夕焼けが逆さに落ちる日 ~全員、性別反転につき~
夕焼けが逆さに落ちる日 ~全員、性別反転につき~
千燈ゆうひは、長い茶髪に黄色いメッシュ、夕焼けのグラデーションの瞳を持つ高校生VTuber。バーチャルタレントグループ「Vuisupo!」のメンバーで、毎日のように仲間と配信をして過ごしている。自分ではのんびり屋で優しいと思っているけれど、みんなからは「うるさいし元気すぎ」と言われる。ある日、配信が終わったあと、休憩室で古い鏡を見つける。そこには「性別反転」と書かれたメモが貼られていた。冗談だと思ったゆうひは、鏡に向かって叫ぶ。「女の子ばっかりで飽きたよ——一度でいいから男の子になってみたい!」すると明かりが消え、鏡の中の自分がニヤリと笑った。翌朝、ゆうひは違う体で目を覚ます。声は低く、胸は平ら、肩幅は広い。スマホは仲間からのメッセージで爆発しそうだった。「ゆうひ、助けて!私、男になっちゃった!」「え、私も?」「待って、まさか全員の性別が反転した……?」Vuisupo!のメンバー全員が、呪いで異性になってしまったのだ。そしてなぜか、元に戻す方法を探す役目を押しつけられたのはゆうひだった。女の子は男の子に、男の子は女の子に。トイレにも行
夕焼けが逆さに落ちる日 ~全員、性別反転につき~ - 鏡の向こうの真実と、3週間のタイムリミット
校舎の裏手に回ると、空気が変わった。
生ぬるい風が、ひゅう、と旧校舎の隙間から吹き抜ける。ネオ・シブヤ学園の旧校舎は、取り壊し予定の三階建てで、窓という窓に木の板が打ち付けられていた。
「……ここ、やっぱり入るの?」
千燈ゆうひは、男の子の体になった自分の腕をさすった。茶色の長い髪に黄色いメッシュ。上は紫、下はオレンジの夕日みたいなグラデーションの瞳が、不安そうに揺れている。呪いで性別が反転してから、一週間。声は低くなり、胸は平らで、肩幅は広い。それでも中身は、マイペースでおっとりした女子高生のままだった。
「当たり前でしょ。さつきさんがここに来いって言ったんだから」
プラチナブロンドのショートヘア。片側だけ三つ編みにして銀のヘアピンで留めている。夜空のような紺色の瞳。星宮ねおんは、男の子の体になっても、その瞳は星が瞬くようにキラキラしていた。ただし身長は百七十五センチ近くまで伸びて、肩幅もがっしりしている。
「でも、立入禁止区域だよ? 見つかったら怒られないかな」
「あんた、今更なに言ってるの。呪いの方がよっぽど怒られるわよ」
「うーん、そうなんだけど」
「ゆうひ先輩、大丈夫ですよ。僕もついてますから」
柔らかいミルクティーブラウンのふわふわショート。琥珀色の丸い大きな瞳。神楽坂るりは、元々グループで唯一の男の子だった。でも、呪いで女の子の体になってしまった。今は女の子なのに「僕」と言うので、初めて会った人はびっくりする。
「るりちゃん……うん、ありがとう」
ゆうひは、るりの頭をぽんぽんと撫でた。ふわふわの髪が、手のひらに柔らかく触れる。
「ちょっと、なに撫でてるのよ。さっさと行くわよ」
ねおんが、旧校舎の入り口の扉に手をかけた。
ギィィ……
錆びた音が、静かな裏庭に響いた。
中は、思ったより暗かった。
電気はつかない。窓は板で塞がれているから、昼間なのに薄暗い。廊下の床はほこりが積もっていて、一歩踏み出すたびに、ぷわっと白い粉が舞った。
「うわ、ほこりすごい……」
「けほっ、けほっ」
るりが小さく咳き込んだ。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫です。ちょっと、むせただけなので」
「二人とも、うるさいわよ。こんなところで騒いでたら、誰かに見つかるわ」
「ねおん、声、震えてない?」
「は? 震えてないわよ。あんたこそ、さっきからびくびくしてるじゃない」
「だって、暗いし、ほこりっぽいし、なんか変な音するし……」
「変な音?」
ねおんが、ぴたっと足を止めた。
……カタン。
どこか遠くで、何かが動く音がした。
「……今の」
「気のせいよ。古い建物だから、風で何かが揺れただけ」
ねおんの声が、少しだけ早口になった。
「ねおん、もしかして怖い?」
「怖くねーよ! あんた、そういうこと言ってると置いてくわよ!」
ねおんは男の子の体を活かして、ずんずん先を歩いていく。でも、足音が響くたびに、肩がぴくりと跳ねていた。
(ねおんも、怖いんだ)
ゆうひは、くすっと笑った。
体が変わっても、中身は変わらない。
ねおんは、相変わらずの強がりで、相変わらずの優しさを持っている。
「……なに笑ってるのよ」
「えへへ。ねおんがかわいいなって」
「はあ!? あんた、今なんて言った!?」
ねおんの声が、廊下に響き渡った。
「ご、ごめんごめん。声が大きかったね」
「あんたの声の方が大きいわよ! ほんと、この声、反転しても治らないのね!」
「えへへ。地声が大きいのは、呪いでも治らないみたい」
「呆れたわ……」
ねおんはため息をついた。でも、その口元は少しだけ緩んでいた。
「あの、お二人とも、仲が良くて素敵です」
るりが、後ろからにこにこしながら言った。
「な、なに言ってるのよ。別に仲良くなんかないわ」
「えー? 仲良いよ。ねおんと私は、親友だもん」
「……親友とか、そういうの、やめてくれない?」
「なんで? 嬉しいのに」
「嬉しくないわよ。恥ずかしいから」
「ねおん、顔赤いよ」
「赤くない! 暗いからそう見えるだけよ!」
「ふふ。はいはい」
ゆうひは、ねおんの背中をぽんと叩いた。
「……触んないで」
ねおんは、ぶっきらぼうに言ったけど、振り払いはしなかった。
旧校舎の一階を抜け、階段を上がる。
一段、一段、木の階段がぎしぎしと鳴った。
「さつきさん、どこにいるんだろう」
「二階の控え室って言ってたわ」
「控え室……あの鏡があった場所の近く?」
「さあ。でも、あの鏡はもう封印されてるんでしょ」
「うん。さつきさんが、運営事務局に運んだって言ってた」
「じゃあ、なんでまた旧校舎に?」
「わかんない。でも、話があるって」
「……怪しいわね」
「ねおん、さつきさんは味方だよ。私、信じてる」
「あんたはすぐ信じるわね」
「だって、さつきさん、いつも私たちのことを影で支えてくれてるもん」
「……まあ、それは否定しないけど」
二階に着いた。
廊下の突き当たりに、一つの部屋があった。扉が少しだけ開いていて、中から薄暗い光が漏れている。
「ここかな」
ゆうひが、そっと扉を押し開けた。
部屋の中には、机と椅子が数脚。窓は板で塞がれているけど、その隙間から細い光が差し込んでいた。
そして、部屋の中央に——。
「遅かったな」
長い黒髪を一つに結んで、切れ長の翡翠色の瞳。霧島さつきが、窓際に立っていた。
さつきは、元々は男性だった。呪いで女の子の体になったけど、身長は百七十五センチのままで、すらりとしている。黒いスーツを着こなしていて、左頬には小さな傷跡があった。
「さつきさん、こんにちは」
「ああ。よく来たな」
さつきの声は、低くて落ち着いていた。女の子の体なのに、口調は男性のままなので、初めて会う人は混乱する。
「さつきさん、その髪、似合ってますね。ポニーテール、きれい」
「……お前、相変わらずだな」
さつきは、ほんの少しだけ口元を緩めた。
「それで、話ってなんですか?」
ねおんが、一歩前に出た。
「まあ、座れ。長くなる」
さつきは、机の前の椅子を指した。
三人は、ほこりっぽい椅子に腰掛けた。
「まず、単刀直入に聞く」
さつきが、ゆうひをまっすぐ見た。
「君が、呪いの発端者か?」
「えっ……」
ゆうひの体が、びくっと跳ねた。
「あの鏡に向かって、性別反転の願いを叫んだのは、君だな?」
「わ、私が……はい。私が、鏡に向かって叫びました。でも、冗談のつもりで……」
「冗談だろうと、呪いは発動した。そして、君の仲間全員に波及した」
「……はい」
ゆうひは、うつむいた。
(私のせいだ。私があんなこと言わなければ、みんな巻き込まれなかった)
胸の奥が、ぎゅっと痛くなった。
「さつきさん、言い方がきついです」
るりが、ゆうひの隣で、はっきりした声を出した。
「ゆうひさんだけのせいじゃないですよ。あの鏡を置いた人が一番悪いんです」
「……るりちゃん」
「それに、ゆうひさんは、みんなを元に戻そうと、ずっと頑張ってるじゃないですか」
るりの琥珀色の瞳が、まっすぐさつきを見ていた。
「……そうだな。すまない。少し、感情的になった」
さつきは、小さく息を吐いた。
「だが、事実は事実だ。君が発端者であることは間違いない」
「……はい。ごめんなさい」
ゆうひの目に、涙がにじんだ。
「泣くな。責めているわけじゃない」
「でも……」
「呪いを解くためには、正確な情報が必要だ。だから確認しただけだ」
さつきは、古びた手帳を取り出した。
「これから、リフレクト・ミラーの仕組みについて話す。よく聞け」
「……はい」
ゆうひは、涙をぬぐって、顔を上げた。
「リフレクト・ミラーは、強い感情が込められた場所に自然発生する。今回の鏡は、旧校舎の控え室に置かれていた。誰がいつ置いたかは不明だ」
さつきの声が、静かな部屋に響く。
「呪いが発動すると、鏡の所有者と、その関係者全員に性別反転が波及する。これが『呪いの拡散現象』だ。君たち全員が反転したのは、そのためだ」
「じゃあ、私たち以外にも、反転してる人がいるんですか?」
「いや。今回は、君たちぶいすぽっ!のメンバーに限定されている。なぜなら、鏡の所有者は君だからだ」
「私が……所有者?」
「ああ。君が鏡に触れ、願いを叫んだ。それによって、君が鏡の所有者として認定された。だから、君と強い絆で結ばれた者——つまり、ぶいすぽっ!のメンバー全員に波及した」
「そ、そうなんですか……」
「そして、呪いを解く方法は、一つだけだ」
さつきが、一拍置いた。
「本当の気持ちを、誰かに伝えることだ」
「本当の、気持ち……」
「そうだ。ただし、誰に、何を、どう伝えるかは、不明だ」
「えっ、それじゃあ……」
「手がかりは、鏡に貼られていた紙の裏に、もう一つの呪文が隠されていることだけだ」
さつきは、手帳を開いた。
「『ジェンダー・リバーサル』と書かれた紙の裏面。そこに、解呪の呪文が記されている可能性が高い。だが、現在その紙は、私が厳重に保管している。解読には時間がかかる」
「呪文の解読……」
「私が調べている。だが、古い文字で書かれていて、解読が難しい」
「私、ちゃんと呪文を解読できるかな……」
ゆうひが、不安そうにつぶやいた。
「大丈夫ですよ、ゆうひさん。僕たちがいますから。一人じゃないです」
るりが、ゆうひの手をそっと握った。
「るりちゃん……」
「それに、さつきさんも、ちゃんと調べてくれてるじゃないですか」
「……ああ。私に任せろ」
さつきが、短くうなずいた。
「でも、時間がない」
「時間が、ない?」
「ああ。呪いには、タイムリミットがある」
さつきの翡翠色の瞳が、鋭く光った。
「三週間だ」
「三週間……」
「三週間以内に、本当の気持ちを誰かに伝えられなければ、反転した性別が定着する。つまり、二度と元の体に戻れなくなる」
「えっ……」
ゆうひの頭が、真っ白になった。
(三週間。三週間しかないの?)
「それって、みんなも……?」
ねおんの声が、少し震えていた。
「ああ。君たち全員だ。呪いが定着すれば、全員が反転した性別のまま生きることになる」
「そんな……私のせいで、みんなが……」
「ゆうひ」
ねおんが、ゆうひの肩を掴んだ。
「だったら、さっさと見つければいいだろ。呪文を解読して、本当の気持ちとやらを伝えればいい」
「ねおん……」
「あんたが落ち込んでる暇があったら、動きなさい。私たちがついてるわ」
「……うん。ありがとう」
ゆうひは、ねおんの手を握り返した。
ねおんの手は、男の子の手になっていて、大きくて、温かかった。
「……それから、もう一つ、話しておくことがある」
さつきが、窓際に歩いていった。
「五年前、私は、同じリフレクト・ミラー事件に遭遇したことがある」
「五年前……」
「当時、私には、親友がいた」
さつきの声が、少しだけ低くなった。
「そいつは、リフレクト・ミラーにかかった。性別が反転した。そして、呪いの解き方を知らなかった私は、そいつの本当の気持ちを聞き出せないまま、時間を無駄にした」
「……」
「結果、呪いは定着した。そいつは、元の性別に戻れなくなった。そして、姿を消した」
「姿を……消した?」
「ああ。連絡も取れない。どこにいるのかもわからない」
さつきは、左頬の傷跡に手を触れた。
「この傷は、共鳴現象から、そいつを守ろうとしてつけられたものだ」
「共鳴現象……」
「呪いが進行すると、鏡が共鳴する。共鳴すると、もう一人の自分が実体化する。それは、反転した性別の自分——つまり、君なら男の子の姿をした、もう一人の自分だ」
「もう一人の、私……」
「そいつは、私を守ろうとして、実体化した影に傷つけられた。その時、私も傷を負った」
さつきは、淡々と語っていた。
でも、拳を握りしめていて、指先が白くなっていた。
「さつきさんは……ずっと、後悔してたんですね」
ゆうひの胸が、ずきんと痛んだ。
「……後悔など、していない。事実を述べただけだ」
「でも、その手帳、ずっと持ち歩いてるんですよね。それに、調査員になったのも……」
「お前には、関係ない」
さつきが、ぴしゃりと言った。
「……ごめんなさい」
「謝るな。私の過去は、どうでもいい。重要なのは、君たちが呪いを解くことだ」
「はい」
「それから、これから先、共鳴現象が起きる可能性がある。鏡が共鳴すると、もう一人の自分が実体化する。そうなれば、戦闘になる可能性もある。気をつけろ」
「戦闘……」
「ああ。実体化した影は、本体を消して、自分が取って代わろうとする。そうなれば、元の体に戻るどころか、存在ごと消える」
「存在ごと……消える?」
ねおんの顔が、青ざめた。
「そうだ。だから、共鳴が始まったら、すぐに逃げろ。そして、私に連絡しろ」
「わかりました」
ゆうひは、拳を握りしめた。
(みんなを守らなきゃ。私が、絶対に守るんだ)
「……話は、以上だ。何か質問はあるか?」
「あの、さつきさん」
「なんだ」
「さつきさんは、その、五年前の親友さんに、本当の気持ちを伝えられなかったことを、今でも悔やんでるんですか?」
るりが、おそるおそる聞いた。
「……」
さつきは、しばらく黙っていた。
「……悔やんでいるかどうかは、どうでもいい。ただ、同じことを繰り返したくないだけだ」
「同じことを……」
「君たちには、絶対に、私と同じ思いをさせない。それだけだ」
さつきの声に、初めて、感情が混ざった。
「……さつきさん」
ゆうひの胸の奥が、じわりと温かくなった。
(さつきさんは、私たちを守ろうとしてくれてるんだ)
「ありがとうございます、さつきさん」
ゆうひは、深くお辞儀をした。
「礼を言われる筋合いはない。私は、運営の指示で動いているだけだ」
「でも、嬉しいです」
「……お前は、本当に、素直だな」
さつきは、小さくため息をついた。
「じゃあ、そろそろ行こう。こんな場所に長居は無用だ」
四人は、旧校舎を出た。
外の空気は、ほこりっぽくなくて、少しだけ冷たかった。
「あー、やっぱり外は気持ちいいね!」
ゆうひが、大きく伸びをした。
「声がでかいわよ。まだ学校の中なんだから」
「えへへ。ごめん」
「……じゃあ、私はこれで失礼する。呪文の解読が進み次第、連絡する」
「はい。お願いします」
さつきは、くるりと背を向けて、歩き出した。
その時だった。
——ピリッ。
空気が、裂けるような音がした。
「……なに?」
ゆうひの胸ポケットが、微かに光った。
「ゆうひ、それ……」
ゆうひが、胸ポケットから取り出したのは、小さな鏡の欠片だった。
あの夜、控え室で拾った、リフレクト・ミラーの欠片。
「光ってる……」
欠片が、青白く、ぼうっと光っていた。
「まずい」
さつきが、振り返った。
その顔が、強張っていた。
「共鳴が始まった……急げ」
「なんだよ、それ!」
「説明してる暇はない。とにかく、ここを離れるぞ」
「でも、さつきさん、共鳴って、鏡が共鳴すると、もう一人の自分が……」
「ああ。だから、急げ」
「うわあああ! なんか、旧校舎の奥から、冷たい風が!」
ひゅううう……
旧校舎の窓の隙間から、冷たい風が吹き出してきた。
「走れ!」
四人は、校舎の裏手を駆け出した。
「ま、待ってください、足がもつれます……!」
るりが、女の子の体で、よろよろと走る。
「るりちゃん、こっち!」
ゆうひが、るりの手を引いた。
「ありがとうございます、ゆうひさん……!」
「ゆうひ、前見て走れ!」
「わかってる!」
四人は、校舎の角を曲がり、校門の方へ走った。
後ろから、旧校舎が、きしむ音が聞こえた。
まるで、何かが、追いかけてくるような——。
「はあ、はあ、はあ……」
校門を出て、ようやく足を止めた。
「……もう、大丈夫か?」
さつきが、旧校舎の方を振り返った。
「な、なんだったの、今の……」
「共鳴の前兆だ。鏡の欠片が、旧校舎に残った呪いの残滓と反応した」
「呪いの、残滓……」
「あの旧校舎には、まだ呪いの力が残っている。君が持っている鏡の欠片が、それと共鳴したんだ」
「じゃあ、この欠片、持ってちゃダメなんですか?」
「いや、欠片は、呪いを解く手がかりになるかもしれない。捨てるな」
「でも、また共鳴したら……」
「その時は、私を呼べ。必ず、すぐに駆けつける」
「……はい」
ゆうひは、鏡の欠片を、そっとポケットにしまった。
「それでは、今度こそ失礼する。君たちも、気をつけて帰れ」
「さつきさんも、お気をつけて」
さつきは、今度こそ、背を向けて歩き去った。
「……さつきさん、最後まで、かっこよかったね」
「あんた、緊張感ないわね」
「えへへ。だって、さつきさんがいるから、なんとかなる気がして」
「……まあ、あの人、頼りにはなるわね」
「うん。私、絶対、呪いを解くから」
ゆうひは、夕焼けの空を見上げた。
空は、オレンジと紫が混ざって、ゆうひの瞳と同じ色をしていた。
「ねえ、帰り道、カフェに寄ってかない? ラフレシアのパフェ食べたい」
「あんた、さっきまで青ざめてたのに、もう食欲の話?」
「だって、お腹すいたんだもん」
「……呆れたわ」
「るりちゃんも、行こう!」
「はい。僕も、甘いものが食べたいです」
「じゃあ、決まり! ラフレシアにレッツゴー!」
「声がでかいわよ!」
三人は、渋谷の街へ向かって歩き出した。
夕日が、三人の影を、長く伸ばしていた。
「……ねえ、ゆうひ」
「ん?」
「お前、さっき、震えてたろ」
「え? ばれてた?」
「ばれてたも何も、手が冷たかったわよ」
「えへへ。ちょっと、怖かったんだ」
「……別に、心配したわけじゃないけど」
「うん」
「お前が落ち込むと、俺まで調子狂うんだよ」
ねおんが、顔を赤らめて、ぶっきらぼうに言った。
「ねおん……」
「だから、その、なんていうか……あんたは、笑ってる方が、らしいわ」
「……ありがとう、ねおん」
ゆうひは、ねおんの顔を見て、にっこり笑った。
その笑顔を見て、ねおんは、さらに顔を赤くした。
「べ、別に、お礼を言われるようなことはしてないわよ」
「えへへ。ねおんは、本当に優しいね」
「うるさい。それ以上言うと、置いてくわよ」
「あ、待ってよー!」
ゆうひは、ねおんの後を追いかけた。
(なんでだろ。ねおんの顔を見たら、胸がドキドキした)
ゆうひは、首を傾げた。
(男の子の体になったから、心臓の音が大きいのかな?)
「ゆうひ、早く来なさいよ!」
「はーい!」
ゆうひは、夕焼けの中を、ねおんとるりの元へ駆け出した。
その胸の奥で、小さな温かい何かが、静かに芽生え始めていた。
——でも、ゆうひは、まだ、その正体に気づいていなかった。
ただ、夕焼けの色が、いつもより少しだけ、きれいに見えた。
それだけのことだった。Noveliaとは?
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