サードインパクト☆ラブコメ大作戦!
ある朝、大三学中学校の2年1組は大混乱に包まれた。新しい転校生がやってきたのだ。碇シンジ――小柄で黒髪の少年で、「別にここに来たかったわけじゃないんだから…」とぶつぶつ呟くのが止まらない。
しかし、シンジの本当の問題は転校ではなかった。なぜか三人の少女たちが、一斉に彼こそが自分たちがそばにいるべき「絶対的な存在」だと決めてしまったのだ。
まず一人目は綾波レイ。白い髪に赤い瞳、無表情の彼女は毎朝、手作りの弁当をシンジの机に置く。「食べて」とだけ言い残し、すぐに去っていく。理由を尋ねると、「必要だから」とだけ答える。説明も理屈も一切なし。
次に惣流アスカ・ラングレー。赤い髪でドイツ育ち、クラスで一番声が大きい。 「あんた、全然ダメじゃない!だから私が面倒見るんだから感謝しなさいよ!」とシンジの後をついて回る。助けているのか、ただ騒いでいるのかは誰にもわからない。
そして三人目――ここから事態は本格的におかしくなるが――担任の葛城ミサト先生だ。「シンジく〜ん!おはよう!先生、すごく心配してたんだから!」授業中にお菓子を差し入れ、放課後は一緒に帰ろうとし、教師と生徒の境界線をすっかり忘
サードインパクト☆ラブコメ大作戦! - 逃げちゃダメだ、信じるって決めた——カフェ・ダイサンの大騒動
目の下のクマが、ひどかった。
鏡を見た瞬間、シンジは自分でも引いた。紫がかった影が両目の下にべったりと張り付いている。昨夜は一睡もできなかった。当然だ。あの声が、ずっと頭の中で繰り返されていたのだから。
――綾波。計画通りに進めろ。
教室のドアを開けた瞬間、シンジは足を止めた。
朝の光の中で、教室が輝いていた。
レースのテーブルクロスがカフェ用の机に広げられ、折り鶴が窓際にぶら下がっている。和紙で切り抜いた梅の花が黒板の上に並んでいた。昨夜シンジが一人で仕上げたものだ。アスカのドイツ風レースとレイの折り鶴が、妙に合っている。
「[surprised]なに、その顔」
アスカが椅子から立ち上がって近づいてきた。赤髪が揺れる。アクアブルーの目がシンジの顔をじろじろと観察している。
「[sarcastic]お化けみたい。文化祭初日に死にそうな顔してどうするの」
「ごめん。眠れなくて」
「[angry]謝るくらいなら寝ろ!」
そこへ廊下から足音が響いた。早い。弾むような。
「[excited]シンジくーん! 先生来たよー! 文化祭だよー!」
ミサトが扉から飛び込んできた。紫のショートボブが揺れる。右手に、茶色い小瓶を持っていた。
「[excited]ねえねえ、シンジくん顔色悪くない? 先生、秘蔵の栄養ドリンク持ってきたよ! これ飲めば絶対元気になる!」
小瓶をシンジの鼻先に突きつける。何かが入っているのが透けて見えた。色が、少し茶色すぎる。
「あ、えっと……」
「[excited]飲んで飲んで! 先生が保証する!」
周りのクラスメイトたちが固唾を呑んで見守っている。アスカも腕を組んだまま、少し離れた場所から観察している。レイは自席で静かに前を向いていたが、横目でこっちを見た。
逃げちゃダメだ。
シンジは小瓶を受け取った。キャップを外す。においが鼻を直撃した。薬草?いや、もっと複雑な何か。一気に飲み込んだ。
「――ぶっ!」
むせた。盛大に。涙が出た。苦い。というか苦いだけじゃない、変な甘さが後から来て、それから謎の酸味で、最後に何か草の味がした。
「[angry]ちょっと! なんで先生のドリンクでそんな顔すんの!?」
「[sarcastic]……あんた、本当に保証する気あったの」
ミサトがシンジの背中をバシンと叩こうとした。シンジは条件反射で横へ一歩移動した。手が空を切った。
「[surprised]あっ! 空振り!」
笑い声が上がった。クラス全体から。アスカが鼻で笑った。レイの表情は変わらないけれど、口元がほんのわずかに動いた気がした。
シンジは涙をぬぐいながら、小さく息をついた。
逃げちゃダメだ。今日は、逃げない。
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開幕から、カフェ・ダイサンは大盛況だった。
ナミキ通りの常連客が「中学生のカフェ?」と半信半疑で入ってきて、アスカのザッハトルテを一口食べた瞬間に目を丸くした。「本格的だ」という声がすぐ広まって、行列ができた。レイの抹茶と白玉のセットには「落ち着く」「きれい」という声がついて、こちらにも静かな列ができていた。
そしてシンジは、ウェイターだった。
「テーブル3番、ザッハトルテ二つと抹茶セット一つ!」
「[scared]は、はい!」
お盆にカップとケーキを乗せる。重い。歩く。テーブルが見えた。
「あのー、こちら3番ですか?」
「え、私たち5番ですけど」
「[scared]す、すみません!!」
くるりと回れ右。お盆が傾いた。カップがずるりと滑る。
「[angry]碇!!」
アスカが飛んできた。お盆の端をがっちり支える。カップが止まった。ぎりぎりだった。
「[angry]何やってんの! お盆は水平に持つの、水平に!」
「ご、ごめん……」
「正しい持ち方は、肘を体に寄せて、手首で角度を調整する」
いつの間にかレイが横にいた。シンジの手を正しい位置に直す。力は入れていない。でも確実に。
「こう」
「あ……ありがとう」
「[excited]シンジくん上手くなってきたよ!!」
廊下側から声がした。ミサトがどこかから身を乗り出して親指を立てている。
クラスメイトたちが笑った。来客まで笑った。
アスカが顔をそむけた。でもその口元が、ほんのり緩んでいた。
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昼前の小休憩。注文が一時的に落ち着いた隙に、シンジは教室を出た。
中庭のケヤキが昼の光の中で揺れていた。
「[gentle]……綾波さん」
レイが振り返った。銀白色の髪。深紅の瞳。
「話があるんだ。少しだけ」
沈黙。でもレイは歩いてきた。二人でケヤキの木の下に立つ。
「昨日の夜」
声が少し震えた。でも続けた。
「ゲヒルン・スクエアの地下で……父さんと、綾波さんが話してるのを、聞いてしまった」
レイの目が、揺れた。
「計画通りに進めろって。父さんが、君に言ってた」
沈黙が長かった。ケヤキの葉が風に揺れる音だけがした。
それから、レイが口を開いた。
「……理事長は、私の保護者」
抑揚が少ない。でも確かに言っている。
「両親が、いない。ずっと一人だった。理事長が引き取ってくれた」
シンジは動けなかった。
「弁当の作り方も、理事長に教わった。届けるよう言われたのは、本当のこと」
そこで、レイは少し間を置いた。
「……でも、続けたのは、私の意志」
「え」
レイが、シンジを見た。まっすぐに。
「碇くんが、美味しそうに食べるのを見るのが……嬉しかった、から」
声が、かすかに揺れた。
その瞬間だった。レイの目に、光が滲んだ。
涙だった。こぼれなかった。でも確かにそこにあった。深紅の瞳の中で、光の粒がゆれていた。
シンジの胸の奥で、何かがじわりとほどけた。
この子が泣きそうになっている。ほとんど感情を見せない、あの綾波レイが。
それが本当のことだと、シンジには分かった。計算じゃない。命令じゃない。この子が自分で選んで、毎朝弁当を作ってきた。それだけのことが、胸に響いた。
「……ありがとう」
言葉はそれだけだった。でもシンジは、信じることを選んだ。疑うより信じる方が、ずっと難しくて、ずっと大事だと思った。
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「[angry]ちょっと! サボってないで戻りなさ——」
廊下からアスカが駆けてきた。声が途中で止まった。
ケヤキの下の二人を見た瞬間、アスカの表情が変わった。
何かを察した目。レイの目に滲むものを見て、シンジとの距離を見て、空気を読んで。
アスカの顔が、歪んだ。嫉妬と怒りと、それから何か別のものが混ざった複雑な表情。奥歯を噛みしめて、くるりと背を向けた。
「[cold]……別に。勝手にすれば」
早足で廊下を歩き始める。その背中が、かすかに震えていた。
一拍。
シンジは走り出した。
廊下でアスカに追いついた。腕をつかむ。アスカが振り返った。アクアブルーの目が赤い。
「[angry]離してよ! 何——」
「三人全員、大切に思ってる」
アスカの口が止まった。
シンジは続けた。声は思ったより落ち着いていた。自分でも驚いた。
「順番はつけられない。でも逃げない。ちゃんと向き合う。だから……最後まで一緒にやろう」
廊下が静かだった。
アスカはしばらく、ただシンジを見ていた。
それからゆっくりと、顔が真っ赤になった。耳まで。首まで。
「[angry]……っ、ば、バカシンジ!!」
ドン、と床を踏み鳴らした。
「[angry]そんなこと言ったら、怒れないじゃない!!」
もう一度踏み鳴らして、くるりと向き直った。今度は背を向けない。顔は真っ赤なまま、目が潤んでいる。でもアスカは、その場に立っていた。
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午後の部が始まると、来客はさらに増えた。
カフェ・ダイサンの前に列ができた。ダイサン中の文化祭で、二年一組が一番の行列を作った。
シンジはお盆を持った。傾いた。
「[angry]水平!!」
アスカが反対側を支えた。怒鳴りながら、でも確実に。
「手首の角度」
レイが一言で正してくれた。
「[excited]シンジくん、さっきより全然上手い!!」
ミサトが遠くから叫んだ。
クラスメイトたちが笑顔で見ていた。来客も笑っていた。
シンジはお盆を水平に保ちながら、テーブルへ向かった。
三人が、それぞれの形でそこにいた。怒鳴るアスカ。一言で助けるレイ。叫ぶミサト。でも確かに、チームとして動いていた。
胸の奥が、温かかった。
でも。
――計画通りに進めろ。
ゲンドウの声が、また頭をかすめた。
レイを信じることを選んだ。それは本当だ。でも、計画の全部がまだ見えていない。弁当を続けたのはレイの意志だと信じた。その先に何があるのかは、まだ分からない。
シンジはお盆をテーブルに置いて、笑顔のお客に頭を下げた。
笑顔の裏で、静かな問いが残っていた。
ゲンドウが言った「計画」は、どこまで続いているのか。