悪役令嬢の下剋上。
私は乙女ゲーム『ロザリアン・クロニクル』の世界に、悪役令嬢ミア・ロザリアンとして転生してしまった。ゲームでは断罪されて処刑される、クソみたいな役どころだ。でも、私はこの世界のルールも、攻略対象たちの弱点も、全部知っている。頭を使えば、バッドエンドは回避できる。
最初は静かに生きるつもりだった。でも、待って、平民のままじゃ何もできない。だから前世の知識と策謀を駆使して、王立学園で首席を奪い、貴族たちを蹂躙し、辺境伯にまでのし上がった。人々は震え上がった。彼らは私を『ロザリアンの魔女』と呼んだ。最高の気分だった。
そんなある日、執事のシアンが現れた。「お嬢様、私はあなたに仕えるために生まれてきました」と、女神を崇拝するような献身の眼差しで私を見つめてきた。こいつはイカれている。どんなに冷たく接しても、どんなに残酷な命令を下しても、喜んで従う。ある夜、私が眠るベッドの傍らに立っているのを見て、本気で殺そうかと考えた。でも便利だから、置いておく。
そしてレン王子。ゲームでは爽やかな攻略対象だったのに、こいつも壊れている。「あなたを見た瞬間から、私の目には他の誰も映らない」と、皆の前で告白
悪役令嬢の下剋上。 - 首席争奪と聖女の牙 ~中庭の告白、執事の殺意~
王立学院アルヴェンティアの正門をくぐった瞬間、レミリア・ロザリアンは空気の違いを肌で感じ取った。ヴェルンハイムの冷たく澄んだ空気とはまるで違う。王都の華やかさと、若者たちの熱気と、そして何より、貴族社会の底意地の悪さが、目に見えない霧のように漂っている。
(ここが、あのゲームの舞台……)
腰まで届く艶やかな黒髪が、朝の光を浴びて青みがかった光沢を放つ。右目は血のように深い赤、左目は夜闇を溶かした紫。その異色の双眸が、石造りの壮麗な校舎を見上げた。入学式を終えたばかりの生徒たちが、色とりどりの制服に身を包み、それぞれの派閥を作ってざわめいている。
「さて、と。ここからが本番ですわ」
彼女の後ろに、完璧な姿勢で控える執事が一人。深い紫紺の髪を片側に流し、深い翡翠色の瞳を静かに伏せたシアン・クロフォード。黒の執事服は皺ひとつなく、白手袋に包まれた指先まで神経が行き届いている。
「お嬢様。本日の首席争奪試験の会場は、東校舎の大講堂でございます。開始まで、あと半時ほどございます」
「分かっていますわ。それより、あの娘の動きは?」
「ミア・セレスティア様は、すでに大講堂前で、幾人かの貴族子弟と談笑されております。聖女候補としての評判を、着々と広めているご様子」
レミリアの口元が、ほんのわずかに歪む。
「相変わらず、働き者ですこと。入学早々、ご苦労な話だわ」
彼女は胸元の銀の蝶のネックレスに、そっと指を触れた。祖母の形見。冷たい感触が、心を静かに研ぎ澄ませる。
(あの娘が平民上がりの成り上がりであることは、私が一番よく知っている。表向きの聖女の皮を剥がしてやるのは、いつでもできる。でも、今はまだその時じゃない)
首席争奪試験。王立学院では毎年、入学直後に行われるこの試験で、その年の序列がほぼ決まる。首席を取った者は、国王への謁見権と、希望する官職への優先権を得る。貴族社会での発言権も、飛躍的に高まる。
(前世のゲーム知識なら、試験の内容も、採点官の癖も、全部知っている。負ける要素など、どこにもない)
レミリアは、東校舎へと続く石畳の道を歩き出した。
---
大講堂は、すでに熱気に包まれていた。二百人近い新入生が、出身家柄ごとに固まって座っている。前方には貴族の名門出身者たちが陣取り、後方には下級貴族や、ごく少数の特待生として入学を許された平民たちが、肩を寄せ合うように座っていた。
講堂の中央に設けられた試験台には、大きな水晶球が置かれている。魔力測定用の魔導具だ。
「ねえ、見て。あれがロザリアンの魔女よ」
「平民上がりの分際で、辺境伯ですって。厚かましいったらないわ」
「あの目、見て。右と左で色が違う……気味が悪い」
聞こえよがしの囁きが、レミリアの耳に届く。彼女は表情ひとつ変えず、前方の席へと歩を進めた。シアンが、さりげなく彼女の半歩後ろを歩く。その翡翠色の瞳は、囁いた者たちを一人ずつ、音もなく射抜いていた。
「お嬢様、お席はこちらでございます」
レミリアが座ると、周囲の空気が一瞬で張り詰めた。近くにいた令嬢たちが、まるで汚いものでも見るかのように、わずかに身を引く。
(この程度の視線、ヴェルンハイムで散々浴びてきた。今さらどうということもない)
試験官が登壇し、首席争奪試験の開始を告げた。
「これより、王立学院アルヴェンティア入学試験を開始する。まずは魔力測定から行う。順番に、水晶球に手を触れよ」
生徒たちが一人ずつ前に出て、水晶球に手を触れる。魔力の量と属性が、球体の中に光となって浮かび上がる仕組みだ。名門貴族の子弟たちが、次々と高い魔力値を叩き出す。
「次の者、前へ」
レミリアが立ち上がった瞬間、講堂内の空気が変わった。二百人分の視線が、彼女の背中に突き刺さる。好奇、嘲笑、そして、ほんのわずかの畏怖。
彼女は水晶球の前に立つと、静かに右手を伸ばした。
(黒の魔眼は、絶対に悟られてはならない。魔力の出力を、普段の三割に抑える。それで十分)
指先が水晶球に触れた瞬間、球体の内側に、深い紫紺の光が渦を巻いた。闇属性の魔力だ。その光は、他の生徒たちのものより、はるかに濃く、深い。
「……闇属性、魔力値、甲級。これは……驚異的だ」
試験官の声が、わずかに震えた。講堂内に、どよめきが広がる。
(甲級。まあ、この程度に抑えたつもりだったけれど、この世界の基準は思ったより低いのね)
レミリアは無表情のまま、自分の席へと戻った。
---
続いて行われた筆記試験。古代魔導学、政治学、歴史、魔導理論。レミリアの筆は、迷いなく動いた。前世で何度も繰り返しプレイしたゲームの知識と、この二十年間で培った実践的な知見が、完璧な形で答案を埋めていく。
(古代アステリア魔導王国の崩壊原因に関する設問。ゲームでは、この問題の正答率は一割以下だった。でも、私は知っている。崩壊の鍵は、『黒の魔眼』と同じ系統の力。古代の王が、自らの力を制御できずに暴走したのが始まり)
彼女は、ゲームの攻略本に載っていた解説を、自分の言葉で答案に書き連ねた。
試験が終わり、結果が発表されるまでの間、レミリアは講堂の窓から中庭を眺めていた。古い噴水と、手入れの行き届いた薔薇園。ゲームのイベントシーンで、何度も見た風景だ。
(あの中庭で、原作では王子とヒロインが恋に落ちる。でも、今の私は、その筋書きを打ち破るためにここにいる)
「あら、レミリア様。お疲れ様ですわ」
突然、背後から声をかけられた。振り返ると、そこには桃色がかったピンクのふわふわした巻き髪を揺らす少女が立っていた。澄み切った水色の瞳を無邪気に瞬かせ、右頬にえくぼを作って微笑んでいる。聖女候補、ミア・セレスティア。
「まあ、ミアさん。あなたもお疲れ様ですわ。聖属性魔法の実技、素晴らしかったですのよ」
レミリアは、完璧な令嬢の微笑みを返した。
「そんな、恐れ多いですわ。レミリア様こそ、筆記試験は完璧だったと伺いました。さすがですのね」
ミアは両手を胸の前で組み、尊敬の眼差しを向けてくる。だが、レミリアは見逃さなかった。その水色の瞳の奥で、一瞬、鋭い光が走ったのを。
(この娘、私のことを殺したいほど憎んでいる。それでいて、この完璧な聖女の仮面。原作通り、いや、原作以上に腹黒い)
「ところで、ミアさん。筆記試験の出来は、いかがでしたの?」
レミリアがそう尋ねた瞬間、ミアの笑顔が、ほんの一瞬だけ凍りついた。
「わ、わたくしは……その、古代魔導学が少し難しくて。レミリア様のようには、いきませんわ」
(ふふ、図星ね。あんた、筆記試験で大失敗したんでしょう。聖女の仮面の下で、今ごろ悔しがっているのが目に見えるわ)
「あら、そうでしたの。でも、聖属性魔法の実技は、本当に素晴らしかったですわよ。あれは、あなたの才能ですのね」
レミリアは、わざと優しい言葉をかけた。敵の油断を誘うのも、戦略のうちだ。
「ありがとうございます、レミリア様。わたくし、これからも精進いたしますわ」
ミアはぺこりと頭を下げると、小走りに去っていった。その後ろ姿を見送りながら、レミリアは静かに微笑んだ。
「……精進、ですって。どの口が言うのやら」
---
試験結果の発表は、その日の午後に行われた。大講堂の掲示板に、順位が書かれた羊皮紙が貼り出される。
「首席、レミリア・ロザリアン」
試験官が読み上げた瞬間、講堂内が静まり返った。そして、次の瞬間、どよめきが爆発した。
「平民上がりが首席だと……?」
「ありえない。何かの間違いだ」
「でも、あの筆記試験の答案を見たか。あれは本物だ」
レミリアは、ざわめく講堂の中を、堂々と歩いた。彼女の成績は、二番手以下に大差をつけての首席だった。ミア・セレスティアは、聖属性魔法の実技で高得点を取ったものの、筆記試験で大きく足を引っ張り、総合では十番手に沈んでいた。
(これで、学院内での発言権は確実に得た。あとは、この立場をどう使うか)
---
翌日から、学院での授業が始まった。レミリアは、さっそく学院内の派閥構造を観察した。前世のゲーム知識で、どの家がどの派閥に属しているかは、すべて把握している。
(有力貴族の子弟たちは、すでにミアの周りに集まっている。あの娘の聖女アピールと、私への敵意が、彼らを結束させている)
休み時間、レミリアは廊下で、数人の下級貴族の子弟たちが、何やら困った顔で集まっているのを見つけた。
「あら、どうかなさいましたの?」
彼女が声をかけると、彼らは一斉に身をすくめた。
「ロ、ロザリアン辺境伯様……申し訳ございません。お騒がせいたしました」
「謝る必要はありませんわ。困っていることがあれば、聞かせてくださいな」
レミリアは、柔らかな微笑みを浮かべた。すると、彼らの緊張が、わずかに解ける。
「実は……上級貴族の方々から、授業の課題を代わりにやるよう命じられておりまして。断ると、家に何をされるか分からないと……」
レミリアは、その話を聞いて、静かに頷いた。
「そういうことでしたら、簡単ですわ。わたくしが、あなた方の勉強を見てあげましょう。課題を自力でこなせるようになれば、言い訳も立ちますわ」
彼らは、目を丸くした。
「え……よろしいのですか? わたくしたちのような、下級貴族に……」
「当然ですわ。わたくしは、家柄ではなく、実力で人を評価いたしますの。あなた方には、その実力をつけるチャンスがありますわ」
この日から、レミリアは昼休みと放課後の時間を使って、下級貴族の子弟たちに勉強を教え始めた。彼女の教え方は、前世の受験勉強のノウハウと、ゲーム知識を組み合わせた、極めて実践的なものだった。
「古代魔導学の試験は、毎年、この範囲から必ず出題されますわ。ここを押さえておけば、最低でも合格点は取れますのよ」
「すごい……こんなに分かりやすい授業は初めてです!」
レミリアの周りには、次第に下級貴族や没落貴族の子弟たちが集まるようになった。彼らは、レミリアを「平民上がりの魔女」としてではなく、「実力で道を切り開いた先達」として慕い始めた。
(ミアの孤立工作は、思惑通りには進んでいない。むしろ、私の支持基盤が、日ごとに強くなっている)
---
放課後。レミリアは、一人で中庭を歩いていた。古い噴水のそばで、ふと足を止める。夕暮れの光が、薔薇園を茜色に染めていた。
(原作では、この中庭で、王子とヒロインの恋が始まる。私にとっては、断罪へのカウントダウンが始まる場所)
「レミリア」
突然、背後から、低く、熱を帯びた声がした。
レミリアは、心臓が跳ねるのを感じた。振り返ると、そこには太陽の光を集めたような金色の髪を風に揺らす青年が立っていた。澄み切った空のような青い瞳が、真っ直ぐにレミリアを見つめている。左耳の銀のピアスが、夕日に輝いた。第一王子、レン・アルヴェンティア。
「やっと、二人きりで話せた。君を探していたんだ」
レンは、ゆっくりとレミリアに近づいてくる。その歩みには、有無を言わせない重みがあった。
「レン殿下。このような場所で、わたくしに何か御用ですの?」
レミリアは、一歩後退した。背筋に、冷たいものが走る。
(この目。原作の爽やかな王子の目じゃない。何かが違う。まるで、獲物を狙う獣の目だ)
「君は、他の誰とも違う。初めて会った夜会の時から、私の目には君しか映っていない」
レンは、レミリアの手を取った。彼の指は、驚くほど熱かった。
「レミリア。君は、私の運命の人だ。そう確信している」
レミリアの呼吸が、一瞬、止まった。
(何を言っているの、この王子は。原作では、こんなセリフはなかった。これは、ゲームの筋書きを完全に無視した展開)
「レン殿下。お戯れが過ぎますわ。わたくしのような、平民上がりの女が、殿下の運命の相手などと……」
「平民上がりだから何だ。私は、君の出自など気にしない。君の才能、君の強さ、君の美しさ。すべてが、私を惹きつけてやまない」
レンの青い瞳が、危険な熱を帯びて、レミリアを射抜く。
「僕は、君を誰にも渡さない。君は、僕のものだ」
その言葉は、愛の告白というより、所有の宣言だった。レミリアの胸の奥で、警戒心が激しく警鐘を鳴らす。
(この重さは、本物だ。この王子は、本気で私を手に入れようとしている。……これは、利用できる)
レミリアは、心の動揺を押し殺し、完璧な令嬢の微笑みを浮かべた。
「殿下のお言葉、光栄に存じますわ。ですが、わたくしは、まだ学院での務めを果たさねばなりませんの。首席として、皆の模範とならねば」
「ああ、君は首席だったね。当然だ。君以上の才女は、この学院にはいない。私の婚約者に相応しい」
レンの口元が、ゆっくりと緩む。その笑顔は、爽やかでありながら、どこか底知れない執念を感じさせた。
「レミリア。近いうちに、正式に婚約の申し込みをさせてほしい。君の返事を、楽しみに待っている」
レンはそう言うと、レミリアの手を離し、夕暮れの中庭を去っていった。
レミリアは、その場に立ち尽くした。夕風が、彼女の黒髪を激しく揺らす。
「……婚約、ですって。原作では、私は婚約破棄される側だったのに。これじゃあ、完全に逆じゃない」
彼女は、握りしめた自分の手を見つめた。レンの熱が、まだ指先に残っている。
(不覚にも、心が揺れた。あの狂気じみた執着に、ほんの一瞬、絆されそうになった。……ダメよ。これは、ゲームの崩壊。原作の断罪エンドを避けるための、新しい選択肢。感情で動いてはいけない)
レミリアは、深く息を吐いた。
---
その一部始終を、遠くから見つめる影があった。
中庭を見下ろす校舎の二階の窓辺。シアン・クロフォードは、完璧な執事の微笑みを浮かべたまま、窓枠を握りしめていた。白手袋の下で、指が食い込む。
(主様が、あの男に触れられた)
彼の翡翠色の瞳が、夕日に照らされて、底冷えのする光を宿した。
(あの手で、主様に触れた。あの男の手を、指の一本ずつ、折ってやりたい)
シアンの心の奥底で、どす黒い殺意が、音もなく渦を巻いていた。それは、彼が生涯を捧げると誓った主を、他の男に奪われるかもしれないという、耐え難い嫉妬と恐怖だった。
(主様は、私のものだ。誰にも渡さない。たとえ、この国の王子であろうと)
彼は、窓辺から身を離すと、静かに歩き出した。その足取りには、一片の迷いもなかった。
---
レミリアが中庭から戻ると、シアンが校舎の入口で待っていた。
「お嬢様。お帰りなさいませ。お疲れでございましょう。お茶の用意ができております」
彼は、いつもと変わらない、完璧な執事の笑顔を浮かべていた。
「……ええ、ありがとう。でも、その前に、少し聞きたいことがあるの」
レミリアは、シアンの顔をじっと見つめた。
「何でございましょう、お嬢様」
「あんた、さっきの中庭、見ていたでしょう」
レミリアの声は、静かだった。だが、その瞳は、すべてを見透かしていた。
シアンは、一瞬、言葉を詰まらせた。
「……お見通しでございましたか。はい、拝見しておりました。王子殿下と、お話しされていたこと」
「そう。それで、何か言いたいことはある?」
シアンは、ゆっくりと、レミリアの前に跪いた。
「お嬢様。僭越ながら、申し上げます。あの王子様には、あまり近づかれない方がよろしいかと」
彼の声は、あくまでも穏やかだった。しかし、その言葉の奥に、笑顔に似つかわしくない、冷たい殺意が滲んでいた。
レミリアは、その殺意を、はっきりと感じ取った。
(この執事、本気で王子を殺すつもりでいる。私のためなら、本当に何でもするのね)
「シアン。あんたの忠告は、心に留めておくわ。でも、王子との関係は、私が決めることよ」
「……かしこまりました。お嬢様がお決めになることなら、私は、いかなることも、お支えいたします」
シアンは、深く頭を下げた。その声は、恭しさに満ちていた。
(この男の執着は、私の想像をはるかに超えている。でも、今は、この狂気すら、私の力になる)
---
その夜。ロザリアン家別邸に戻ったレミリアは、書斎で影の庭からの報告書を読んでいた。
(王都での情報収集は、順調に進んでいる。黒幕の組織の動きも、少しずつ見えてきた)
その時、窓を叩く音がした。見ると、一羽の黒い鳥が、窓枠に止まっている。影の庭の伝令用に訓練された魔導生物だ。
レミリアは、鳥の脚に結ばれた小さな筒から、折り畳まれた紙片を取り出した。
『緊急報告。王都アルヴェンティアにて暗躍する謎の組織について、新たな証拠を入手。同組織は、王立学院の有力貴族子弟、および一部の教授陣にまで浸透している可能性が極めて高い。さらに、同組織は、ロザリアン辺境伯閣下の『黒の魔眼』を異常に注視しており、学院内で閣下の動向を探っている形跡あり』
レミリアの指が、紙片を握りしめた。
「……学院の中にまで、入り込んでいるのね」
彼女の左目、夜闇を溶かした紫の瞳が、月明かりを受けて、微かに光った。
(黒の魔眼。私の最大の秘密であり、最大の武器。それを、黒幕の組織が狙っている。原作の断罪エンドは、ゲームの筋書きなんかじゃない。私の魔眼を手に入れるために、黒幕が仕組んだ罠だったのよ)
レミリアは、紙片を燭台の火に近づけた。炎が、羊皮紙を、ゆっくりと燃やしていく。
「シアン。入りなさい」
彼女が呼ぶと、すぐに扉が開き、シアンが入室した。
「お嬢様。お呼びでございますか」
「影の庭から、緊急報告が入ったわ。黒幕の組織が、学院の内部にまで浸透している。しかも、私の魔眼を狙っている。あなたにも、警戒を強めてほしいの」
シアンの翡翠色の瞳が、すっと細められた。
「かしこまりました。お嬢様に仇なす者どもは、私が必ず、排除いたします。影の庭の全諜報員に、学院内の監視を強化させます」
彼の声は、冷たく、研ぎ澄まされた刃のようだった。
「……頼りにしているわ、シアン。あんたがいてくれるなら、私は、どんな敵にも立ち向かえる」
レミリアがそう言った瞬間、シアンの表情が、ほんのわずかに緩んだ。
「お嬢様。私は、どこまでも、お供いたします。この身が、闇に呑まれようとも、お嬢様の御側に」
彼は、レミリアの手を取ると、恭しく、自分の額に押し当てた。
(この男の忠誠は、狂気と紙一重。でも、今の私には、この狂気が、何よりも頼りになる)
レミリアは、月明かりの差し込む窓の外を見つめた。王都アルヴェンティアの夜空に、無数の星が輝いている。
(恋の鞘当てと、陰謀の影。どちらも、私の手で、打ち砕いてみせる。この学院で、私は、すべてを変える)
彼女のオッドアイが、闇の中で、爛々と輝いていた。Noveliaとは?
Noveliaは、AIでライトノベルや二次創作を「読んで・数タップで作って・キャラクターと会話できる」プラットフォームです。挿絵つきの新作が毎日届き、無料で始められます。