異世界おじさん ~誰にも言えない、私とおじさまの秘密の夜~
ある日、高文は意識を失った叔父・ユウスケの部屋で、古いビデオテープを見つける。再生してみると、そこには誰も知らない、異世界グラン・バハムルの三人のヒロインたちとの「秘密の関係」が赤裸々に記録されていた。
最初に現れるのは、エルフのツンデレ。最初は冷たい態度だったが、セガサターンを愛する彼の姿に惹かれていく。嵐の夜、宿で二人きりになった彼女は「今夜だけは、私だけを見て…」と甘い声で縋り、激しい口づけを交わす。乱れた衣服のまま、淫らかに腰を動かしながら、彼の名を何度も呼ぶのだった。
次は、氷の魔法使い。普段は無表情な彼女が、温泉で彼の背中を流しながら、その手を自らの胸元へ導き、「ここの部分が…熱いの」と囁く。湯気の中で二人は身体を重ね合わせ、彼女は涙を浮かべた顔で彼に跨り、ゆっくりと腰を沈めながら「自分で動かないで」と命じる。
そして最後は、彼を「おじさま」と呼ぶ小さな戦士の少女。洞窟に閉じ込められた彼女は、「これが最後かもしれないから…」と鎧を脱ぎ、小さな身体を差し出す。意外にも積極的に舌を絡め、上目遣いで「私はおじさまのもの…だから、好きにしていいよ?」と懇願する。
テープには
異世界おじさん ~誰にも言えない、私とおじさまの秘密の夜~ - 夜明けのプロローグ——お前の物語は、これから始まる
デッキがテープを吐き出す音が、やけに大きく聞こえた。
部屋に明かりはない。窓の外はまだ暗くて、街灯のオレンジ色がカーテンの隙間から細く差し込んでいるだけだ。たかふみはソファに座ったまま、指先で瞼をこすった。
疲れていた。
四本、五本とテープを見続けて、そのたびに三人の女の顔が頭に焼きついた。おじさんだけに向けられた感情の重さが、胸の奥に溜まっている。
「最後の一本だ」
ベッドの上で、おじさんが手を差し出していた。その指に挟まれたテープのラベルには、墨で『たかふみへ』とだけ書かれている。
「……最後?」
「開けてねえやつは、これで全部だ」
たかふみはテープを受け取った。プラスチックのケースは冷たくて、指先にひんやりと馴染む。
(俺に、宛てたテープ)
デッキに押し込む。再生ボタンを押す指が、ほんの少し震えた。
映像が始まった。
最初に映ったのは、銀髪のエルフだった。
エリュシア・フォルセティア。長い銀髪を後ろに流し、翡翠色の目がカメラをまっすぐに見据えている。彼女は腕を組んで、少しだけ顎を上げていた。
「次に来る人間に、伝えなさい」
声は低くて、冷たかった。
「あたしは待たないわよ。エルフの掟なんて知ったことじゃない。来ないなら来ないで、勝手にすればいい」
言葉は鋭いのに、最後の方は少し小さくなった。
彼女は急に黙って、カメラから目をそらす。
尖った耳が、赤くなっていた。
「……でも」
一瞬だけ、カメラに視線が戻る。翡翠の目が、今にも泣きそうに揺れていた。
画面が切り替わった。
(今の……)
たかふみは手のひらを強く握った。エリュシアの耳が赤かったことが、頭から離れない。
次に映ったのは、色白の魔法使いだった。
ノエル・ミルフィールド。肩までの水色の髪と、透き通る銀色の瞳。無表情のまま、彼女はゆっくりと唇を動かし始める。
「この映像を見ている人が、誰であっても」
声は静かで、まるで独り言みたいだった。
「私は……感情が、よくわからないのです。ずっと、そうでした」
彼女は自分の胸に手を当てる。
「でも、誰かが教えてくれたんです。ここが、熱くなることを」
たかふみの胸が、ぎゅっと締めつけられた。映像の中でノエルが言った「誰か」が誰なのか、もうわかっている。
ノエルの映像は、そこで終わった。
最後に画面いっぱいに映ったのは、赤い髪の小さな女戦士。
シエナ・デルフィア。彼女はカメラのすぐ近くまで顔を寄せて、無邪気な笑顔を見せた。
「おじさまの大切な人に、会いたいなあ!」
声が弾んでいる。まるでカメラの向こうの誰かと、実際に話しているみたいに。
「ワタシ、ずっと待ってるからね。いつでも迎えに行くから!」
画面の端で、彼女が何かを握りしめているのが見えた。キーホルダーだ。たかふみの手の中にあるのと同じ、セガサターンの形をした小さなプラスチック。
映像が砂嵐に変わった。
部屋に静寂が戻る。
たかふみは動けなかった。ソファの背もたれに体を預けて、テレビの砂嵐を見つめている。目の奥が熱い。何かが込み上げてきて、ぐっと唇を噛んだ。
(会ったこともないのに)
エリュシアの赤い耳。ノエルの静かな告白。シエナの笑顔。三人とも、たかふみが生まれる前に生きていた人たちだ。なのに——今、この六畳間で、確かに彼女たちの声を聞いた。
気がつくと、目から涙がこぼれていた。
拭う気にもならない。
「俺の物語は、終わった」
おじさんの声が、真っ直ぐに響いた。
たかふみが顔を上げると、おじさんは窓の前に立っていた。東の空が白み始めている。夜明けの光が、カーテンの向こうで静かに広がっていた。
「次は——お前が主役の番だ、たかふみ」
おじさんが振り返った。
その顔は、いつものにやにや笑いじゃなかった。全部わかった上で、自分を導いてきた人間の顔だった。
たかふみは何も言えずに、うつむいた。
(俺に、できるわけない)
ずっと感じてきた劣等感が、胸の中でぐるぐる回る。おじさんへの憧れ。自分には無理だという諦め。全部が一緒になって、喉の奥に重く詰まっている。
でも——。
映像の中のエリュシアが、耳を赤くして目をそらした。ノエルが「誰であっても」と言った。シエナが「会いたいな」と笑った。
三人は、次に来る誰か——自分かもしれない誰かに向けて、メッセージを残した。その「誰か」が俺かもしれない。
(否定できねえ)
その感覚が、胸に釘みたいに打ち込まれたまま抜けない。
沈黙の中で、たかふみの右手が熱くなった。
「……え?」
手を開いて見る。いつの間にか握りしめていたキーホルダーが、淡い金色に光っていた。プラスチックの表面が、じんわりと温かい。
「何これ」
「次元の裂け目が近くにある証拠だ」
おじさんの声は静かだった。
「条件が揃った時に、そのキーホルダーは反応する——持ち主が自分の意志で行くと決意した瞬間にな」
たかふみの指が、キーホルダーを強く握った。
「俺が異世界に持ち込んだのは、セガサターンへの記憶だけじゃねえ。あのキーホルダーを持って、お前がグランバハムルに行くことも、俺はずっと前から知ってたんだ」
「……なんで黙ってたんだよ」
むっとした声が出た。
「知ってたら、来なかっただろ」
おじさんが、にやりと笑った。
その笑顔を見た瞬間、たかふみの胸が熱くなった。ずっと見てきた変なおじさんじゃない。全部わかった上で、自分をここまで導いてきた人間の笑顔だった。
(俺は——)
キーホルダーが手の中で、温かい光を放ち続けている。
たかふみは立ち上がった。膝が震えている。声も震えそうだ。でも——。
「……行く」
一言だけ、そう言った。
おじさんは何も言わず、口の端を上げた。
その直後、六畳間の空気が歪んだ。
壁の一角に、ぼんやりとした光の裂け目が生まれる。空気がじわりと熱くなり、かすかな風が部屋の中を吹き抜けた。
異世界への扉が、開いた。
「怖くなったら」
おじさんがそっと歩み寄り、たかふみの肩に手を置いた。
「エリュシアに俺の名前を言え。それだけでいい」
「……おじさんの名前、あいつら全員大好きじゃないか」
たかふみは半分呆れた顔で言った。
「そうだよ」
おじさんはただ、そう答えて笑った。
それからデッキからテープを取り出し、たかふみに手渡す。ラベルには『たかふみへ』と書かれた、さっき再生したばかりのテープだ。
「これが、お前のためのプロローグだ」
テープはもう空だ。映像はすべて再生し終わっている。
(これから自分で書き込めってことか)
たかふみは理解した。このテープは、これからの自分の物語のためにある。
裂け目の光が強くなる。
たかふみはキーホルダーを強く握りしめて、一歩踏み出した。
おじさんは六畳間の入口で、腕を組んで見ている。夜明けの光がカーテンを透かし、部屋の中が少しずつ白くなっていく。
たかふみの体が、光に溶けて消えていく。
最後に見たのは、おじさんの静かな笑顔と、東の空に昇り始めた朝日だった。
静かになった六畳間で、デッキの電源ランプだけが赤く点滅している。Noveliaとは?
Noveliaは、AIでライトノベルや二次創作を「読んで・数タップで作って・キャラクターと会話できる」プラットフォームです。挿絵つきの新作が毎日届き、無料で始められます。