]もう! 何回踏めば気が済むの!?」
「[laughing]ステップって、なんでこんなに複雑なんだ?」
「[serious]複雑じゃないです。普通です」
「[gentle]チチが厳しいのかな」
「[serious]厳しくないです。これは最低限です」
また踏んだ。
「[angry]あーーーっ!!!」
カカロットが頭を掻いた。
「[gentle]でもさ、チチと踊るの楽しいな」
ニコニコしていた。
全然、悪気がなかった。
チチの胸の奥で、何かが激しく脈打った。
(楽しい……?)
顔が熱くなってくる。カカロットが笑っている。その笑顔が、また、刺さる。
でも。
(……どうせ給食と同じくらいの「楽しい」でしょ)
「[cold]……どうせ、給食と同じくらい楽しいんでしょ」
声が、少し冷たくなった。
カカロットが首をかしげた。
「[surprised]え?」
「[serious]なんでもないです。続けましょう」
グレーの目が、下を向いた。
(なんでそんなこと言ったんだろ、私)
自分の言葉が、自分に返ってきた。意地悪だ、と思った。カカロットは何も悪くない。何も分かっていないだけで、悪意はない。そのことは、チチが一番よく知っている。
分かっているのに、突き放した。
胸が、ぎゅっと痛かった。
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壁際で、クリリンの笑いが止まっていた。
チチの横顔を見ていた。下を向いたまま、ステップを踏むチチ。カカロットはまだのんきに「えーと左から?」とか言っている。
クリリンには分かった。
チチが今、どんな顔をしているか。
(好きなんだよな。ずっと)
膝の上に置いた手を、ぎゅっと握った。
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練習が終わった。
体育館の蛍光灯が、一本ずつ消えていく。チチが荷物をまとめながら、「明日は絶対うまくやります」と小声で言った。誰に向けた言葉かは分からなかった。
廊下に出た。
クリリンが少し後ろを歩いていた。
チチが振り返った。
「[gentle]クリリン、明日応援してね!」
明るい声だった。練習中の緊張が、少し緩んでいた。笑っていた。本物の笑いかどうかは、クリリンには分からなかった。
クリリンの口が、開いた。
「チチ、オレ——」
言葉が、止まった。
チチが笑っている。その笑顔が、まっすぐクリリンに向いている。
(言えない)
「[gentle]……なんでもない。頑張れよ」
チチが「ありがとう!」と言って、廊下を歩いていった。
クリリンはその場に一人で立っていた。
廊下の電気が、遠い。
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屋上のドアを、クリリンが開けた。
夜風が来た。10月の夜は冷たい。ミソラ市の灯りが、眼下に広がっていた。東の方にコモレビ丘陵の黒い稜線。南にはハヤセ川が、街灯を反射してかすかに光っている。
フェンスに両手をかけた。
指が、金属に食い込んだ。
(友情を壊したくない)
(でも気持ちが止まらない)
(カカロットの邪魔はしたくない)
(チチの恋の邪魔もしたくない)
(でも——)
「[sad]くそっ……」
拳がフェンスを叩いた。
「くそっ……」
また叩いた。
金属の音が夜に鳴って、消えた。
泣いていた。
予想していなかった。でも止められなかった。涙が頬を落ちて、フェンスの下に消えた。
金色の目が、ミソラ市の灯りをぼやけて見ていた。
(カカロットとの友情は、本物だ)
(チチへの気持ちも、本物だ)
(どっちも本物なのに、どっちも大切なのに——なんでこんなに苦しいんだ)
しばらく泣いた。
やがて、涙が止まった。
クリリンは拳を握ったまま、街を見下ろした。
静かに、ゆっくりと、一つの結論が出てきた。
カカロットの邪魔はしない。チチの恋の邪魔もしない。でも——オレの気持ちだけは、本物だ。
それだけは、消せない。消したくなかった。
フェンスから手を離した。
校舎の窓の明かりが、一つ一つ消えていく。暗くなっていく。クリリンだけが屋上に残っていた。
夜空に星が出ていた。
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翌朝。
ペアダンス大会、当日。
2年3組の教室は、朝からざわついていた。「今日だよ今日!」「練習したっけ?」「デザート2倍狙ってる!」声が飛び交っている。窓の外、グラウンドに朝の光が落ちている。空は晴れていた。
カカロットは窓際の最後列の席に座って、外を見ていた。
(今日、チチと踊るんだよな)
(でもステップが全然覚えられなかった)
(まあ、なんとかなるかな)
そんなことを考えていた。
チチは自分の席——カカロットの2列前、真ん中——に座って、ノートに何か書いていた。昨日の練習のステップを、もう一度書き直しているらしかった。
クリリンは廊下側の席に座っていた。目の下に、かすかな影があった。
ドアが開いた。
モリノ先生だった。30代の国語の先生で、いつも少し疲れた目をしている。今日は胃薬の瓶を持っていなかったが、代わりに一枚の書類を手にしていた。
「[gentle]えー、みなさん、おはようございます」
クラスが少し静かになった。
「[gentle]今日はペアダンス大会、楽しみましょうね。その前に……今日から、新しいクラスメイトが来ます」
転校届。
モリノ先生がドアの外に向かって「どうぞ」と言った。
教室に、少女が入ってきた。
クラスが、ざっと静まった。
全員が見た。
長い金色の髪だった。肩を超えて、腰のあたりまで流れている。ゆるやかなウェーブがかかっていて、室内の光を受けて、淡く輝いて見えた。背が高い。チチと同じくらいか、少し上か。制服が、初日だからか、妙に清潔に見えた。
目が、印象的だった。
色が——普通じゃなかった。金色に近い琥珀色で、深い場所に何かが宿っているような、そんな目だった。
少女は教室の入り口に立って、ゆっくりとクラスを見渡した。
一人ずつ、確認するように。
誰も喋らなかった。
少女の視線が、教室の後ろ——窓際の最後列まで動いて、止まった。
止まった。
カカロットのところで。
少女は歩き始めた。
廊下側から窓際へ。机の間を、まっすぐに。迷いがなかった。最初から目的地が分かっていたみたいに。
カカロットの前まで来た。
少女が、小さく口を開いた。
「[whispers]……ようやく、見つけた」
教室が完全に凍りついた。
カカロットが首をかしげた。
「[surprised]え? オレ?」
少し間があった。
「[gentle]……どっかで会ったっけ?」
少女は答えなかった。琥珀色の目が、カカロットをまっすぐ見ている。その表情から、何も読み取れなかった。
チチが、自分の席から少女の背中を見ていた。
(だ、誰……?)
顔が強張っていた。グレーの目が少女の金色の髪を追っている。昨日の練習のことも、今朝書き直したステップのことも、全部頭の外に出ていった。
クリリンは廊下側の席から、目を細くして少女を見ていた。昨夜の涙の跡が、まだ目の下にかすかに残っている。その目で、少女とカカロットを、静かに見ていた。
「[sad]あ、えっと……自己紹介を……」
モリノ先生が転校届を胸に抱えながら、おろおろと言った。
少女は振り返らなかった。カカロットを見たまま、静かに立っていた。
カカロットだけが、いつも通りの顔をしていた。きょとんとした、明るいこげ茶色の目。ぼさぼさの黒い髪。不思議そうに首を傾けている。
2年3組の空気が、完全に凍りついたまま、誰も動かなかった。