魔法騎士セラフィアース! 〜呪いで男女逆転☆ドタバタ戦記〜
ある日、伝説の魔法騎士、光、海、風は、呪いの泉の水を浴びてしまい、とんでもない大災害に巻き込まれる!
光は男の子に、海と風は女の子に変身! そして、その姿を見た瞬間から、セフィーロの仲間たちも次々と男女が逆転していく。
慣れない体と、仲間たちの突然の変貌に、パニックと笑いが止まらない。魔法の力も、恋模様も、すべてがぐちゃぐちゃに。
元に戻るためには、三日以内に『真実の心の欠片』を集めなければならない。しかも、新しい体に慣れながら、自分自身の本当の気持ちと向き合う必要があるらしい。
男の子になった光は、無性に親友ランティスを意識してしまい、胸が高鳴る。女の子になった海と風は、今までと違う目で見られてしまい、大混乱。
そんな中、呪いを楽しんでいるような、謎の妖精パペットが現れる。彼女は『恋のジャンケン大会』や『恥ずかしい台詞バトル』など、無茶苦茶な試練をふっかけてくる。
果たして三人は、体も心もめちゃくちゃな三日間を乗り越え、無事に元の姿に戻れるのか? それとも、新たな自分に目覚めてしまうのか?
笑いあり、胸キュンあり、ちょっぴり切なさもある、ドタバタラブコメディ、開幕!
魔法騎士セラフィアース! 〜呪いで男女逆転☆ドタバタ戦記〜 - じゃんけんで告白!? 星降りの円庭、大修羅場大会!
星降りの円庭の上空で、虹色の光が弾けた。
宿屋「風見鶏亭」の入り口を出たばかりのヒカルとランティスとウミ。三人の目の前で、円庭の中央にある噴水が突然、ド派手に輝き始めた。水しぶきが光の粒になって、きらきらと舞い上がる。
「[excited]あーはっはっは!待たせたでちゅよ!パペちゃんの時間でちゅ!」
虹色の蝶の羽をばたつかせて、小さな妖精が飛び出してきた。頭の上で、ピンクと水色のモヒカンがぴょんぴょん跳ねている。
「[surprised]なんだ、もう日が暮れるってのに、今度はなにを始める気だ!?」
ヒカルががなる。しかしパペットは気にしない。むしろ、もっと人が集まれとばかりに、声を大きくした。
「[excited]聞け!フォンティーヌのいい子たち!今からここで、第一回セフィーロ恋愛じゃんけん大会を開催するでちゅよー!」
「……恋愛じゃんけん?」
ランティスが、めずらしく声に出した。その顔は、いつもにもまして無表情だ。困惑している証拠だ。
「[scared]こ、恋愛……」
ヒカルの顔が、かあっと熱くなった。
ちがう、これは呪いのせいだ。
心の中でそう言い聞かせるけど、なんだか動悸がおさまらない。
パペットは、夕暮れの広場に集まり始めた住人たちを見渡して、大きな声でルールを説明し始めた。
「[serious]ルールは簡単!二人一組でじゃんけんするでちゅ。グーで勝ったら好きな人に告白!チョキで勝ったら相手の手を十秒握る!パーで勝ったら相手を十秒間抱きしめる!以上でちゅ!」
どよめきが広がった。
集まってきたのは、もう百人近い。みんな、夕飯前のいい暇つぶしを見つけた、って顔をしている。
「え、なにそれ、めっちゃ楽しそう」
「やるやる!誰とやるんだ?」
「おい、負けたらどうなるんだよ」
住人たちが、わいわいと声を上げる。パペットは嬉しそうに空中でくるっと回った。
「[laughing]負けたら?もちろん、勝った人の命令を聞くに決まってるでちゅ!拒否権はないでちゅよー!」
「[angry]ふ、ふざけんな!なんで俺たちがそんなのに付き合わなきゃならないんだ!?」
ヒカルは声を張り上げた。男の子の低い声で怒鳴ると、自分でもびっくりするくらい迫力がある。でもパペットは、ちっとも怖がらない。
「[teasing]あれー?もしかして、ランティスちゃんと手をつなぐのが怖いでちゅかー?告白されるのが嫌でちゅかー?」
「[scared]なっ……!?」
言葉がつまる。
その瞬間、うしろにいた住人たちがざわついた。
「おい、魔法騎士様が逃げ腰だぞ」
「やっぱり、その体じゃ自信ないんじゃねえの?」
ヒカルのこめかみが、ぴきりとひきつった。
ここで引いたら、男がすたる。いや、女の子だったけど、今は男だ!
「[angry]や、やってやるぜ!やってやろうじゃねえか!」
ヒカルは叫んでいた。
自分で自分にびっくりだ。
その横で、こんどはパペットがウミに向かって飛んでいった。
「[teasing]ウミちゃんは?怖いでちゅかー、この小さい子ちゃーん?むりもないでちゅよ、子供じゃしょーがないでちゅ」
ウミの顔色が変わった。
それまでのいじけた表情が、一瞬で怒りに染まる。
「[angry]……誰が怖いですって?やってやるわよ!こんな子供騙しの試練、涼しい顔でクリアして見せるんだから!」
叫んだあとで、はっとした。
自分がまんまとパペットの挑発に乗せられたことに気づいたのだ。
「[crying]あ、あんた……また私を……」
ウミのほっぺたが、かあっと赤くなる。小さな手をぎゅっと握りしめて、歯ぎしりしながら小さく震えている。
「[cold]パペット……あとで絶対に覚えてなさい……」
ランティスは、なにも言わなかった。ただ静かに、星降りの円庭の中央へ歩みを進める。長い黒髪が、夕暮れの風にふわりと揺れた。その横顔は、いつもよりずっと女性らしくて、ヒカルはあわてて目をそらした。
大会が始まった。
住人たちの熱気が、星降りの円庭を包む。パペットの実況が、やけに本格的で、広場はお祭りみたいな騒ぎになった。
「[excited]最初の対戦は、ウミちゃん対パン屋のおじさん、ダリオでちゅ!さあ、じゃんけん―――」
「ぽんっ!」
ウミはチョキ。パン屋のおじさんは、グー。
「わ、私の負け!?」
「お嬢ちゃん、俺の勝ちだな!ルール通り、告白させてもらうぜ!」
ダリオは、小麦粉で白くなったエプロンのまま、ウミの前にひざまずいた。
「[laughing]お嬢ちゃん、俺はお前さんのことが大好きだ!」
「[angry]な、なに言ってるのよ!わ、私は誰のことも好きじゃないわよ!!」
ウミは顔を真っ赤にして、声がうらがえる。その小さな体でぴょんぴょん跳ねながら、必死に否定した。それがおかしくて、広場にいたみんながどっと笑う。
「[crying]あ、あんたたち、笑わないでよ!これは、その……」
うつむいたウミのつり目に、涙がにじんでいた。
「[gentle]ウミ、次は俺が相手だ。早く終わらせよう」
ランティスがウミの肩に手を置く。でも、ランティスの今の姿は美しい女性だ。その仕草が、なんだかお姉さんが妹をあやすみたいに見えて、ウミはもっと複雑な顔をした。
「[sad]ランティス、あなたは今、すごくきれいだから……そんな風にされると、余計に私が惨めになるじゃないの……」
ランティスは、なにも言えずにまばたきをした。
大会が進むにつれて、あちこちで悲鳴と笑い声が上がった。パン屋の娘が、宿屋の若い衆に手を握られて絶叫したり、気の弱そうな図書塔の見習いが、好きな人に告白して拍手をもらったり。
そして、ついに。
「[excited]さあ、ここからは特別戦でちゅ!ランティスちゃん対ヒカルくん!いざ、勝負でちゅ!!」
パペットが、高らかに宣言した。
「[scared]は、はあ!?なんでそうなるんだよ!」
「[teasing]だって、みんな見たいでしょ?英雄同士の真剣勝負!」
「見たーい!」
「やれやれ!」
「告白しろー!」
野次馬たちが、手を叩いてはやし立てる。もう、引くに引けない。
ヒカルは、ごくりと息をのんだ。
正面に立ったランティスが、ゆっくりと右手を前に出す。空気が、ぴりりと張りつめた。
「よろしく頼む」
「あ、ああ……」
目が合った。ランティスの深い青色の瞳が、夕日を反射してきらめいている。その長いまつ毛が、ふるりと震えた。
ドキドキ、ドキドキ。
うるさい。心臓がうるさい。
(こ、これは絶対、呪いのせいだ!この大会のせいでもある!)
心の中で叫びながら、ヒカルは右手を握った。
「最初はグー!じゃんけん――」
パペットの掛け声で、二人の手が振り下ろされる。
「ぽんっ!」
ヒカルは、チョキ。
ランティスは、グー。
「[excited]ヒカルくんの勝ち!チョキで勝ったので、相手の手を十秒握るでちゅ!」
勝った。勝ってしまった。
頭の中が真っ白になる。
「[whispers]……どうした?」
ランティスが、静かに右手を差し出してきた。
細くて、白い指。
でも、剣を握る騎士の手だ。かすかに、硬くなった皮の部分が見える。
ヒカルは、おそるおそる自分の手を伸ばした。
触れる。
ランティスの手は、冷たいかと思ったら、ほんのりと温かかった。
「[scared]……!」
ヒカルの体が、びくっと跳ねる。
「[laughing]いーち!にーい!さーん!」
パペットがカウントを始めた。
「しーい!ごーお!」
住人たちも、それに合わせて叫ぶ。
二人の手が、じんわりと熱くなっていく。ヒカルの手から、ランティスの手へ。ランティスの手から、ヒカルの手へ。どちらの手汗かもわからない。
ランティスは目を伏せたまま、じっと動かない。でも、その指先が、ほんの少しだけ震えていることに、ヒカルは気づいていた。
(ランティス、怒ってるか? それとも――)
「[crying]ろーく!しーち!はーち!」
ああ、もう、だめだ。
頭がくらくらする。心臓が、のどから飛び出そうだ。
「[excited]きゅーう!じゅーう!!」
「[angry]い、いつまで握ってるのよ!!ルールは十秒でしょ!!」
ウミの金切り声が、魔法みたいに世界を壊した。
「[surprised]うわっ!」
ヒカルは、あわてて手を引っ込めた。
その瞬間、ランティスの指が、きゅっと、ヒカルの手を握り返した。
ほんの、ほんの一瞬。
誰にも気づかれないような、小さな動きだった。
「……名残惜しかった」
ランティスは無表情で、小さくつぶやいた。でもそれは、ヒカルの耳には届いていなかった。ヒカルは、自分のばくばく鳴る心臓をどうにかするのに必死で、それどころじゃなかったのだ。
ランティスは、燃えるような夕日から目をそらすように、視線を地面に落とした。
大会は、それで終わった。
「[laughing]みんなの心がちょっとだけ動いたでちゅね~!でも、欠片はまだゼロでちゅよ~」
パペットは、空中でくるくる回りながら、意地悪く笑った。
「[angry]全然ゼロじゃないか!なんのための大会だったんだ!!」
「[serious]自分の気持ちから逃げてたら、欠片は出ないでちゅよ。じゃあね、また次の試練で!」
シュンッ、と妖精は消え、あとには星が瞬き始めた空だけが残った。
「……もう二度と、あんな恥ずかしいこと、やらないんだから」
ウミは、プンプン怒りながら、宿屋へと歩き出す。
ランティスは、なにも言わずに、その後ろ姿を追いかけた。
ヒカルは、広場に一人残された。
そっと、自分の右手を見つめる。さっきまでランティスの手があった場所が、まだ少しだけ熱い。
(……なんか、もう一回触りたいって思った)
自分の心に浮かんだ言葉に、ヒカルはぶんぶんと頭を振った。
「[whispers]ち、ちがう!これは呪いのせいだ。絶対、呪いのせいだ!」
誰も聞いていないのに、声に出して否定した。でも、その顔は、耳まで真っ赤になっている。
胸の奥が、きゅうっと痛むような、くすぐったいような感覚。
真実の欠片は、まだゼロ。
残り時間は、二日と半日。
星が輝き始めた空の下、ヒカルの胸の中にだけ、確かな変化の風が吹き始めていた。