魔法騎士セラフィアース! 〜呪いで男女逆転☆ドタバタ戦記〜
ある日、伝説の魔法騎士、光、海、風は、呪いの泉の水を浴びてしまい、とんでもない大災害に巻き込まれる!
光は男の子に、海と風は女の子に変身! そして、その姿を見た瞬間から、セフィーロの仲間たちも次々と男女が逆転していく。
慣れない体と、仲間たちの突然の変貌に、パニックと笑いが止まらない。魔法の力も、恋模様も、すべてがぐちゃぐちゃに。
元に戻るためには、三日以内に『真実の心の欠片』を集めなければならない。しかも、新しい体に慣れながら、自分自身の本当の気持ちと向き合う必要があるらしい。
男の子になった光は、無性に親友ランティスを意識してしまい、胸が高鳴る。女の子になった海と風は、今までと違う目で見られてしまい、大混乱。
そんな中、呪いを楽しんでいるような、謎の妖精パペットが現れる。彼女は『恋のジャンケン大会』や『恥ずかしい台詞バトル』など、無茶苦茶な試練をふっかけてくる。
果たして三人は、体も心もめちゃくちゃな三日間を乗り越え、無事に元の姿に戻れるのか? それとも、新たな自分に目覚めてしまうのか?
笑いあり、胸キュンあり、ちょっぴり切なさもある、ドタバタラブコメディ、開幕!
魔法騎士セラフィアース! 〜呪いで男女逆転☆ドタバタ戦記〜 - 走れ、泣き虫ボク!朝日の中の大絶叫告白
噴水の縁は冷たかった。
ヒカルは、石の上で体を丸めていた。昨夜、声を殺して泣き疲れて、そのまま眠ってしまったらしい。
意識が、深く沈んでいく。
(ここは……)
夢の中の景色は、見覚えのあるミルザの谷ではなかった。霧が立ち込める泉のほとり。でも、空気はもっと冷たくて、すべてが古びて見える。300年前の、まだ誰にも知られていなかった頃の泉だ。
水辺に、一人の女性が立っていた。
長い銀色の髪が、風もないのにふわりと揺れる。彼女は泉の水面をじっと見つめていた。その横顔は見えない。でも、背中だけでわかる——ものすごく、苦しそうだ。
「好きです」
かすれた声が、霧に吸い込まれていく。
「たった一言が、どうしても言えなかった」
女性は、震える手を泉の水に浸した。
その瞬間、彼女の体が光に包まれた。やわらかい、悲しい光だった。光が消えた時、泉のほとりにはもう誰もいなかった。
少し離れた岩陰で、それを見ている影が一つ。
羽の生えた、小さな妖精。虹色のモヒカンは色を失い、真っ黒になっている。金色の大きな目から、ぽろぽろと涙がこぼれていた。
「……隠したまま消えていく心が、一番悲しいでちゅ」
それは、いつものいたずらっぽい声じゃなかった。
パペットは、空っぽになった泉のほとりで、一人ぼっちでうずくまった。
「なんで言わなかったでちゅか。言えばよかったでちゅ。パペちゃんは……パペちゃんは……」
その後の言葉は、嗚咽にかき消された。
ヒカルは夢の中で叫んでいた。
「[crying]なんで止めなかったんだよ!!お前、そこにいたんだろ!?助けられただろ!?」
パペットは振り向かない。
でも、その小さな背中が答えた。
「……止められるのはパペちゃんじゃないでちゅ。その人の心だけでちゅ」
景色がぐにゃりと歪む。
次々に、同じ光景が流れ込んでくる。違う顔の人間が、泉の水に触れて消えていく。それを、岩陰から見ているパペット。いつも、一人で。誰にも気づかれずに。
何度も、何度も。
三百年分の孤独が、津波のようにヒカルに押し寄せた。
「[crying]うああああっ……!!」
心臓が張り裂けそうだった。
誰かの本音が、誰かに届かずに消えていく。それを三百年も、たった一人で見守り続けた妖精がいる。
その時、ヒカルはハッと目を覚ました。
——ドボンッ!!
「[surprised]ぶはっ……!!」
派手に噴水に落ちた。
朝の冷たい水が全身に染みる。ずぶ濡れで水面から顔を出すと、目の前には夜明けの空が広がっていた。地平線の端が、うっすらとオレンジ色に染まり始めている。
三日目。最後の日。
「[crying]パペットだって……三百年も待ってたんだ」
ヒカルは噴水から這い上がった。
夢で見た、小さな背中。誰にも気づかれず、一人で泣いていた妖精。あれはきっと、本当にあったことだ。
「[crying]ランティスに、嫌われたくない……。会えなくなるのが一番……一番嫌だ」
声に出したら、涙があふれてきた。
でも、今までと違う。
悲しいからじゃない。
怖いからじゃない。
ただ、伝えたい気持ちが、あふれて止まらなくなった。
「[angry]これが呪いのせいじゃないって……もうわかってるんだよ!!」
一人で叫んだ。自分で叫んで、自分でびっくりした。
その時、カラカラと車輪の音が聞こえた。朝の配達の馬車だ。御者のおじさんが、噴水のそばでずぶ濡れで叫んでいる男の子をまじまじと見る。
「おはようございます」
「[surprised]……あ、おはようございます」
思わず反射で挨拶を返してしまった。
馬車が通り過ぎていく。
しーん、と静かになった広場で、ヒカルは一人、顔を真っ赤にした。
「……なにやってんだ、俺」
でも、もう迷わない。
ヒカルは濡れた服のまま、全力で駆け出した。
フォンティーヌの街は、朝市の準備で動き始めていた。
「[panting]ランティス……!」
ヒカルは石畳を蹴って走る。男の子の脚は速い。肺が痛い。濡れた服が重い。それでも止まらなかった。
風見鶏亭の前——いない。
「[panting]どこだよ……!」
星降りの円庭の噴水前——いない。
図書塔の入り口——いない。
息が切れて、膝に手をついた。朝日に照らされた街並みが、涙で歪んで見える。
「[gentle]おや、魔法騎士様。どうしたんだい、そんなに慌てて」
顔を上げると、朝市の準備をしていた果物屋のおじさんが心配そうに覗き込んでいた。
「[panting]剣を背負った、黒髪の女の人……見ませんでしたか!?」
「[thinking]ああ、あのきれいな人なら、丘の上の方へ歩いてたよ」
「[excited]本当ですか!?」
「[laughing]彼女さんを追いかけてるのかい?」
ヒカルの動きが、ぴたりと止まった。
「[scared]ち、ちがう!……ちがわない、かも……」
三秒間、その場でフリーズする。
「[excited]ありがとうございます!!」
それだけ言って、また全力で走り出した。
丘へ向かう石段は長かった。
一段、また一段と駆け上がるごとに、心臓が爆発しそうになる。太ももがパンパンだ。汗と噴水の水で、全身ずぶ濡れだった。
でも、止まったら絶対に後悔する。
歯を食いしばった。
上の方に、意志の塔が見える。白く輝く巨大な塔が、朝日を浴びてきらめいていた。
そして——丘の頂上に、人影があった。
長い黒髪が、朝風に揺れている。
「……ランティス!!」
叫んだ。
ランティスが、ゆっくりと振り返る。いつもの寡黙な表情。深い青色の瞳。でも、目の下にうっすらと隈がある。一晩中、眠れなかったんだ。
「……なぜここに」
ランティスが口を開きかけた。
でも、その言葉を遮って、ヒカルは叫んでいた。
膝に手をついて、今にもへたり込みそうな体勢で、それでも顔を上げて、ランティスをまっすぐ見た。
「[crying]わかんないんだ!!」
涙がぼろぼろこぼれた。
「[crying]自分の気持ちが、全然わかんない!!でも、お前にいなくなられるのが一番嫌だ!!」
息ができない。
それでも、言葉は止まらなかった。
「[crying]呪いのせいだとか、仲間だからとか、そういうのじゃなくて……!お前が、お前だから嫌なんだ!!」
全部、ぶつけた。
地面に手をついて、大の字になりそうな勢いで息を切らした。顔は涙と汗と噴水の水でぐちゃぐちゃだ。
ランティスは、黙ってヒカルを見つめていた。
長い黒髪が、朝日に透けてきらめく。
「[scared]……バカだな、お前は」
声が、ほんの少し震えていた。
その時——
ランティスの胸元が、じわりと温かい光を帯び始めた。
淡い金色の光。
光は結晶になって、ランティスの手のひらにふわりと浮かび上がる。
真実の心の欠片。
「……これが」
ランティスは、光る欠片を呆然と見つめた。それから、ゆっくりとヒカルに視線を戻す。
二人の間に、風が吹き抜けた。
「[whispers]……私も、怖かった」
たった一言。
でも、それ以上は何も言わなかった。
ヒカルは、涙で濡れた顔を上げて、ランティスを見つめ返した。
十分すぎるほど、伝わった。
だって、ランティスの目が、今までに見たことがないくらい優しかったから。
朝日が、二人を金色に染める。
遠くで、意志の塔が静かに輝いていた。
欠片が一つ、集まった。
でも、ウミとフウの欠片は、まだ揃っていない。