告白は放課後、屋上で。〜九浪カグラのハーレム生徒会〜
告白は放課後、屋上で。〜九浪カグラのハーレム生徒会〜
春、桜が満開の季節。私立アイリス学園に入学した新入生・九浪カグラは、極めて単純な理由で生徒会長選挙への立候補を決意する。それは、想い人を学園の屋上に呼び出し、告白する権限を手に入れるため。彼の風変わりな選挙演説は予想外にも大反響を呼び、学園三大美少女たちの目に留まってしまう。
最初に近づいてきたのは、学園の絶対女王・天川シオン。非の打ち所がない完璧超人……かと思いきや、極度の人見知りで友達ゼロ。彼女はカグラに「会話の練習相手」を命じるが、彼の無自覚で不器用な優しさに、初めて胸をときめかせる。
次に現れたのは、バスケ部の元気なエース・速水カナタ。カグラの身のこなしを見込んでマネージャーに勧誘しようとするが、彼が自分の大失態を救ってくれたことで恋に落ちる。そして最後に、クールでゲーム好きな図書委員・栗花落ナズナ。カグラのゲームの腕前を聞きつけて勝負を挑むも敗北。彼の実力に感服し、いきなり「家で一晩中ゲームをしよう」と大胆な誘いをかける。
三人からの突然の、しかもほぼ同時の告白にカグラが混乱する中、美少女たちはある盟約を結ぶ。「最
告白は放課後、屋上で。〜九浪カグラのハーレム生徒会〜 - 元気爆弾、心にバウンド!
入学式から数日。桜が散り始めたアイリス学園の校庭に、春の陽射しが降り注いでいた。
体育館には全校生徒七百二十名が集められ、ざわざわとした話し声が天井まで届いている。これから生徒会長の就任挨拶が行われるのだ。
九浪カグラは舞台袖で、ポケットの中の空き缶を握りしめていた。
(大丈夫だ。演説と同じだ。好きな子に告白したいって叫べばいいんだ)
それだけを考えて、演説は乗り切った。でも。
「――生徒会長、九浪カグラくん」
教頭の声がマイクを通して響く。
どっと、体育館中の視線がカグラに集中した。
(えっ)
足が、動かない。
舞台の中央まで、たった十歩。その距離が果てしなく遠く感じる。
カグラの頭の中が真っ白になった。演説の時は缶コーヒーの感触で気持ちを保てたのに、今度は足の震えが止まらない。
(なんだこれ。なんで動けないんだ)
袖で、教頭が小声で言った。
「緊張してるのか? 大丈夫、挨拶だけでいいから」
カグラはうなずいた。でも、口の中がカラカラだ。
なんとか足を動かして、マイクの前に立つ。
全校生徒の目が、自分に突き刺さる。
「あ、あの……あああ……」
声が、裏返った。
マイクを通して、変な音が体育館中に響き渡る。
ざわ、と生徒たちがどよめいた。
(やばい。声が出ない)
カグラは必死に息を吸い込んだ。頭の中がぐるぐる回る。演説の時は、あんなにうまくいったのに。
「あ、あがり症……だったんだ、俺……」
自分で言って、初めて気づいた。
だって、大勢の前で話す機会なんて、あの演説が初めてだったから。選挙の時は夢中で、気づかなかった。
でも今は、何を話せばいいのか、全然わからない。
「せ、せいとかいちょーの……か、かぐらです……」
どっと、笑い声が上がった。
さっきまでの緊張した空気が、一気にゆるむ。
「なにあれ」「やばくね?」「でも演説の時もこんな感じじゃなかった?」
ざわざわとした声が、耳に届く。
カグラは顔が真っ赤になった。耳まで熱い。
(もう、どうにでもなれ!)
「す、好きな子に告白するために会長になった、九浪カグラです!」
叫んだ。
体育館が、一瞬、静まり返った。
それから――。
「「「はーっはっはっは!!!」」」
全校生徒が、一斉に爆笑した。
笑い声が、天井を突き破りそうなくらい、体育館中に響き渡る。
舞台袖の教頭は頭を抱え、担任らしき先生は苦笑いを浮かべている。
カグラはマイクをスタンドに戻すと、逃げるように壇上から降りた。
足がもつれて、こけそうになる。
それにも笑いが起きた。
(最低だ……)
カグラは顔を手で覆って、舞台袖に消えた。
集会が終わり、生徒たちがぞろぞろと体育館を出ていく。
カグラは体育館の裏、誰もいない通路に座り込んでいた。
スチール製の壁が背中に冷たい。
「……あがり症だったんだな、俺」
知らなかった。
だって、人前で話すことなんてなかったから。
演説の時は、好きな子のことを考えてれば頭がいっぱいで、緊張する余裕さえなかった。
でも今は違う。
「会長としてちゃんとしなきゃ」って、意識したら、このざまだ。
「はあ……これからどうしよう」
大きなため息が、通路に響いた。
「おーい! 九浪くーん!」
遠くから、体育教師の陣内コウジが手を振って近づいてきた。三十五歳、短髪にジャージ姿。生徒からは「ジン先生」と呼ばれている。
「こんなところにいたのか。探したぞ」
カグラが顔を上げると、陣内はニカッと笑った。
「さっきの挨拶、最高だったぞ! 体育館があんなに笑ったの、初めて見た!」
「……先生、それ褒めてないですよね」
「いやいや、笑いが取れる会長なんて、この学園にいなかったからな。お前は逸材だ」
陣内はそう言うと、カグラの肩をポンと叩いた。
「ところで、ちょっと頼みがあるんだ。今から体育館で部活動紹介をやるんだが、人手が足りなくてな。生徒会長の権限で、手伝ってくれないか?」
「生徒会長の権限って……俺、そんなの使えるんですか?」
「当たり前だろ。お前はこの学園のトップなんだからな」
カグラは立ち上がった。
(会長の仕事、ちゃんとやらなきゃな)
さっきの大失敗を取り返すチャンスかもしれない。
「わかりました。手伝います」
体育館に戻ると、すでに部活動紹介が始まっていた。
一年生の新入部員を勧誘するため、各部活がパフォーマンスを披露する恒例行事だ。
バレー部がアタックを決め、吹奏楽部が華やかな曲を演奏している。
「おっ、次はバスケ部だな」
陣内の声で、カグラはステージを見た。
そこに、一人の女子生徒が立っていた。
高めのポニーテール。
動くたびに、明るい茶色の髪がぴょんぴょん跳ねている。大きなクリッとした猫目は、体育館の照明を反射してキラキラと輝いていた。
身長は百六十センチくらい。細身だけど、手足はしなやかで、鍛えられたアスリートの体つきだ。
バスケ部のユニフォームを着ている。背番号は七番。
「えー、次は女子バスケ部でーす!」
声が、体育館に響いた。
腹の底から出てくるような、元気いっぱいの声。
「エースの速水カナタでーす! 今日はドリブルのデモンストレーションを披露するから、みんな見てってやー!」
速水カナタ。
一年生ながら、すでにバスケ部のエースとして有名な選手らしい。
彼女はバスケットボールを手に取ると、軽く跳ねさせ始めた。
トン、トン、トン。
リズミカルな音が、体育館に響く。
(すごいな。ボールが手に吸い付いてるみたいだ)
カグラは思わず見入った。
でも。
その時だった。
カナタの視線が、見学に来ている新入生たちの方を向いた。
たくさんの目が、自分に注がれている。
「――あっ」
彼女の指先が、わずかに震えた。
ボールが手から滑る。
跳ね損ねたボールが、変な方向に跳ね返って――彼女の顔面に向かってきた。
「うわっ!?」
(やばい!)
カグラの体が、勝手に動いていた。
気がついた時には、ステージに駆け上がっている。
カナタの顔に当たる寸前――ボールを、右手でガシッとキャッチした。
体育館が、しんと静まり返る。
「え……」
カナタが、目をまんまるにしてカグラを見上げた。
大きな猫目が、さらに大きく見開かれている。
「大丈夫か?」
カグラがボールを差し出すと、カナタの顔がパアッと明るくなった。
「す、すごい! あんた、今のとっさにキャッチしたん!? バスケ経験者!?」
「え? いや、俺は中学では剣道で――」
言い終わる前に、カナタが飛びついてきた。
「マジでありがとう! うち、もう顔面にボールぶつけるとこやったわ! あんた、神!」
勢いあまって。
ガツン!
カナタの顔が、カグラの顔面に激突した。
「「いったーーー!!」」
二人同時に叫んで、その場にしゃがみ込む。
カグラの鼻から、ツーっと温かいものが垂れた。
鼻血だ。
カナタも鼻を押さえている。
「あ、あんたの顔、かたすぎやろーが!」
「お前がぶつかってきたんだろーが!」
「うるさい! あんたのせいで鼻血出たやん!」
「俺も出てるわ!」
二人で言い合っている姿に、体育館中が再び大爆笑した。
陣内が腹を抱えて笑いながら近づいてくる。
「はーっはっは! お前ら、コントか! とりあえず保健室行け!」
保健室。
白いカーテンが揺れる静かな部屋で、二人は隣り合ったベッドに座っていた。
鼻には詰め物。カグラはティッシュ、カナタはガーゼを当てている。
保健室の先生は「ちょっと職員室に行ってくるから、安静にしててね」と言い残して出て行った。
しん、と静かになる。
さっきまでの騒がしさが嘘みたいだ。
「……あーあ。うち、またやってもうた」
カナタが、ぽつりとつぶやいた。
いつもの元気な声とは違う。しぼんだ風船みたいな、小さな声だった。
「また?」
「うち、ドジやねん。さっきみたいに、本番でいっつも失敗する。小さい頃からずっとや」
カナタはうつむいて、自分の膝を見つめた。
膝には、擦り傷の跡がいくつもある。彼女の勲章のようなものだ。
「小学校の時、バスケの試合で大失敗してん。大事な試合やったのに、うちがシュート外して、チーム負けた。そん時、チームメイトに『お前のせいだ』って言われて……それから、大事な場面になると、手が震えるようになった」
カグラは黙って聞いていた。
「高校でも、最初はうまくいってたんやけど、やっぱりダメや。新入生の前でかっこいいとこ見せようと思ったのに、またドジって。うち、やっぱりダメなんかな……明るく振る舞ってるけど、本当は自分のこと、嫌いやねん」
声が、震えていた。
いつも笑っている彼女が、今は泣きそうな顔をしている。
カグラは考えた。
ドジでも、失敗しても。
でも、さっき体育館で彼女が笑った時、周りもみんな笑顔になった。
「でもさ」
カナタが顔を上げた。
「お前が笑うと、こっちまで元気になるから。ドジでも、最高だと思うけどな」
カグラは、思ったことをそのまま言っただけだった。
裏表もなにもない、ただの本音。
「……え?」
「だってさっき、体育館でお前が笑ったら、みんな笑ってたじゃん。あれ、すごいと思う。失敗しても笑い飛ばせるって、かっこいいよ」
カナタの目が、見開かれた。
胸のあたりが、じんわりと熱くなる。
今までずっと、失敗を笑い飛ばすことでしか自分を守れなかった。
でも、この人は。
「ドジでも最高」って、そんなふうに言ってくれた。
自分のままでいいんだって、初めて誰かに認められた気がした。
ドクン。
心臓が、大きく跳ねた。
「……あんた、変わってるな」
カナタはそう言って、鼻のガーゼを押さえながら、小さく笑った。
今までとは違う笑顔だった。
力が抜けて、ほんのり温かい。
(なんだろう、これ)
カナタは自分の胸に手を当てた。
心臓が、まだドキドキしている。
目の前の、くせっ毛の少年を見る。
寝起きみたいに髪がはねていて、明るい茶色の目はキョロキョロと落ち着かない。
でも、さっきの言葉に嘘はなかった。
全部、本気で言ってる。
(うち、この人のこと――)
「さて、と。鼻血も止まったし、部室の片付け手伝うか」
カグラが立ち上がった。
「え? 部室?」
「陣内先生に手伝えって言われたから。部活紹介の片付け、まだ残ってるんだろ?」
カナタはハッとした。
(そうや! マネージャーに勧誘するチャンス!)
彼女は勢いよく立ち上がった。
「よっしゃ! うちが案内したる! 行こ!」
鼻のガーゼをはずし、カグラの腕を引っ張って保健室を飛び出す。
部室棟。
一階の三号室が、バスケ部の部室だ。
約二十平方メートルの部屋に、ロッカーが並び、壁には過去の大会の写真が貼ってある。
「ここがバスケ部の部室やで! ほら、早く入って!」
カナタが勢いよくドアを開けた。
その瞬間。
ドドドドドドドドッ!!!
中から、大量のバスケットボールが雪崩のように落ちてきた。
「うわっ!」
「ぎゃー!?」
二人はボールの山に埋もれて、廊下に倒れ込んだ。
オレンジ色のボールが、あちこちに転がっていく。
「いたた……そういえば昨日の練習後、ボールを適当に積んだままやった……」
「お前、ほんとにドジだな!」
「うるさい! あんたのせいでうち、緊張して忘れてたんや!」
「俺のせい!?」
カナタは真っ赤になった。
(だって、さっきから心臓バクバクで、頭まともに働かへんのやもん!)
でも、そんなこと言えるはずがない。
彼女はボールの山の中から立ち上がると、カグラを指さした。
「あ、あのな! うち、ドジやから、毎日こんな感じやと思う! でも!」
「でも?」
「マネージャーになってくれたら、毎日笑わせてあげるから! うち、あんたと一緒にバスケやりたいねん!」
カグラはぽかんとした。
カナタの顔は真っ赤で、ポニーテールが怒った猫のしっぽみたいに揺れている。
「毎日笑わせてくれるのかよ」
「当たり前や! うちの笑顔は日本一やで!」
「なんだよ、それ。自分で言うのか」
「ええやろ! 自信あんねん!」
カグラは笑った。
今日だけで、何回も笑った気がする。
朝の全校集会ではどん底だったのに、カナタといると、なんだか全部どうでもよくなる。
「わかった。マネージャー、やるよ」
「……え? ほんまに?」
「でも俺、生徒会長の仕事もあるから、あんまり来れないかも――」
言い終わる前に、カナタが抱きついてきた。
「やったー!! ありがとう、カグラ!!」
「お、おい、鼻血また出るって!」
「ええやん! 鼻血くらい、青春の勲章や!」
カグラはため息をつきながらも、笑みがこぼれた。
夕方。
カグラとカナタは二人で、散らばったバスケットボールを片付けていた。
廊下に転がったボールを拾い集め、かごの中に戻していく。
「しかし、お前ってほんとにドジだよな」
「うっさいわ! でも、うちのドジに助けられたこともあるやろ?」
「まあ、今日は助けたけどな」
「……ほんま、ありがとうな。ボール、キャッチしてくれて」
カナタが、少し照れたように言った。
「あれ、けっこう本気でやばかったから。顔面に当たったら、鼻血どころじゃ済まんかったわ」
「体が勝手に動いただけだよ。中学で剣道やってたから、とっさの反応だけはできるんだ」
「剣道! やっぱりそうなんや! 雰囲気が普通の奴とちゃうと思った!」
「そんなことないと思うけど」
話しながら、カグラは思った。
(生徒会長とマネージャーの両立、大丈夫かな)
あがり症のこともあるし、会長の仕事はこれからもっと忙しくなるはずだ。
でも。
隣で笑っているカナタを見ると、不思議と不安が薄れていく。
「なあ、カグラ」
「ん?」
「うちな、今日めっちゃ嬉しかった。あんたがマネージャーになってくれて。それに……さっき保健室で言ってくれたこと」
「ドジでも最高ってやつ?」
「そう! あれ、忘れんなよ!」
「忘れないよ」
カナタは顔を赤くして、ボールを抱え込んだ。
片付けが終わり、二人は部室を出た。
校門までの道を、並んで歩く。
桜はもうほとんど散って、緑の葉が顔を出している。
夕陽が校舎をオレンジ色に染めていた。
「じゃあ、また明日やな!」
校門のところで、カナタが手を振った。
「おう。部活、頑張れよ」
「当たり前や! 明日からマネージャーもびしびし働かせたるからな!」
「え、怖いんだけど」
「はーっはっは! 覚悟しときや!」
カナタは笑いながら、夕陽の中を走って行った。
ポニーテールが、ぴょんぴょん跳ねている。
カグラは、その後ろ姿を見送った。
(今日、最悪の一日だったけど)
あがり症はショックだったけど、それ以上に。
(カナタと話せて、よかったな)
彼女の笑顔を見ていると、こっちまで元気になる。
これからの学校生活が、少し楽しみになってきた。
マネージャーの仕事も、生徒会の仕事も、なんとか頑張れそうな気がする。
カグラはポケットの鍵――屋上の鍵を、そっと握った。
(いつか、ここにきみを呼ぶんだ)
まだ先の話だ。
でも、一歩ずつ前に進んでいる。
そんな確信があった。
カグラは軽い足取りで、帰り道を歩き始めた。
――その時。
校門の陰から、じっとその光景を見つめる女生徒がいた。
長い黒髪。
完璧な容姿。
でも、その瞳は冷たく、手に持った本をぎゅっと握りしめている。
「……何よ、あの女」
天川シオン。
学園の女王と称される美少女は、カグラとカナタが並んで歩いていく後ろ姿を、最後まで見つめていた。
彼女の周りだけ、空気が凍りついたように冷たい。
「九浪カグラ……覚えておきなさい」
小さくつぶやいて、彼女は校舎の中へ消えていった。
まだ、誰も知らない。
これが、学園を巻き込む嵐の始まりだということを。Noveliaとは?
Noveliaは、AIでライトノベルや二次創作を「読んで・数タップで作って・キャラクターと会話できる」プラットフォームです。挿絵つきの新作が毎日届き、無料で始められます。