婚活バトルロワイヤル〜チート持ちの元勇者たちよ、俺を口説くな〜
婚活パーティーって…もっと退屈なものじゃないの?
29歳の普通の会社員、南波蓮は、押しの強い友人に連れられて婚活パーティーに参加することに。しかし、会場となった普通の居酒屋に足を踏み入れた瞬間、何かがおかしいと気づく。
隣の女性は何気なく「前世で魔王を倒した」と話し、向かいの男性は天気予報アプリを見るような顔で「火の玉を撃てる」とつぶやく。
このパーティーに集まった10人全員が、前世で異世界に転生していたのだ。元勇者、元魔王、元賢者…そして全員がチート級のスキルを持ち帰っている。
しかし、もっとも不可解なのは、そんな彼ら全員が、まったく普通で転生もスキルもない南波蓮に惹かれていることだった。
前世で伝説の剣士だった氷川朱音は首をかしげて言う。「なぜあなたは転生していないの?」彼女のスキルは誰の心も読めるが、好きになった相手の心だけは読めない。
前世で大賢者だった篠宮柊はため息をつき、「君に惹かれてしまうのは仕方ない」と言う。彼のスキルは嘘を見抜くが、自分の感情は分析できない。
なぜ蓮だけが前世を持たないのか?なぜ皆が彼に磁石のように引き寄せられるのか?そして、この特別な集
婚活バトルロワイヤル〜チート持ちの元勇者たちよ、俺を口説くな〜 - 調べたのはストーカー行為です——嘘なし男と嘘見抜き男の最悪な出会い
水曜日の夜、ナカツカ商事のオフィスビルは残業の明かりをぽつぽつと灯していた。
蓮は疲れた足でエレベーターを降り、一階のロビーを抜けて自動ドアをくぐった。
外の空気が冷たかった。十一月の夜。新宿の喧騒が遠くで鳴っている。
そこに、男が立っていた。
ビルの入口から少し離れた場所。腕を組んで、蓮を待っているような立ち方で。
深緑のショートヘア。右側に流れた前髪。眼鏡の奥に、左右で色の違う瞳——左が赤、右が銀色。百七十八センチくらいの、静かに佇む姿。
(誰だ、あれ。)
近づいた瞬間、男が口を開いた。
「[serious]南波蓮さん。二十九歳。ナカツカ商事営業二課、入社七年目」
「……は?」
「[serious]マリッジ・コネクトの第一回パーティー参加者だね。唯一の非転生者——ブランク」
蓮は足を止めた。
「[surprised]……あのパーティーにいた人か」
「篠宮柊。図書館司書をしている。前世のスキルは対面した相手の発言が嘘か本当かわかる能力、ジャッジメント・ライン」
男は淡々と言った。自己紹介なのか尋問なのか、判断が難しい口調だった。
蓮はしばらく柊の顔を見た。それから、素直に言った。
「[sarcastic]勤務先と年齢まで調べてここで待ってたって、それ普通にストーカーだよね」
柊が止まった。
わずかな間。
(……なんで止まってるんだ、この人。)
柊は眼鏡をゆっくり押し上げながら言った。
「[serious]……赤線が出ない」
「え」
「[serious]嘘をついている相手と話す時、僕の視界に赤い線が浮かぶ。誇張でも、社交的な建前でも、出る。今の君の発言——赤線が一本も出なかった」
「そりゃ本当のことを言ったから」
「[serious]……赤線なし」
蓮はとりあえずこの状況の意味を整理しようとした。無理だった。
「[sarcastic]なんか確認してるみたいに俺の言葉に採点つけないでよ、怖いんだけど」
「[serious]……赤線なし」
「だから怖いって言ってんだよ!!」
柊が眉をわずかに動かした。驚いているのか、呆れているのか。
「[serious]……君は本当に裏表がないんだな。これまで話した人間は全員、多少の誇張か無意識の言い繕いが混じっていた。一人も例外がなかった」
「[sarcastic]そりゃ褒めてくれてるなら嬉しいけど、ストーカー行為が正当化されるわけじゃないからな」
「[serious]……それも赤線なしだ」
「知ってる!!」
* * *
通りを少し歩いたところにファミレスがあった。
柊が「少し話せるか」と言い、蓮が「まあ……立ち話よりはいいか」と答えた。
ファミレスの中は暖かかった。プラスチックのメニューと蛍光灯。水を持ってきたバイトの子が無表情で去っていく。至って普通の水曜の夜の風景。
「[serious]君が転生者を引き寄せる件、自分ではどう思っている」
「[sarcastic]わかんないから聞きたいくらい」
「赤線なし」
「いちいち言わなくていい」
コーヒーを注文して、二人でテーブルを挟んで向かい合った。柊は背筋を伸ばして座っている。図書館司書というより、取調室の刑事みたいな雰囲気があった。
「[serious]マリッジ・コネクトが君をパーティーに招いた理由を、君自身は考えたことがあるか」
「[sarcastic]あるよ。一晩中。答え出なかった」
「[serious]転生者を引き寄せる非転生者の記録は、僕が調べた限り存在しない。つまり君は——」
そこへ、隣の席から声がした。
「[laughing]あ、ちょうどいいところで」
蓮は振り向いた。
隣のボックス席に、一人の女の子が座っていた。ニコニコした顔で。年齢は十六歳くらいに見える。ふわっとした明るい服装。ドリンクバーのオレンジジュースをストローで吸いながら、まるで最初からそこにいたかのような顔をしていた。
目が笑っていない。
「[gentle]椿汐莉です。マリッジ・コネクトのスタッフをしています」
「……スタッフ?」
「[gentle]南波さんのこと、ずっと見てました。パーティーの時から」
にっこりした顔のまま続けた。
「[gentle]サンプルさんって、呼ばせてもらっていいですか」
蓮は固まった。
「[surprised]……サンプル」
「[gentle]転生者を引き寄せる非転生者は、記録上、南波さんが初めてなんです。だからとっても大切なサンプルなんですよ。マリッジ・コネクトにとって」
コーヒーカップを持つ手が止まった。
「[gentle]これはあなたの意思では止められないことです。すでにみんながあなたに引き寄せられてる。逃げても無駄ですよ」
「[angry]……実験動物じゃないんだけど、俺は!!」
声が出た。思ったより大きかった。
ファミレスの周りのテーブルが、一斉にこちらを向いた。五、六人。全員が「何事?」という顔をしていた。
汐莉が小さく「ひえっ」と言った。
「[gentle]声が大きい……でも、まあ、そういう反応も記録に残します」
「記録するな!!」
汐莉はストローをくるっと回してジュースを飲んだ。立ち上がり、テーブルに伝票を一枚置いた。
「[cold]逃げても無駄です。これはもう始まっています」
そのまま、ファミレスの出口へ歩いていった。
ドアが閉まる音がした。
「……」
柊が静かに言った。
「[serious]あの女の発言。嘘はなかった」
「全部?」
「[serious]一本も赤線が出なかった」
蓮はコーヒーを見た。
全部本当のことだった。サンプル。記録。逃げても無駄。
腹の底に、冷たいものがゆっくりと広がっていった。
* * *
その頃、ファミレスの窓の外。
朱音はガラス越しに中を見ていた。
夕方に蓮にメッセージを送った。既読がつかなかった。心配で、気づいたら勤務先のビル付近まで来ていた。そうしたら蓮が知らない男と並んで立っているのが見えた。
反射的にスキルを使っていた。ヴォワ・デュ・クール——半径五メートルの相手の心が聞こえる能力。男の内心が流れ込んできた。
(この男は嘘をつかない——初めて。発言を疑わなくていい人間が、初めている——)
それが急速に変わっていくのを朱音は感じた。好奇心が、じわじわと別のものに変わっていく感覚。
蓮への好意だ。
「[cold]……しょうがないわね」
誰にも聞こえない声でつぶやいた。
ファミレスに入っていく二人を見届けて、朱音は窓の外に立った。蓮の心はいつも通り、完全に沈黙している。何を考えているか、朱音には絶対にわからない。その男が蓮に好意を持ち始めているのに、肝心の蓮が何を感じているか——わからない。
ガラスの向こうで、二人が向かい合って話している。
そこへ、あの女の子が現れた。隣の席に座って、何かを話して、立ち上がって、出ていった。
蓮の顔が変わったのが、ガラス越しにも見えた。
* * *
ファミレスを出ると、すぐ外に朱音が立っていた。
目が合った。
「[surprised]た、たまたま近くを通っていたら……偶然、見えてしまって」
蓮は少し考えた。
「[sarcastic]……朱音さん、それ、第一回パーティーの後にアパートに来た時と同じパターンじゃない?」
朱音の顔が真っ赤になった。
隣で柊が静かに言った。
「[serious]彼女の発言に複数の赤線が出ている。ほぼ全部、嘘だ」
「[angry]あなたは黙っていてください!!」
夜の住宅街に朱音の声が響いた。
柊は特に表情を変えなかった。朱音は蓮と柊の間に立つような位置に移動した。そして柊を真っ直ぐ見た。
「[cold]篠宮さん。マリッジ・コネクトの問題が解決するまで、余計な変数を増やさないでください。蓮さんに近づかないで」
「[serious]余計かどうかは、彼が決めることじゃないか」
「[cold]彼はまだ状況を把握できていない。判断するための情報が足りない」
「[serious]それは君も同じだと思うが。……なるほど。君は彼の判断を心配しているのか、それとも」
「[angry]続きは不要です」
二人の視線が蓮を挟んで交差した。
蓮は内心で静かに思った。
(変数。心配。——なんで俺のことをそういう言葉で言うんだ、二人とも。)
でも同時に、胸の中のどこかが少しだけ、じわっとした。この人たちは本気で蓮のことを考えている。それだけは確かだった。
ただ、汐莉の声が頭の中を繰り返していた。逃げても無駄。始まっています。
その温かさを素直に受け取れない自分がいた。
柊が眼鏡を押し上げた。
「[serious]今夜はここまでにする。ただ——次に話す時は、君の了解を取ってからにする。約束する」
蓮を見て言った。蓮に向かって言った言葉だった。
それだけ言って、柊は夜道を歩いていった。深緑の髪が街灯の下で静かに遠ざかる。
残された二人の間に、しばらく沈黙があった。
朱音がコートの袖を少し引いた。
「[gentle]……歩きましょう」
* * *
住宅街の夜道は静かだった。
二人で並んで歩いた。どちらも喋らなかった。遠くでバイクが走っていく音。どこかの家から夕飯の匂い。普通の水曜日の、普通の夜。
蓮は歩きながら、さっきの汐莉の顔を思い出していた。あのニコニコした顔。目が笑っていなかった。サンプルさん。大切なサンプル。
しばらくして、蓮は立ち止まった。
「[sad]……朱音さん」
「はい」
「[sad]俺、普通の日常に戻れる気がしなくなってきた」
言葉にしたのは初めてだった。
朱音が少し止まった。蓮の横顔を見た。
見ればわかった。スキルを使わなくても。蓮が本当に怖がっている顔というのを、朱音は初めて見た。
「[gentle]……私がいますわ」
短く言った。
蓮が少し間を置いてから返した。
「[serious]だから怖いんだよ」
朱音は黙った。
蓮の言いたいことがわかった。自分のせいで巻き込まれるかもしれない、という意味だと。怖いのは自分のことじゃなくて、朱音のことだと。
何か言おうとした瞬間、蓮のスマホが鳴った。
二人とも画面を見た。
差出人:マリッジ・コネクト
『南波蓮様。特別プログラムの詳細をお知らせします。次回パーティーは来週金曜。参加必須とさせていただきます』
「参加必須」
蓮と朱音が同時に顔を上げた。目が合った。
さっきまでの不安が、少し変わった。不安より先に、怒りが来た。
「[serious]……行きます。一緒に」
「[serious]うん。行く」
二人は夜道に立ったまま、しばらくスマホの画面を見ていた。
来週金曜。「参加必須」という言葉が、暗い画面の中で光っていた。