ビデオたい!ゼンレスゾーンのゆるすぎる一日
ニューエリドに、ちょっとおバカな平和が訪れた。きっかけは、ビリーが持ち込んだ一枚のポスター。「第1回ペアビデオ大会 優勝賞金500万デニー!」――目を輝かせるビリーを、ニコは「はいはい、どうせまたアホなこと考えてんでしょ」と一蹴する。だが、借金返済の文字がちらついたアンビーは、無言でエントリーボタンをポチリ。こうして、ビデオたい!ゼンレスゾーンのゆるすぎる一日を賭けた、ランダムプレイハウスの曲者たちによる、史上最もユルくてカオスなビデオ合戦が幕を開けた!
完璧なイメージを守りたいカリスマ配信者を狙うは、どこからともなく現れては全てを台無しにする、正体不明の愉快犯。猫シリオンコンビは猫動画で勝負するも、気まぐれな相方が言うことを聞かず、撮影はまさにカオス。アンビーは真顔で壮大なRPG風動画『冒険の書。編集は任せた』を撮り始め、周囲を困惑させる。そしてもちろん、街の裏路地では、やけにノリノリなバンブーたちが、あの手この手で撮影現場をメチャクチャにしようと暗躍中。
バラバラすぎる動画は、なぜか動画サイトで爆発的な再生数を叩き出し、街中がパニックとお祭り騒ぎに。笑いとため息、そして時折ドキ
ビデオたい!ゼンレスゾーンのゆるすぎる一日 - 大混乱!?とんでも企画とおさかなフォン大作戦
昼下がりのランダムフォン屋。
カウンターには、飲みかけのマグカップと、無数のジャンクフォンが散らばっている。
壁時計の秒針だけが、かち、かち、と空回りしていた。
「[excited]よーし!企画会議を始めるぜ!」
ビリーがカウンターをバンッと叩く。
ぼさぼさの茶髪が跳ね、左頬の古い傷がピクリと動いた。
キラキラした茶色い目が、いつもより更に輝いている。
向かいのニコは、細いドライバーを持ったまま顔を上げた。
眉間のシワが、いつもの三倍深い。
「……会議って、何の」
「[excited]決まってるだろ!動画の企画だよ企画!」
はぁ、とニコのため息が店内に響く。
切れ長の目が、半目になった。
「お前、昨日あれだけ騒いで、まだやる気なのかよ」
「[excited]当たり前だろ!五百(ごひゃく)万(まん)ディニーだぞ!」
ビリーはポケットから、くしゃくしゃのポスターを取り出した。
蛍光ピンクの『第一回ペア動画大賞』。
その文字を見るたびに、彼のテンションは更に上がる。
「[excited]聞いてくれ!俺、考えてきたんだ!」
ビリーは勢いよく指を一本立てた。
「[excited]商店街を全部、爆破するんだ!」
しん、と店内が静まった。
ニコはドライバーを落としそうになり、奥の棚の影からは、アンビーが一瞬だけ顔を上げる。
「……は?」
ニコの声は低く、そして震えていた。
「[excited]いいか!まず商店街のあちこちに花火を仕込む!ド派手にドッカーン!ってな!」
「待て待て待て」
「[excited]瓦礫の山から、俺が颯爽と登場!手には直したばかりのフォン!それを見せて『なんとかなるって!』って叫ぶんだ!」
「……まず、爆破の許可をどこに取るんだ」
ニコの口調は、あまりにも冷静だった。
逆にそれが怖い。
「[excited]許可?それをこれから取りに行くんだよ!市役所と、消防署と、あと……大家さん!」
「ぜんぶ却下されるわ」
即答だった。
「[excited]じゃあ次!クダリ川で水上スキーしながらフォン修理だ!」
「お前、スキーしたことないだろ」
「[excited]今から練習すればいいんだ!」
「本番中に溺れるわ。カメラも水没。企画倒れもいいとこだ」
ニコは早口でまくし立てた。
ツッコミの時は、いつもこうだ。
「[excited]それなら!テッペン丘陵からフォンを投げる耐久テストと、早業修理のコラボ!」
「それ、もう動画じゃなくて犯罪だからな」
「[excited]なんとかなるって!」
「なるかぁ!」
ニコの絶叫が、店のガラスを微妙に震わせた。
奥の棚の前で、灰色の髪を揺らしながら、アンビーは無言で帳簿をめくっている。
彼女は、一切この会話に参加していなかった。
「……はぁ。お前の考えることは、いつも無茶苦茶だな」
ニコはこめかみを揉みながら、椅子に深く座り直した。
左のこめかみに、うっすら青筋が浮かんでいる。
「[laughing]だってよー、普通のことやってもバズらないじゃん?」
「バズる前に、俺たちが捕まるわ」
その時だった。
カランカラン、と軽やかな鈴の音がして、店のドアが開いた。
「あんたたち、また騒いでるんか。隣まで声が聞こえとるで」
顔をのぞかせたのは、白い割烹着を着た小柄な老女。
手には、ほかほかと湯気を立てる紙袋を大事そうに抱えている。
トリノ通り商店街の、隣のたい焼き屋『カリモチ堂』の店主、タエである。
彼女は、いつもと変わらぬ優しい笑顔で、三人を見渡した。
「[excited]タエのおばちゃん!」
ビリーがパッと顔を輝かせて駆け寄る。
まるで子供に戻ったみたいに。
「[gentle]ほら、たい焼き焼いたから、休憩がてらどうや。企画会議やら、やってるんやろ?」
タエは、カウンターの空いてるスペースに、そっと紙袋を置いた。
甘い匂いが、一気に店内に広がる。機械油の匂いと混ざって、妙に落ち着く香りだ。
「[excited]さっすがおばちゃん!よくわかったな!」
「あんたがでかい声出すから、まる聞こえや」
タエがカラカラと笑う。
ビリーは遠慮なく、紙袋からたい焼きを一つ取り出した。
皮はカリッと焼けていて、尻尾の先までぎっしりあんこが詰まっている。
「[excited]はふっ、あちっ……でも、うめぇ!」
ビリーは、口の周りにあんこをつけながら、幸せそうに笑った。
その八重歯が見える。
「[laughing]お前、食い方がガキの頃から変わらんなぁ」
タエは、ビリーの顔をじっと見つめながら、懐かしそうに目を細めた。
ニコは黙ってたい焼きを頬張りながら、二人の様子を見ていた。
アンビーは、いつの間にか紙袋からたい焼きを取り出し、無表情のまま端からきれいに食べている。
ふと、ビリーが真面目な顔になる。
少しだけ、声のトーンが落ちた。
「[gentle]……小さい頃さ。うち、親が仕事でいつもいなくて」
ニコが顔を上げた。
「[gentle]夜、一人で留守番してると、すげえ寂しくてさ。窓の外、ずっと見てたんだ。誰か帰ってこないかなって」
ビリーの手の中で、半分になったたい焼きが、ほんの少しだけ揺れた。
「そんな時、タエのおばちゃんが、いつも焼きたてのたい焼きを持ってきてくれて。一緒に『たいやきパーティーごっこ』して遊んでくれたんだ」
「……たいやきパーティーごっこ?」
ニコが、思わず聞き返す。
「[excited]そう!たい焼きを並べて、家族ごっこ!これはお父さんたい焼き、こっちはお母さんたい焼き、でっかいのがおばあちゃんで……最後はみんなで俺がおいしく食べるの!」
「おい、結末が怖いわ」
「[laughing]あん時は、あんたの笑顔が見たくて、毎晩いろんな具を試したもんや。クリーム、チョコ、カレー味まで作ったなあ」
タエは照れくさそうに、エプロンの端をいじっている。
「[excited]そうそう!カレー味はさすがにまずかったけど、なんかそれが逆に楽しくて!」
ビリーは、また一口、あんこを頬張った。
目が、少しだけ潤んでいるように見えたのは、きっと熱いたちのせいだけじゃない。
「[gentle]……だから、俺さ。今でも困ったことがあると、なんとかなるって思えるんだ。あのたい焼きの味を思い出すと、自然と笑えてくる。おばちゃん、あの時、本当にありがとう」
「[embarrassed]……あんた、そんな昔のこと、まだ覚えてたんかい。ええ子やねぇ、ほんま」
タエは、言葉とは裏腹に、笑顔の奥で本当に嬉しそうだった。
ニコは、静かにたい焼きを飲み込んだ。
そして、ぼそりと呟く。
「……お前がそんなお人好しで、脳天気な理由、ちょっとだけわかった気がする」
ニコは、少しだけ表情を緩めて、ビリーの方を向いた。
「[sarcastic]で、まだなんとかなるって思ってんのか。この破綻した企画を」
「[excited]当たり前だろ!おばちゃん、見ててよ!絶対、俺たちの動画で優勝するから!なんとかなるって!」
ビリーは親指をぐっと立てた。
タエは「期待しとるで」と笑い、店に戻っていった。
静かになった店内。
湯気が、ゆっくりと天井に吸い込まれていく。
「……で、具体的にどうするんだ」
ニコが現実に引き戻そうと口を開いた時だ。
がさごそ、と店の奥から音がした。
アンビーだ。
彼女は店の奥の倉庫から、埃まみれの分厚いファイルと、くたびれた帳簿を引っ張り出してきていた。
腰まである灰色の髪が、動きに合わせてふわりと揺れる。
紫色の大きな目は、感情を全く読ませない。
「……何してんだ?」
アンビーは答えない。
彼女はカウンターの隅に、ファイルを広げた。
そこには、店に買い取られたジャンクフォンの在庫リストが、びっしりと書き込まれている。
彼女の細い指が、項目を一つ一つ、信じられない速さでなぞっていく。
その完璧な動きに、ビリーの動きも止まった。
アンビーは、在庫の山から、水没した防水モデルの古いフォンを数台、無造作に取り出す。
そして、引き出しから予備の修理パーツを取り出して、机上に並べ始めた。
「何する気だよ、アンビー。それ、まだ修理してないやつだぜ?」
ビリーが後ろから画面を覗き込もうとした瞬間、彼女のフォンが澄んだ通知音を立てた。
『ご注文が完了しました。合計金額 80,000ディニー』
「「はあああああっ!?!?」」
ビリーとニコの声が、完璧に重なった。
「[excited]は、はちまん!?今、八万って言った!?お前、何買ったんだよ!」
ビリーが画面をひったくるように見ると、そこには、最新型の高級フォンの注文履歴が表示されている。
それも、三台。
最新の高画質カメラが搭載された、動画撮影に特化した機種だ。
「[cold]撮影機材です。高画質カメラ付きの最新フォンでないと、視聴者に画質で負けます」
アンビーは淡々と説明を続ける。
「……お前、正気か。予算はどうするんだよ。店の金は、先月の家賃を払うだけでカツカツなんだぞ」
ニコが青ざめた顔で抗議する。
アンビーは、在庫ファイルを軽く叩いた。
「[cold]今、私がリストアップしたジャンク品を、地下旧市街のガラクタ市で売却します。防水モデルの基盤は、水没していても需要があります。分解すれば、およそ二万ディニーの現金になります」
「にっ、にまん……?待て待て、計算が合わないだろ!?」
ビリーは指を折り始めたが、すぐに諦めた。
「[cold]差額は、私が立て替えます」
アンビーは、短く言い切った。
「[cold]半年かけて貯めた、店の修理代のプール金を使います」
「お、お前……」
「[cold]計算上、これが最短で優勝に近づく方法です。映像の質で、見栄えがすべてを決めます」
店内が、水を打ったように静まり返った。
ビリーもニコも、言葉を失っている。
アンビーという少女は、いつも黙っていて、何を考えているかわからなかった。
しかし、彼女の行動力は、いつも誰よりも現実的で、そして大胆だった。
「[whispers]……アンビー。お前、実は俺たちの中で一番アグレッシブじゃないか?」
ビリーがぽつりとこぼす。
アンビーは視線を帳簿に落としたまま、無反応。
ただ、左足のカラフルなボーダーのハイソックスを、ほんの少しだけ気にしていた。
ニコは、深いため息を一つついて、頭をかいた。
「……わかったよ。わかった。機材がどうにかなったなら、あとは、そうだな……せめて、動画のマスコットくらいあってもいいかもな。他のやつらには真似できないような、インパクトのあるやつ」
ニコが困ったように頭をかいた。
その時だった。
「[excited]うおっ!?なんだこれ!」
ビリーが、部品棚の奥から、奇妙な物体を引っ張り出した。
それは確かにフォンだったが、その形は明らかに、魚だった。
基盤の配置を間違え、バッテリーの位置をずらし、カバーを切り貼りした結果、偶然にも尾びれのような突起がついている。
しかも、動作ランプが妙にキラキラしていて、まるで鱗みたいに見える。画面には、手書きの「もぐもぐ」という文字と共に、泳ぐアニメーションが誰かの手によってプログラムされていた。
「[laughing]な、なんだこれ!?さかな!?フォンが魚になってる!!」
ビリーは腹を抱えて笑い出した。
ニコの顔が、みるみる真っ赤になる。
「や、やめろ!それに触るな!見るな!忘れろ!」
「[laughing]ニコ!お前が作ったのか!?これ、お前の作品だろ!?」
「[angry]事故だ!先週、深夜にうっかり基盤をずらして半田付けしたら、こうなったんだ!俺の黒歴史なんだよ!」
ニコは手を伸ばして取り返そうとするが、ビリーは器用にそれをかわす。
「[excited]これだ!これをマスコットにするんだ!さかなフォン!『さかなフォン屋の冒険』ってタイトルにしようぜ!」
「[angry]やめろおおお!絶対やめろ!それをネットに上げたら、俺はこの街にいられなくなる!」
ニコは涙目でビリーに飛びかかる。
二人が取っ組み合いになり、もつれ合うように壁にぶつかった。
棚が揺れ、ジャンクフォンが雪崩を起こす。
その瞬間だった。
ひょい、と誰かの白い手が伸びてきて、ビリーの手から、さかなフォンをするりと抜き取った。
「あっ」
「おい」
アンビーだった。
彼女は無言で、両手でそっと、その変なフォンを持ち上げた。
深い紫色の目が、魚の形をじっと見つめる。
ねじが飛び出し、配線がはみ出し、無理やり接着剤で固定された、不格好な魚。
「もぐもぐ」という文字が、彼女の無表情な顔を淡く照らしている。
ビリーもニコも、息を呑んでその様子を見守った。
静寂。
しばらくして。
アンビーは、何も言わずに、そのさかなフォンを、自分の黒いカーディガンの大きなポケットに、そっと、本当に大事そうにしまった。
「……え?」
「おい!なんでしまうんだよ!それは俺の……俺の黒歴史だけど!返せ!」
ニコが叫ぶが、アンビーは知らんぷりだ。
彼女はカウンターに戻り、フォンの注文履歴を確認している。
そのポケットの中では、さかなフォンが、もぐもぐと口を動かし続けていた。
「[surprised]……なあ、ニコ。アンビーのやつ、もしかして、ああいう変なの、好きなのか?」
「……知るかよ。俺の気持ちも知らないで……」
ニコはがっくりと肩を落とした。
ビリーは、ニヤリと笑って、自分の手をポンと打った。
「[excited]よーし!決まりだ!明日は、さかなフォンと新しい撮影機材を持って、街に撮影に行くぞ!」
「……今日の話し合い、何一つ決まってねえだろ。企画はどうなった!爆破は!水上スキーは!」
「[excited]細かいことは、なんとかなるって!いっちょやってみっか!」
ニコはもう、何も言うまいと口を閉ざした。
その夜。
店の二階、休憩室。
外のネオンサインが、カーテンの隙間からチカチカと部屋に差し込む。
ソファで寝ているはずのビリーの寝息だけが、静かに聞こえている。
その隣で、毛布をかぶっていたニコが、音を立てずに起き上がった。
眉間のシワは、今日も健在だ。
彼は、棚の奥から、アンビーが大事そうにしまった、あのさかなフォンを見つけ出す。
画面の中では、相変わらず魚がもぐもぐと泳いでいる。
彼は自分のフォンを取り出して、ミルヴィーのカメラ機能を立ち上げる。
ファインダーの中に、さかなフォンをそっと置いた。
「[whispers]……あいつら、気楽でいいよな」
彼は、誰にも聞こえない声で呟きながら、映像の構図を調整する。
光の加減、背景のボケ具合、フォーカスを合わせる指先。
その動作は、普段修理を見せる雑な動きとは別人のように、繊細で、真剣だった。
「[whispers]……昔、俺が作った動画は、つまらないって言われた。でも、今回は違う。裏方でも、編集でも、俺の全部を使ってやる」
彼は、ファインダーの中の不格好な魚のフォンに向かって、静かに宣言した。
「[whispers]次は俺が……お前を編集で有名にしてやるからな。頼むぜ、相棒」
画面の中のさかなフォンが、もぐもぐと口を動かす。
まるで、返事をしているみたいに。
夜のトリノ通りは、深い静寂に包まれていた。
その小さな店の二階だけで、密かな、静かな戦いの火蓋が、切って落とされようとしていた。Noveliaとは?
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