ネオポルテ・リグレット ―渋谷ハルは二度死ぬ―
ネオポルテ・リグレット ―渋谷ハルは二度死ぬ―
渋谷ハルはネオポルテのリーダーであり、仲間を守り続ける男だった。しかし、その優しさは少しずつ彼自身の命を削っていた。ある日、絶え間ない配信スケジュールと精神的な疲労に押しつぶされ、彼は倒れてしまった。目を覚ますと、そこは見知らぬ真っ白な空間。そこに、自称『運命の管理者』である少女クロエが現れた。彼女は言った。「あなたは三ヶ月後に死ぬはずだった。でも、やり直すチャンスをあげたい」ハルは笑い飛ばした。「なんだその冗談は?」しかしクロエは真剣な顔で続けた。「あなたの死はネオポルテの崩壊を招く。そして、大切な仲間たちが次々と後を追うことになる」ハルは言葉を失った。「もし、時間を戻せたら……」と呟く。クロエは頷いた。「ただし条件がある。あなたは一度死んだ者として扱われる。生前に受けた傷や疲労が、何度もあなたを襲う。そして、あなたの死はなかったことにはならない」「構わない」ハルは即答した。クロエは微笑んだ。「ならば、あなたを一ヶ月前に送る。そこで、あなたの死の原因を断ち切らなければならない」そして、ハルは一ヶ月前の過去へと投げ戻された。そこには、ま
ネオポルテ・リグレット ―渋谷ハルは二度死ぬ― - 命の配信 ―仲間が選んだ未来―
血の味がした。
鉄の味。錆びた味。舌の上に張り付いて、吐き出しても消えない。
渋谷ハルは、二階の配信スタジオ三号機の前に倒れ込んでいた。
五階の代表室から這いずって、ここまで来た。
階段を転がり落ちた。壁に血の手形を残した。爪が剥がれた。
それでも、指だけは動いた。
震える手で、ポケットからスマホを取り出す。
画面が割れている。血で滑る。落としそうになる。
両手で握りしめる。
自分のアカウントを開く。
ライブ配信のボタンに、親指を置く。
(みんな、聞いてくれ)
ハルは、ボタンを押した。
——配信開始。
スタジオの暗闇に、モニターの青白い光が浮かぶ。
カメラのレンズが、ハルを映す。
血に染まった顔。腫れ上がった右頬。切れた唇。折れた鼻。
それでも、ハルは笑おうとした。
口の端が、ひきつる。
血が、歯の隙間から、こぼれる。
コメントが流れ始める。
『え、ハルさん?』
『どうしたの!?』
『血!? 血だよ!?』
『これ、演出?』
『違う、本物だ!』
『ハルさん、どうしたの!?』
『誰か救急車!』
『顔が……顔がやばい』
『何があったの!?』
コメントが、加速する。
千、二千、五千、一万。
数字が、跳ねていく。
ハルは、カメラを、まっすぐ見た。
琥珀色の瞳が、血の下で、ぎらぎらと光る。
「……みんな、聞いてくれ」
声が、掠れる。
喉の奥で、血が、ぐちゅりと鳴る。
「俺は……御剣レイに、やられた」
コメントが、一瞬、止まった。
次の瞬間、爆発する。
『え?』
『レイさん?』
『どういうこと?』
『レイさんが?』
『嘘でしょ?』
ハルは、息を吸った。
肋骨が、悲鳴を上げる。
折れた骨が、肺を刺す。
痛みで、視界が白く弾ける。
でも、止まらない。
「レイは……二年前、初期メンバーの佐倉を、失踪させた」
言葉が、血と一緒に、こぼれ出る。
「先週、高瀬ミナを、消した」
『佐倉って……あの、突然辞めた人?』
『ミナちゃん、最近見ないと思ったら……』
『消したって、殺したの?』
『怖い』
『何言ってるのハルさん』
『頭おかしくなったの?』
コメントが、賛否に割れる。
信じる声。疑う声。
ハルは、続けた。
「配信機材のデータを、消してたのも、レイだ」
「機材の故障も、全部、レイの仕業だ」
「あいつは……ネオポルテを、乗っ取ろうとしてる」
呼吸が、荒い。
肺が、ひゅうひゅうと鳴る。
それでも、言葉は止まらない。
「そして……俺は」
ハルは、一瞬、目を閉じた。
(言ってしまっていいのか)
(こんなこと、誰が信じる)
(でも、もう、隠せない)
ハルは、目を開けた。
「俺は……三ヶ月後に、死ぬ運命だった」
コメント欄が、凍りつく。
『え?』
『死ぬ?』
『何言ってるの?』
『ハルさん、本当に頭おかしくなったの?』
『病院行こう?』
ハルは、笑った。
血まみれの顔で、笑った。
「信じなくていい。でも、聞いてくれ」
「俺は、死の運命を書き換えるために、一ヶ月前の世界に、戻ってきた」
「運命の管理人ってやつに、タイムリープさせられたんだ」
『タイムリープ?』
『運命の管理人?』
『やっぱりおかしいよ』
『でも、この血は本物だ』
『ハルさん、今どこにいるの?』
『ネオポルテのスタジオ?』
『誰か助けに行って!』
ハルのスマホが、震えた。
着信。
橘ひなた。
画面に、その名前が表示される。
ハルは、通話ボタンを押した。
「ハルくん! 配信見てる! 今どこ!? スタジオ!? 行く! すぐ行くから!」
ひなたの声が、スピーカーから、泣き声で飛び出す。
「ひなた……来るな」
「何言ってるの! 行くに決まってるでしょ! 待ってて! 絶対に動かないで!」
通話が、切れた。
ハルは、スマホを、床に落とした。
もう、指に力が入らない。
視界が、二重にぼやける。
意識が、遠のく。
(だめだ……まだ……終われない)
ハルは、床に突っ伏したまま、カメラを見上げた。
「みんな……俺は、お前たちを、守りたかった」
「でも、俺は……一人で、抱え込みすぎた」
「ごめん……みんな……ごめん」
涙が、血と混ざって、床に落ちる。
コメント欄が、祈りで埋まる。
『謝らないで!』
『ハルさんは悪くない!』
『私たちが守るから!』
『ネオポルテのみんな、動いて!』
『レイを許すな!』
『ハルさん、死なないで!』
——バンッ!
スタジオのドアが、勢いよく開いた。
「ハルくん!!」
橘ひなたが、飛び込んできた。
その後ろに、田中義明、鈴木健太、山田花子。
さらに、タレントたちが、続く。
ひなたは、ハルに駆け寄った。
血の海に、膝をつく。
「ハルくん! ひどい……ひどいよこれ……!」
ひなたの手が、ハルの頬に触れる。
温かい。
「なんで……なんで一人で……!」
ひなたが、ハルの体を、抱きしめる。
血が、ひなたの服に、染みる。
「一人で抱え込まないで! 私たちがいるでしょ! 仲間でしょ!」
ひなたの涙が、ハルの顔に、降り注ぐ。
温かい。
(ああ……)
(俺は……一人じゃなかった)
ハルの胸の奥で、何かが、崩れた。
ずっと、一人で背負ってきたもの。
誰にも言えなかった秘密。
死の運命。
タイムリープ。
レイの裏切り。
全部、全部、一人で抱えてきた。
それが、今、音を立てて、崩れていく。
「ハルさんを、守って!」
山田が、叫んだ。
「誰か、救急車を! それと、警察も!」
鈴木が、スマホを握りしめる。
「わしが、入り口を見張る。誰も、ここには入れさせん」
田中が、スタジオの入り口に、立ちはだかった。
タレントたちが、ハルの周りに、集まる。
壁になる。
血まみれのハルを、囲むように。
「ハルさん、私たちがいます」
「もう、一人じゃないです」
「レイさんなんかに、負けません」
ハルの視界が、涙で、にじむ。
(みんな……)
(ありがとう)
声にならない。
喉が、血で、塞がっている。
でも、心の中で、何度も、繰り返す。
(ありがとう、みんな)
——その時。
スタジオの外から、足音が聞こえた。
ゆっくりと、近づいてくる。
カツン。カツン。カツン。
革靴の音。
田中が、身構えた。
「誰だ」
足音が、止まる。
ドアの向こうに、人影。
「やあ、みんな。盛り上がってるね」
御剣レイが、立っていた。
黒髪の七三分け。
ビシッと整髪料で固めている。
冷たい灰色の瞳。
左耳に、小さなピアス。
右手で、眼鏡を押し上げる。
「こんな茶番、見苦しいよ」
レイが、スタジオに、一歩、踏み入れる。
「来るな!」
田中が、両手を広げて、立ちはだかる。
「どいてくれるかい、田中さん。君に用はないんだ」
レイの声は、氷のように冷たい。
「お前……ハルさんに、何をした!」
鈴木が、レイに詰め寄る。
「何って、見れば分かるだろう。少し、躾をしただけだよ」
レイが、血まみれのハルを、見下ろす。
「あんたが、余計なことをするからだ。おとなしく、死んでいればよかったのに」
「やめて! これ以上、ハルくんを傷つけないで!」
ひなたが、ハルを庇うように、前に出る。
「橘ひなた。君も、あんたに洗脳された口か。かわいそうに」
レイが、ひなたを見る。
「あんたの『恩人』は、ただの無能だよ。君の才能を引き出したのは、俺のマネジメントあってこそだ。あんたは、俺に感謝すべきなんだ」
「違う! ハルくんは、私が一番辛い時に、手を差し伸べてくれた! ハルくんの言葉が、私を救ってくれたの!」
ひなたが、叫ぶ。
「救う? 笑わせるな。あんたが、ただの駒だってことに、そろそろ気づいたらどうだ」
レイが、一歩、前に出る。
「それ以上、近づくな」
山田が、レイの前に、立ちはだかる。
「あなたが、何をしたのか、私たちは、全部、聞きました」
「聞いた? ああ、あの茶番を? 信じたの? あんたたち、本気で?」
レイが、嗤う。
「タイムリープ? 死の運命? 頭がおかしいとしか思えないよ。あんたたち、そんな妄想に、付き合ってるの?」
「ハルさんの血は、本物です」
鈴木が、レイを、睨む。
「あなたが、ハルさんを、ここまで追い詰めた。それだけは、事実です」
「事実? あんたたち、何も分かってないな」
レイの目が、細くなる。
「ネオポルテは、俺が作ったんだ。資金の45パーセントは、俺が出した。なのに、表舞台に立つのは、いつもあんただった。俺は、三年間、我慢してきたんだよ」
レイの声が、熱を帯びる。
「あんたは、ただ、人に好かれるだけの、中身のない男だ。なのに、みんな、あんたの周りに集まる。あんたの笑顔に、騙される。俺は、それが、我慢ならなかった」
「だから、消した。あんたの周りから、一人ずつ、消していった。佐倉も、ミナも、みんな、あんたのせいで、消えたんだ」
「ふざけるな!」
田中が、レイに、殴りかかろうとする。
「やめろ、田中さん!」
鈴木が、田中を、止める。
「正しい判断だよ、鈴木さん。暴力は、何も解決しない」
レイが、スーツの襟を、整える。
「さあ、そこをどいてくれないか。俺は、あんたの始末を、つけに来たんだ」
レイが、ハルを、指さす。
「させない!」
ひなたが、ハルの前に、立ちはだかる。
「私たちが、ハルくんを守る! 絶対に、あなたの思い通りには、させない!」
「そうだ。私たちは、代表を守る」
「わしも、お前を通すわけにはいかん」
「編集部も、全員、ハルさんの味方です」
タレントたちが、一斉に、声を上げる。
「ハルさんを守れ!」
「レイさん、もう、あなたの好きにはさせない!」
「ハルさん、私たちがついてます!」
スタジオが、仲間たちの声で、満ちる。
レイが、一瞬、たじろぐ。
「……なんだ、この、くだらない連帯は」
レイの声が、わずかに、震える。
「あんたたち、本気で、この無能を、守るつもりか?」
「無能じゃない」
鈴木が、レイを、まっすぐ見る。
「ハルさんは、いつも、私たちを、守ってくれた。無理をして、無理をして、自分の命を削ってまで。そんな人を、無能なんて、言わせない」
「ハルくんは、私の恩人です。私の、ヒーローです」
ひなたが、涙を拭いながら、言う。
「代表は、ネオポルテの、心です」
「わしは、この男に、何度も、助けられた。機材が壊れた時も、スタッフが辞めた時も、こいつは、いつも、先頭に立って、何とかしてきた」
田中が、ハルを見る。
「だから、今度は、わしらが、守る番だ」
——その時。
「……レイ」
ハルの声が、聞こえた。
かすれて、消え入りそうな声。
それでも、確かに、レイの名前を呼んだ。
全員が、ハルを見る。
ハルは、ひなたの腕に支えられながら、体を起こした。
血まみれの顔。
折れた鼻。
切れた唇。
それでも、琥珀色の瞳は、まっすぐに、レイを見ていた。
「レイ……お前も、俺の仲間だ」
レイの動きが、止まった。
「お前が、認められたかった気持ち……俺は、気づけなかった」
ハルの声が、震える。
「ごめん」
ハルが、頭を下げた。
血が、床に、ぽたぽたと落ちる。
「お前の、三年間の、我慢に……俺は、ずっと、気づけなかった」
「お前が、俺に、憧れと嫉妬を、同時に抱えてたこと……俺は、何も、知らなかった」
「だから……ごめん」
レイが、動かない。
冷たい灰色の瞳が、ハルを、じっと見つめる。
「でも……だからって、仲間を、消していい理由には、ならない」
ハルが、顔を上げる。
「佐倉も、ミナも……みんな、お前の、仲間だっただろ」
「お前が、認められたいって、思うなら……もっと、違う方法が、あったはずだ」
ハルの瞳が、涙で、光る。
「俺は……お前を、許せない」
「でも……お前が、俺の仲間だったことは、忘れない」
レイの顔が、歪む。
「……遅いんだよ」
レイの声が、低く、唸るように、響く。
「今さら、そんなこと、言われても……遅いんだよ!!」
レイが、ハルに、襲いかかる。
右手に、何かが、光る。
スタンガン。
「ハルくん!」
ひなたが、叫ぶ。
——その瞬間。
「させない!」
田中が、レイに、体当たりする。
ドガッ。
二人が、床に、倒れ込む。
「お前は、もう、終わりだ!」
鈴木が、レイの腕を、押さえつける。
「観念しなさい!」
山田が、レイのスタンガンを、蹴り飛ばす。
タレントたちが、一斉に、レイに、のしかかる。
「ハルさんを、これ以上、傷つけさせない!」
「あなたの思い通りには、ならない!」
「ハルさんを、返して!」
レイが、床に、押さえつけられる。
「離せ! 離せよ! お前ら、全員、後悔するぞ!」
レイが、暴れる。
でも、もう、動けない。
仲間たちの、連帯の前に。
「俺は……俺は……!」
レイの声が、涙声に、変わる。
「俺は……認められたかった……ただ、それだけなのに……」
レイの体から、力が、抜けていく。
「……あんたが、憎かった。あんたが、眩しかった。あんたの、その、まっすぐな目が……大嫌いだった」
レイが、ハルを見る。
「……でも、あんたは、最後まで、あんたのままだったな」
レイの口元が、わずかに、笑う。
「……ざまあないよ、ハル」
——サイレンの音が、近づいてくる。
警察だ。
鈴木が、通報していた。
「警察です。動かないでください」
警察官が、スタジオに、なだれ込む。
レイは、抵抗しなかった。
されるがままに、床から、引き起こされる。
「……ハル」
レイが、ハルの名前を、呼んだ。
「……俺は、お前の、何だったんだ」
ハルは、答えなかった。
いや、答えられなかった。
意識が、もう、限界だった。
でも、ハルは、最後の力を振り絞って、言った。
「……仲間だよ」
「お前は……俺の、仲間だった」
レイの目が、見開かれる。
「だから……お前の、認められたいって気持ち……俺が、もっと、ちゃんと、見てやれればよかった」
「ごめんな……レイ」
ハルの目から、涙が、こぼれる。
血と涙が、混ざって、床に、落ちる。
レイは、何も言わなかった。
ただ、ハルを、じっと見つめていた。
灰色の瞳が、わずかに、揺れる。
——レイは、警察に、連行されていった。
スタジオに、静けさが、戻る。
「ハルくん! ハルくん! しっかりして!」
ひなたが、ハルの体を、揺さぶる。
「……ひなた」
ハルが、目を、うっすらと開ける。
「……みんな……ありがとう」
ハルの声が、消え入りそうに、小さい。
「……俺……一人じゃ……なかったんだな」
「当たり前でしょ! 私たち、ずっと、ハルくんの、仲間だよ!」
ひなたが、ハルの手を、握る。
温かい。
「代表、もう、一人で抱え込まないでください」
山田が、ハルの肩を、支える。
「俺たちが、ついてます」
鈴木が、ハルの背中を、支える。
「わしも、まだまだ、現役だぞ。代表の、力になる」
田中が、ハルの足を、支える。
仲間たちが、ハルを、囲む。
血まみれのハルを、みんなで、支える。
「……ありがとう……みんな……」
ハルの涙が、止まらない。
「……俺……生きてて……よかった」
——その時。
スタジオの、空気が、変わった。
ふわりと、何かが、動く。
光が、差し込む。
真っ白な光。
全員が、光の方を、見る。
スタジオの隅に、少女が、立っていた。
銀色の長いストレートヘア。
光の加減で、虹色にきらめく。
左目が金色、右目が銀色の、オッドアイ。
背中に、小さな白い羽根が、一対。
クロエ。
運命の管理人。
「よくやりましたね、渋谷ハル」
クロエが、微笑んだ。
右目の下にある、泣きぼくろが、動く。
「あなたの死の運命は、書き換えられました」
クロエの声が、スタジオに、響く。
「え……誰?」
ひなたが、クロエを見る。
「この子……どこから……?」
鈴木が、戸惑う。
「私は、運命の管理人。渋谷ハルに、タイムリープの機会を与えた者です」
クロエが、両手を、胸の前で組む。
「彼は、死の運命に、立ち向かいました。そして、仲間たちの絆によって、その運命を、書き換えたのです」
「……クロエ」
ハルが、クロエを見る。
「……俺……生きてて……いいんだな」
「ええ。あなたは、もう、三ヶ月後に死ぬ運命には、ありません」
クロエが、ハルに、近づく。
「あなたの選択が、あなたの行動が、未来を変えたのです」
クロエが、ハルの、血まみれの手を、そっと、握る。
「お疲れ様でした、渋谷ハル」
ハルの目から、涙が、あふれる。
「……ありがとう……クロエ……」
「……俺……生きて……みんなと……一緒に……」
ハルの声が、震える。
「はい。あなたの、これからの未来は、あなた自身のものです」
クロエが、微笑む。
「仲間と共に、歩んでいってください」
クロエの体が、淡く、光り始める。
「あっ……消える……?」
ひなたが、目を、見開く。
「私は、役目を終えました。これで、失礼しますわ」
クロエが、ハルの手を、離す。
「さようなら、渋谷ハル。あなたの未来に、幸多からんことを」
クロエの体が、光の粒になって、消えていく。
「待って……クロエ……」
ハルが、手を伸ばす。
でも、もう、クロエの姿は、なかった。
スタジオに、静けさが、戻る。
「……クロエ……ありがとう」
ハルが、呟く。
「……俺……生きるよ」
「……みんなと……一緒に……」
ハルの意識が、ゆっくりと、沈んでいく。
でも、その顔は、穏やかだった。
血まみれの顔に、確かに、笑みが、浮かんでいた。
——救急車が、到着した。
ハルは、ストレッチャーに乗せられ、運ばれていく。
ひなたが、ハルの手を、握り続ける。
「ハルくん……絶対に、助かるから……!」
「私たち、ずっと、待ってるから……!」
ひなたの涙が、ハルの手に、落ちる。
仲間たちが、見送る。
田中が、鈴木が、山田が、タレントたちが。
みんな、祈るように、ハルを見つめている。
配信は、まだ、続いていた。
コメント欄が、祝福で、埋め尽くされる。
『ハルさん、生きて!』
『よかった……本当によかった』
『レイ、捕まったんだね』
『ネオポルテ、これからだよ』
『ハルさん、おかえり!』
『私たち、ずっと応援してる!』
『配信、待ってるから!』
渋谷の夜が、明けていく。
ネオポルテ本社ビルの窓から、朝日が、差し込む。
血の海だったスタジオに、光が、満ちる。
——ネオポルテは、再生への一歩を、踏み出した。
ハルと仲間たちは、新たな未来へ、歩き始める。
死ぬためにタイムリープした男は、生きる理由を、仲間から、受け取った。
配信は、命を削る場所ではなく、命をつなぎ直す場所になった。
静かな、静かな、反転だった。
誰も、言葉にしなかった。
でも、全員が、感じていた。
——ああ、これで、やっと、始まるんだ。
窓の外。
渋谷の街が、朝日に、照らされている。
スクランブル交差点を、今日も、大勢の人が、渡っていく。
その中に、ハルの姿は、まだない。
でも、彼は、必ず、戻ってくる。
仲間たちの、待つ場所へ。
自分の、居場所へ。Noveliaとは?
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