魔法騎士セラフィアース! 〜呪いで男女逆転☆ドタバタ戦記〜
ある日、伝説の魔法騎士、光、海、風は、呪いの泉の水を浴びてしまい、とんでもない大災害に巻き込まれる!
光は男の子に、海と風は女の子に変身! そして、その姿を見た瞬間から、セフィーロの仲間たちも次々と男女が逆転していく。
慣れない体と、仲間たちの突然の変貌に、パニックと笑いが止まらない。魔法の力も、恋模様も、すべてがぐちゃぐちゃに。
元に戻るためには、三日以内に『真実の心の欠片』を集めなければならない。しかも、新しい体に慣れながら、自分自身の本当の気持ちと向き合う必要があるらしい。
男の子になった光は、無性に親友ランティスを意識してしまい、胸が高鳴る。女の子になった海と風は、今までと違う目で見られてしまい、大混乱。
そんな中、呪いを楽しんでいるような、謎の妖精パペットが現れる。彼女は『恋のジャンケン大会』や『恥ずかしい台詞バトル』など、無茶苦茶な試練をふっかけてくる。
果たして三人は、体も心もめちゃくちゃな三日間を乗り越え、無事に元の姿に戻れるのか? それとも、新たな自分に目覚めてしまうのか?
笑いあり、胸キュンあり、ちょっぴり切なさもある、ドタバタラブコメディ、開幕!
魔法騎士セラフィアース! 〜呪いで男女逆転☆ドタバタ戦記〜 - 女になった剣士!ドキドキ再会とふくれっ面のお姫様
宿屋「風見鶏亭」は、フォンティーヌの街の中心、星降りの円庭からすぐの場所にある。
三階建ての木造の建物だ。看板には、風見鶏の絵がかいてある。
その入り口で、ヒカルは立ち止まった。
赤い髪が、風に揺れる。
(大丈夫、大丈夫だ。みんな、いるはずだよな)
心の中で、自分に言い聞かせる。
今の自分は、男の子の体だ。背も伸びて、声も低くなった。
みんな、なんて言うだろう。
「とにかく、入るぜ!」
勢いよくドアを開けた。
カラン、カラン。
ドアベルが、軽やかに鳴った。
一階は、食事もできる広間になっている。
いつもは冒険者や旅人でにぎわっているけど、午後のこの時間は人が少ない。
その広間の、窓辺。
夕暮れ前の、やわらかな光の中に、一人の女性がいた。
ヒカルの足が、ピタリと止まった。
長い、黒い髪。
腰まで届く、つややかな黒髪が、後ろで一本に束ねられている。
すらりと伸びた背筋。
長いまつ毛が、伏せられた瞳に影を作っていて、それがとてもきれいだった。
その人は、スカートの裾を、少し落ち着かなさそうに手でおさえている。
「……ランティス……?」
声が、震えた。
その人は、ゆっくりと顔を上げた。
深い青色の瞳。
いつもの、寡黙な剣士の目だ。
でも、なにかが違う。
きれいになった、とヒカルは思った。
前から、きれいな顔立ちだと思ってたけど、今はもっと、なんだか女の人みたいで——。
「ヒカル、か」
ランティスの声も、少しだけ高くなっていた。
いつもより、やわらかい響きだ。
その声を聞いたとたん。
ドキン。
胸の奥が、大きく脈打った。
(えっ……?)
ヒカルは、自分の胸に手を当てた。
心臓が、変なふうに鳴ってる。
ランティスを見ただけで?
なんで?
「あ、えっと……その、かみ、長くなったな!」
あわてて、思いついたことを口にした。
ランティスは、自分の長い髪を一房、手に取った。
「……そうだな。少し、邪魔だ」
その仕草が、妙に色っぽくて、ヒカルはまた胸がドキドキした。
だめだ、だめだ!
こ、これは呪いのせいだ!
絶対そうだ!
「呪いのせいだ!これも、ぜったい呪いのせいだからな!」
気がつくと、ヒカルは壁に向かって叫んでいた。
ランティスの顔を、まともに見られない。
「……呪い?」
ランティスは、きょとんとした顔で、それから明後日の方向に視線をそらした。
「……そうか」
なにが「そうか」なんだ!
わかるように言ってくれ!
「ヒカルも、背が伸びたな。声も、低くなった」
「えっ!?あ、ああ……そう、みたいだぜ?あはは……」
二人の間に、気まずい沈黙が流れた。
ランティスは、窓の外を見ている。
ヒカルは、壁の木目を見つめた。
(どうしよう。ランティスと話すの、こんなに緊張したことなかったのに)
そのときだった。
コン、コン、コン。
二階から、なにかが床に落ちる音がした。
枕だ。
「もう、誰にも会いたくないわ!」
幼い声が、二階の客室から響いてきた。
ヒカルは、その声に現実に引き戻された。
そうだ、ウミ!
「わりぃ、ランティス!ちょっと、ウミのとこ行ってくる!」
ヒカルは、逃げるように階段を駆け上がった。
後ろで、ランティスがなにか言いたそうに、口を開きかけた気がしたけど、気づかないふりをした。
客室のドアを、ノックもせずに開ける。
「ウミ!大丈夫か!?」
部屋の中は、薄暗かった。
カーテンが閉められていて、夕暮れ前の光も入ってこない。
大きな姿見の前で、一人の少女が座り込んでいた。
腰まであったはずの青い髪は、背中の真ん中くらいに短くなっている。
サファイアブルーの瞳は、涙でいっぱいだった。
年齢は、十歳くらいに見える。
かつては気高く、誰よりも大人びていたウミの、今の姿だ。
「ヒカル……見ないでよ……」
ウミは、自分のブカブカの服の袖をぎゅっと握りしめた。
「こんな姿、まるで子どもじゃないの……!」
「いや、その、なんだ……かわいい、と思うぜ?」
ヒカルが正直な感想を口にした、その瞬間だった。
「かわいいって言うなー!」
ウミは、近くにあった枕を掴むと、ヒカルめがけて思いっきり投げつけた。
ボスン!
「ぐえっ!」
顔面に命中した。
すごい力だ。小さくなっても、腕力は剣士のままだ。
「だって、本当にかわいいだろ!今のお前、ほっぺたとかプニプニしてるし!」
「やめて……自分の手を見てよ。私、こんな体で剣なんて、もう振れないわ……」
ウミは、自分の小さな手のひらを見つめながら、涙声でつぶやいた。
「こんな、ちいさな手じゃ……みんなを守れない……」
ヒカルは、息をのんだ。
ウミは、自分の外見が変わったことだけじゃなくて、仲間を守れなくなることを、一番怖がっていたんだ。
「ウミ……」
ヒカルが、ウミのそばにしゃがみ込もうとした、そのときだった。
ピカーッ。
部屋の空中に、虹色の光がうずまいた。
「あーはっはっは!ぎこちない再会を楽しんでるでちゅかー!?」
虹色の蝶の羽をパタパタさせて、小さな妖精が飛び出してきた。
頭の上で、ピンクと水色のモヒカンが、ふわふわ揺れている。
「パペット!」
「ウミちゃん、お姫様みたいでかわいいでちゅねー!そのふくれっ面がまたグッドでちゅ!」
「な、なんですってー!?」
ウミの怒りが頂点に達した。
小さな体で、パペットに飛びかかろうとする。
「おっと、当たらないでちゅよーだ!」
パペットはひらりと空中でかわした。
勢いあまったウミは、そのまま床に転んでしまう。
ドタッ。
「うう……ひどい……みんなして、私をバカにして……」
ウミは、床に座り込んだまま、今にも泣き出しそうな顔でうつむいた。
「パペット!ウミをいじめるな!」
ヒカルがにらみつけると、パペットは空中で足を組んで座った。
「いじめてなんかないでちゅ。パペちゃんは、みんなに素直になってほしいだけでちゅ」
その目は、いつものいたずらっぽい輝きじゃなくて、妙に真剣だった。
「真実の欠片は、一人じゃ集まらないでちゅ。みんなの心が動く試練を、これから始めるでちゅよー!」
「し、試練って……なにする気だよ!?」
「それは、始まってからのお楽しみでちゅ!あ、でも、最初の一個は特別に教えてあげるでちゅ」
パペットは、ヒカルの鼻先まで飛んでくると、いたずらっぽくウインクした。
「『照れちゃって言えない気持ちは、叫んじゃえ!』……でちゅよ」
「は、はあ!?」
「じゃ、パペちゃんはこれで!次の試練を準備しなくちゃでちゅからね!あー、楽しみだなあ!」
そう言い残すと、パペットは虹色の光になって、シュンッと消えてしまった。
部屋に、静けさが戻る。
残されたのは、呆然とするヒカルと、床に座り込んでしくしく泣いている小さなウミだけだった。
「……どうせ私は、子どもですよ……」
(ど、どうすればいいんだこれ!?)
ヒカルは頭を抱えた。
ランティスを見ると胸がドキドキするし、ウミはこんなに落ち込んでるし、パペットは訳のわからない試練を出すって言うし。
とにかく、ウミを元気づけなきゃ。
でも、その前に、自分のこの胸のドキドキは、一体なんなんだ。
「呪いのせい……だよな?」
小さくつぶやいた声は、誰に届くこともなく、夕暮れの気配が近づく部屋の中に消えていった。
階下では、ランティスが一人、窓の外を無言で見つめていた。
その手は、愛用の剣の柄をぎゅっと握りしめている。
長い黒髪が、窓から入る風に、ふわりと揺れた。
宿屋「風見鶏亭」に、夕暮れが訪れようとしていた。
三日間のタイムリミットの、最初の半日が、静かに過ぎ去っていく。Noveliaとは?
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