魔法騎士セラフィアース! 〜呪いで男女逆転☆ドタバタ戦記〜
ある日、伝説の魔法騎士、光、海、風は、呪いの泉の水を浴びてしまい、とんでもない大災害に巻き込まれる!
光は男の子に、海と風は女の子に変身! そして、その姿を見た瞬間から、セフィーロの仲間たちも次々と男女が逆転していく。
慣れない体と、仲間たちの突然の変貌に、パニックと笑いが止まらない。魔法の力も、恋模様も、すべてがぐちゃぐちゃに。
元に戻るためには、三日以内に『真実の心の欠片』を集めなければならない。しかも、新しい体に慣れながら、自分自身の本当の気持ちと向き合う必要があるらしい。
男の子になった光は、無性に親友ランティスを意識してしまい、胸が高鳴る。女の子になった海と風は、今までと違う目で見られてしまい、大混乱。
そんな中、呪いを楽しんでいるような、謎の妖精パペットが現れる。彼女は『恋のジャンケン大会』や『恥ずかしい台詞バトル』など、無茶苦茶な試練をふっかけてくる。
果たして三人は、体も心もめちゃくちゃな三日間を乗り越え、無事に元の姿に戻れるのか? それとも、新たな自分に目覚めてしまうのか?
笑いあり、胸キュンあり、ちょっぴり切なさもある、ドタバタラブコメディ、開幕!
魔法騎士セラフィアース! 〜呪いで男女逆転☆ドタバタ戦記〜 - ランティスがいなくなった夜、ヒカルは一人で泣いた
風車村から宿屋「風見鶏亭」に戻ったあとも、ヒカルの手には破れた手紙の切れ端が握りしめられたままだった。
「[whispers]なんで破ったんだよ、あいつ……」
ランティスは広場を去ったきり、姿を見せなかった。
足音をしのばせて二階へ上がる。ランティスの部屋の前で、ヒカルは深呼吸をした。
コン、コン。
返事がない。
「[angry]おい、ランティス。いるんだろ」
コンコンコンッ。
拳で強く叩く。それでも扉は開かない。
胸の奥がざわつく。風車村の広場でランティスが見せた、あの震える手。無言で去っていく背中。
(俺が、のぞき込んだからか……?)
ヒカルは唇を噛んだ。
「[scared]……ランティス?」
しん、と静まり返った廊下に、自分の声だけがむなしく響く。
その時、階段を上がってくる足音がした。
「[gentle]あら、ヒカルちゃん。ランティスさんをお探し?」
宿屋の女将モニカだった。太った体でエプロンを揺らしながら、首をかしげる。
「[serious]ランティス様なら、夕方に荷物をまとめて出て行かれたよ」
「[surprised]は……?」
頭が真っ白になった。
「[gentle]どこへ行くのかはおっしゃらなかったけどねえ。でも、なんだかとても悲しそうな顔をしてたよ」
ヒカルは駆け出していた。
階段を転がり落ちるように降りて、宿の入り口を飛び出す。外はもう夜だった。フォンティーヌの街に灯りがぽつりぽつりとともっている。
意志の塔の方角へ向かう大通りを走る。広場「星降りの円庭」の噴水の前を通り過ぎ、図書塔の方へ曲がる。
いない。
どこにも、いない。
「[panting]ランティス……! どこだよ……!」
息が切れる。男の子の体は女の子の時よりずっと速く走れるのに、心臓が張り裂けそうだった。
商店が立ち並ぶ通りに出た。もう店じまいを始めている果物屋のおじさんが、声をかけてくる。
「[surprised]おや、魔法騎士様。こんな時間にどうしたんだい?」
「[panting]おじさん! ランティスを……黒髪の、背の高い、女の人を見なかったか!?」
「[thinking]黒髪のきれいな女の人なら、さっきそっちの路地で空を見上げてたよ」
「[excited]本当か!?」
ヒカルは教えられた路地に駆け込んだ。
細い石畳の道。洗濯物が風に揺れている。
でも、誰もいなかった。
「[crying]……くそっ」
すぐに出て行ってしまったのか。それとも、ヒカルが来るのを避けたのか。
わからない。
わからないことだらけだ。
路地を抜けて、再び大通りへ。その時——
「[laughing]あはは! なにそれ、変なのー!」
「[laughing]ちっちゃいのに、大人の服着てるよ!」
広場の噴水のそばで、子どもたちの輪ができていた。五、六人の小さな子どもたちが、なにかを取り囲んで笑っている。
「[teasing]なんでそんなしゃべり方するのー? お姫様のつもり?」
「[mocking]チビなのに生意気だぞー!」
ヒカルの胸が、どきりと跳ねた。
人垣の隙間から見えたのは——青い髪。
小さな体。
「ウミ……!」
ウミは、子どもたちの輪の真ん中で、ただ黙ってうつむいていた。いつもなら真っ先に言い返すはずの彼女が、唇をぎゅっと噛みしめて、小さな拳を震わせているだけだった。
「[angry]おい、てめえら!」
ヒカルは叫んで、子どもたちの輪に飛び込んだ。
「[scared]うわっ! 魔法騎士様だ!」
「[angry]ウミをからかうな! 散れ、散れ!」
ヒカルが腕を振り回すと、子どもたちはキャッキャッと笑いながら蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
噴水のそばに、ウミが一人残された。
「[whispers]……ウミ、大丈夫か?」
ヒカルが近づくと、ウミは顔を上げた。その大きなサファイアブルーの瞳に、涙がにじんでいる。
「[whispers]……見てたの?」
「[scared]え……?」
「[crying]見てたんでしょ! 私が、あんな子どもたちにバカにされて、なにも言い返せなかったところを……!」
「[scared]ち、違う! 今来たばかりで——」
「[angry]もういい!!」
ウミは叫んで、ヒカルの横をすり抜けた。小さな背中が、風見鶏亭の方へ駆けていく。
「[scared]ウミ! 待てって!」
追いかけるヒカル。でも、今のヒカルの脚は男の子の脚で、ウミの脚は小さな子どもの脚だった。すぐに追いつく。
宿屋に駆け込んだウミは、二階の自分の部屋に飛び込んだ。
バタンッ!
鍵のかかる音。
「[sad]ウミ、開けてよ」
扉の前で立ち尽くすヒカル。
返事がない。
「[gentle]……なあ、ウミ。俺、別に笑ったりしなかっただろ? だから……」
「[whispers]……ひとりにして」
小さくて、震えた声が、扉の向こうから聞こえた。
「[sad]ウミ……」
「[crying]ひとりにしてったら……!」
声がうらがえっている。泣いているんだ。
ヒカルは、扉の前に座り込んだ。
廊下はしんと静まり返っている。窓の外から、夜の虫の声がかすかに聞こえてきた。
(ランティスも、ウミも、いなくなった)
(全部、俺のせいだ)
ヒカルの目の奥が、じわりと熱くなった。
じゃんけん大会に参加したのも。照れ台詞バトルで余計なことを言ったのも。ランティスの手紙をのぞき込もうとしたのも。ウミがひとりで悩んでいるのに、気づけなかったのも。
ぜんぶ。
「[crying]ぜんぶ、あたしの……ちがう、俺のせいだ……」
声に出したら、涙があふれてきた。
止まらなかった。
膝を抱えて、声を殺して泣いた。男の子の体になっても、泣き方はやっぱり女の子のままで、嗚咽がのどをふさぐ。
「[crying]なんで……なんとかなるって言えねえんだよ……」
口癖の言葉が出てこない。
初めてだった。
タイムリミットまで、もう明日の夜しかない。なのに欠片はゼロ。ランティスは消えて、ウミも心を閉ざした。
どうすればいいんだ。
どうにもならないじゃないか。
どれくらいそうしていただろう。
泣き疲れて、ヒカルはふらふらと宿を出た。
夜の広場に、ぽつんと立つ噴水。恋愛じゃんけん大会の時、ランティスとここで手を握った。あの手は、温かかった。
噴水の縁に腰掛けて、空を見上げる。
星が、きれいだった。
その時——
遠くから、微かな鼻歌が聞こえてきた。
「♪〜〜〜」
ヒカルは顔を上げた。
空の上の方。広場を見下ろす古い時計塔のてっぺんに、小さな光がぽつんと浮かんでいる。
パペットだ。
いつもはくるくる飛び回っている虹色の妖精が、今夜は動かない。ただぼんやりと、夜空を見上げて、鼻歌を歌っている。
その横顔は、いつものいたずらっ子の顔じゃなかった。
どこか、さみしそうだった。
「[whispers]……何してんの」
ヒカルが声をかけると、パペットの体がびくっと跳ねた。
「[surprised]ひ、ヒカルくん!? なんでいるでちゅか!?」
「[gentle]……それはこっちのセリフだ」
パペットはあわてて、いつもの笑顔を作ろうとした。でも、うまくいっていない。
「[flustered]パ、パペちゃんはただ、星を数えてただけでちゅ! 別にさみしくなんかないでちゅよ! 誰かと話したかったわけでもないでちゅ!」
「……そうか」
ヒカルは、それ以上なにも言わなかった。ただまた、噴水をぼんやりと見つめる。
パペットも、なにも言わなくなった。
ふわりと時計塔から降りてきて、噴水の縁に座るヒカルの、肩のあたりの高さに浮かんだ。
しばらく、沈黙が続く。
「[whispers]……ヒカルくんって、泣いたでちゅか?」
突然の言葉に、ヒカルはぎくりとした。
「[angry]な、泣いてないし」
でも声がかすれていた。目はまだ赤いはずだった。
パペットは、そんなヒカルをじっと見つめた。金色の大きな目が、星の光を反射して、ゆらゆら揺れる。
いつものような「あははー!」も、「嘘つくなでちゅ!」も、出てこなかった。
「……そうでちゅか」
それだけ言って、パペットはふわりと夜空に戻っていく。
蝶の羽が、虹色の粉を散らした。
もう少しで闇に溶ける——というところで、パペットは振り返った。
「[gentle]……欠片は、まだ集まるでちゅ」
いつもの高い声じゃなかった。
低くて、静かな声だった。
「[surprised]え……?」
「[serious]だから、そんな顔するなでちゅ。パペちゃんが許さないでちゅ」
次の瞬間、妖精は光の粒になって消えた。
ヒカルはひとり、噴水のそばに座っていた。
欠片はまだ集まる。
なんでパペットがそんなことを言ったのか、わからない。
でも、胸の奥で、ほんの少しだけ、なにかが動いた気がした。
夜空を見上げる。
星が、輝いていた。
明日でタイムリミット。
それでも、ヒカルは立ち上がった。