サードインパクト☆ラブコメ大作戦!
ある朝、大三学中学校の2年1組は大混乱に包まれた。新しい転校生がやってきたのだ。碇シンジ――小柄で黒髪の少年で、「別にここに来たかったわけじゃないんだから…」とぶつぶつ呟くのが止まらない。
しかし、シンジの本当の問題は転校ではなかった。なぜか三人の少女たちが、一斉に彼こそが自分たちがそばにいるべき「絶対的な存在」だと決めてしまったのだ。
まず一人目は綾波レイ。白い髪に赤い瞳、無表情の彼女は毎朝、手作りの弁当をシンジの机に置く。「食べて」とだけ言い残し、すぐに去っていく。理由を尋ねると、「必要だから」とだけ答える。説明も理屈も一切なし。
次に惣流アスカ・ラングレー。赤い髪でドイツ育ち、クラスで一番声が大きい。 「あんた、全然ダメじゃない!だから私が面倒見るんだから感謝しなさいよ!」とシンジの後をついて回る。助けているのか、ただ騒いでいるのかは誰にもわからない。
そして三人目――ここから事態は本格的におかしくなるが――担任の葛城ミサト先生だ。「シンジく〜ん!おはよう!先生、すごく心配してたんだから!」授業中にお菓子を差し入れ、放課後は一緒に帰ろうとし、教師と生徒の境界線をすっかり忘
サードインパクト☆ラブコメ大作戦! - 三つの弁当と星空と、第二段階の電話——文化祭の夜が終わる
カフェ・ダイサンの片付けが終わったのは、夜の七時を過ぎた頃だった。
机を元の配置に戻して、テーブルクロスを畳んで、折り鶴を窓際から外す。教室はあっという間にいつもの二年一組に戻った。昨日シンジが一人で貼った和紙の梅の花だけが、まだ黒板の上に残っていた。
後夜祭の体育館から、音楽が聞こえてくる。
フォークダンスの曲だ。
「[excited]行くよシンジくん! 後夜祭! フォークダンス! 先生、こういうの得意なのよー!」
ミサトが廊下から顔だけ突っ込んで叫んだ。紫のショートボブがふわっと揺れる。目がきらきらしている。
シンジは黒板消しを持ったまま苦笑いした。
「うん、今行く」
体育館に入った瞬間、音楽の音量が跳ね上がった。照明が落とされて、ミラーボールみたいな間接照明だけが壁をぐるぐると照らしている。クラスメイトたちが輪を作り始めていた。
シンジが輪の端に立とうとした、その瞬間だった。
右手を、誰かが引っ張った。
「[angry]私と踊りなさい。命令よ」
アスカだった。赤髪が揺れている。アクアブルーの目がまっすぐにシンジを見ている。その手の力が強い。
同時に、左手を、誰かがそっと握った。
「碇くん、手を」
レイだった。銀白色の髪。深紅の瞳。静かな、でも確実な力でシンジの手を引いていた。
そして背後から、両肩をがっちりと掴まれた。
「[excited]シンジくーん! 先生と踊ろ〜! ほら〜!」
ミサトだった。172センチの身長から真後ろに引かれる力が、じわじわとシンジの背中に乗ってくる。
三方向。同時に。
シンジの体がミシミシ言った気がした。
「[scared]ちょ、ちょっと待って! 順番に! 順番にってば!!」
半泣きで叫んだ瞬間、体育館がどっと笑い声に包まれた。クラスメイトだけじゃない。隣のクラスの生徒たちまで振り返っている。
「[angry]私が先よ!」
「碇くんは私と」
「[excited]先生が一番若いから先ね!」
三人が同時に言った。三種類の声が重なった。
アスカとレイが、同時にミサトを見た。
「「それ関係ないでしょ」」
二人の声が綺麗にハモった。ミサトがぱちくりと目を丸くした。
「[surprised]え、珍しい、二人が同じこと言った!」
「今のは例外」
「[angry]二度とないから覚悟して」
体育館がまた笑いに揺れた。シンジは三人に引っ張られたまま、つい笑ってしまった。
結局、担任権限を振りかざしたミサトが一番手を勝ち取った。謎の論理だったけど、誰も本気では止められなかった。
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一曲目。ミサトとのダンス。
「[excited]いくよー! ステップ、右、左、右!」
「右、左、右、って……」
シンジがステップを踏もうとした瞬間、ミサトが逆方向に動いた。
ドン、とぶつかった。
「[laughing]ドンマイ! ドンマイ! 先生と踊れてラッキーでしょ!」
「ラッキーかどうかは後で考えます」
ミサトが豪快に笑いながらシンジの手を取って、ぐるんと回した。遠心力でシンジがよろけた。周りのクラスメイトが「担任と生徒のペアってアリなの……」「楽しそうではある」とひそひそしている。
でも、気づいたらシンジは笑っていた。振り回されながら、笑っていた。こういう人なんだ、とシンジは思った。ミサトは。距離感がゼロで、過剰で、たまに空気を読まない。でも、この人の近くにいると、なんか、楽になる。
「[gentle]シンジくん、今日よく頑張ったね」
ステップの合間に、ミサトがそっと言った。いつもの大声じゃない、小さい声で。
シンジは少しだけびっくりした。
「……うん」
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二曲目。アスカとのダンス。
向かい合った。アスカがシンジを見ている。シンジがアスカを見ている。二人とも、手を出さない。
数秒、そのまま。
アスカが先に手を出した。シンジも手を出した。指が触れた瞬間、アスカが視線を逸らした。シンジも逸らした。
どちらの耳も、真っ赤だった。
ぎこちなく、揺れる。言葉は出ない。ステップもほぼない。ただ音楽に合わせて、ふわふわと。手だけが繋がっている。
アスカが小さく呟いた。
「……悪くないわね」
シンジが「え?」と聞き返した。
「[angry]聞こえなかったでいい!!」
アスカがシンジの足を踏んだ。わざとかどうか分からない踏み方だった。
シンジは「いたっ」と言いながら、でも笑っていた。
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三曲目。レイとのダンス。
レイが無言でシンジの手を取った。シンジが手を取られた。それだけで、二人は揺れ始めた。
言葉はなかった。
音楽だけがある。ゆっくりとした曲だった。体育館の照明が壁をなめるように流れていく。シンジはレイの手の温度を感じていた。レイの手は、少しだけひんやりしていた。でも、離したくないと思った。
少しずつ、二人の動きが合ってきた。
そのとき、レイの口元が、ほんの少しだけ動いた。
笑っていた。
正確に言えば、口角が、ほんの一ミリか二ミリ、上がっていた。でも確かに、それはレイの笑顔だった。今まで一度も見たことのなかった、レイの。
シンジの胸の奥で、何かが、ぎゅっとなった。
なんで、こんなにドキドキするんだろう。分からない。でも、分からなくていい気がした。
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片付けが全部終わったのは、もう少し後のことだった。
シンジは一人で屋上に上がった。
フェンスの向こうに、第三東京市の夜景が広がっている。ハヤセ川が街灯を細長く反射している。南西のトワダ丘陵のシルエットが、空の黒さの中に溶けている。そして、夜空に星が出ていた。
ベンチに座る。風が冷たい。秋の空気だった。
しばらくして、階段を上がってくる足音が三つ聞こえた。
シンジは振り返らなかった。でも、誰かは分かった。
アスカとレイとミサトが、シンジのベンチの周りに、自然に立った。誰かが声をかけたわけじゃない。でも全員来た。
四人で、星を見上げた。
しばらく、誰も何も言わなかった。その沈黙が、全然嫌じゃなかった。
アスカが先に口を開いた。前を向いたまま。
「[sarcastic]……あんたのせいで、最悪の文化祭だったわ」
一拍。
「最高に楽しかったけど」
シンジは横目でアスカを見た。アスカは前を向いたまま、耳が赤かった。
レイが静かに言った。
「……また明日も、弁当を持ってくる」
ミサトが両手を広げた。
「[excited]先生も負けないよ〜! 明日から先生特製ランチ持ってくるから、シンジくん絶対食べてよ!」
三人の言葉が、順番に降ってきた。
シンジは星を見上げたまま、しばらく黙っていた。
泣きそうとか、そういうんじゃない。ただ、胸の真ん中が温かかった。じわじわと、端から端まで。
「……ありがとう」
声に出た。素直に。
「三人とも」
アスカが顔を背けた。レイが目を伏せた。ミサトがにっこりと笑った。
でも三人とも、耳が真っ赤だった。
シンジはその光景が、なんだかすごく嬉しくて、もう一度小さく笑った。初めて、心の底から笑った気がした。
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翌朝。
シンジが登校して、ハイツ・シラカバから徒歩十五分の道を歩いて、二年一組の教室の扉を開けた瞬間。
机の上に、弁当が三つ並んでいた。
一つ目。白い風呂敷。開けなくてもわかる、レイの丁寧な和食弁当だ。昨日も来て今日も来た。約束通り。
二つ目。赤いプラスチックの容器。開けたら端が少し焦げてそうな、アスカのドイツ風弁当だ。カフェの日は忙しくて作れなかったと言っていたけど、今日は持ってきた。
三つ目。コンビニの袋を無理やり別の容器に詰め替えた跡が丸分かりの、ミサト特製(?)ランチだ。昨夜宣戦布告して、翌朝もう実行している。早い。速すぎる。
シンジは頭を抱えた。
「三つも食べられないよ……!」
天を仰いだ。教室が爆笑した。
「[angry]私のから食べなさい。一番早く来たんだから」
「私のが先に置いてあった」
「[excited]先生のは冷めても美味しいから最後でいいよ〜ね、シンジくん?」
三人が同時に主張した。周りのクラスメイトたちが、机から少し距離を取って笑いながら観察している。鈴原が「今日も始まったなぁ」と嬉しそうな顔で呟いた。
(三人全員大切、って言ったのに、即座に三つの弁当という形で返ってくるのか……)
シンジは三つの弁当と三人の顔を見比べた。
逃げちゃダメだ。でも逃げたい。
心の中で正直にそう思った。
そのとき、シンジのスマートフォンが鳴った。
ポケットの中で、着信の振動。
画面を見た。
碇ゲンドウ。
教室の笑い声が遠くなった気がした。シンジは「ちょっとごめん」と言いながら廊下に出た。
扉を閉める。廊下。朝の光が窓から差し込んでいる。
電話に出た。
「……もしもし」
声が聞こえた。低く、平坦な声。感情の乗らない声。
「第二段階に移る」
一拍。
「シンジ、お前にはまだやるべきことがある」
それだけで、通話が切れた。
シンジは廊下の壁に背中を預けた。スマートフォンを握ったまま、動かなかった。
第二段階。
その言葉が頭の中で転がった。意味が分からない。何が第一段階で、何が第二段階なのか。やるべきこととは何か。レイへの「計画通りに進めろ」という言葉と、どう繋がっているのか。
文化祭を通じて、三人との絆を掴んだ気がしていた。信じることを選んだ。笑えた。素直にありがとうと言えた。
その全部が、今、父の一言で輪郭をぐらつかせている。
扉の向こうから、まだ三人の言い合いと笑い声が聞こえていた。
シンジは深呼吸した。
(逃げちゃダメだ)
声には出さなかった。でも、今度は少しだけ、本気でそう思えた気がした。昨日までと、何かが違う。弱気なだけじゃない。怖くても、前に進むと決めた。それだけは本当だった。
シンジは扉を開けて、教室に戻った。
三つの弁当と三人の顔が待っていた。笑顔と笑顔と笑顔。その向こうに、まだ何かが隠れている。でも今は、ここにいる。
笑みと不安が同時に、シンジの顔に浮かんでいた。