転生したらスライムだったけど、今日は会議です
魔王リムル=テンペストが治める国テンペストでは、今日も山積みの書類仕事に追われる一日だ。しかし、今日は特別な日。国をもっと面白くするための「戦略会議」が開かれ、幹部たちが一堂に会している。出席者は鬼族の姫シュナ・オニザワ、高位エルフのベニマル・ミカヅチ、そして嵐の大精霊シオン・カミヤ。皆真剣な表情だが、リムルはこっそりと新しく買った蒸し饅頭を隠している。
会議の公式テーマは「熊モンスター目撃増加の問題」。真面目な議論のはずが、「熊は蜂蜜が好きだから養蜂を始めてみては?」「俺が蜂蜜を取りに行くよ」といった提案であっという間に脱線してしまう。さらに、ミリムがギャル言葉で「ハニーパーティーしようぜ!」と乱入してきて、場はますますカオスに。
だが、笑ってばかりもいられない。熊モンスターが本当に強力で、森に大きな被害をもたらしているという報告が届く。狩猟の準備が始まる中、シオンは誤って武器ではなくお菓子を持ってきてしまい、リムルはスライムの体を活かして奇妙な作戦を考案する。
このほっこりとした混沌の中で、仲間たちの絆やちょっとした謎が少しずつ深まっていく。
リムルの平穏な日々は、予期せぬ
転生したらスライムだったけど、今日は会議です - 武人登場と十体の包囲網——捕食者が、効かない!?
ヴォルガ館の廊下は、朝の光がまだ薄かった。
石造りの壁に沿って並ぶ魔素灯が、ぼんやりとした橙色の明かりを足元に落としている。リムルとシュナは昨夜からずっとその廊下の端、窓際の小さなテーブルを挟んで向き合っていた。テーブルの上には大森林の地図と、シュナが几帳面に書き込んだ調査隊の編成案。
昨日の夜、青白い紋章石を引き出しにしまって眠れないまま朝を迎えた。森の奥に何かがいる。それだけははっきりしていた。
「[serious]調査隊の構成ですが、リムル様とわたくし、それからベニマルが戻り次第合流して三人で——」
そこで廊下の向こうから足音がした。
重い。一定のリズムで、でも疲れを隠しきれていない。
リムルが顔を上げた瞬間、見覚えのある深紅の巻き毛が廊下の角から現れた。185センチの大柄な体。右目の細い傷跡。鎧の肩口に旅の埃がこびりついて、それでも背筋は真っすぐだ。
「[serious]ベニマル・ミカヅキ、帰ってたのか!」
ベニマルが足を止めた。
振り向く。金色の目がリムルを見る。一切表情が変わらない。
「[cold]……ミカヅチです」
「あ、そうか。ミカヅチ。ミカヅキじゃなくて……ミカヅキ?」
「[cold]ミカヅチです」
二度目。全く同じ声のトーンで。
シュナがそっとリムルの袖を引いた。
「[whispers]リムル様、三秒前に同じことをおっしゃいましたわ」
「ご、ごめんベニマル! ミカヅチ! ミカヅチな!」
ベニマルは短く息をついた。
「[cold]……覚えていただけるなら、何度でも」
淡々と答えて、そのままテーブルに近づいてくる。旅の埃を肩から払いながら地図を一瞥する。その目がすぐに真剣な光を帯びた。
「[serious]報告があります。急ぎです」
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三人は大会議室に移動した。
ベニマルが持ち帰った地図を広げる。国境警備の帰り道で収集した情報が、鉛筆で几帳面に書き込まれている。
「[serious]これまでガルムバルグの目撃は北東部に集中していた。だが今回の巡回で、東部にも出没が確認された」
リムルは地図を見た。赤い点が、確かに広がっている。北東から東へ、弧を描くように。
「広がってる……」
「[serious]それだけではない」
ベニマルの指が、リムルスから東へ約15キロの地点を押さえた。
「[serious]ゴブリン族の農村が群れに踏み荒らされた。畑は全滅。備蓄の食料庫が破壊されている。死者は出なかったが、重傷者が複数いる」
会議室が静かになった。
リムルは地図を見たまま動かなかった。
ゴブリン族の農村。メルヴァ川沿いの、あの村だ。収穫前に村長のグルが誇らしそうに芋の出来を報告しにきた、あの村。
「……全滅」
「[serious]食料庫ごと。越冬の備蓄が全部だ」
リムルの拳が、テーブルの上でゆっくりきつくなった。
(俺の国の民が傷ついている)
その実感が、腹の底に重く沈んだ。
シュナがメモ帳に何かを書き込みながら口を開く。
「[serious]群れがこれだけ統率された動きをするのなら、何かが束ねているはず。霧境の門の奥から動かしているものを叩かなければ、同じことが繰り返される」
「[serious]そのとおりだ」
ベニマルがリムルを見た。
「[serious]深奥への調査隊が必要です。今すぐ」
リムルは地図から目を上げた。
「[serious]行く。三人で今日出発する」
「[gentle]装備を整えますわ。一時間ください」
シュナがすでにメモ帳をめくっていた。出発時刻、携帯する物資、防衛指揮の引き継ぎ先。几帳面な字がマス目を埋めていく。
ベニマルは何も言わずにうなずいた。それが答えだった。
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一日目は順調だった。
大森林に入ると、シュナが魔素の流れを手のひらで確かめながら進路を決める。北西、霧境の門の方向。木々の密度が増すにつれて、光が細くなる。地面が柔らかくなる。
リムルがポケットから青白い紋章石を取り出して見せた。
「ベニマル、これ。森で拾ったんだが、ガルムバルグの紋様と同じ色なんだ」
ベニマルが受け取る。金色の目が細くなった。
「[serious]……見たことのない紋様だ。古代の遺物か何かか」
「わからん」
「[serious]そのままポケットに入れておくな。鞄の奥に固定しろ。万が一魔素反応があった時に、体から離れていた方がいい」
「あ、そうか」
リムルが素直に鞄にしまうと、ベニマルがかすかに眉を動かした。文句なく従うと思っていなかったのかもしれない。
二日目の昼すぎから、空気が変わった。
木々が高くなる。根が地面を盛り上げて、足場が悪くなる。そして——肌に感じる。魔素濃度が濃い。テンペスト全体の平均の、三倍か四倍か。
ベニマルが立ち止まって、鋭い目で周囲を見回した。
「[serious]今夜は野営を避けたいが……」
言いかけた瞬間。
遠くから、地響きが来た。
ドン。ドン。ドン。
複数。リズムが違う。方向も違う。一方向じゃない。
「[serious]設営する。急げ」
三人で素早く野営の準備を進める。シュナが魔素を集中させて結界の基点を確認しながら、四方の木々を測るように見ている。日が落ちる。森が暗くなる。
そして。
ざわりと、木々が揺れた。
四方同時に。
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現れた。
体高3メートル半。背中に青白い紋様が脈打っている。一体、二体、三体——数えるのをやめた。十体以上。北東南の三方向から、統率された動きで野営地を取り囲んでいる。
野生の暴走じゃない。これは包囲だ。意図的な、包囲だ。
「[serious]わかってんのか。正面は俺が抑える。シュナ、側面頼む」
「[serious]はい」
ベニマルが剣を抜いた。刃が魔素を帯びて、炎色の光をまとう。
「[angry]——全員まとめて薙ぎ払う!」
踏み込んだ。
ズドォォン!!
炎の一閃が正面の群れを横薙ぎにした。三体が吹き飛ぶ。地面に叩きつけられ、青白い魔素が霧散する。残り二体が怯む隙に、さらに一歩踏み込んで二撃目。
左側面でシュナの結界が展開された。透明な壁が木々の間に広がり、二体の突進を受け止める。壁が震えた。ひびが入った。シュナの額に汗が滲む。
「[serious]持ちますわ……!」
正面は抑えた。側面も抑えた。
リムルが背後を確認した瞬間——
茂みが割れた。
一体、結界の隙間を縫って突破していた。真っすぐ、リムルへ向かってくる。
(スライム体でいなす。捕食者を——発動!)
リムルの体が本能的にスライム状に変化する。捕食者スキルが起動する。対象を取り込み、解析する——
はずだった。
ガルムバルグを覆う青白い魔素が、スキルを弾いた。
べちん、という感覚だった。ゴム板に手を押し当てたみたいに、何も入ってこない。スキルが空振りした。
(え)
理解が一拍遅れた。
(捕食者が……効かない?)
体が固まる。その一瞬を、ガルムバルグは逃さなかった。
巨大な爪が振り下ろされる——
ガキィン!!
間に入った体があった。
ベニマルだった。剣で受けたが、爪の勢いを完全には殺しきれなかった。刃が滑り、爪先がベニマルの肩口に食い込む。
血が飛んだ。
鮮やかな赤が、暗い森の空気に散った。
ベニマルがよろめく。片膝が地面をついた。それでも剣を手放さない。
「[angry]下がれ……!」
「ベニマル!」
「[serious]下がれと言っている!」
怒鳴り声が森に響いた。片膝をついたまま、ベニマルが傷ついた肩で剣を構え直す。その姿が、後ろのリムルを守る壁になっていた。
「[scared]リムル様! 結界が——!」
シュナの声が震えた。側面の結界にひびが増える。魔素が底をついていた。
状況は最悪だった。ベニマルは片膝。シュナの結界は崩壊寸前。捕食者は効かない。
「[serious]撤退します。南へ!」
「[serious]ああ!!」
ベニマルを支えて走った。シュナが最後の魔素を使って結界を爆発させ、追いすがる個体の足を一瞬止める。三人は森を南へ走り続けた。枝が顔を打つ。根につまずく。木々の密度が薄れて、空気の魔素濃度が下がっていく。
リムルスが近い。
魔素の薄い安全地帯まで抜け出た時、三人は足を止めた。
ベニマルが肩を押さえながら、木の幹に背を預けた。呼吸が荒い。血が指の間から滲んでいる。
シュナはその場に膝をついて、震える手で回復薬の瓶を取り出した。
誰も何も言わなかった。
リムルは暗い森の方向を見ていた。
(捕食者が、効かなかった)
その事実が、頭の中でぐるぐる回っている。これまで何でも取り込んできたスキルが、完全に弾かれた。あの青白い魔素は、捕食者を封じる何かを持っている。
言えなかった。今は言えない。ベニマルが怪我をして、シュナが魔素を使い果たして、二人がボロボロの今に、俺のスキルが通じなかったなんて。
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リムルスに戻ると、留守番をしていた伝令兵が青い顔で走ってきた。
「[scared]リムル様! 留守中に報告が二件入っております!」
「何だ」
「[scared]ヴォルケラの花園の養蜂場、新たに二か所がガルムバルグの群れに壊されました! 蜂蜜の在庫がほぼ底をつきまして、回復薬の製造が止まっております! それと——」
「もう一件は」
「[scared]イングラシア王国の国境町ベルグントから通告文が届いております。約束の回復薬の納品が履行されない場合、通商条約の見直しを検討すると——」
伝令兵の声が続いている。リムルはその声を聞きながら、手の中の通告文を受け取った。
薄い紙一枚。でも重い。
ベニマルが傷ついた肩をかばいながら、その場に立っていた。
「[serious]……次は必ず仕留める」
低い声だった。痛みをかみ殺した、それでも折れていない声。
シュナが何かを言おうとして、やめた。メモ帳を開いて、報告の内容を書き始めた。手がまだ少し震えていた。
リムルは通告文を折りたたんで、ポケットにしまった。
(捕食者が封じられたまま、どうやって深奥に踏み込む)
その問いに、今夜の自分には答えがない。