魔法騎士セラフィアース! 〜呪いで男女逆転☆ドタバタ戦記〜
ある日、伝説の魔法騎士、光、海、風は、呪いの泉の水を浴びてしまい、とんでもない大災害に巻き込まれる!
光は男の子に、海と風は女の子に変身! そして、その姿を見た瞬間から、セフィーロの仲間たちも次々と男女が逆転していく。
慣れない体と、仲間たちの突然の変貌に、パニックと笑いが止まらない。魔法の力も、恋模様も、すべてがぐちゃぐちゃに。
元に戻るためには、三日以内に『真実の心の欠片』を集めなければならない。しかも、新しい体に慣れながら、自分自身の本当の気持ちと向き合う必要があるらしい。
男の子になった光は、無性に親友ランティスを意識してしまい、胸が高鳴る。女の子になった海と風は、今までと違う目で見られてしまい、大混乱。
そんな中、呪いを楽しんでいるような、謎の妖精パペットが現れる。彼女は『恋のジャンケン大会』や『恥ずかしい台詞バトル』など、無茶苦茶な試練をふっかけてくる。
果たして三人は、体も心もめちゃくちゃな三日間を乗り越え、無事に元の姿に戻れるのか? それとも、新たな自分に目覚めてしまうのか?
笑いあり、胸キュンあり、ちょっぴり切なさもある、ドタバタラブコメディ、開幕!
魔法騎士セラフィアース! 〜呪いで男女逆転☆ドタバタ戦記〜 - ありえない!呪いの泉でボクがボクじゃなくなった朝
「[laughing]ひゃああああっ!なにこれ、なにこれええっ!」
叫び声が、ミルザの谷にこだました。
霧がかる谷の奥、虹色に光る泉のほとり。ずぶ濡れになった一人の人物が、自分の体をペタペタと触りながら、壊れたおもちゃみたいに跳ねている。
「胸が……わたしの胸が、ないっ!?」
そう、悲鳴の主は、伝説の魔法騎士の一人、獅堂 光。みんなからはヒカルと呼ばれている、燃えるような赤い髪の少女――いや、今はもう、「少女」じゃない。
泉の水をかぶったその体は、信じられないことに、男の子のものに変わっていた。いつもの服はサイズが合わず、白いシャツは肩が余り、スラックスはずり落ちそうだ。袖を必死にまくりながら、ヒカルは二度見、三度見する。
なくなった自分の胸を。
あらわれた、のどぼとけを。
「[whispers]なにこれ……夢? そうだよね、絶対夢! そうに決まってる!」
必死にほっぺたをつねるけど、痛いだけだ。
夢じゃ、ない。
数分前までは、笑い転げていたのに。
いつも通りの、ただのピクニックだった。
空は青く、風はやわらかく、ミルザの谷にはめずらしい花が一面に咲いていた。意志の塔から南東へ、飛行獣で三時間。ヒカルとウミ、フウの三人は久しぶりの再会にはしゃいでいた。
「[laughing]フウ!お菓子もう食べていい!?」
背の高い金髪の少女、フウが微笑んだ。
「[gentle]ヒカル、さっきも食べたばかりでしょう」
「[excited]だってお腹すいたんだもん!ね、ウミもいるよね!?」
青い長い髪を風になびかせる、気高い少女ウミ。でも口元はほころんでいた。
「[calm]私は結構よ。まったく、あなたって本当に変わらないわね」
こんな風に、誰かと笑い合える日が来るなんて。
かつてセフィーロは、一人の人間の「柱」という重荷で世界を支える、過酷な仕組みを持っていた。でも約15年前、異世界から来たヒカルたち魔法騎士がそのすべてを終わらせた。今はこの地に住むみんなが、朝の祈りの時間に少しだけ願うだけで、世界は平和に浮かんでいる。
だから、こうしてお菓子を食べて笑っていられるんだ。
――そんな風に、ちょっとだけセンチメンタルな気持ちにもなる。
「[surprised]あっ!あれ見て、キラキラしてる!」
ふと、谷の奥のほうに、光るものを見つけた。
「[serious]待ってヒカル、あのあたりは古代の魔法残滓が濃いはず。注意したほうがいい」
「[excited]ちょっとだけ!ちょっと見るだけだから!」
言うが早いか、もう走り出している。元気いっぱい、まっすぐで、考えるより先に体が動く。それがヒカルという女の子だった。
だけど。
「[scared]うわっ、ととと……!」
苔で足を滑らせた。
「ヒカル!」
「[scream]ひゃあっ!」
ドボン!
派手な水しぶきが上がった。体が冷たい水に包まれる。あわてて顔を出すと、口の中に、少し甘いような、不思議な味が広がった。
泉の水は透明なのに、月明かりを浴びているわけでもないのに、虹色に光っている。
「[angry]もー!びしょびしょじゃん!」
水面にうつる自分の顔を見て、動きが止まった。
なんか、おかしい。
顔つきがすこし、きつくなった?それに、声が低い。
「[whispers]え……?」
立ち上がって、自分の胸を見る。
あるはずの、ふくらみが、ない。
そして、さっきの叫び声につながる。
「ひゃああああっ!なにこれ、なにこれええっ!」
「[scared]ヒカル!大丈夫!?」
「[scared]どうしたの!?」
声を聞きつけたウミとフウが、ものすごい勢いで駆け寄ってくる。二人は走るあまり、泉のふちの水たまりに、バシャバシャと飛び込んじゃった。
瞬間。
ビビビッ、という小さな音が、谷にひびいた。
泉の水が、細かい飛沫になって、二人に降りかかる。
「[shocked]な、なに……わたしの背が、縮んで……!?」
ウミの体が、みるみる小さくなっていく。腰まであった青い髪が背中まで後退し、身長がぐっと低くなった。服がブカブカになる。気高い表情はどこへやら、大きなサファイアブルーの瞳が、さらに大きく見える、まるで十歳くらいの子供の姿。
「[scared]ウミ……あなた……」
震える声で見つめるフウの体にも変化が起きる。
背がグンと伸び、153センチだった身長は、あっという間に170センチ近くになった。もともと美しい少女だったけど、大人びた優美なモデル体型に変わっていく。
三人はおたがいを見つめた。
オトコになったヒカル。
小さな子供の姿になったウミ。
そして長身の大人びた女性になったフウ。
沈黙が数秒続き、次の瞬間――
「[laughing]え、なにこれ、ウミちっちゃ!ひざくらいしかないじゃん!」
「[sad]わ、笑わないでよ!あなたこそ、男の子みたいになって!フウはお母さんみたいだし……!」
「[gentle]お、お母さん……!?」
「[laughing]お母さん!たしかに!背高くなってるし!あはははは!」
「[crying]笑いごとじゃないでしょおおお!」
笑いと悲鳴が入り混じって、もうぐちゃぐちゃなパニックだ。慣れない体で走り回るヒカル、スカートの裾を何度も踏むウミ、どうしていいかわからずオロオロするフウ。
その騒ぎの中。
ピカーッ。
いきなり泉の中心が、まぶしい光を放った。
「[laughing]あーはっはっは!見事に濡れたでちゅね!気分はどうでちゅかー!?」
虹色の蝶の羽をパタパタさせ、水しぶきを蹴散らして飛び出してきたのは、身長わずか20センチの小さな妖精だった。頭のてっぺんでピンクと水色にゆれる、ふわふわのモヒカン。星がキラキラする金色のまんまるな目。
「な、なにこいつ!」
「[excited]パペちゃんはパペット!この呪いの泉の妖精でちゅよ!勝手に水浴びした罰で、みんなの隠してる本心を、体で表に出しちゃったでちゅ!」
「ほ、本心……?わたしの本心が、この男の子の体ってこと……?」
意味がわからず、ヒカルの顔がひきつる。
パペットはそんなヒカルの周りを、ひらひらと飛び回った。
「[teasing]体だけじゃないでちゅよ。心もこれからグラグラしちゃうでちゅ。だって、好きな人の見る目が変わっちゃうからねー、あははっ!」
「す、好きな人って……!」
なんでだかわからないけど、その言葉に、胸がドキンと鳴った。ランティス――あの寡黙で実直な剣士――の顔が、まぶたの裏にチラつく。
ちがう、変な意味じゃない、ただの大事な仲間だ。
でも、なぜ今?
「[cold]ヒカル、動揺しないで。この妖精、なにか企んでる」
子供の姿になっても、気の強さは変わらない。じろりとパペットをにらみつける。
「[excited]企みだなんて人聞きが悪いでちゅ!パペちゃんはただ、呪いを解くチャンスをあげようって言ってるだけでちゅよ!聞きたい?」
「……聞こうじゃないの」
三人がうなずく。
パペットは空中でくるりと一回転した。
「[serious]三日以内に、真実の心の欠片ってやつを、三人ぶん集めるでちゅ。集められなければ、その体は一生そのまま。集められたら、元の姿に戻れるでちゅ。以上!」
「し、三日!?短すぎるでしょ!」
「[laughing]欠片はね、自分の本当の気持ちと向き合った瞬間に、コロンと出てくるでちゅ。つまり三人とも、隠してる自分の心を白状しなきゃいけないってわけ!あー、これから何が起きるか楽しみでちゅなあ!」
「[angry]ふざけないでよ!こんなの、あんたがなんとかしなさい!」
ヒカルは思わず掴みかかろうとした。でも手は空を切る。パペットはひらり、ひらりと飛んで、谷の出口のほうへ流れていく。
「[teasing]パペちゃんは実況するだけでちゅ。試練を出すけど、頑張るのはみんなの役目!あ、それと、この呪いは魔法騎士の意志魔法にも影響しちゃうから、心が揺れるとなんにもできなくなるでちゅよー。せいぜい気をつけるでちゅ!じゃあね!」
「ま、待ちなさ――」
もう、虹色の光は消えていた。
残されたのは、ずぶぬれで、ちぐはぐな体の三人だけ。
「……ごめん、二人とも。わたしが勝手に泉に落ちたせいで、こんなことになっちゃって」
ヒカルが、ポツリとつぶやいた。男の子の低い声で言うと、なんだかよけいにみじめな気分だ。
「[gentle]顔を上げて、ヒカル。あなただけのせいじゃない」
そう言って、変わってしまった自分の手をヒカルの肩に置く。
「[sad]そうよ。それに、こうなった以上は、まず情報を集めましょう。こんな小さい姿じゃ、イライラするけど……とにかく、フォンティーヌの街にある宿屋『風見鶏亭』に戻るのが先決よ」
フウがうなずく。
「[serious]そうね。ヨロコビの街はここから西に35キロ。移動しながら、考えましょう」
谷を下り始めたときだった。
「ねえ、二人とも……この姿、ランティスたちに見られるのかな」
ヒカルの言葉に、ウミとフウの足が止まる。
見られたくない。
そう思った自分に、ヒカルは一番びっくりしていた。
だって、ランティスは一番の親友で、仲間で、なんでも話せる相手だ。それなのに今、胸の奥で「会いたくない」と小さな声がする。この男の子の姿を見て、がっかりされたらどうしよう。変だと思われたら?
トクン、トクンと、鼓動が早くなる。
これって、呪いのせい?
それとも、もっと前から――。
「[gentle]……大丈夫。何とかなるわ」
フウはそう言って、もう一度、ヒカルの手を握った。
三人が見上げた先で、遠くセフィーロの意志の塔が、夕日に白く輝いていた。
谷の岩かげ。
「[laughing]ふふ、ふふふ……あの金の子、これからすっごく悩むでちゅね。好きな人の前で、うまく剣も握れなくなったりして……あー、見ものだなあ」
小さな妖精はその場でくるくる回り、どこか嬉しそうに笑った。