告白は放課後、屋上で。〜九浪カグラのハーレム生徒会〜
告白は放課後、屋上で。〜九浪カグラのハーレム生徒会〜
春、桜が満開の季節。私立アイリス学園に入学した新入生・九浪カグラは、極めて単純な理由で生徒会長選挙への立候補を決意する。それは、想い人を学園の屋上に呼び出し、告白する権限を手に入れるため。彼の風変わりな選挙演説は予想外にも大反響を呼び、学園三大美少女たちの目に留まってしまう。
最初に近づいてきたのは、学園の絶対女王・天川シオン。非の打ち所がない完璧超人……かと思いきや、極度の人見知りで友達ゼロ。彼女はカグラに「会話の練習相手」を命じるが、彼の無自覚で不器用な優しさに、初めて胸をときめかせる。
次に現れたのは、バスケ部の元気なエース・速水カナタ。カグラの身のこなしを見込んでマネージャーに勧誘しようとするが、彼が自分の大失態を救ってくれたことで恋に落ちる。そして最後に、クールでゲーム好きな図書委員・栗花落ナズナ。カグラのゲームの腕前を聞きつけて勝負を挑むも敗北。彼の実力に感服し、いきなり「家で一晩中ゲームをしよう」と大胆な誘いをかける。
三人からの突然の、しかもほぼ同時の告白にカグラが混乱する中、美少女たちはある盟約を結ぶ。「最
告白は放課後、屋上で。〜九浪カグラのハーレム生徒会〜 - ゲーム中毒警報!毒舌オタクの心がバグった日!
五月中旬の放課後。
多目的室はむんとした熱気に包まれていた。五十人ほどの生徒が、壁ぎわに置かれたモニターを食い入るように見ている。
「次、決勝戦だって!」
「栗花落さんだろ、優勝候補」
ざわざわとした声が響く中、九浪カグラは首をかしげた。
(ゲーム大会って、こんなに盛り上がるんだな)
彼は今日の昼休み、教室でカナタに話しかけられたのがきっかけだった。『マネージャーとして部活に来てほしいけど、今日はゲーム大会あるからサボっていいよ!』。それを聞いて、気まぐれにエントリーしたのだ。
対戦を重ねるうちに、なぜか決勝まで残ってしまった。
カグラの隣に座る彼女は、ひと言も口をきかずにコントローラーを握っている。
栗花落ナズナ。
前髪で右目を隠した、小柄な二年生。図書室の奥でいつもゲームの攻略本を読んでいる姿を、カグラは何度か見かけていた。左目だけが、深い赤紫色に光って、じっとモニターをにらんでいる。
「あんた、なんでここにいるの」
ナズナが、ちらりともカグラを見ずに言った。
「え、なんでって……勝ち上がったから」
「は? あたしのデータにはないんだけど。この学園にあんたみたいなゲーマーがいるって」
ナズナの声は、皮肉っぽくて少しだけとげがある。
「ゲーマーってほどじゃないよ。中学のとき、缶コーヒーをかけて友だちとやってただけだし」
「……缶コーヒー」
ナズナが、はじめてカグラの顔を見た。前髪のすき間から、左目がわずかに見開かれている。
「まあいいわ。どうせすぐ終わるし。あんたのゲームの腕前、見せてもらうじゃん?」
彼女はそう言うと、また前を向いた。
試合開始のブザーが鳴った。
対戦ゲームは、一対一の格闘だった。
ナズナの操作は、無駄がなかった。
まず、安全な距離をとる。そして、わざと隙を見せる。カグラがそこに飛び込むのを待って、しかけたわなに引きずり込む作戦だ。何度もオンライン大会で優勝してきた彼女の必勝パターン。
だが。
「え?」
カグラは、わなにまったく気づかなかった。
ただ、まっすぐ突っ込んだ。
ナズナのキャラがわなをしかけた場所を、素通りした。
(は? なんで?)
ナズナの指が一瞬止まる。モニターの中で、カグラのキャラが彼女のキャラに襲いかかった。
「うそ」
あっけなく、ナズナの体力ゲージが半分に減った。
「ちょっと、今の! なんでそこに突っ込むの!? わなに気づかなかったの!?」
「え、わな? あれ、わなだったのか?」
ナズナは言葉を失った。
さらに、追い打ちをかけるように、カグラはでたらめなボタンを押す。それが、偶然にもナズナが次にしかけようとしていた奇襲を、すんでのところでかわしてしまった。
偶然が、重なる。
空気を読まず、わなを見破らず、ただ怒涛のように攻めまくるカグラのプレイに、ナズナは完全にリズムを崩した。
「な、なによこれ! バグでしょ! そんなのありえないじゃん!」
試合開始から二分後。
ナズナのキャラが、カグラの一撃で吹っ飛んだ。
「決着! 勝者、九浪カグラ!」
体育館が、どよめいた。
ナズナはコントローラーを落とした。
かたん。
ごく小さな音が、妙に耳に残った。
「……こんなの」
彼女はうつむいたまま、しばらく動かなかった。前髪で顔がよく見えない。でもその手が、小刻みに震えている。
「おい、大丈夫か?」
カグラが声をかけると、ナズナは勢いよく立ち上がった。
「あんた、バグキャラかよ! 認めないから! こんなの、ゲームじゃない!」
彼女はそれだけ言い放つと、多目的室を飛び出していった。
カグラはぽかんとした。
(怒ってる? でも……)
去りぎわにちらりと見えた彼女の顔は、怒りというより、泣き出しそうに見えた。
翌日、放課後。
外はどしゃ降りの雨だった。
カグラは本館二階の図書室にいた。生徒会の書類整理をかたづけるためだ。静かな場所をさがして、副会長のサクマにすすめられた通り、図書室の奥の自習コーナーに席をとった。
雨音だけが、しんとした室内に響いている。
書類をながめていると、がたん、と小さな音がした。
奥の本棚のすきまに、いる。
誰かが、図書室のすみで本を読んでいた。前髪で右目を隠した女生徒。
栗花落ナズナだ。
(あ、昨日の人)
カグラは手を上げた。
「よっ」
ナズナは返事をしなかった。でも、顔を上げてカグラをにらみつける。左目だけが、不機嫌そうにカグラを見つめている。
「……また来たの」
「おう。会長の仕事で。静かだから、つい」
「ふうん。あんた、まさかとは思うけど、昨日のアレ、実力だと思ってるんじゃないわよね?」
ナズナは本を閉じると、立ち上がった。
「あれはバグ。アクシデント。ゲームの女神の気まぐれ。あたしのデータにあんたに負ける要素は一ミリもない。だから、いまここでもう一度勝負。リベンジさせなさい」
まくしたてるように言う。
その時だった。
ごう、と風が鳴った。
開いていた窓から、雨が吹き込む。強い風に、カーテンが舞い上がり、ナズナの黒い髪が一気にめくれた。
「あっ」
ナズナはとっさに手で顔をおおった。
でも、間に合わなかった。
いつもは前髪で隠されている、彼女の右目が、完全にあらわになっていた。
左目と同じ形をした右目。
でも、その色は。
透き通った、金色。
夕日に照らされた金色の瞳は、雨のしずくを反射して、きらきらと光って見えた。
「み、見るな!!」
ナズナは悲鳴のような声をあげた。
彼女が手をふり回すはずみで、机の上に積まれていた本が、音を立てて床に落ちた。それにつられて、本棚からも数冊が落ちる。
どさどさどさっ。
古い紙のにおいが舞い上がった。
「……見るな、お願い。気持ち悪いって、言うなら今のうちに言いなさいよ。そしたらあたし、だれにも相手してもらえずに、また一人でゲームしてるから」
ナズナは、右手で右目を必死に隠し、うつむいてブルブルと震えている。声は泣いているのに、口調だけは虚勢を張っている。
前に、言われたことを思い出していた。
小学校のころ、同じクラスの男子に言われた言葉。『その目、おばけみたいできもちわりい』。それ以来、彼女はずっと前髪で右目を隠してきた。人に見られれば、またあの言葉を投げつけられる。そう思ってきた。
カグラは、黙ってナズナの手首をつかんだ。
「な、なにすんの……離して……」
ナズナはかぼそい声で言いながら、逃げようとする。
カグラは離さなかった。彼女の隠した手をそっとどけると、露わになった金色の右目を、じっと見つめた。
ナズナの体がこわばった。
次の言葉を待っている。
「へえ。宝石みたいですごくきれいじゃん」
ナズナの左目が、大きく見開かれた。
「……え?」
「なんで隠してるんだ? もったいないなあ」
カグラの声に、計算はなかった。同情もない。ただ、本当にそう思っているだけの、天然の感想だった。
ナズナの頭が真っ白になった。
ゲーム理論とか、攻略サイトのデータとか、彼を分析しようとしていた自分の考えが、音を立ててくずれていく。
だって、生まれて初めてだったのだ。
誰かに、その目を「きれい」と言われたのは。
「ば、バカじゃないの……! こんなの、どこがきれいなの……!」
彼女の顔が、首まで真っ赤に染まっていく。
もっと毒づこうとして、何を言えばいいのか分からなくなって、口をぱくぱくさせた。
心臓がうるさすぎて、自分でも何がなんだか、もう分からない。
彼を攻略しようとしていた自分が、完全にバグった。
「い、今すぐ! あたしの家に来なさい!」
彼女はそう叫ぶと、カグラの腕をつかみ、図書室を飛び出した。
「え、ちょ、おい!」
雨の中、彼女はずんずん歩いていく。
傘もささずに。
前髪はまだ、めくれたままだ。
金色の右目が、雨のしずくを浴びて、きらめいていた。
カグラはナズナの勢いに押されるまま、彼女のマンションの部屋に着いた。
学園から歩いて十五分。駅の近くの六階建てのマンションだ。
「おお……」
部屋に入って、カグラは思わず声をあげた。
六畳ほどの部屋に、大きなゲーミングモニターが二台。光るキーボード。最新のゲーム機が三台と、ソフトが山のように積まれている。壁には、オンライン対戦大会の優勝盾がかかっていた。
「これ、すごいな! このソフト、まだ発売して一週間だろ。もう持ってるのか?」
「べ、別に……ゲームばっかりしてるわけじゃないし」
ナズナは濡れた髪をタオルでふきながら、ぶっきらぼうに言った。前髪はもう下りている。でも、耳の先が真っ赤だった。
「座りなさい。いまから本当のゲームを見せてあげる。今度はバグじゃ済まさないから」
彼女はカグラにコントローラーを渡すと、すぐに対戦を始めた。
今度は、全く違った。
ナズナは一ミリの手加減もしない。カグラのキャラは次々と倒されていく。
「ほら、そこ! なんでガードしないの! あんた、ほんとに昨日勝ったの!?」
「だ、だって、ボタンがおおくて!」
「はあ? それでよく決勝まで来たわね。いまの動き、コンボが一ミリもできてなかったじゃん。それ、チュートリアルで一番最初に教えられるやつだから」
ナズナは毒舌をふりまくが、手は止めない。
カグラが失敗するたびに、「そこはこうするんだよ」と実演して見せる。
何度も、何度も。
彼があきらめずに挑戦するからだ。
三時間が過ぎていた。
「クッキー、食べる?」
ナズナが突然、小皿を差し出した。
ハート型のクッキーが並んでいる。見た目は、少し不格好だけど、いいにおいがした。
「え、いいのか?」
「たまたま、材料が余っただけだから。あんたが来るから作ったとか、そういうんじゃないし」
彼女は顔をそむけながら言う。
(来る前に、こっそり焼いてたんだな)
カグラはクッキーをほおばった。
「うまい! これ、めちゃくちゃうまいよ!」
「あんたなんかにほめられても、嬉しくなんかないし。味も見た目も、まだまだ改善の余地があるし。……でも、そういうの、悪くないじゃん」
ナズナは顔を隠すように下を向いた。
耳が、真っ赤になっている。
カグラは笑った。
(毒舌だけど、いいやつなんだな)
ゲームを教えてくれたことも、クッキーをくれたことも。
口では文句ばかりなのに、手はいつも優しい。
また、大切な友達が一人、増えた。
そう思った。
夜の九時を回った。
「そろそろ帰るよ。今日はありがとうな、楽しかった」
玄関で靴をはこうとした時、カグラのスマホが震えた。
ブブッ、ブブッ。
二回連続で着信音が鳴る。
画面を見ると、速水カナタからのメッセージだった。
『カグラくん、今どこ? マネージャー仕事サボって女子の家にいるとか言わないよね?笑』
次の瞬間、もう一通。
天川シオンからだった。
『今すぐ生徒会室に来るように。命令よ。……一人でどこ行ってたのよ、大バカ』
ほぼ同時だ。
(……なんで、ばれてるんだ?)
その画面を、後ろからナズナがのぞき込んでいた。
「あんた、モテ期とかバグってんじゃないの? 二人から同時に連絡とか、どんな確率よそれ」
呆れ口調で言うナズナ。
でも、その顔がだんだんと赤くなっていく。
(……あれ。あたしも今、その一人じゃない?)
カグラを家に連れ込んで、ゲームして、クッキー食べさせて。
これはまるで、自分も、してるじゃないか。
「…………」
ナズナは一歩後ろに下がった。
「みんな心配性だなあ。スマホの電源、切ってたからかな? とりあえず返信しとくよ。じゃあな、ナズナ。またゲームしようぜ!」
カグラは天然そのものの笑顔で、手を振って帰っていった。
玄関のドアが閉まる。
ナズナはその場にへたり込んだ。
壁にもたれて、すとんと座り込む。
心臓が、痛いほど高鳴っている。
さっきまでカグラがいて、二人で笑っていた部屋。
まだほんの少し、彼のにおいが残っている気がする。
「あたし、本気で恋してる……バグだ、こんなの」
彼女は顔を両手で覆った。
指の隙間から、金色の右目がのぞいている。
今はまだ、誰にも聞こえない声だった。Noveliaとは?
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