デスノート:嘘つきたちの恋文
夜神月(ライト)は完璧な生徒だ。成績トップ、容姿端麗、誰からも愛されている。しかし、誰も知らない本当のライト――世界は愚か者ばかりだと密かに思っている彼の姿を。
そんな彼がデスノートを手に入れる。名前を書かれた者は誰でも死ぬというノートだ。ライトは正義の神となり、犯罪者を一人ずつ消し去ることを決意する。彼は無敵だと思っていた――そう思っていたのだ。
そこへエルが現れる。
エルは世界最高の名探偵。本名も顔も明かさず、椅子にしゃがみ込み、山のような甘いものを食べる奇妙な男だ。見た目は変わっているが、その頭脳は恐ろしいほど鋭い。そしてすでにライトがキラと呼ばれる殺人者だと疑っている。
ある日、エルはライトに真っ直ぐ近づき言う。「友達になろう、ライトくん」と。その瞳はまったく笑っていない。ライトはそれが罠だと知っている。エルはライトが嘘をついていると見抜いている。二人はお互いの本心を完全に見透かしている――それでも、何事もないかのように笑い合い、会話を続ける。正直、ちょっと滑稽だ。
しかし、共に過ごす時間が増えるにつれて、奇妙なことが起こる。
ライトはエルのことが頭から離れなくなる
デスノート:嘘つきたちの恋文 - 鎖の長さは2.5メートル——それでも離れたくない夜
独房の中に、影が落ちた。
コンクリートの壁をすり抜けて、巨大な何かが入ってきた。月には見えない。聞こえない。でもそれは確かにそこにいた。
死神リュークは天井に近い場所で翼を折りたたみ、リンゴを齧りながら部屋を見渡した。
大きな赤い目が、床に座り込んでいる月をゆっくり見下ろす。
「[laughing]いやー、こりゃ傑作だぜ」
誰にも届かない声で、リュークはひとりごちた。リンゴをもう一口。歯ごたえがある。人間界のリンゴは死神界のものより何倍もジューシーだ。
月は膝を抱えて壁にもたれていた。眠れないのか、天井をぼんやり見上げている。監禁されてから2週間が経つ。
キラの記憶は、もうない。
ノートへの所有権を放棄した時点で、全部きれいに消えた。犯罪者を裁いた計画も、Lとの頭脳戦も、全部。今の月には、なぜ自分がここにいるのかすら本当にわからない。
リュークはそれを知っている。最初からずっと、全部見ていた。
「[sarcastic]記憶なくしてんのに、あの探偵のことばっかり考えてんじゃん」
月が小さく独り言を言った。
「竜崎は……今、何してるんだろう」
瞬間、リュークが吹き出した。翼が震える。笑い声が部屋に満ちる——でも月の耳には何も届かない。
リュークは肋骨みたいな手でお腹を押さえながら、ニヤニヤ笑いを大きくした。
「[laughing]人間って本当に面白ぇな」
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27台のモニターが並ぶ監視室。青白い光の中で、Lは膝を抱えて椅子に座っていた。
猫背。裸足。コーヒーカップを両手で持ったまま、動かない。左目が銀、右目が深い青——そのオッドアイが一台の画面だけを静かに見つめていた。
画面の中の月は、膝を抱えて天井を見ている。
ワタリがゆっくりと近づいてきた。白髪の紳士で、Lのすべての行動を長年支えてきた男だ。その手にはコーヒーのポットがある。
「[gentle]監禁の法的期限まで、残り6日です」
Lは答えなかった。
指先がコーヒーカップの縁を、トントン、トントンと叩いている。本人が気づいていない癖だ。
証拠は——何もなかった。50日間、27台のカメラで24時間監視して、通信を全て傍受して、それでも何も出なかった。論理的な結論は一つしかない。
ワタリが再度、静かに聞いた。
「[gentle]どう、されますか」
長い沈黙。
Lはやっと口を開いた。
「[cold]解放します」
「[gentle]承知しました。手続きを——」
「[cold]ただし、条件が一つあります」
ワタリが止まった。
「[cold]私と月くんを、手錠で繋ぎます。鎖の長さは2.5メートル。24時間、行動を共にしてもらう」
「[gentle]……他にも方法がいくつかございますが」
「[cold]これが最も効率的です」
0.5秒、間があった。ワタリが何か言いかけて、止まった。
Lは視線を画面に戻した。月が壁に手をついて立ち上がろうとしている。手錠の鎖が邪魔で、うまく立てない。
ワタリは何も言わずに頷いた。
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地下2階の扉が開いた。
月は物音に顔を上げた。
そこに立っていたのは——猫背の、裸足の、シャツの裾が出ている男だった。コーヒーカップを持っている。左右で色の違う目が、静かに月を見ていた。
月は立ち上がった。手首の手錠が鳴る。
「[serious]やっと来たか」
それだけ言って、Lに詰め寄った。
「[angry]説明しろ。なんで俺がここにいる。なんで手錠がついてる。いつまでここに置く気だ」
Lは無表情のまま、月の右手首に何かを素早く装着した。
カチン。
月が自分の手首を見た。新しい手錠だ。そしてその反対側が——L自身の左手首に繋がっている。
「[surprised]何してんだ!?」
「[cold]解放します。ただし、私と常に行動を共にしてもらいます」
月は鎖の長さを確認した。2.5メートル。
「[angry]2.5メートル!? トイレはどうするんだ!」
「[cold]順番で入ります」
「[angry]シャワーは!」
「[cold]声をかけてください」
「[angry]寝るときは!」
「[cold]ベッドは別です。鎖の範囲内で」
「[angry]範囲内で!? 頭おかしいだろお前!」
Lはコーヒーを一口飲んだ。
「[cold]捜査上の合理的な判断です」
月は10秒ほど言葉を失った。それから深呼吸して、できるだけ落ち着いた声で言った。
「[serious]俺を解放する気があるなら、まず手錠を外せ」
Lが少しだけ間を置いた。
いつもの淡々とした感じと、何か少し違う。目の動きが、一瞬だけ月の顔をじっと見た。
「[gentle]逃がしません。でも……もう一度、あなたと話がしたいんです」
月が反論しようとした。言葉が出てこなかった。
「話がしたい」。それだけの言葉が、なぜか喉に刺さって抜けなかった。
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ティアラ・パレスホテルの24階、Lのスイートルーム。
広さ約200㎡。モニターが壁一面に並んでいる。スイーツワゴンが常備してある。ツインベッドの間隔は1.8メートル。
月はその部屋の真ん中に立って、しばらく何も言わなかった。
(これが……「解放」か)
手首を見る。手錠。鎖。繋がった先にはLがいる。
どう見ても独房より広い。でもどう見ても、自由ではない。
翌朝の朝食が、最初の戦場だった。
Lがスイーツワゴンから皿を取り出した。パンケーキ。その上に砂糖をこれでもかとかけ始めた。
月がそれを見て固まった。
「[sarcastic]……そのメニュー、何」
「[cold]糖分は脳の燃料です」
そう言いながら、Lは月のトースト目がけてジャムを塗り始めた。
「[angry]自分でやれる」
月がトーストを奪い返した。左手でジャムを塗ろうとする。利き手の右手には手錠がついている。
ジャムが厚すぎて、トーストが崩れた。皿の上でばらばらになる。
「[cold]やはり、と思いまして」
Lが無表情のまま、別のトーストを差し出した。ちゃんとジャムが塗ってある。
月は3秒迷ってから、無言で受け取った。
(……負けた気がする)
シャワーの順番争いは夜に起きた。
月が「先に入る」と言ったら、Lも「先に入ります」と言った。
「[serious]俺が先に言った」
「[cold]同時でした」
「[serious]俺の方が0.2秒早かった」
「[cold]計測できません」
二人は5分、お互いを見つめ合った。
最終的にじゃんけんで決着をつけた。Lがグー、月がパー。月の勝ちだった。
月がシャワーに向かって歩き出した瞬間、手錠の鎖がピンと張った。
「[cold]2.5メートルです」
「[angry]わかってるよ!」
天井付近では、リュークが腹を抱えて笑っていた。声は届かない。
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手錠生活3日目の深夜。
月が飛び起きた。
夢だ——暗い夢だった。冷たいコンクリートの壁、誰も来ない独房、鎖に繋がれたまま呼んでも呼んでも何も聞こえない夢。
気づくと額に汗がにじんでいた。呼吸が少し乱れている。
手錠の鎖がピンと張っている。
引っ張られた先を見ると、Lがもう起きていた。画面を見ながら、月の方を静かに見た。左目が銀、右目が青——暗い部屋でその色違いの目が、はっきり月を映していた。
「[serious]……なんでもない」
月は視線を逸らして、また横になろうとした。
ガチャリ、と鎖が鳴った。
Lがスイーツワゴンを手繰り寄せる音がした。しばらくして、プリンが月の手元に置かれた。スプーンつき。
「[serious]……なんで」
「[cold]怖い夢を見た後は糖分が有効だそうです」
それだけ言って、Lはまた画面に向かった。
月はプリンを見た。しばらく見た。
それから食べた。甘かった。
別の夜、月が窓際のテーブルで資料を読んでいると、肩に何かがかかった。
毛布だった。
振り返ると、Lが自分のノートパソコンを見ていた。月の方を見ていない。寒そうにしていたのでとも言わなかった。ただ、毛布が肩にあった。
月はその毛布を外せなかった。
外す理由がなかった、というより——外したくなかった。その事実が、月を少し困らせた。
「[serious]……なんでそんなことするんだ」
Lが角砂糖を一個、コーヒーに落とした。ぽちゃん。
「[cold]理由を説明すると長くなります」
それで会話が終わった。
月は前を向いて資料を読む振りをした。でも文字が頭に入ってこなかった。
(こいつは本当に意味がわからない)
わからないのに、胸の奥が少しだけ温かくなっていた。それを無視しようとして、できなかった。
俺を閉じ込めた男のはずなのに。理由を言わずに毛布をかけてきて、プリンを置いていく男のはずなのに。
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手錠生活4日目の深夜。
部屋が静かだった。モニターの光だけが青白く揺れている。Lは向かいのベッドで画面を見ていた。月はベッドに横になったまま、天井を見ていた。眠れない。
たまに鎖がかすかに鳴る。それだけの音だった。
月は天井を見たまま、口を開いた。
「[serious]なあ、竜崎」
Lが画面から目を上げた。
「[serious]俺が本当にキラだと思ってるか」
沈黙。
長い沈黙だった。Lが答えない。月は天井を見たまま、視線を逸らしかけた——その瞬間だった。
「[gentle]あなたがキラでないことを……私は心から願っています」
声が小さかった。いつものぼそぼそした話し方だった。でも何か違う重さがあった。
月の胸が、きつく締まった。
この男は本気だ。自分を50日間閉じ込めた男が、自分の無実を願っている。その矛盾が月の頭の中で回転した。怒りでも、安心でもない、説明のつかない何かが喉のあたりに詰まった。
目の奥が熱くなった。
なぜ泣きそうになっているのか、自分でもわからなかった。記憶がないから? 孤独だったから? それとも——。
月は慌てて顔を背けた。
ガチャリ、と鎖が鳴った。
Lが見ていた。月が泣いているのが、見えたはずだった。
でもLは何も言わなかった。ただ、角砂糖を一個だけ口の中に放り込んだ。カリ、という音がした。
部屋がまた静かになった。
しばらくして、月は息を吐いた。顔はまだ背けたまま。鎖の冷たさだけが、手首から伝わってくる。
天井の端で、リュークがリンゴを齧りながら二人を見ていた。
「[whispers]……なるほどな」
誰にも届かない声で、死神は静かに呟いた。その大きな赤い目が、月とLを交互に見る。
デスノートを人間界に落としたのは退屈しのぎのつもりだった。でもこれは——予想外に面白いものになってきた。
月はいつの間にか、眠っていた。
Lは画面から目を上げて、眠った月の横顔を少しの間、見ていた。鎖が、二人の手首の間でかすかに揺れていた。