転生したらスライムだったけど、今日は会議です
魔王リムル=テンペストが治める国テンペストでは、今日も山積みの書類仕事に追われる一日だ。しかし、今日は特別な日。国をもっと面白くするための「戦略会議」が開かれ、幹部たちが一堂に会している。出席者は鬼族の姫シュナ・オニザワ、高位エルフのベニマル・ミカヅチ、そして嵐の大精霊シオン・カミヤ。皆真剣な表情だが、リムルはこっそりと新しく買った蒸し饅頭を隠している。
会議の公式テーマは「熊モンスター目撃増加の問題」。真面目な議論のはずが、「熊は蜂蜜が好きだから養蜂を始めてみては?」「俺が蜂蜜を取りに行くよ」といった提案であっという間に脱線してしまう。さらに、ミリムがギャル言葉で「ハニーパーティーしようぜ!」と乱入してきて、場はますますカオスに。
だが、笑ってばかりもいられない。熊モンスターが本当に強力で、森に大きな被害をもたらしているという報告が届く。狩猟の準備が始まる中、シオンは誤って武器ではなくお菓子を持ってきてしまい、リムルはスライムの体を活かして奇妙な作戦を考案する。
このほっこりとした混沌の中で、仲間たちの絆やちょっとした謎が少しずつ深まっていく。
リムルの平穏な日々は、予期せぬ
転生したらスライムだったけど、今日は会議です - はちみつ大作戦——シオン参上、クマをなめるな!
夜明けから一時間。
リムルスの外壁の上に立つと、森の向こうから地響きが来る。
ドン。ドン。ドン。
一定のリズム。でも重さが違う。昨日より、ずっと重い。
外壁の下では、ゴブリン族の護衛兵が槍を構えて並んでいた。震えている。槍の先が細かく揺れているのが、上からでもわかる。
(七日目か……)
リムルは石の手すりに手をついた。ポケットの中の紋章石が、また脈打っている。昨夜から止まらない。北西の方向に向かって、ずっと、ずっと。
捕食者が効かない。その事実は今も変わっていない。でも立ち止まれない。あの子どもの声が、まだ耳に残っている。おうちに帰りたい、と。
「[serious]見えました」
シュナが外壁の端に立って、森の方向を見ていた。薄桃色の長い髪が朝風に揺れる。その目が細くなった。
「[serious]通常の……倍以上の大きさです」
木々が倒れる音が聞こえた。ザァ、ドン。ザァ、ドン。大きな体が森を押しつぶしながら来る。
「[serious]わかってる」
シュナはそれ以上言わなかった。メモ帳を持つ指が少し白くなっていた。
外壁の下から声がした。
「[serious]前衛、構え!」
ベニマルだった。右肩に厚い包帯を巻いたまま、左手に炎の剣を握っている。鎧の肩口が血で少し滲んでいる。三日で治ると言っていた傷が、まだ完全には塞がっていない。それでも声は揺れていない。
リムルは外壁の上から彼を見た。
(無理をしてる。でも何も言えない)
自分がまだ答えを持っていないから。
そのとき。
街道の角から、豪快な足音が来た。
ドカドカドカドカ。
角を曲がって現れたのは、鮮やかな紫の長髪を振り乱した女だった。片耳に鈴のイヤリング。虹色のオッドアイ。背丈は175センチで、その両腕に——
人の胴体ほどある大きな陶器の壺を、一つ、ぎゅっと抱えていた。
背中には大太刀ヘルカイザーがきちんと納まっている。担いでいない。
「[excited]リムル様ーっ! 別任務終わって帰ってきたぞー!」
護衛兵たちが一斉に振り向いた。
「[excited]途中でヴォルケラ蜜の壺が手に入ってさ、差し入れに持ってきたぞ! はちみつパーティーだー!」
静止。
全員が、固まった。
シュナがすっと外壁の端に立ち直った。
「[serious]……シオン」
「[excited]なに、シュナ?」
「[serious]今は戦闘中ですわ」
はっきりした声だった。
シオンが壺を抱えたまま首を傾けた。
「[surprised]え、ほんとに?」
ベニマルが無言で、森の方向を指差した。
木々が、なぎ倒されていた。その向こうに、巨大な影。体高七メートル。背中に青白い紋様が脈打っている。
シオンが、それをじっと見た。
「[surprised]……やばいじゃん」
「今気づいたのか」
シオンはさっと壺を地面に置いた。丁寧に。そしてヘルカイザーを背中から引き抜く。全長2メートルを超える大太刀が、朝の光を弾いた。
シュナがその壺に視線を向けた。
「[serious]……その壺は、どこへしまうつもりですの?」
「[sarcastic]そこに置いとけばいいじゃん」
シュナが一瞬、額に手を当てた。
護衛兵の一人が、くっと笑った。
張り詰めていた空気が、ほんの少しだけゆるんだ。その笑いが伝播して、外壁の下の兵士たちの肩が、わずかに落ちた。震えていた槍の先が、少しだけ落ち着いた。
リムルは外壁の上でその様子を見ていた。それから、地面の壺を見た。
蓋が少しずれている。
黄金色の蜂蜜の香りが、ふわりと漂ってきた。
その瞬間、ポケットの中の紋章石が、一際強く脈打った。
ドクン。
リムルの頭の中で、何かがつながった。
——ガルムバルグは甘い香りに強く反応する。それは最初の養蜂場の報告から知っていた。
——紋章石は北西の光の柱と同じリズムで脈打っている。それは昨夜確認した。
——シュナが言っていた。自然の魔素ではない、と。発生源は霧境の門の奥。
全部、つながる。
ガルムバルグを暴走させているのは、遺跡から漏れ続けている魔素だ。
「[excited]わかった!」
全員がリムルを見た。
リムルは外壁の上から飛び降りた。ドンッと地面に着地して、まっすぐシオンの壺に歩み寄る。
「[serious]蜂蜜で超大型の注意を引きつける。その間に俺がスライム体で霧境の門の奥の遺跡に潜り込む。紋章石で魔素の暴走を止める」
沈黙。
ベニマルが先に口を開いた。
「[angry]無茶だ」
「[serious]聞けよ。捕食者が封じられてるのはわかってる。だから遺跡ごと止めに行く」
「[angry]深奥の遺跡まで何キロあると思ってる。群れをかわしながら一人で——」
「[serious]一人じゃない」
リムルはベニマルを見た。それからシュナを見た。それからシオンを見た。
「[serious]みんながいるから、俺は奥まで行ける」
ベニマルが口を閉じた。
シュナが静かに手を前に伸ばした。
「[gentle]……私が結界でトンネルを作ります。リムル様の通り道を確保しますわ」
ベニマルが短く息をついた。それから、左手で剣を握り直した。
「[cold]……俺が前を斬り開く。片腕でも十分だ」
シオンが壺を持ち直した。にやりと笑う。
「[excited]あたしが一番デカいのを引きつけてやる。蜂蜜もあるし、ちょうどいいじゃん」
リムルは笑いそうになった。泣きそうでもあった。どちらもこらえて、口を開く。
「[serious]作戦名、はちみつ大作戦」
シュナが呆れた顔になった。
「[sarcastic]……もう少しマシな名前はないのですの」
「[laughing]いい名前じゃんか!」
「[cold]……まあいい」
ベニマルが「まあいい」と言った。それが全員への合図だった。
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作戦開始。
シオンが壺を持って外壁の外へ走り出た。地面に叩きつける。
バリン!
陶器が砕けた。黄金色の蜂蜜が地面に広がる。甘い香りが、一気に風に乗る。
超大型ガルムバルグが動きを変えた。
頭が、シオンの方向を向いた。
「[excited]来たか来たか!」
シオンはヘルカイザーを肩に担いで走り出した。笑い声を上げながら。鈴のイヤリングがしゃらんと鳴る。
体高七メートルの巨体が、猛然と追いかける。地面が揺れる。木が折れる音がする。
「[excited]こっちだこっち! あたしのほうが甘いぞー!」
誰も突っ込まなかった。全員がシオンを信頼していた。
ベニマルが前に出た。
シュナの結界トンネルへ向かう中型ガルムバルグの群れが、三体、五体、七体——炎の剣が一閃した。
ズドォン!!
炎が横薙ぎに広がる。三体が吹き飛ぶ。残り四体が怯む間に、もう一撃。右肩の包帯が赤く染まった。血がにじんでいる。でもベニマルは剣を下げない。
リムルはその背中を見た。
「[gentle]ベニマル——」
「[cold]行け」
振り向かずに言った。
シュナが両腕を前に伸ばした。青白い結界が細長いトンネル状に展開され、大森林の奥へ向かって伸び始める。魔素の消耗で指先が小刻みに震えている。でも声は揺れない。
「[gentle]リムル様、道は作ります。行ってください」
リムルはスライム体に変化した。人の形が溶けて、半透明の体になる。結界トンネルの入口に向かいながら、一瞬だけシュナと目が合った。
シュナが、小さく口を動かした。
「[whispers]……必ず、戻ってきてくださいね」
参謀としての報告じゃない。それはただの、願いだった。
「[serious]戻ってくる」
それだけ答えて、トンネルに入った。
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速い。
スライム体になったリムルは結界の壁に沿って滑るように進む。木々が後ろへ流れる。根が、岩が、茂みが、どんどん後ろへ消えていく。
後ろでベニマルの炎が轟いた。
シオンの声が聞こえた。楽しそうに笑っている。
シュナが結界を伸ばし続けている。その震えを、リムルは感じていた。
(みんなが、繋いでくれている)
ポケットの中の紋章石が熱くなった。光り始めた。行き先を示すように。
魔素の濃度が上がっていく。全身で感じる。濃い。どんどん濃くなる。
シオンの声が、遠ざかった。ベニマルの炎の音が、聞こえなくなった。
木々の密度が極端に増した。光が細くなる。霧が出てきた。冷たい。湿っている。
——霧境の門を越えた。
そしてリムルは、止まった。
目の前に、石造りの入口があった。
古い。ずっと古い。石が苔むしていて、彫られた文様が半分消えている。青白い魔素が建物全体を包んでいた。中から、地鳴りのような低い振動が漏れている。絶えず、絶えず。
——大森林深奥の古代遺跡。
リムルは体を人の形に戻した。石の入口を見上げた。手の中の紋章石が、熱い。光っている。中の振動と、全く同じリズムで脈打っている。
ここが、全ての始まりだ。
(捕食者は封じられてる。でも、この石がある)
リムルは紋章石を強く握った。
外では今もシオンが走って、ベニマルが斬って、シュナが結界を張り続けている。
時間はない。
リムルは、一歩踏み出した。