告白は放課後、屋上で。〜九浪カグラのハーレム生徒会〜
告白は放課後、屋上で。〜九浪カグラのハーレム生徒会〜
春、桜が満開の季節。私立アイリス学園に入学した新入生・九浪カグラは、極めて単純な理由で生徒会長選挙への立候補を決意する。それは、想い人を学園の屋上に呼び出し、告白する権限を手に入れるため。彼の風変わりな選挙演説は予想外にも大反響を呼び、学園三大美少女たちの目に留まってしまう。
最初に近づいてきたのは、学園の絶対女王・天川シオン。非の打ち所がない完璧超人……かと思いきや、極度の人見知りで友達ゼロ。彼女はカグラに「会話の練習相手」を命じるが、彼の無自覚で不器用な優しさに、初めて胸をときめかせる。
次に現れたのは、バスケ部の元気なエース・速水カナタ。カグラの身のこなしを見込んでマネージャーに勧誘しようとするが、彼が自分の大失態を救ってくれたことで恋に落ちる。そして最後に、クールでゲーム好きな図書委員・栗花落ナズナ。カグラのゲームの腕前を聞きつけて勝負を挑むも敗北。彼の実力に感服し、いきなり「家で一晩中ゲームをしよう」と大胆な誘いをかける。
三人からの突然の、しかもほぼ同時の告白にカグラが混乱する中、美少女たちはある盟約を結ぶ。「最
告白は放課後、屋上で。〜九浪カグラのハーレム生徒会〜 - 世界で一番大切な友達!雨のち涙と四人の約束
頭が、ガンガンする。
手足は鉛みたいに重くて、まぶたを開けるのさえ、やっとだった。
「……う」
九浪カグラは自分の声が、やけに遠くに聞こえるのに気づいた。喉が焼けつくように熱い。
布団の中で丸まりながら、ぼんやりと昨日のことを思い出す。
雨。
冷たい、冷たい雨。
校庭のど真ん中で、一人で泣いた。三人の顔が、脳裏に張り付いて離れない。俺のせいで、みんなバラバラになった。
もう、ダメなんだ。
そう思った瞬間、意識がストンと闇に落ちた。
――カグラ。
懐かしい声がした。
目を開けると、そこは一面の青空だった。足元には、どこまでも続く緑の草原。風が、さらさらと草を撫でていく。
「じいちゃん……?」
そこに立っていたのは、白い着物を着た、少し猫背の老人。昔、夏休みにしか会えなかった、大好きな祖父だった。
手にはいつものように、小さな盆栽ばさみを持っている。
「おう、カグラ。大きくなったなあ」
祖父は、しわくちゃの顔をくしゃっとさせて笑った。
「じいちゃん、俺……俺、みんなを傷つけて……」
涙が、ボロボロとこぼれた。止まらなかった。
「カグラ。お前は小さい頃から、誰かを好きになるとまっすぐすぎて、周りが見えなくなる子だった」
祖父は、優しい声で言った。
「だがな、そんなお前に、一つだけ教えておきたいことがある」
ポン、と。
そのしわだらけの手が、カグラの頭に置かれた。
「大事なのはな、正直でいることだ」
正直。
「そしてもう一つ。腹の底から、笑うことだ。どんな時でもな。笑えば、きっと誰かが集まってくる。お前のように、まっすぐで、あったけえ奴らがな」
正直でいること。
腹の底から、笑うこと。
「……でも、俺……俺、何も伝えられてない。好きだってことも、大切だってことも、全然……」
「はっはっは! なら、今から伝えに行け。足は、ちゃんと前に進むようについてるだろ?」
祖父の笑い声が、青空に溶けていく。
視界が、白い光に包まれた。
――カグラ、お前の選ぶ道は、きっと大丈夫だ。
ガバッ!!
カグラは布団を跳ね除けて飛び起きた。
体はまだ熱っぽい。頭も痛い。でも、心臓だけが、ドクンドクンと力強く脈打っている。
「伝えなきゃ……伝えに行くんだ!」
枕元のスマホを掴む。メッセージアプリを開き、三人に同時に打ち込む。
『今から会いに行く』
たった一行。でも、今はこれで十分だ。
汗で張り付くパジャマのまま、カグラは家を飛び出した。
最初に向かったのは、学校の体育館裏だった。
部室棟の陰にある、物置小屋。
「はあっ、はあっ……カナタ、いるんだろ!」
乱暴にドアを開ける。
薄暗い中、モップやボールが雑多に転がる隅っこで、彼女は膝を抱えて座っていた。
いつもぴょんぴょん跳ねているポニーテールが、ぐったりと垂れている。
大きな猫目は、泣きはらしたみたいに赤くて腫れていた。
「……なんで、ここが」
カナタの声は、蚊の鳴くように小さくて、震えていた。
「お前が落ち込む時は、いつもここで素振りしてるからだよ」
「……うち、もう、カグラの前に出られへん。いつもドジばかりで、笑顔しか取り柄がなくて、結局クラスの出し物も、うちがぶち壊しにした」
カナタは顔を伏せる。
両手でぎゅっと膝を抱く指が、白くなっている。
「うちのせいで、みんなに迷惑かけて……嫌われた。もう、笑えへん……」
カグラは、ズカズカと彼女の前に歩み寄った。
そして、その手を力いっぱい握る。
「違う!!」
カナタの肩が、ビクッと跳ねた。
「お前の笑顔は、ドジなんかじゃない! お前の笑顔がなかったら、俺はとっくに生徒会長なんてやめてた! 毎日笑って、元気もらって……あのドタバタも、お前が笑うから、俺も笑えたんだ!!」
「で、でも……」
「でもじゃない! 俺はお前に、何度も助けられた! ドジでも何でも、お前はお前のままで、俺にとっては世界で一番大事な友達なんだよ!!」
カグラは息を吸い込んだ。のどが焼けつくように痛い。でも、この想いを全部、叫ばなきゃいけないんだ。
「謝るな! お前が自分を責めるのは、俺が許さない!」
一瞬の沈黙。
カナタの大きな瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
「……う、うぅ……っ、うわああああん!!」
堰を切ったように。
彼女はカグラの胸に飛び込んだ。
「うち、うちな……カグラのことが、大好きやねん! 好きで、好きで、嫌われたくなかった……!」
カナタは子供みたいに、声を上げて泣きじゃくった。
カグラは、彼女の背中をぎゅっと抱きしめる。
「……うん。俺も、お前が大好きだ。大切な、友達だ」
体育館の陰で、夏の日差しだけが、二人を優しく包んでいた。
次に向かったのは、学校から徒歩十分の高級マンション。
グランヒルズ立花丘。
十五階にある彼女の部屋の前で、カグラはインターホンを、何度も、何度も、しつこく押し続けた。
ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン。
「シオン、開けろ! いないのはわかってるんだ!」
しばらくして、ドアがほんの数センチだけ開いた。
隙間から、切れ長のアイスブルーの瞳が、怯えたようにカグラを見上げている。
いつも完璧に整えられた銀色の髪も、今日は少しだけ乱れていた。
「……もう、来ないで。私に関わらないで」
声は冷たかった。でも、ほんの少しだけ震えている。
「私は、何をやってもダメなの。完璧な女王様なんて、ただの見せかけだった。本当の私は、人見知りの、どうしようもないダメな女よ。誰にも必要とされない」
そう言って、ドアを閉めようとする。
カグラは、そのドアの隙間に、すかさず自分の足を挟んだ。
「いっ……!」
痛みに顔をしかめながらも、決して引かない。
「な、なにしてるのよ、この大バカ!!」
「うるさい! 最後まで聞け! お前が人見知りで、不器用で、すぐに命令口調になるのは、とっくに知ってる!」
「え……?」
「図書室でこっそり本を直してたのも、俺の書類を勝手に手伝ってたのも、放送室で歌った下手くそなラブソングも! 全部、お前の不器用な優しさだって知ってる!」
カグラは、ドアに挟まれた足の痛みも忘れて、叫び続ける。
「誰よりも友達が欲しくて、誰よりも優しい心を持ってるくせに! それを隠すのが、バカみたいに下手くそなんだよ、お前は! そんなお前を、誰が必要としてないって言った!? 俺は、お前が必要だ!!」
静寂。
カチャリ。
ドアのロックが外れる音がした。
ゆっくりとドアが開く。
そこには、泣き腫らした顔のシオンが、玄関にペタンと座り込んでいた。
「……ひどいわ。ひどすぎる……あなたは、いつもそう。私の心の壁を、いつも簡単に壊してしまう」
彼女のアイスブルーの瞳から、大粒の涙が、次から次へとあふれ出る。
「私……私も、あなたが……あなたが、大好きなの……! 九浪くん……私を、見つけてくれてありがとう……」
初めて人前で見せる、素の顔だった。
最後にカグラが走り込んだのは、すっかり日が暮れた図書室だった。
本来ならもう閉まっている時間だ。でも、窓の鍵が一つだけ壊れているのを、カグラは彼女から聞いたことがあった。
本棚の森を抜け、一番奥の自習コーナーへ。
暗闇の中、パソコンのモニターの青白い光だけが、ぼんやりと影を浮かび上がらせている。
「……来たんだ」
彼女は、丸めた紙を何枚も床に散らばらせて、ゲームの攻略本を睨みつけていた。
その手は、少しだけ震えている。左目は、赤紫色の光を宿したまま、じっとモニターを見つめていた。
前髪で隠した右目も、今日はそのままだった。
「あたしのせいじゃん。全部」
彼女は、吐き捨てるように言う。
「確率とゲーム理論で立ち回って、一番効率的にカグラを攻略しようとした。そのせいで、クラスの出し物も、あんたの選挙も、全部、めちゃくちゃにした。あたしみたいな、ひねくれた奴が、人を好きになっちゃいけなかったんだ」
カグラは黙って、彼女の隣に座り込んだ。
「……なあ、ナズナ」
「うるさい。今はあんたの顔、見たくない」
怒ったふりをして、彼女は顔を背ける。
「この前、俺にくれたクッキー。余っただけって言ってたけど、めちゃくちゃうまかった」
ナズナの肩が、ピクッと動いた。
「それに、お前の毒舌は、いつだって誰かが傷つくのを防ごうとする、盾みたいなもんだって、俺は知ってる。お前は、誰よりも優しいじゃん?」
カグラは続ける。
「俺の前では、もう無理しなくていい。お前の不器用な思いやりも、バレバレな優しさも、俺は全部ひっくるめて、お前のことが好きだ。大好きだ」
ストレートに、心のままを言葉にした。
ナズナの手が、カタン、とマウスを落とした。
「…………ばか」
小さく、そう呟いた。
「あんたが、あたしの右目を『きれいだ』って言った時から……あたし、ずっと、ずっと、あんたのことが好きだった。こんなの、バグだよ。攻略法なんて、全然見つかんないじゃん……」
彼女は、隠していた金色の右目からも涙をこぼしながら、カグラの肩にもたれかかった。
夜。
カグラが自宅のソファで天井を見つめていると、玄関のチャイムが、ほぼ同時に三回鳴った。
ドアを開けると、そこには気まずそうに顔を合わせた三人の姿。
「た、たまたま通りかかっただけよ。家に入れてあげてもよくてよ」
「うちも、たまたまや! 九浪の家の前を通ったら、たまたま二人がおっただけやし!」
「……家の前で鉢合わせるとか、確率どれだけ低いと思ってんの、バグじゃん」
カグラは、大声で笑った。
「ははは! 入れよ、みんな! 今ココア入れる!」
リビングの床に、四人で輪になって座る。
温かいマグカップを手に、最初はぎこちなかった会話も、すぐにほどけた。
「……ほんま、ごめんな。うち、あの時、うちのせいでって」
「私もよ。私がもっと素直だったら、こんなことには」
「あたしも……計算ばっかして、ごめん」
「俺もだ、俺がはっきりしなかったから……みんなを傷つけた。でも、もう決めたんだ。俺はまだ、誰を選ぶかなんて、わからない。でも——」
カグラは、真っ直ぐに三人の顔を見た。
「これからも四人で、一緒にいたい! 誰一人欠けちゃいけない、俺にとってはみんな、かけがえのない、大切な友達なんだ!!」
一瞬の沈黙の後。
「ふっ……あはははは!! 何それ、ずるいわよ、九浪カグラ! 大バカね!!」
シオンが、お腹を抱えて笑い出した。
「はーっはっは!! ほんま、カグラはバグやで! でも、そんなカグラが、うちは大好きや!!」
カナタも、目じりに涙をためながら爆笑している。
勢いあまって、手に持ったココアをこぼした。
「あっ! こぼしたやん!」
「あはは! 何やってんだよ!」
「……っ、あはは! 全員バグ! こんなの、あたしのデータベースにもないし! でも……それが、あたしの大好きな人たちだ」
ナズナも、右目を隠すことなく、涙と笑いが混ざった顔で笑った。
笑い声が、夜の静けさに吸い込まれていく。
長く、苦しかったカグラ争奪戦は、こうして終わりを告げた。
そして、四人はたしかに「世界で一番大切な友達」になった瞬間だった。
翌朝。
朝日が差し込む中、カグラの家のリビングの絨毯の上で、四人は無防備に眠りこけていた。
「……みんな、寝顔はかわいいんだよな」
一番に目覚めたカグラは、そう呟いて苦笑いする。
祖父の言葉を思い出した。
(正直でいること、腹の底から笑うこと。じいちゃん、まだ答えは出せないけど、今はこれでいいと思う)
心の中で、そっと祖父に語りかけた。
その時だ。
ブブッ、とスマホが一度だけ震えた。
画面を覗くと、教頭からのメッセージが表示されている。
『至急、生徒会室に来るように。転校生の案内を頼みたい』
「転校生……?」
カグラは首をかしげた。
今はまだ、その言葉の意味を、何も知らない。
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