クズの本懐 ~秘められた恋のゆくえ~
優等生の仮面をかぶった女子高生・安楽岡花火には、誰にも言えない秘密がある。想いを寄せる相手は、担任教師の鐘井鳴海——かつて「お兄ちゃん」と呼び、結婚を約束した幼い日の初恋の人。決して届かないその想いを胸に秘めながら、花火は完璧な「いい子」を演じ続けていた。
一方、同じクラスの粟屋麦は、色白で整った容姿を持つ人気者。だが彼にも、中学時代の家庭教師だった音楽教師・皆川茜への叶わぬ恋があった。
お互いの秘密を知る二人は、ある「三つの約束」を交わす。お互いを好きにならないこと。どちらかの恋が実ったら関係を終えること。そして——身体的な欲求は、どんなときでも受け入れること。周囲には理想のカップルに見える二人の、偽りの恋人関係。それは寂しさを埋めるための、危うく脆い共犯関係だった。
「クズ」と呼ばれても仕方ない、最低で、ずるくて、それでも止められない本物の恋。桜舞うアマノガワの街で、報われない想いを抱えた少年少女の、切なくも危険な恋の行方を描くラブストーリー。
クズの本懐 ~秘められた恋のゆくえ~ - 偽装カップルの三つの約束、最後の夜
教室の窓から差し込む光が、机の上をゆっくりと移動していく。
安楽岡花火は、配られたプリントの端を指先でつまみながら、窓の外を見ていた。校庭の桜はすっかり葉桜になり、濃い緑が風に揺れている。あの河川敷で泣いた日から、もう一週間が過ぎていた。
(早苗と、あんなことになってから)
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。早苗の涙、震える声、そして柔らかくて、でもどこか痛かったあの感触。思い出すたびに、自分がとても汚いものになった気がした。
でも、学校では笑わなければいけない。
完璧な優等生の安楽岡花火でいなければいけない。
「花火、聞いた? 来月の音楽発表会、皆川先生がピアノ弾くんだって」
後ろの席から、三戸が身を乗り出してきた。メガネの奥の目が、好奇心で輝いている。
「そうなんだ。皆川先生、ピアノ上手だもんね」
花火は、口角を上げて笑った。頬の筋肉が、少しだけつる。
「ほんとほんと。あの先生、ほんとに綺麗だし、ピアノも上手だし、ずるいよねー」
「ふふ、そうだね」
相槌を打ちながら、花火は心の中で別のことを考えていた。
(皆川茜)
その名前を思うだけで、胃のあたりが冷たくなる。あの人の笑顔。あの人の声。あの人の指先。全部が、花火の大切なものを壊していく。
(お兄ちゃんとのこと、茜先生に全部見透かされてる)
(麦のことも)
(私の、何もかもを)
「花火、大丈夫? また上の空だよ」
「え? あ、ごめん。ちょっと考え事してた」
「もしかして、麦くんのこと?」
三戸が、にやにやしながら肘でつついてくる。
「ち、違うよ。なんでそうなるの」
「だって花火と麦くん、この学校で一番お似合いだもん。何かあったら、私が相談乗るからね?」
「もう、ありがとう。でもほんとに何もないから」
花火は、笑ってごまかした。
お似合い。
その言葉が、今日はやけに胸に刺さった。
偽装カップル。
私たちは、お互いを好きにならない約束をしている。
どちらかの恋が実ったら、別れる約束をしている。
身体の欲求は、どんなときでも受け入れる約束をしている。
その三つの約束の上に、私たちの関係はある。
なのに。
最近、麦のことを考えると、胸の奥がもやもやする。
これは、なんだろう。
偽装のはずなのに。
好きにならないはずなのに。
――キーンコーンカーンコーン。
始業のチャイムが鳴った。
花火は、小さく息を吐いて、前を向いた。
今日も、一日が始まる。
完璧な優等生の、一日が。
放課後。
花火は、スマホを取り出して、メッセージアプリを開いた。
粟屋麦からのメッセージが、一通届いていた。
『今日、ミルパス行ける?』
短い、そっけない文面。
でも、麦から誘ってくるのは、少し珍しかった。
花火は、指を画面に置いて、返信を打った。
『いいよ。いつもの時間で』
送信。
すぐに既読がついた。
既読のまま、返事は来ない。
(麦も、何か考えてるのかな)
花火は、スマホをカバンにしまった。
教室を出て、下駄箱へ向かう。
廊下には、部活へ向かう生徒たちで溢れていた。
「花火、帰るの?」
あゆみが、小走りに追いかけてきた。
「うん。今日はちょっと用事があって」
「そっか。じゃあ、また明日ね」
「うん、また明日」
あゆみに手を振って、花火は靴を履き替えた。
外に出ると、初夏の匂いがした。
生ぬるい風が、スカートの裾を揺らす。
校門を抜けて、駅へ向かう道を歩く。
アマノオカ川の土手沿いを歩いていると、あの日のことが蘇ってくる。
早苗の告白。
泣きながら、私にすがってきた早苗。
「私じゃダメ?」
あの言葉が、耳の奥で繰り返される。
花火は、歩く速度を少しだけ速めた。
思い出したくないのに、思い出してしまう。
早苗の手の温かさ。
早苗の髪の匂い。
早苗の、涙の味。
(私は、早苗を裏切った)
(友達のままじゃいられなくなった)
(あんなこと、するべきじゃなかった)
でも、あの時の私は、誰かにすがりたかった。
誰でもよかった。
温かさが欲しかった。
その結果が、これだ。
花火は、唇を噛みしめた。
駅に着いて、電車に乗る。
二駅先のカガミガワ駅で降りて、商店街のサンリオ通りへ向かう。
夕暮れ前の商店街は、買い物客で賑わっていた。
八百屋の店先には、真っ赤なトマトが並んでいる。
魚屋からは、焼き魚の香ばしい匂いが漂ってくる。
花火は、その間を縫うように歩いた。
やがて、見慣れた看板が見えてくる。
喫茶「ミルパス」。
古い木の扉を押し開けると、カランカランとベルの音が鳴った。
「いらっしゃい」
店主の大庭マモルが、カウンターの奥から顔を上げた。白い髪を短く刈り込んだ、六十代の男性だ。この店のマスターで、口が固いことで有名だった。
「こんにちは」
花火は、軽く会釈をして、いつもの窓際の席を見た。
そこには、もう麦が座っていた。
色白の肌に、サラサラの髪。
窓から差し込む夕日を浴びて、その横顔が、やけに綺麗に見えた。
花火は、一瞬、足を止めた。
(なんで、こんなにドキドキしてるの)
(偽装の彼氏なのに)
花火は、小さく深呼吸してから、麦の向かいの席に座った。
「お待たせ」
「いや、俺も今来たところ」
麦は、コーヒーカップを手にしたまま、花火をちらりと見た。
「なんか飲む?」
「うん、アイスティーにする」
花火が言うと、麦はカウンターのマモルに向かって「アイスティーひとつ」 と声をかけた。
「あいよ」
マモルが、グラスに氷を入れる音が聞こえる。
花火は、テーブルの上に置かれたメニューを、指でなぞった。
特に見たいわけでもない。
ただ、沈黙が怖くて、手を動かしていた。
「花火」
麦が、静かに名前を呼んだ。
「なに?」
「いや、別に。……なんか、疲れてる?」
「そう見える?」
「見える」
麦は、コーヒーを一口飲んだ。
花火は、自分の手のひらを見つめた。
(疲れてる、か)
(疲れてないって言ったら、嘘になる)
(早苗のこと、茜先生のこと、お兄ちゃんのこと)
(全部、抱え込んで、押しつぶされそう)
「……麦は、疲れてないの?」
花火が聞くと、麦は少しだけ眉を動かした。
「どうだろうな」
「どうだろうな、って」
「自分でも、よくわかんない」
麦は、窓の外を見た。
商店街を行き交う人々の姿が、ガラス越しに流れていく。
花火も、つられて窓の外を見た。
夕日が、建物の影を長く伸ばしている。
「ねえ、麦」
花火は、テーブルの上のコースターを、指でくるくると回しながら言った。
「私たち、このままでいいのかな」
言ってしまってから、心臓が跳ねた。
(なんで、今、そんなこと)
(聞くつもり、なかったのに)
麦の手が、コーヒーカップを置く。
カチリ、と小さな音がした。
麦は、黙っていた。
花火の方を向いているのに、目が合わない。
何かを言おうとして、言葉を探している。
でも、見つからない。
そんな顔だった。
沈黙が、二人の間に降り積もる。
アイスティーのグラスが、汗をかいて、テーブルに水滴の輪を作っていく。
(答えられないんだ)
(麦も、私と同じ)
(この関係に、違和感を感じてる)
花火は、麦の沈黙を、そう受け取った。
偽装のはずなのに。
お互いを好きにならないはずなのに。
なのに、今、私たちは、本音を隠せなくなっている。
隠したいのに、隠しきれない。
そんな空気が、確かにあった。
「……ごめん、変なこと聞いて」
花火は、無理に笑った。
「忘れて」
「いや」
麦が、口を開いた。
「俺も、同じこと考えてた」
花火は、顔を上げた。
麦の目が、まっすぐに花火を見ていた。
「このままでいいのか、って」
「……麦も?」
「ああ」
麦は、短く頷いた。
それ以上は、何も言わなかった。
でも、その一言で、花火の胸の奥が、じわりと温かくなった。
(麦も、同じことを考えてた)
(偽装のはずなのに、私たち、同じことで悩んでる)
それが、嬉しかった。
嬉しいのに、苦しかった。
だって、この関係は、偽物なのに。
偽物の関係なのに、本物の悩みを共有してる。
その矛盾が、花火の心をぐちゃぐちゃにした。
その時だった。
カランカラン、とベルの音がして、店の扉が開いた。
花火は、反射的にそちらを見た。
そして、固まった。
「あら、奇遇ね」
皆川茜が、立っていた。
薄いベージュのカーディガンを肩にかけて、白いワンピース。
清楚で、可憐で、誰からも好かれる音楽教師の姿。
でも、その目だけが、笑っていなかった。
「花火ちゃん、麦ちゃん。仲良くデート?」
茜は、そう言いながら、二人のテーブルに近づいてきた。
「茜先生、こんにちは」
花火は、反射的に優等生の笑顔を作った。
「……どうも」
麦は、明らかに動揺していた。
コーヒーカップを持つ手が、わずかに震えている。
(麦、茜先生のこと、まだ好きなんだ)
(顔に、出てる)
花火は、麦の横顔を見て、胸がチクリと痛んだ。
茜は、花火の隣に立つと、身をかがめて、耳元に顔を寄せた。
「この前、鐘井先生と楽器店に行ってきたの」
花火の心臓が、大きく跳ねた。
「とても楽しかったわ。先生、ピアノの前で、すごく嬉しそうで」
茜の声は、花火にだけ聞こえるように、小さく、甘く、そして毒を含んでいた。
「今度は、一緒にコンサートに行く約束もしたのよ」
花火の指先が、冷たくなっていく。
(お兄ちゃんと、茜先生が)
(楽器店に行って、コンサートの約束)
(そんなの、聞きたくなかった)
花火の顔から、笑みが消えていく。
自分でも、表情が変わっていくのがわかった。
「……そうなんですか」
花火は、声が震えないように、必死に平静を装った。
「ええ。とっても楽しかったわ」
茜は、満足そうに微笑むと、今度は麦の隣に移動した。
「麦ちゃん、最近元気ないみたいね」
茜は、麦の隣に座ると、その肩に手を置いた。
「何かあったら、相談に乗るわよ。先生だもの」
茜の白い指が、麦の肩を、ゆっくりと撫でる。
麦は、体を強張らせた。
でも、その手を振り払えない。
花火は、その光景を、ただ見ていることしかできなかった。
胃が、きりきりと痛む。
(麦、振り払ってよ)
(その手、嫌なんでしょ)
(なのに、どうして)
茜は、花火の視線に気づくと、にっこりと笑った。
「花火ちゃんも、困ったことがあったら、いつでも言ってね」
その笑顔は、天使のように優しかった。
だからこそ、怖かった。
「それじゃあ、先生はこれで。お邪魔したわね」
茜は、立ち上がると、二人に手を振って、店を出ていった。
カランカラン、とベルの音が、やけに大きく響いた。
茜が去った後。
二人の間に、重い沈黙が戻ってきた。
さっきまでの、お互いの本音を探り合うような沈黙とは、違う。
もっと、苦くて、息苦しい沈黙。
花火は、アイスティーのグラスを、両手で握りしめた。
冷たい。
指先から、冷たさが体の中に広がっていく。
(茜先生は、わかってる)
(私が、お兄ちゃんのことを好きだって)
(だから、わざと、あんな話を)
花火は、唇を噛んだ。
「……花火」
麦が、ぽつりと言った。
「……なに」
「俺、ずっと勘違いしてたのかもしれない」
花火は、麦の顔を見た。
麦は、テーブルの上のコーヒーカップを見つめていた。
「茜先生のこと、都合よく見てただけなのかも」
麦の声は、小さく、掠れていた。
「中学の頃の家庭教師のイメージのまま、ずっと、勝手に理想を押し付けてただけなのかも」
花火は、何も言えなかった。
ただ、麦の横顔を見つめることしかできなかった。
(麦、茜先生への想いを、見つめ直そうとしてる)
(ずっと好きだった人を、疑い始めてる)
それは、麦にとって、どれほど辛いことだろう。
花火には、想像もつかなかった。
「……花火は、さ」
麦が、花火の方を向いた。
「鐘井先生のこと、どう思ってる?」
花火の心臓が、ドクンと跳ねた。
(お兄ちゃんのこと)
(私、お兄ちゃんのことを、どう思ってる?)
花火は、自分の胸に手を当てた。
(好き)
(大好き)
(でも、それって、本当に恋なのかな)
(小さい頃から、お兄ちゃんって呼んで、甘えてきて)
(その延長で、好きって思ってるだけなんじゃないの?)
花火の頭の中に、鳴海の笑顔が浮かぶ。
幼い頃、一緒に遊んでくれた鳴海。
泣いていると、頭を撫でてくれた鳴海。
「花火は、俺の妹みたいなもんだからな」
そう言って笑ってくれた、あの日の鳴海。
(お兄ちゃんは、私のことを妹としか見てない)
(私も、お兄ちゃんのことを、お兄ちゃんとしか見てないのかもしれない)
(恋だって、思い込んでるだけなのかもしれない)
花火は、自分の心の奥底を、初めて覗き込んだ。
「……わかんない」
花火は、正直に答えた。
「私も、お兄ちゃんのことを、都合よく見てただけなのかも」
その言葉を口にした瞬間、花火の目から、涙が溢れそうになった。
(違う)
(そんなこと、ない)
(お兄ちゃんへの想いは、本物)
心のどこかで、別の声が叫んでいる。
でも、もう一人の自分が、冷静に言う。
(本物かどうかなんて、誰にもわからない)
(私自身にも)
花火は、下を向いた。
涙が、テーブルの上に落ちそうになって、慌てて手の甲で拭った。
「……ごめん」
「なんで謝るんだよ」
「だって、こんな話、するつもりじゃなかった」
「俺が聞いたんだろ」
麦の声は、優しかった。
花火は、顔を上げられなかった。
二人の間に、また沈黙が流れる。
でも、それは、さっきまでの沈黙とは違っていた。
偽装では説明できない、何かが、二人の間に確かに存在していた。
店を出ると、外はすっかり暗くなっていた。
商店街の街灯が、オレンジ色の光を落としている。
「じゃあ、また明日」
「おう」
駅前で、二人は別れた。
麦の背中が、人混みの中に消えていく。
花火は、それを見送ってから、ゆっくりと歩き出した。
スマホが、カバンの中で震えた。
花火は、立ち止まって、スマホを取り出した。
画面を見て、心臓が縮む。
絵鳩早苗からのメッセージだった。
『今夜、話したいことがあるの。えっちゃんの気持ち、ちゃんと聞かせて』
花火は、その文字を、何度も読み返した。
(早苗)
(私の気持ち、聞かせて)
(私、早苗に、なんて答えればいいの)
花火は、スマホを握りしめたまま、しばらく動けなかった。
その時、もう一度、スマホが震えた。
今度は、粟屋麦からだった。
『さっきはごめん。ちゃんと話したい』
花火は、二つのメッセージを、交互に見つめた。
早苗と、麦。
二人の顔が、頭の中に浮かぶ。
早苗の、泣きながらの告白。
麦の、真剣な眼差し。
(私は、どっちにも、ちゃんと向き合わなきゃいけない)
(逃げちゃ、ダメだ)
花火は、深呼吸をした。
そして、早苗に返信を打った。
『わかった。今夜、話そう』
送信。
すぐに既読がついて、早苗から返事が来た。
『ありがとう。待ってるね』
花火は、麦にも返信を打った。
『うん。私も、ちゃんと話したい』
送信。
麦からは、すぐには返事が来なかった。
花火は、スマホをカバンにしまい、家路を急いだ。
夜風が、火照った頬を冷やしていく。
自室に戻った花火は、電気もつけずに、ベッドに倒れ込んだ。
スプリングが、ぎしりと軋む。
天井を見つめる。
暗い。
カーテンの隙間から、外の街灯の光が、細く差し込んでいる。
花火は、スマホを取り出して、早苗からのメッセージを読み返した。
『えっちゃんの気持ち、ちゃんと聞かせて』
その言葉が、胸に重くのしかかる。
(私の気持ち)
(早苗に、どう説明すればいいの)
(あの夜のことは、間違いだった)
(でも、早苗のことを、嫌いになったわけじゃない)
(友達でいたい)
(でも、もう、前みたいな友達には、戻れない)
花火は、スマホを胸に当てた。
冷たい画面が、心臓の鼓動を伝えてくる。
窓の外を見る。
街灯の光が、カーテン越しに、ぼんやりと滲んでいる。
花火は、頭の中で、偽装カップルの三つの約束を繰り返した。
お互いを好きにならないこと。
どちらかの恋が実ったら、別れること。
身体的な欲求は、どんなときでも受け入れること。
(好きにならない)
(もう、守れてない)
麦のことを考えると、胸が苦しい。
これは、偽装の感情じゃない。
(恋が実ったら、別れる)
私の恋は、実らない。
お兄ちゃんは、茜先生のものだから。
(身体的な欲求は、受け入れる)
早苗と、一線を越えてしまった。
あれは、欲求だったの?
それとも、ただの寂しさ?
三つの約束。
どれも、もう、守れない。
守れる気がしない。
花火は、スマホを握りしめた。
「……この約束、いつか終わる日が来るのかな」
呟いた声は、暗い部屋に、小さく溶けていった。
その時だった。
スマホが、手の中で震えた。
花火は、びくりと体を震わせて、画面を見た。
差出人は、皆川茜。
『花火ちゃん、週末またお話しましょうね』
たった一文。
それだけのメッセージが、花火の背筋を凍らせた。
(茜先生)
(まだ、終わってない)
(あの人は、これからも、私を揺さぶり続ける)
花火は、スマホを伏せた。
画面の光が、消える。
部屋が、また、暗くなる。
心臓の音だけが、やけに大きく聞こえた。
ドクン。
花火は、目を閉じた。
まぶたの裏に、茜の笑顔が浮かぶ。
麦の真剣な眼差し。
早苗の涙。
鳴海の、遠い背中。
全部が、ぐちゃぐちゃに混ざって、花火の心を締め付けた。
(助けて)
(誰か、助けて)
でも、その声は、誰にも届かない。
静かな夜が、花火の部屋を、冷たく包み込んでいた。Noveliaとは?
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