ぼくたちは運命を変えられない
「できない」気持ちが、いちばん痛い。
高校三年生の春、唯我成幸は夢から覚めた。冷たい水の中で、誰も救えなかった夢。手元に残っていたのは、ボロボロのノートに綴られた「未来の記録」だった。理珠は心を閉ざし、文乃は失踪し、うるかは水泳をやめ、真冬先生は教壇を去る。そして、自分は死んだ——五年後の未来が、そこに書かれていた。
目が覚めたら、四月。すべてが始まる前の教室に、彼女たちはいた。笑って、悩んで、まだ何も失っていない。だから成幸は決意する。誰にも言えない未来を一人抱えて、今度こそ全員を救うと。
教育係に任命された三人の天才少女たち。突出した得意科目の裏で、壊滅的な苦手科目を抱える彼女たち。努力型の秀才である成幸にしかできない指導が、止まりかけた運命を動かし始める。だが、未来は彼の知らない速さで歪み始めていた。うるかの交換留学推薦、祖母の遺した未完成のボードゲーム、教師を辞めようとする真冬先生。ノートに書かれた未来と、現実が少しずつずれていく。
これは、天才ではない少年が、知っている未来と戦いながら、大切な人たちの運命を変えようとする物語。彼が握りしめたのは、妹が作った色褪せたミサ
ぼくたちは運命を変えられない - 白銀の潜水士 ―― 留学の鐘とすれ違う想い
放課後のプール。
塩素の匂いが鼻をつく。水の跳ねる音が、壁に反響する。
唯我成幸は、部室棟の陰から、その光景をじっと見ていた。
一ノ瀬学園の水泳部が使う25メートルプール。6コース。水面は青く澄んでいて、照明の光を反射している。
昨日の夜、理珠の家の前で聞いてしまった両親の口論が、まだ耳に残っていた。
『あのゲームのせいで家がめちゃくちゃだ』
『理珠の夢を潰すな』
怒鳴り合い。そして、重い沈黙。
成幸は昨夜、ほとんど眠れなかった。未来ノートを開き、何度も同じページを読み返した。
理珠の両親の離婚。文乃の家出。うるかの留学。真冬先生の退職。
全部、未来で起きたことだ。
そして今、その歯車が、確実に回り始めている。
(俺は、何をすればいい)
答えは出ないまま、放課後になっていた。
理珠との補習は、今日はない。
成幸は、なんとなく、水泳部の練習を見に来ていた。
未来の記憶に、うるかがいたからだ。
『武元うるか。水泳部のエース。全国大会出場。そして——』
未来ノートの文字が、頭に浮かぶ。
『10月18日。うるか、水泳をやめる』
『留学直前に、姿を消す』
その理由は、未来の記憶でも、はっきりとは分からない。
ただ、うるかが、いなくなる。
成幸の人生から、消える。
——ピッ。
笛の音。
部員たちが、プールサイドに並ぶ。
その中に、赤紫色の髪の少女がいた。
褐色の肌。ミディアムヘアー。元気に跳ねるアホ毛。
武元うるか。
彼女は、キャップを被り、ゴーグルを装着すると、スタート台に上がった。
「よーし、いくよー!」
明るい声。
成幸は、息を止めた。
——ドン。
うるかが、水に飛び込んだ。
その瞬間、成幸は、自分の目を疑った。
水しぶきが、白く弾ける。
いや、違う。
水しぶきが、ほとんど上がらない。
体が、水に吸い込まれるように、一直線に進む。
腕が回る。脚が打つ。
その速さは、まるで——
モーターボート。
未来の記憶で、そう表現されていた意味が、今、分かった。
25メートル。
あっという間だった。
うるかは、壁にタッチすると、くるりと向きを変え、また泳ぎ出す。
50メートル。75メートル。100メートル。
休むことなく、同じ速度で、水を切り裂いていく。
「……すごい」
声が、漏れていた。
心から、そう思った。
彼女は、天才だ。
水の中では、誰にも負けない。
——でも。
成幸の胸の奥に、冷たいものが広がる。
(この才能が、十月に、消える)
うるかは、水泳をやめる。
理由も分からず、留学を目前にして。
そして、俺の前から、いなくなる。
成幸は、プールサイドの柱の陰に、身を隠した。
声をかけようと思った。
でも、足が動かない。
(どんな顔をして、話せばいい)
(お前、未来で水泳をやめるんだぞ、とでも言うのか)
言えるわけがない。
未来のことを話せば、運命が、もっとねじれるかもしれない。
成幸は、拳を握った。
爪が、手のひらに食い込む。
痛み。
その痛みが、現実を突きつける。
(俺は、何もできない)
未来を知っているのに。
理珠の両親の喧嘩も、うるかの留学も、止められない。
ただ、見ていることしか——
「あれ? 成幸じゃん!」
突然の声。
成幸は、はっとして顔を上げた。
いつの間にか、うるかがプールから上がり、こちらに駆けてきていた。
びしょ濡れの水着姿。タオルを肩にかけている。
褐色の肌に、水滴が光る。
「なんでこんなとこいんの? もしかして、あたしの応援に来てくれたの?」
うるかは、無邪気な笑顔で、成幸の顔を覗き込んできた。
「いや、その……通りかかっただけだ」
成幸は、目を逸らした。
「えー、つまんないの。せっかく成幸が見てくれてるなら、もっと気合入れて泳いだのに」
うるかは、唇を尖らせる。
「……お前、普通にすごかったぞ。あの速さは、全国レベルだ」
「でしょー! あたし、最近タイム伸びてるんだ! この前の記録会でも、自己ベスト更新したし!」
うるかは、嬉しそうに胸を張った。
その姿は、未来の暗い記憶とは、あまりにもかけ離れていた。
明るくて、元気で、水泳が大好きで。
(この笑顔が、消えるのか)
成幸は、胸が締め付けられるのを感じた。
「……なあ、武元」
「ん? なに?」
うるかが、首を傾げる。
紫色の瞳が、まっすぐに成幸を見つめる。
成幸は、言おうとした。
留学のことを。
『お前、オーストラリアに行くんだろ?』
でも、言葉が、喉に張りつく。
「……いや、なんでもない」
「なにそれ、気になるんだけど」
「本当に、なんでもないんだ。それより、練習の邪魔したら悪い。俺はもう行くよ」
成幸は、逃げるように、その場を離れようとした。
「待ってよ、成幸!」
うるかの声。
成幸は、足を止めた。
振り返ると、うるかが、じっとこちらを見ていた。
さっきまでの無邪気な笑顔とは、少し違う。
真剣な、目。
「成幸、なんか変だよ」
成幸は、どきりとした。
「最近、ずっと変。理珠ちゃんのことで焦ってるのは、なんとなく分かる。あたしも、理珠ちゃんが文系科目で苦労してるの、知ってるし。でも——」
うるかは、一歩、成幸に近づいた。
「あたしのこと、避けてない? 目、合わせてくれないし。今も、逃げようとしたでしょ」
「……そんなこと、ない」
「嘘。成幸、嘘つくとき、右手で後ろ髪触る癖あるもん」
成幸は、自分の右手が、いつの間にか後ろ髪に触れていることに気づいた。
慌てて、手を下ろす。
「ほら、図星じゃん」
うるかは、少しだけ、悲しそうに笑った。
「……なんで、あたしに隠し事すんの?」
成幸は、何も言えなかった。
言えるわけがない。
未来のことを。
お前が、水泳をやめて、消えてしまうことを。
「……武元、俺は」
「言いたくないなら、いいよ」
うるかは、成幸の言葉を遮った。
「無理に聞かない。あたし、成幸に嫌われるの、いやだし」
そう言って、うるかは、また笑った。
でも、その笑顔は、さっきまでの明るさとは、どこか違っていた。
「でもね、一人で抱え込むのだけは、やめてよ。成幸、すぐ一人で全部背負おうとするから。……あたし、成幸の力になりたいんだ」
成幸の胸に、うるかの言葉が、深く刺さった。
(お前の力になりたいのは、俺の方だ)
心の中で、そう叫んだ。
でも、口には出せない。
「……ありがとう」
やっとの思いで、それだけを言った。
うるかは、満足そうに頷くと、背を向けた。
「じゃあ、あたし、練習戻るね。成幸、また明日!」
「ああ、また明日」
うるかは、プールサイドに戻っていく。
その背中を、成幸は、じっと見送った。
赤紫色の髪が、夕日に照らされて、きらきらと光っている。
(未来では、この背中が、俺の前から消える)
成幸は、強く、強く、拳を握った。
爪が、手のひらに食い込む。
血が、滲む。
でも、痛みより、胸の苦しさの方が、勝っていた。
「……大丈夫だ。俺が、何とかする」
呟く。
誰にも届かない声。
プールの水音が、その声を、飲み込んでいった。
夜。
成幸は、塾のバイトを終えて、星見坂商店街を歩いていた。
時刻は、午後九時を回っている。
商店街の店は、ほとんど閉まっていた。
街灯だけが、アスファルトを、オレンジ色に照らしている。
(理珠、今日は、どうしてるだろうか)
成幸の足は、自然と、緒方家の方へ向いていた。
理珠の自宅は、商店街から徒歩十分。
静かな住宅街の中にある。
昨日、あの口論を聞いてしまった場所。
(まさか、また喧嘩してるなんてことは——)
そう思った瞬間。
——ガシャン。
何かが、割れる音。
成幸は、足を止めた。
音は、緒方家の方向から聞こえてきた。
(まさか)
成幸は、息を潜めて、近づいた。
生垣の陰に、身を隠す。
家の中から、声が聞こえてくる。
「いい加減にしろ! その盤を捨てろと言ってるんだ!」
男性の怒鳴り声。
理珠の父親だ。
「あなたこそ、いい加減にして! あれは母さんの形見よ! 理珠の夢なの! それを捨てろなんて、よくそんなことが言えるわね!」
女性の声。
理珠の母親。
「夢だと!? あんなゲームのどこが夢だ! 現実を見ろ! 家計は火の車だ! お前も働け! 理珠も、ゲームなんかにかまけてないで、勉強に集中しろ!」
「理珠は勉強してる! 数学では全国上位一パーセントよ! あの子は天才なの! あなたには分からないの!?」
「だから何だ! 文系科目ができなきゃ、大学にも行けない! それに、あの盤は、お前の母親が作ったものだ! 亡くなった人のものに縋って、いつまでも現実から逃げるな!」
「逃げてなんかない! 私は、理珠の夢を守りたいだけよ! あなたこそ、離婚するなら好きにすればいい! でも、理珠の夢だけは、絶対に壊させない!」
成幸は、生垣に手を突いて、息を殺した。
心臓が、早鐘を打つ。
(まただ。昨日と同じだ)
(いや、昨日より、ひどい)
離婚という言葉が、飛び交っている。
理珠の夢を巡って、両親が、完全に別れようとしている。
——バタン。
玄関のドアが、勢いよく開く音。
成幸は、身を縮めた。
見ると、理珠の母親が、大きなバッグを抱えて、家から出てきた。
涙で、顔がぐしゃぐしゃだ。
「……もう、無理。あなたとは、やっていけない」
そう言い残して、母親は、夜の住宅街を歩き出した。
足早に、駅の方へ向かっていく。
その後ろ姿が、街灯の光に、長く影を落としていた。
成幸は、立ち尽くした。
体が、動かない。
(理珠の、母親が、家を出て行った)
未来の記憶が、頭をよぎる。
『緒方夫妻、離婚』
『理珠、孤立』
『心を閉ざす』
未来の出来事が、今、現実になっている。
成幸の顔から、血の気が引いていく。
「……くそっ」
声が、震えた。
未来を知っているのに。
目の前で、運命が進行しているのに。
俺は、何もできない。
成幸は、緒方家の方を、もう一度見た。
二階の窓に、灯りがついている。
理珠の部屋。
カーテンは、閉まっていた。
(理珠は、今、何を思っているんだ)
両親の喧嘩を、聞きながら。
母親が出て行くのを、見送りながら。
成幸は、その場に、長い間、立ち尽くしていた。
春の夜風が、生温かく吹き抜ける。
遠くで、電車の走る音が聞こえた。
翌日。
放課後。
成幸は、星見坂商店街にあるスポーツ用品店「武元スポーツ」の前に立っていた。
昼休みに、スマホに着信があった。
知らない番号。
出ると、低い男性の声。
『武元うるかの父だ。武元剛という。今日、放課後、店に来てほしい。留学の件で、話がある』
有無を言わせない口調だった。
成幸は、断れなかった。
武元スポーツは、商店街の中ほどにある。
ガラス張りの店構えで、水着やゴーグル、トレーニング用品が並んでいる。
店の奥に、事務所がある。
成幸は、深呼吸をして、扉を開けた。
カランカラン、とベルが鳴る。
「いらっしゃい」
低い声。
カウンターの向こうに、大柄な男が立っていた。
武元剛。
うるかの父親だ。
年齢は、四十代半ば。
短く刈り込んだ黒髪。
日焼けした肌。
元水泳選手らしい、がっしりとした体格。
目は、鋭く、成幸をじっと見つめている。
「君が、唯我成幸くんか」
「はい」
「上がってくれ」
剛は、事務所の奥を指した。
成幸は、緊張しながら、事務所に入った。
壁には、水泳のトロフィーや、賞状が、いくつも飾られている。
うるかが、これまでに獲ってきたものだろう。
全国大会。関東大会。記録会。
その数は、圧倒的だった。
「座れ」
剛は、パイプ椅子を指した。
成幸は、黙って座った。
剛も、向かいの椅子に座る。
重い沈黙。
事務所の壁時計の音だけが、カチカチと響く。
「……単刀直入に聞く」
剛が、口を開いた。
「うるかの留学の話は、知っているな」
「……はい。学園から、推薦通過の連絡があったと」
「ああ。オーストラリアのシドニーにある、スポーツ強豪校からの交換留学だ。期間は、来年の三月まで。水泳のコーチ陣が、うるかの才能に目をつけた」
剛は、腕を組んだ。
「向こうの学校は、全額奨学金で、寮も完備。水泳に専念できる環境が、整っている。こんな話、めったにない」
「……そうですね」
成幸は、相槌を打った。
「だが、うるかは、まだ迷っている」
剛の声が、低くなった。
「理由は、分かっている。お前だ」
成幸は、目を見開いた。
「……俺、ですか」
「ああ。あの子は、お前に、ほれている。中学の頃から、ずっとな」
成幸は、言葉を失った。
うるかが、俺に?
「……気づいてなかったのか。まあ、鈍いんだろうな、お前は」
剛は、ため息をついた。
「だから、聞く。お前は、うるかの教育係として、あの子の進路に関わっている。留学を勧めるのか、止めるのか、はっきり言ってくれ」
成幸は、答えに窮した。
留学を勧めれば、うるかは、水泳を続けられる。
でも、未来の記憶では、うるかは、留学直前に水泳をやめて、姿を消す。
なぜ?
理由は、分からない。
(もしかして、留学が、水泳をやめる原因なのか?)
分からない。
未来の記憶は、断片的で、確信が持てない。
「……答えられない、か」
剛は、じっと成幸を見つめた。
「なら、こちらから、条件を出す」
「条件?」
「ああ」
剛は、身を乗り出した。
「うるかが、水泳を続けるために、お前に、教育係を辞めてもらう」
成幸は、耳を疑った。
「……教育係を、辞める?」
「そうだ。うるかは、お前が教育係として、他の生徒——緒方理珠や、古橋文乃に、時間を割いているのを、ずっと見ている。それで、あの子は、自分の進路に迷いが生じている。お前が、あの子の気持ちに応えないなら、いっそ、関わるのをやめてほしい」
剛の目は、真剣だった。
「うるかが水泳に集中するためには、お前が、あの子の前から、身を引くしかない」
成幸は、頭が真っ白になった。
教育係を辞める。
それは、理珠と文乃の指導を、投げ出すということだ。
理珠は、文系科目で、まだ、まったく進歩していない。
文乃は、まだ、指導すら始めていない。
二人を救うために、教育係を辞めるわけにはいかない。
でも、うるかを救うためには、教育係を辞めなければならない。
「……未来では、知らなかった」
成幸は、思わず呟いた。
「なに?」
「……いえ、なんでもありません」
成幸は、慌てて首を振った。
未来の記憶では、こんな条件は、なかった。
うるかの留学は、成幸の知らないうちに、勝手に進んでいった。
でも、今は、違う。
俺が、未来を知っているから。
俺が、うるかに、関わっているから。
運命が、変わっている。
「返事は、急がなくていい。だが、今週中には、聞かせてほしい」
剛は、立ち上がった。
「うるかは、お前に、本気だ。お前が、あの子の気持ちに応えるつもりがないなら、残酷な真似は、しないでやってくれ」
成幸は、俯いた。
拳を、膝の上で、強く握る。
「……俺は」
声が、絞り出せない。
「俺は、武元に、水泳を続けてほしい」
やっとの思いで、それだけを言った。
剛は、成幸を、しばらく見つめていた。
「……そうか。なら、よく考えろ。お前の答えが、あの子の未来を決める」
剛は、それだけ言うと、事務所の奥へ消えていった。
成幸は、一人、パイプ椅子に座ったまま、動けなかった。
壁のトロフィーが、照明の光を反射して、冷たく光っている。
うるかの、これまでの努力の結晶。
その才能が、未来で、消える。
(俺は、どうすればいい)
理珠の夢。文乃の未来。うるかの才能。
全部、救いたい。
でも、教育係を辞めれば、理珠と文乃を救えない。
辞めなければ、うるかが、水泳をやめるかもしれない。
板挟み。
未来の記憶では、経験しなかった、新しい苦しみ。
(これが、運命の補正か)
未来を変えようとすると、別の場所で、歪みが生じる。
世界観設定にあった言葉が、頭をよぎる。
「……くそっ」
成幸は、歯を食いしばった。
唇の端から、血の味がした。
武元スポーツを出ると、空は、もう暗くなっていた。
星見坂商店街の街灯が、オレンジ色に点っている。
成幸は、歩きながら、未来ノートを取り出した。
街灯の光の下で、ページを開く。
『10月18日。うるか、水泳をやめる』
『留学直前に、姿を消す』
その文字を、指でなぞる。
「……絶対に、そうはさせない」
呟く。
でも、その声は、震えていた。
理珠の両親は、離婚の危機にある。
うるかの父は、教育係を辞めろと言ってきた。
二つの運命が、同時に、俺を締め付ける。
(俺は、みんなを救うと誓った)
(なのに、何も、できていない)
成幸は、空を見上げた。
星が、一つだけ、雲の切れ間から、覗いている。
「……大丈夫だ。何とかする。俺が、何とかする」
自分に言い聞かせる。
でも、その言葉は、夜の闇に、吸い込まれていくだけだった。
春の夜風が、成幸の頬を、冷たく撫でた。
遠くで、電車の走る音が聞こえる。
星見坂の街灯が、静かに、成幸の背中を照らしていた。
ポケットの中で、スマホが、小さく震えた。
成幸は、画面を見た。
一斉メール。
『水泳部 武元うるか 交換留学 保護者面談のお知らせ』
日時は、来週の火曜日。
成幸の顔から、血の気が引いていく。
未来の歯車が、また、一つ、回った。
音を立てて。Noveliaとは?
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