サードインパクト☆ラブコメ大作戦!
ある朝、大三学中学校の2年1組は大混乱に包まれた。新しい転校生がやってきたのだ。碇シンジ――小柄で黒髪の少年で、「別にここに来たかったわけじゃないんだから…」とぶつぶつ呟くのが止まらない。
しかし、シンジの本当の問題は転校ではなかった。なぜか三人の少女たちが、一斉に彼こそが自分たちがそばにいるべき「絶対的な存在」だと決めてしまったのだ。
まず一人目は綾波レイ。白い髪に赤い瞳、無表情の彼女は毎朝、手作りの弁当をシンジの机に置く。「食べて」とだけ言い残し、すぐに去っていく。理由を尋ねると、「必要だから」とだけ答える。説明も理屈も一切なし。
次に惣流アスカ・ラングレー。赤い髪でドイツ育ち、クラスで一番声が大きい。 「あんた、全然ダメじゃない!だから私が面倒見るんだから感謝しなさいよ!」とシンジの後をついて回る。助けているのか、ただ騒いでいるのかは誰にもわからない。
そして三人目――ここから事態は本格的におかしくなるが――担任の葛城ミサト先生だ。「シンジく〜ん!おはよう!先生、すごく心配してたんだから!」授業中にお菓子を差し入れ、放課後は一緒に帰ろうとし、教師と生徒の境界線をすっかり忘
サードインパクト☆ラブコメ大作戦! - 謎の弁当少女、現る!——三つ巴の修羅場と父の冷たい一言
あの「がんばれ」のメモは、今もポケットの中にある。
シンジはそれを指先で確かめながら、教室に向かった。転入してから二週間が経った。毎朝弁当が置いてあって、毎日誰かがそれを置いていく。謎は謎のままだ。
(今日こそ——)
ドアを引く。
教室はすでに半分ほど席が埋まっていた。窓際の自分の席に目をやる。
あった。
また、あった。白い風呂敷に包まれた弁当。
「今日もあるじゃん」
「ほんとだ。誰なんだろ」
ざわざわとした空気。シンジは席に着いて、弁当を見つめた。出汁の匂いがうっすら漂う。卵焼きだろうか。
そこへ——教室のドアが、静かに開いた。
誰も気づかないくらい静かに。
銀白色の髪。深紅の瞳。158センチの細い体。感情を読ませない、まっすぐな眼差し。
少女は教室のざわめきをまったく気にする様子もなく、シンジの隣の空席に向かって一直線に歩いてきた。三十二人分の視線が、その背中に集まった。
少女は着席した。
前を向いたまま、口を開いた。
「弁当、食べてくれてる?」
静寂。
クラス全員が、息を止めた。
シンジも止めた。
(——え。え、え。この人が)
三週間。誰にも解けなかった謎。毎朝鍵のかかった教室にある弁当。「がんばれ」のメモ。張り込みも空振りに終わった朝。それが——
「え、あの子が!?」
「いつの間に碇くんと知り合いに!?」
教室が爆発した。
その瞬間。
ガタッ。
斜め前の席で、惣流アスカ・ラングレーが勢いよく立ち上がった。艶やかな赤髪が揺れる。アクアブルーの目が、銀髪の少女を捉えた。
「[angry]あ——あんただったの!?」
シンジが声を出す前に、アスカは少女の前に回り込んでいた。
「[angry]なんで碇に弁当なんか渡してたのよ! 毎朝毎朝、黙って! そういうの、最低だって分かる!?」
少女は——微動だにしなかった。
アスカの顔が真っ赤になっても、三十人以上の視線が刺さっても、前を向いたまま。
「必要だから」
たった五文字。
抑揚なし。感情なし。事実を述べるだけの声。
アスカの口が半開きになった。
「[angry]……必要? 必要って、なに。どういう意味よそれ」
「碇くんに必要だから」
返答は変わらなかった。同じ声量。同じ温度。
アスカのこめかみに青筋が浮いた。
シンジは隣の少女をまじまじと見た。銀白色の髪。深紅の瞳。——屋上で一瞬見かけた白い影。あの子だ。
「あ、あの……」
「[angry]黙ってて碇!」
黙った。
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その日の3時間目が始まる直前、校内放送が入った。
『二年一組のみなさんに連絡です。担任の中村先生が急な異動となりました。本日より新しい担任の先生が着任されます』
教室がまたざわつく。
「急すぎでしょ」
「誰が来るの」
廊下から足音が近づいてきた。軽快な足音。弾むような。
ドアが開いた。
濃い紫のショートボブが飛び込んできた。温かみのある琥珀色の瞳。長身で、動くたびにコートの裾がふわりと揺れる。
女性は教壇に立つなり、黒板にデカデカと「葛城ミサト」と書いた。チョークが途中で折れた。意に介さず続けた。
「[excited]はーい! 今日からみんなの担任になった葛城ミサトでーす! 国語担当、よろしくね!」
教室がしんとした。
ミサトは教室をぐるりと見回した。窓際の列。後ろから二番目。黒い髪。うつむきがちな姿勢。
「[excited]あ——シンジくーん! 元気? 先生ずーっと心配してたんだよ!」
教室の全員が、一斉にシンジを見た。
シンジは固まった。
「……せ、先生……初対面ですけど」
「[surprised]え? あ、そっか! まだ自己紹介してなかったね! てへ!」
全く悪びれない笑顔。ウインク付き。
鈴原トウジが、ジャージの袖で口元を拭いながら呟いた。
「……なんでこの先生、碇の名前を最初から知ってるんや」
アスカが腕を組んだ。視線が鋭い。
「[cold]……確かに。初対面のはずなのに」
隣を見ると、綾波レイがほんの少しだけ、視線をミサトに向けていた。無表情のまま。何を考えているかは分からない。
シンジは後ずさりながら、ひとつだけ確かなことを思った。
(この先生、何かを知っている)
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ケヤキ祭——ダイサン中学校が毎年10月の第3土日に開催する文化祭——の準備が本格的に始まった。
放課後の教室。アスカが黒板の前に立って、ホワイトボードのマーカーを握った。
「[serious]内装担当は私がやる。テーブルクロスはドイツ風のレースを使って、メニューはアプフェルシュトゥルーデルとザッハートルテ。本場の雰囲気で絶対他のクラスに勝てる」
ホワイトボードにスケッチが走る。テンポが速い。説明も的確だ。
だが。
「アスカの計画は非効率」
静かな声。アスカのマーカーが止まった。
「ドイツ風のケーキと和菓子は調理時間が被る。どちらかを削らないと回らない」
「[angry]和菓子? 誰が和菓子なんて言った!?」
「私が言った。和風茶室の案で」
レイはメニューのリストを取り出した。和食材料。煎茶。季節の上生菓子。
「来客が落ち着いて過ごせる空間を作れる」
「[angry]落ち着いて!? 文化祭で落ち着いてどうするの! 華やかさが必要でしょ!」
「華やかさより居心地の良さの方が、来客は長く滞在する。回転率は下がるが一人当たりの満足度が上がる」
「[angry]あんた、何でそんなに計算してんのよ! 文化祭は楽しむもんでしょ!!」
その時。
「[gentle]まあまあ二人とも! シンジくんが困ってるよ? 先生が間に入ってあげる!」
ミサトが割って入った。ゆっさゆっさと歩いてシンジの隣に立つ。そしてにっこり笑って——
「[gentle]シンジくんはどう思う? 先生はシンジくんの意見が一番大事だと思うなぁ」
三十二人の視線。アスカの鋭い目。レイの無表情な目。ミサトの期待に満ちた目。
全部、シンジに刺さった。
シンジの額に汗が滲んだ。アスカの案も分かる。レイの案も分かる。どっちも良いと思う。でもそれを言えば——
「ど、どっちも良いアイデアだと思うけど……」
「[angry]どっちも良いって意味がないでしょ!!」
怒鳴られた。肩が縮む。
「……碇くんが決めないなら、意味がない」
初めて声のトーンが変わった。わずかに、でも確実に。レイの視線がシンジから外れた。
ミサトが苦笑いをこぼした。
「[sad]シンジくん……先生、ちょっとガッカリだなぁ」
三人が、それぞれの方向を向いた。三人全員に呆れられた。
シンジは机の上に視線を落とした。ポケットの中の「がんばれ」のメモが、急に遠く感じた。
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その翌日。クラス会議が開かれた。
「ドイツ風カフェ——本場の雰囲気と本格的なケーキを提供する店よ」
「……和風茶室。来客が落ち着いて過ごせる空間」
挙手。数える。
ドイツ風カフェ——十六票。和風茶室——十六票。
「[gentle]じゃあシンジくんに決めてもらおう! 先生はシンジくんの味方だからね!」
にっこり。全責任を押しつけた。
三十二人の視線がシンジに集まった。アスカの目。レイの目。ミサトの目。クラス全員の目。
(どちらかを選べば、もう一方を傷つける)
頭が真っ白になった。昨日の失敗が頭にある。ここで逃げたら——
「ぼ……僕は……」
声が震えた。
「……どっちでもいい。みんなが楽しければ……」
一瞬の静寂。
ガタン。
アスカが机を叩いて立ち上がった。
「[angry]あんたって本っ当にダメね! 自分の意見もないの!? 三十二人が待ってんのに!」
「……碇くんが決めないなら、意味がない」
二日続けて、同じ言葉。レイはシンジから目を逸らした。
「[sad]シンジくん……」
ミサトも、小さなため息をついた。
三人が一斉に、シンジに背を向けた。
教室がざわめきを取り戻していく中、シンジだけが自分の席に取り残された。
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放課後。
シンジは文化祭の飾り付け材料の買い出しリストを手に、学校を出た。ナミキ通りへ向かうために。
正門を出て、東側の通路を歩く。隣接する六階建ての灰色のビル——ゲヒルン教育財団の本部、ゲヒルン・スクエア——の前を通りかかった時。
正面玄関のドアが開いた。
サングラス。手袋。ダークスーツ。長身。
シンジの足が止まった。
「——っ」
父だった。碇ゲンドウ。ゲヒルン教育財団の理事長。十年近く、まともに話したことがない人。
ゲンドウはシンジに気づいた。歩みが止まる。サングラスの奥の目がこちらを向く。
「と、父さ……」
ゲンドウが口を開いた。
「シンジ。お前に期待している」
それだけだった。
なぜ転入させたのか。何を期待しているのか。何一つ説明しない。何一つ。
ゲンドウは踵を返した。ゲヒルン・スクエアのドアが静かに閉まった。
シンジは買い出しリストを握りしめたまま、動けなかった。
夕陽がゲヒルン・スクエアの窓に反射して、オレンジ色の光を路面に落としていた。遠くでハヤセ川の水音がする。
「期待している」——その言葉だけが頭の中でぐるぐる回る。
怒りじゃない。悲しみでもない。ただ、空っぽな感じ。
(話したかっただけなのに。それだけなのに)
教室では三人に背を向けられた。ここでは父に意味不明な一言だけ残された。
シンジはうつむいて、小さく口を動かした。
「[whispers]……逃げちゃダメだ」
その言葉は、今日は空虚だった。
ポケットの中の「がんばれ」のメモを、また指先で確かめた。これをくれた人は——あの銀髪の少女なのだろうか。「必要だから」と言った、あの子が。
答えはまだ、何も出ていない。