セーラースターダスト・ルナティックラプソディ 〜火星の熱き吐息〜
大学生の火野レイは、セーラーマーズとして悪と戦う日々。神社で巫女のバイトをしながら、いつもは気が強くて、男に言い寄られてもピシャリと跳ねのける。でも、最近レイの頭の中は、大学の同級生でおとなしい天文マニアのツカサくんでいっぱいだった。
ある日、レイはツカサとふたりきりで星空を見に行く約束をする。嬉しさでドキドキが止まらないレイの前に、新しい敵エロースが現れる。エロースは人間の隠れた恋心や性欲を暴きだし、理性をふき飛ばす力を持っていた。その力はセーラー戦士にも効いてしまい、レイの心とカラダはツカサへの想いを爆発させてしまう。
ツカサくん、触って……もっと……私、もう限界なの
いつもは絶対に言わない甘い言葉と、自分から重ねるくちびる。戦いのあと、こっそり秘密の逢瀬を重ねるレイ。でも、彼女の独占欲はどんどんエスカレートしていく。ツカサが他の女の子と話しただけで、めちゃくちゃ嫉妬して、エロースの力に飲みこまれそうになる。そのたびに、ツカサは優しく抱きしめて、レイを正気にもどす。
バカ、離れちゃダメだって言っただろ……お前は俺が守る
戦いと恋がぐちゃぐちゃにまざりあい、ヒートアップする
セーラースターダスト・ルナティックラプソディ 〜火星の熱き吐息〜 - 覚醒の炎よ、愛から生まれろ――廃工場の逆転劇
「[cold]覚悟はできたか」
冷たい指が、レイの顎を掴んだ。
視界の端で、ツカサが血まみれで倒れている。動かない。
(もう、終わりなんだ)
レイは目を閉じた。
その時。
「[whispers]……レイ、を……守る……」
かすかな声。
レイの瞼が、弾かれたように開いた。
ツカサの指先が、コンクリートの床をかすかに掻いている。血の滲む唇が、確かにそう動いた。
(今のは、エロースの力じゃない)
胸の奥が、熱い。
ツカサ自身の、純粋な意志だ。
「[angry]……バカ」
レイの全身に、力が満ちる。
ずっと自分を縛っていた欲望の炎が、ストンと音を立てて収まった気がした。代わりに、もっと熱くて、もっと強い何かが胸の奥で燃え上がる。
――この人を、死なせたくない。
たったそれだけの想いが、核になった。
バチッ。
空気が震える。
廃工場全体に、見えない力の波が走った。
「[surprised]な、なに……?」
タナトスが、レイの顎から手を離し、周囲を見回す。
ピシッ。
空間に、ひび割れが走る。
霊力封じの結界が、内側から軋み始めた。
「[angry]結界が、内側から割れるだと……!?」
「[cold]覚悟は、できたわ」
レイは、ゆっくり顔を上げた。
涙で濡れた瞳に、かすかな炎が宿る。
「[cold]あんたを倒す覚悟がね」
パリンッ!
もう一段、結界に大きな亀裂が入る。
タナトスが、明らかに動揺していた。
「[scared]お、おのれ……!」
タナトスが、レイを拘束する鎖を握りしめ、霊力を込め直そうとする。
しかし、その動きはどこか焦っていた。完全にレイを見下し、安全圏から好き放題していた先ほどまでの余裕は、もうない。
その油断こそが、レイの狙いだった。
(まだよ。力を使い果たすわけにはいかない)
レイは、全身から力を抜いた。膝から崩れ落ち、うなだれる。
「[crying]……もう、わかりました……」
震える声で、レイは言った。
「[crying]あなたの言う通りに……します。ですから、どうか……」
「[excited]ようやくわかったか」
タナトスが、口元を歪める。慌てて結界を補強しようとしていた手を止め、ゆっくりとレイに近づいた。
「[cold]最初からそうしておれば、痛い目を見ずに済んだものを」
「[whispers]……はい」
「[cold]よし、ではその鎖を外してやろう」
タナトスが屈み込み、レイの足首の鎖に手を伸ばす。
その顔が、無防備にレイのすぐ真上に来た。
「[angry]バカが——!」
レイの右腕が、地面を叩くようにして跳ね上がった。
残った霊力の全てを込めた、渾身のアッパーカット。
ドゴォッ!!!
「[surprised]ぐはっ……!?」
タナトスの顎に、レイの拳が深くめり込む。巨体が宙に浮き、後方の壁へと吹っ飛んだ。
「ようやくわかったの――あたしの本当の力が!」
レイが叫び、立ち上がる。その勢いで手首の鎖が、ずるり、と音を立てて抜け落ちた。結界が弱まっている。
ズドォォォン!!!
タナトスが壁に激突した衝撃で、天井から留め具が外れ、大量の錆びた鉄パイプやガラクタが雪崩のように落ちてくる。
ドサドサドサッ!
「[muffled]う、ぐ……!?」
タナトスが、ガラクタの山の下敷きになった。
「[cold]あんた、運ないわね」
レイは一言だけ呟いて、すぐにツカサの元へ駆け寄った。
「[scared]ツカサくん!」
血の海に膝をつき、抱き起こそうとする。
「[whispers]……レイ、さん……」
ツカサが、うっすらと目を開けた。
「[scared]逃げて……俺は、いいから……」
「[angry]うるさい!」
レイは一喝し、細身の体に不釣り合いな力でツカサを背負い上げた。
「[angry]一人で置いていくわけないでしょ!」
ツカサの腕が、レイの肩に回る。二人の頬が触れ合うほどの距離になるが、そんな感傷に浸る余裕はなかった。ただ、心臓だけが全力で跳ね上がっている。
(動け、あたしの足!)
レイは、廃工場の出口へ向けて走り出した。
背後で、ガラクタの山が崩れる音がする。
「[angry]おのれ……よくも、よくも!!」
振り返るな。
レイは歯を食いしばり、夜の闇へと飛び出した。
———
深夜の麻布十番商店街。
アーケードの屋根に、レイの足音だけが響く。
(神社まで逃げ切ればいい。あの結界の中では、あんたは終わりよ)
「たい焼き ほの花」の前を駆け抜ける。ちょうど電気を消そうとしていた花子おばあちゃんが、窓越しにその光景を目撃した。
「[surprised]あら、レイちゃんがまた男を担いどる……」
「[gentle]さすがじゃのう」
のんきな呟きが、深夜の静寂に溶けていく。
コメディと緊張が混ざり合った、奇妙な疾走だった。
火川神社の大鳥居が見えた。
「[breathless]はあっ、はあっ……!」
肺が張り裂けそうだ。腕の中のツカサは、ぐったりと重い。
(あと少し!)
レイは最後の力を振り絞り、鳥居をくぐった。
ピリッ、と空気が震える。
結界だ。
レイは境内の石畳に、ツカサをそっと下ろした。
正面を振り返る。
「[angry]ここまで来たら、好都合よ」
レイは静かに言い放ち、両手にオフダを構えた。汗と埃にまみれた巫女服の胸元がはだけ、月明かりに鎖骨が浮かぶ。
その姿に、背後で意識を取り戻しかけたツカサが、血の滲む口でぼんやりと呟いた。
「[whispers]……きれい、だ」
「[angry]今それを言う!? 死にかけてるくせに!」
レイの顔が、ぶわっと赤くなる。しかしその目には、涙が光っていた。
大鳥居の向こう。追いついたタナトスが、結界に弾かれて立ち止まる。
「[angry]き、貴様……!」
その頭上に、黒い靄が凝集し始めた。
「[laughing]面白い」
どこからともなく、エロースの声が響き渡る。
「[cold]では、私も出向こう。その新しい炎の味、見極めてみたいのでな」
レイは神木を背に、両手のオフダを構え直した。
表情は、もう迷っていない。
自分自身の炎で戦う、戦士の顔だった。