夕焼けが逆さに落ちる日 ~全員、性別反転につき~
夕焼けが逆さに落ちる日 ~全員、性別反転につき~
千燈ゆうひは、長い茶髪に黄色いメッシュ、夕焼けのグラデーションの瞳を持つ高校生VTuber。バーチャルタレントグループ「Vuisupo!」のメンバーで、毎日のように仲間と配信をして過ごしている。自分ではのんびり屋で優しいと思っているけれど、みんなからは「うるさいし元気すぎ」と言われる。ある日、配信が終わったあと、休憩室で古い鏡を見つける。そこには「性別反転」と書かれたメモが貼られていた。冗談だと思ったゆうひは、鏡に向かって叫ぶ。「女の子ばっかりで飽きたよ——一度でいいから男の子になってみたい!」すると明かりが消え、鏡の中の自分がニヤリと笑った。翌朝、ゆうひは違う体で目を覚ます。声は低く、胸は平ら、肩幅は広い。スマホは仲間からのメッセージで爆発しそうだった。「ゆうひ、助けて!私、男になっちゃった!」「え、私も?」「待って、まさか全員の性別が反転した……?」Vuisupo!のメンバー全員が、呪いで異性になってしまったのだ。そしてなぜか、元に戻す方法を探す役目を押しつけられたのはゆうひだった。女の子は男の子に、男の子は女の子に。トイレにも行
夕焼けが逆さに落ちる日 ~全員、性別反転につき~ - 妹のいじめと、消えた親友――共鳴する鏡の悪夢
旧校舎を出た三人は、渋谷の街を歩いていた。夕方の空気が、ひんやりと肌に触れる。
「ねえ、るりちゃん。今日はこの後、時間ある?」
千燈ゆうひが振り返って言った。茶色の長い髪に黄色いメッシュ。上は紫、下はオレンジの夕日みたいなグラデーションの瞳が、柔らかく笑っている。男の子の体になっても、その笑顔は相変わらず太陽みたいに明るかった。
「え? あ、はい。大丈夫ですけど……」
神楽坂るりは、ふわふわのミルクティーブラウンの髪を揺らして、こくんと頷いた。琥珀色の丸い大きな瞳が、少しだけ不安そうに揺れている。元々は男の子だったのに、呪いで女の子の体になってしまった。今は女の子なのに「僕」と言うので、初めて会った人はびっくりする。
「ちょっと話したいことがあるんだ。ねおんも、いい?」
「あんたがそう言うなら、別にいいけど」
星宮ねおんは、プラチナブロンドのショートヘアを片側だけ三つ編みにして、銀のヘアピンで留めている。夜空のような紺色の瞳。男の子の体になって、身長も肩幅も大きくなった。でも、口調は相変わらずのツンデレだ。
「じゃあ、カフェ・ラフレシアに行こうよ。あそこなら個室があるし、ゆっくり話せるでしょ」
「……わかったわ」
三人は、渋谷駅から徒歩五分のカフェ・ラフレシアへ向かった。
カフェ・ラフレシアは、ぶいすぽっ!のメンバーがよく使う店だ。オーナーの田中さんは四十代の女性で、メンバーの事情をよく理解している。個室が三つあって、打ち合わせや雑談にちょうどいい。
「いらっしゃい。あら、ゆうひちゃんたち。今日は三人なのね」
「こんにちは! 個室、空いてますか?」
「ええ、空いてるわよ。一番奥の部屋を使って」
三人は、一番奥の個室に入った。
木のテーブルと、柔らかいソファ。壁には小さな観葉植物が飾られている。落ち着いた雰囲気の部屋だ。
「で、話って何?」
ねおんが、ソファに座りながら言った。
「うん。るりちゃんに、聞きたいことがあって」
ゆうひは、るりの隣に座った。
「僕に……ですか?」
「うん。るりちゃんって、なんでそんなに優しいのかなって。前から気になってたんだ」
「え……優しくなんて、ないですよ。僕なんて、ドジばっかりで……」
るりが、照れたように俯いた。耳まで真っ赤になっている。
「ドジなのと優しいのは別だよ。るりちゃんは、いつも誰かのことを気にかけてる。私、知ってるんだから」
「……ゆうひさん」
るりが、顔を上げた。
「……話しても、いいのかな」
「うん。無理にとは言わないけど、聞かせてほしいな」
るりは、少しだけ迷ってから、ゆっくりと口を開いた。
「僕には、三つ下の妹がいるんです」
「妹さんがいるんだ」
「はい。名前は、すみれって言います。今は中学三年生で……あの子が中学一年生のとき、いじめられてたんです」
「いじめ……」
ゆうひの表情が、きゅっと曇った。
「最初は、持ち物が隠されたり、靴を隠されたり。だんだんエスカレートして、机に落書きされたり、教科書を破られたり。……でも、あの子は、誰にも言えなかったんです。親にも、先生にも、僕にも」
るりの声が、少し震えていた。
「ある日、妹の部屋のゴミ箱から、破られた教科書を見つけたんです。それで、やっと気づきました。あの子が、学校で何をされてるのか」
「……るりちゃん」
「それから、僕は毎日、妹の教室まで迎えに行くようにしました。朝も、一緒に登校して。放課後も、必ず迎えに行って。あの子が、一人にならないように」
るりは、ぎゅっと拳を握った。
「僕が守るからって、毎日言い続けました。お前は一人じゃない、お兄ちゃんがついてるからって。……でも、本当は、僕も怖かった。いじめている子たちに、何か言われるんじゃないかって。でも、妹の泣き顔を見るよりは、ずっとマシだった」
「るりちゃん……」
「妹は、だんだん笑えるようになりました。いじめも、少しずつなくなりました。あの子は今、元気に学校に通ってます。……でも、あの時のことが、僕の原点なんです。誰かを守れる人間になりたいって、強く思ったのは」
るりは、顔を上げて、ゆうひを見た。
「それで、今、女の子の体になって、弱い立場の子の気持ちが、前よりわかるようになりました。女の子って、こんなに大変なんだって。……だから、今度は、僕がゆうひさんたちを守りたいんです」
「るりちゃん……」
ゆうひは、るりの手を、そっと握った。
「るりちゃんは、本当に強いね」
「え……?」
「だって、怖いのに、妹さんのために毎日戦ったんでしょ? それって、すごく強いことだよ。私、るりちゃんのこと、尊敬しちゃう」
ゆうひの目が、涙で潤んでいた。
「ゆうひさん……そんな、尊敬だなんて……」
るりも、目を赤くしていた。
「……あんたたち、泣きすぎよ」
ねおんが、そっぽを向いて言った。でも、その声は、いつもより柔らかかった。
「えへへ。だって、るりちゃんの話、感動しちゃったんだもん」
「……まあ、気持ちはわかるけど」
ねおんが、ちらりとるりを見た。
「るり。あんた、いい妹思いなのね」
「え……あ、ありがとうございます」
「別に褒めてないわよ。事実を言っただけ」
「ねおん、それ、褒めてるのと同じだよ」
「うるさいわね! あんたは黙ってなさい!」
「えへへ」
ゆうひは、笑いながら、るりの手をぎゅっと握り返した。
「るりちゃん。私、るりちゃんみたいな優しい子が仲間で、本当に良かった」
「……僕もです。ゆうひさんたちと出会えて、本当に良かった」
二人は、笑い合った。
その笑顔を見て、ねおんは、ふっと息を吐いた。
「……さて、そろそろ本題に入りましょう」
「本題?」
「さつきさんから連絡があったんでしょ。旧校舎の控え室に来いって」
「あ、うん。そうだった。昨日の帰りに、メッセージが来てて」
ゆうひは、スマホを取り出した。
『リフレクト・ミラーについて、話さなければならないことがある。明日、旧校舎の控え室に来てほしい。全員で来るように』
「全員で、って書いてあるね」
「……何か、あったのかしら」
ねおんの表情が、真剣になった。
「わからない。でも、さつきさんが、こんなに強い言い方をするなんて、よっぽどのことだと思う」
「……そうね。行きましょう。明日、旧校舎の控え室に」
「うん。るりちゃんも、一緒に行こう」
「はい。僕も行きます」
三人は、カフェを出た。
外は、もう暗くなっていた。
「じゃあ、また明日」
「ええ。気をつけて帰りなさいよ」
「はい。ゆうひさん、ねおんさん、また明日」
三人は、それぞれの家路についた。
ゆうひは、一人で渋谷の街を歩きながら、空を見上げた。
(るりちゃんの話、聞けてよかった)
胸の奥が、じんわりと温かかった。
(私も、誰かを守れる人になりたいな)
ゆうひは、ぎゅっと拳を握った。
——翌日。
放課後、ゆうひたちは、旧校舎の控え室に向かった。
「……また、ここに来るとはね」
「当たり前でしょ。さつきさんが呼んだんだから」
「でも、なんか、今日は空気が重い気がする……」
るりが、不安そうに言った。
「……気のせいじゃないわ。私も、感じる」
三人は、旧校舎の入り口をくぐった。
中は、相変わらず暗くて、ほこりっぽかった。
「さつきさん、いるかな」
「控え室でしょ。行くわよ」
三人は、廊下を進んだ。
控え室の前に着くと、扉が少し開いていた。
「さつきさん?」
「入れ」
中から、低い声が聞こえた。
三人は、控え室に入った。
霧島さつきは、部屋の中央に立っていた。黒髪をオールバックにしたクールなスタイル。切れ長の翡翠色の瞳。左頬には、小さな傷跡がある。性別反転して、今は女の子の体になっている。でも、口調は相変わらず男のままなので、初めて会った人は混乱する。
「来たか。……全員、揃っているな」
「さつきさん、お話って何ですか?」
「……まず、座れ。長い話になる」
三人は、古い椅子に座った。
さつきは、窓の外を見た。
「五年前のことを、話す」
「五年前……リフレクト・ミラー事件の、ですか?」
「ああ。私が、まだ高校生だった頃の話だ」
さつきは、ゆっくりと話し始めた。
「私には、詩織という親友がいた。明るくて、優しくて、誰からも好かれるような、そんな子だった」
「詩織さん……」
「ある日、詩織は、リフレクト・ミラーを見つけた。場所は、この旧校舎の控え室だった。……そう、今、私たちがいる、この部屋だ」
「この部屋で……」
ゆうひは、部屋の中を見回した。
「詩織は、鏡に貼られた紙に書かれた呪文を、軽い気持ちで唱えた。すると、次の日から、詩織の体に異変が起きた。……性別が、反転したんだ」
「詩織さんも、性別反転を……」
「ああ。当時の私は、呪いの知識なんて何もなかった。ただ、詩織が男の子の体になって、苦しんでいるのを、見ていることしかできなかった」
さつきの声が、少しだけ震えた。
「詩織は、助けてと言えなかった。本当の気持ちを、誰にも伝えられなかった。……私も、大丈夫としか言えなかった。大丈夫、きっと元に戻るから、と。でも、それは違った。呪いは、どんどん進行していった」
「……さつきさん」
「そして、ある夜。詩織は、この部屋で、鏡の光に溶けるように消えた。……私の目の前で」
「え……」
ゆうひの顔から、血の気が引いた。
「詩織は、本当の気持ちを伝えられないまま、消えた。残ったのは、私の左頬に刻まれた、この傷だけだった」
さつきは、左頬の傷跡に、そっと触れた。
「この傷は、共鳴の傷だ。詩織が消えた瞬間、呪いの力が私にも及んで、この傷が刻まれた。……以来、私は、リフレクト・ミラーの調査を続けている。あの時、聞けなかった言葉を、今度こそ聞くために」
「さつきさん……」
「今回こそは、絶対に、同じ過ちを繰り返さない。私は、そう誓ったんだ」
さつきは、ぎゅっと拳を握った。
「だから、君たちには、絶対に消えてほしくない。……君たちの本当の気持ちを、必ず聞き出す。それが、私の使命だ」
「……さつきさん、ありがとうございます。私、絶対に、呪いを解きます」
ゆうひは、まっすぐにさつきを見た。
「……ああ。頼むぞ、ゆうひ」
その時——。
ゴゴゴゴゴ……
部屋の奥から、地鳴りのような音が響いた。
「何!?」
「鏡だ……リフレクト・ミラーが!」
部屋の奥に置かれた古い姿見が、震えていた。
鏡面が、波打っている。
部屋の空気が、一気に冷え切った。
「来るぞ! 全員、下がれ!」
さつきが叫んだ瞬間——。
バリンッ!!!
鏡面が、激しく割れた。
いや、違う。
鏡面から、何かが、飛び出してきた。
「……なに、これ」
ゆうひは、言葉を失った。
鏡から出てきたのは、四人の人影。
性別反転した、ゆうひ、ねおん、るり、さつき——そのものの姿をした、分身だった。
「お前は、本当の気持ちを隠している」
分身ゆうひが、無表情で言った。
「お前は、本当の気持ちを隠している」
分身ねおんも、同じ言葉を繰り返した。
「お前は、本当の気持ちを隠している」
四人の分身が、一斉に、こちらを見た。
目が、真っ黒だった。
「な、なんなのよ、こいつら……」
「分身だ。呪いが、次の段階に入ったんだ。……今まで、呪いは受動的だった。だが、今、呪いは、能動的な敵を生み出した」
「敵……?」
「ああ。あいつらは、私たちの『隠している本当の気持ち』を、暴こうとしている。……そして、それを暴けなければ、私たちを消すつもりだ」
「消す……?」
「お前は、何を隠している?」
分身ねおんが、ねおんに近づいた。
「な、何も隠してないわよ!」
「嘘だ。お前は、隠している。お前は、ゆうひに、本当は——」
「黙れ!!」
ねおんが、分身ねおんに飛びかかった。
「ゆうひは悪くないだろ! あんたたち、なんでゆうひを責めるのよ!」
「お前こそ、ゆうひに言いたいことがあるはずだ」
分身ねおんが、片手で、ねおんの攻撃を受け止めた。
「な……」
「お前は、弱い」
分身ねおんは、ねおんの腕を掴んで、壁に投げ飛ばした。
ドゴッ!!
「ぐあっ!!」
ねおんの体が、壁に叩きつけられた。
「ねおん!」
「次は、お前だ」
分身ゆうひが、ゆうひに近づいた。
「や、やめてください!」
るりが、ゆうひの前に立ちはだかった。
「るりちゃん、ダメ!」
「お前も、隠している」
分身るりが、るりの肩を掴んだ。
「お前は、本当は、男に戻りたいと思っている。違うか?」
「え……」
「お前は、女の子の体に慣れようとしている。だが、心の奥では、元の体に戻りたいと願っている。それが、お前の本当の気持ちだ」
「……違う。僕は……」
「嘘をつくな」
分身るりが、るりの胸を突き飛ばした。
ドサッ!
「きゃっ……!」
るりが、床に倒れた。
「るりちゃん!」
「お前は、何を隠している?」
分身さつきが、さつきに近づいた。
「……私は、何も隠していない」
「嘘だ。お前は、五年前のことを、ずっと後悔している。詩織を助けられなかったことを、ずっと」
「……黙れ」
「お前の本当の気持ちは、『詩織に謝りたい』。違うか?」
「黙れと言っている!」
さつきが、分身さつきに向かって、呪いを跳ね返そうと手をかざした。
「無駄だ。お前の力では、私を倒せない」
分身さつきが、さつきの手を弾いた。
その瞬間——。
ピシッ。
さつきの左頬の古い傷が、裂けた。
「ぐっ……!」
傷から、血が滴り落ちた。
「さつきさん!」
「お前たちは、隠し続ければ、消える」
分身ゆうひが、無表情で言った。
「本当の気持ちを、伝えなければ、お前たちは、鏡の中に消える」
「……消える」
ゆうひは、震える足で、立ち上がった。
「……みんなを、守る!」
ゆうひは、叫んだ。
「私は、みんなを守る! 絶対に、消えさせない!」
「お前には、力がない」
分身ゆうひが、ゆうひの胸を、突き飛ばした。
ドンッ!
「うわっ!」
ゆうひは、床に倒れた。
「ゆうひ!」
「……私、弱い。みんなを守るって言ったのに、何もできない」
ゆうひの目に、涙が浮かんだ。
その時——。
「あ……?」
ゆうひの右手の甲に、鏡のような模様が、浮かび上がった。
「なに、これ……」
「呪いが、定着し始めている……」
さつきが、苦しそうに言った。
「あと数日で、戻れなくなる」
「戻れなくなる……?」
「ああ。呪いが完全に定着すれば、性別反転は、永遠に解けなくなる。……いや、それだけじゃない。お前たちは、存在ごと、消える」
「存在ごと……?」
ゆうひの体が、震えた。
「隠し続ければ、お前たちは消える」
分身ゆうひが、囁いた。
「本当の気持ちを、伝えろ。さもなければ、消えろ」
分身たちは、ゆっくりと、鏡面へと戻っていった。
「……待って。私の、本当の気持ちって、何?」
ゆうひの声は、届かなかった。
分身たちは、鏡の中に消えた。
部屋に、静寂が戻った。
「……みんな」
ゆうひは、倒れた仲間たちを見た。
ねおんが、壁にもたれて、ぐったりしている。
るりが、床に倒れて、動かない。
さつきが、左頬の傷を押さえて、血を流している。
「……私の、本当の気持ち」
ゆうひは、自分の胸に、手を当てた。
ドキドキと、心臓が脈打っている。
(私の、本当の気持ちって、なんだろう)
ゆうひは、まだ、その答えを、言葉にできなかった。
ただ、倒れた仲間たちを見て、胸が張り裂けそうだった。
「……みんな、ごめん。私、何もできなくて」
ゆうひの涙が、床に落ちた。
旧校舎の控え室に、冷たい風が、吹き抜けた。
リフレクト・ミラーは、静かに、そこにあった。Noveliaとは?
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