スーパーSの裏で恋を吸うふたり
45歳・独身・疲れ切ったサラリーマンの佐々木。唯一の癒しは、スーパーSのレジで見せる新人パート・山田さんの完璧な笑顔。空いてるレジを無視して毎日二番レジに並ぶ、ちょっと不器用な日々。
だがある夜、閉店後の従業員喫煙所で出会ったのは——髪を下ろし、ピアスを揺らし、メンソール煙草を器用に咥える、素の彼女「田山」だった。
「おじさん、なんで空いてるのに二番レジに並ぶの?」
見透かすような笑顔。からかうような口調。でも、耳が少し赤くて。
「山田」と「田山」。二つの顔を持つ彼女に、佐々木は気づかないふりを決める。それが一番いいと思ったから。
でも、心臓は正直で——。
閉店後の喫煙所から始まる、じれったくてほろ苦い、大人のラブコメ。四十五歳、恋の吸い方はまだ分からない。
スーパーSの裏で恋を吸うふたり - 三日後の再会と、スマホに沈む夜
三日ぶりに、佐々木はスーパーSの自動ドアをくぐった。
あの夜、喫煙所で田山と別れてから、仕事が妙に長く感じた。元気商事の郊外支店は相変わらず忙しくて、主任としての雑務に追われる毎日だった。でも、頭の片隅にはずっと、髪を下ろしてピアスを光らせた彼女の横顔が浮かんでいた。
「いらっしゃいませ」
店内に一歩入ると、入り口近くの青果コーナーから店員の声が聞こえた。佐々木はカゴを手に取って、いつものように惣菜コーナーへ向かう。半額シールの位置を確認して、今日は唐揚げ弁当を一つ。それから、おかきの棚へ。
「かきもち醤油味」
手に取った袋を裏返して、何となく成分表示を見る。別に気にしているわけではない。ただ、レジへ向かうまでの時間を少しでも引き延ばしたかった。
(今日は、どのレジに並ぼうか)
佐々木は店内を見渡した。閉店三十分前。レジは三台開いていて、どの列も空いている。でも、足は自然と二番レジへ向かっていた。
「いらっしゃいませ。ポイントカードはお持ちですか?」
山田の声が、耳に届く。
黒い髪を後ろで一つにまとめて、緑色のエプロンをきちんと着ている。胸元の名札は「山田」。接客用の笑顔が、蛍光灯の下で輝いて見えた。
「あ、どうも」
佐々木はカゴをレジ台に置いた。山田が手早く商品をスキャンしていく。
「お疲れ様です。いつもありがとうございます」
その笑顔は、やっぱり完璧だった。
(この笑顔は、作り物なんだよな)
佐々木は心の中でつぶやいた。
三日ぶりに見る山田の笑顔。丁寧で、優しくて、誰に対しても平等な笑顔。でも、佐々木はもう知っている。閉店後の喫煙所で、この人が髪を下ろして、ピアスをつけて、あたし、なんて言いながら煙草を吸う姿を。
「お弁当、温めますか?」
「いや、大丈夫です」
「かしこまりました」
山田が商品を袋に詰める。その指先は小さくて、爪は短く切ってある。佐々木はその指を、つい目で追ってしまった。
(あの指で、煙草を挟むんだよな)
「千二百四十六円です」
佐々木は財布から小銭を取り出した。五百円玉が一枚、百円玉が二枚、十円玉が四枚、一円玉が六枚。指先が少し震える。
(落ち着け、俺)
小銭をトレーに置いた。カチャカチャと音がする。山田がそれを受け取って、レジを打つ。
「ちょうど、お預かりします」
「あ、はい」
山田が袋を差し出した。
「ありがとうございました。またお越しくださいませ」
佐々木は袋を受け取った。
「どうも」
そう言って、レジを離れる。
(俺は、何をしてるんだ)
空いているレジが二台もあるのに、わざわざ山田のレジに並ぶ。四十五歳のいい大人が、二十四歳のパート店員の笑顔を見るためだけに。
佐々木は苦笑いを浮かべた。
(まあ、いいか)
自動ドアを出ると、九月の夜風が汗ばんだ首筋を冷やした。空には薄い雲がかかっていて、月がぼんやりと滲んでいる。
佐々木は店の裏手へ回った。
駐車場の北西の角。灰皿スタンドが二つと、ベンチが一台。フェンス越しに住宅街の明かりが見える。街灯は弱くて、あたりは薄暗い。
ここが、二人の喫煙所だった。
佐々木はベンチに座って、ポケットから煙草の箱を取り出した。メビウス・プレミアム。残り五本。一本を口にくわえて、百円ライターで火をつける。
「……はあ」
煙を肺に吸い込んで、ゆっくりと吐き出す。
(今日も、来るかな)
心臓が、少しだけ速くなる。
待つこと数分。店の裏口から、人影が現れた。
髪を下ろして、耳に小さなシルバーピアス。黒いカーディガンを羽織って、手にはピアニッシモ・メンソールの箱。
田山だった。
「あ、いたいた。おじさん、三日ぶりじゃん」
田山は佐々木の隣に腰を下ろした。ベンチが、ぎしりと音を立てる。
「ああ、どうも」
「どうも、じゃないよ。あたし、待ってたんだからね」
田山が煙草を一本取り出して、口にくわえた。佐々木のライターを借りて、火をつける。
「待ってたって……別に約束してたわけじゃないだろ」
「約束してなくても、来るかなって思ってたの。ほら、あたし、おじさんのこと気に入ってるし」
田山が煙を吐き出しながら、にやりと笑った。
「……そういうこと言うの、やめてもらっていいですか」
「なんで? 本当のことじゃん」
「いや、その、心臓に悪いというか」
「おじさん、顔赤いよ」
「赤くない」
「赤いって。暗くても分かるよ」
田山が声を出して笑った。その笑い声が、夜の駐車場に響く。
佐々木は煙草を吸って、ごまかした。
(この人は、いつもこうだ)
店での山田の笑顔は、完璧な接客用の笑顔。でも、こっちの田山の笑顔は、もっとずっと自然で、いたずらっぽくて、佐々木の心臓を容赦なく揺さぶってくる。
「ねえ、おじさん」
田山が、煙草の灰を灰皿に落としながら言った。
「なに?」
「私のこと、店員としてはどう思う?」
佐々木は、煙草を持つ手が止まった。
(え……?)
田山は佐々木の方を向いていない。前を向いたまま、煙草をくわえている。その横顔は、街灯の弱い光に照らされて、なんだか真剣に見えた。
「どうって……急にどうしたの?」
「いいから。答えてよ」
田山の声は、いつものからかうような調子ではなかった。少しだけ、低い。
佐々木は煙草を灰皿に押し付けた。
(店員としては、か)
山田としての彼女を、どう思うか。
「……笑顔が、いいと思う」
佐々木は、正直に答えた。
「え?」
田山が、佐々木の方を向いた。
「笑顔が、いいと思う。あの、店での笑顔。丁寧で、優しくて、見てるとこっちまで元気になるというか」
佐々木は、言葉を続けた。
「接客も、すごく丁寧だし。商品の扱いも、丁寧だし。あのレジに並ぶと、なんか、安心する」
田山は、じっと佐々木の顔を見ていた。
「……そっか」
田山の口元が、ほんの少しだけ緩んだ。
(あれ?)
佐々木は、その表情に気づいた。
いつものからかうような笑みじゃない。目が、少しだけ丸くなっていて、口元が、照れくさそうに緩んでいる。
(これ、素の顔か?)
田山の、素の照れ顔。
佐々木は、胸の奥が、じわりと熱くなるのを感じた。
「……おじさん」
田山が、煙草の火を消した。
「なに?」
「そういうこと、サラッと言うの、ズルいよ」
田山は、佐々木の肩を軽く小突いた。
「ズルくない。聞かれたから答えただけだ」
「だから、それがズルいって言ってるの。普通、そんなに真面目に答えないでしょ。『別に普通だよ』とか、『まあ、いいんじゃない?』とか、適当にかわすのが普通じゃん」
「いや、だって、本当のことだから」
「もー、そういうとこだよ、おじさん」
田山が、声を出して笑った。
「あはは、なにそれ。もー、やめてよ、あたし、照れるじゃん」
「お前が聞いたんだろ」
「聞いたけど! でも、そんなに真面目に言われると、こっちが困るっていうか」
田山は笑いながら、佐々木の腕を軽く叩いた。
佐々木は、その仕草に、心臓が跳ねるのを感じた。
(やばい。近い)
田山の肩が、佐々木の肩に触れるか触れないかの距離。ピアニッシモ・メンソールの甘い香りが、夜風に混ざって佐々木の鼻に届く。
「……煙草、もう一本吸う?」
田山が、自分の箱から一本取り出して、佐々木に差し出した。
「あ、いや、俺のはメビウスだから」
「分かってるよ。たまには違うの吸ってみなよ。あたしの、あげる」
田山が、煙草を佐々木の口元に近づけた。
「ほら、くわえて」
「え、いや、自分で火つけるから」
「いいから、くわえてって」
佐々木は、おそるおそる煙草をくわえた。田山が、自分のライターで火をつけてくれる。
「……どう?」
佐々木は、ピアニッシモ・メンソールを吸った。
「……甘い」
「でしょ? メンソールだから。おじさんには甘すぎる?」
「いや、これはこれで、悪くない」
「じゃあ、今度はおじさんのメビウス、あたしにも吸わせてよ」
「え、いいけど。女の人が吸うには、ちょっと重いんじゃないか?」
「いいの。おじさんが吸ってるの、どんな味か知りたい」
田山が、佐々木の手から煙草を取ろうとした。
「ちょ、待って、それ俺が吸ってたやつだし」
「間接キス? おじさん、そういうの気にするタイプ?」
「気にするというか、その、常識的に」
「あはは、おじさん、顔真っ赤。かわいい」
「かわいいはやめろ」
田山が、佐々木の煙草を奪って、自分の口にくわえた。
「……ん、やっぱり、おじさんの煙草、ちょっと苦い」
田山が煙を吐き出しながら、笑った。
「だから言っただろ」
「でも、嫌いじゃないかも。大人の味って感じ」
田山が、煙草を佐々木に返した。
佐々木は、その煙草を受け取って、フィルターの部分を見た。
(田山の、唇が……)
そう考えると、また心臓が騒がしくなった。
「おじさん、今、変なこと考えたでしょ」
「考えてない」
「うそ。顔に書いてある」
「書いてない」
「書いてあるって。おじさん、分かりやすすぎ」
田山が、楽しそうに笑った。
佐々木は、煙草を灰皿に押し付けて、深くため息をついた。
(敵わないな、この人には)
でも、不思議と嫌な気分ではなかった。
「ねえ、おじさん、明日も来る?」
田山が、立ち上がりながら聞いた。
「明日? 仕事帰りに、また寄ると思う」
「そっか。じゃあ、明日もここで待ってる」
田山が、ひらひらと手を振った。
「じゃあね、おじさん。また明日」
「あ、ああ」
田山の背中が、駐車場の向こうへ消えていく。
佐々木はベンチに座ったまま、しばらく動けなかった。
(また明日、か)
胸の奥が、くすぐったいような、温かいような、変な感覚だった。
佐々木は立ち上がって、アパートへの道を歩き出した。
翌日。
元気商事の郊外支店は、今日も忙しかった。
佐々木は午前中の会議を終えて、給湯室でコーヒーを淹れていた。紙コップにインスタントコーヒーを入れて、ポットからお湯を注ぐ。
「おー、佐々木、お疲れ」
後ろから、明るい声が聞こえた。
振り返ると、同期の鈴木が立っていた。黒髪を七三分けにして、いつもの営業マンらしい笑顔を浮かべている。左手には結婚指輪。
「お疲れ」
「今日も忙しいな。お前、最近、定時で帰ってるだろ。何かあった?」
鈴木が、佐々木の隣に立って、自分のマグカップにコーヒーを注ぎ始めた。
「別に、何もないよ」
「うそつけ。お前、最近、スーパーの話ばっかだな」
佐々木は、紙コップを持つ手が止まった。
「スーパーの話? してないだろ」
「してるしてる。ほら、昨日も言ってたじゃん。『スーパーの唐揚げ弁当が半額だった』とか、『おかきが安かった』とか。お前、前はそんな話しなかっただろ」
鈴木が、ニヤリと笑った。
「……たまたまだよ」
「たまたま? お前、毎日スーパー行ってるんだろ。しかも、わざわざ閉店間際に」
「閉店間際に行くのは、半額シールの時間だからだ」
「はいはい、半額シールね。で、そのスーパー、レジに可愛い子でもいるんじゃないの?」
佐々木は、心臓が飛び出しそうになった。
「い、いるわけないだろ」
「お、動揺してる。図星だな」
「図星じゃない。お前、何言ってるんだ」
「お前さ、顔に書いてあるぜ。『俺、スーパーの店員さんに片思いしてます』って」
「書いてない! やめろ、そういうの」
佐々木は、手に持っていた紙コップを、給湯室のカウンターに置いた。その拍子に、ポットに手が当たった。
「あっ」
ガタン、と音がして、ポットが倒れかけた。佐々木は慌てて手を伸ばして、なんとか支えた。
「おいおい、大丈夫かよ」
鈴木が、呆れたように笑った。
「だ、大丈夫だ」
「やっぱり図星じゃん。そんなに動揺してさ」
「違う。手が滑っただけだ」
「はいはい。まあ、俺は応援してるぜ。お前、最近、ちょっと元気なかったし。なんか、楽しみができたならいいことだよ」
鈴木が、佐々木の肩をポンと叩いた。
「……応援とか、そういうのじゃないから」
「あっそ。じゃあ、そういうことにしといてやるよ」
鈴木は、ニヤニヤしながら給湯室を出て行った。
佐々木は、一人で給湯室に残された。
(顔に書いてある、か)
佐々木は、自分の頬に手を当てた。
(そんなに分かりやすいのか、俺は)
コーヒーを飲み干して、デスクに戻る。
午後の仕事は、なかなか手につかなかった。
その夜。
佐々木は、アパートの自室で、スマホと格闘していた。
六畳一間の古いアパート。蛍光灯が、しんとした部屋を照らしている。テーブルの上には、食べ終わった弁当の空箱と、空になった缶ビール。
「……えっと、連絡先の追加は、ここか?」
佐々木は、スマホの画面をタップした。
最近、ガラケーから買い替えたばかりのスマホ。まだ操作に慣れていない。画面は、言うことを聞かない。
「あ、違う。戻る、戻る」
画面が、勝手に別のアプリを開いた。
「なんでだ。俺は、連絡先を追加したいだけなんだ」
佐々木は、深いため息をついた。
(田山の連絡先を、登録したい)
昨日、喫煙所で別れるときに、田山が「LINE教えてよ」と言った。佐々木は、LINEのIDを聞かれて、慌ててスマホを出した。でも、うまく操作できなくて、結局、田山が佐々木のスマホを操作して、自分のアカウントを登録してくれた。
(情けない)
四十五歳の男が、二十四歳の女の子にスマホの操作をしてもらう。
佐々木は、スマホの画面を見た。
LINEの連絡先リストに、「田山」という名前が追加されている。
(田山、か)
佐々木は、その名前をじっと見つめた。
(本当は、山田さん、なんだよな)
でも、佐々木は「田山」として登録した。彼女が、喫煙所では「田山」だから。
(山田と、田山)
佐々木は、スマホの画面をタップして、連絡先の編集画面を開いた。
「氏名の欄に、やまだ、と打って……」
佐々木は、フリック入力で「やまだ」と打とうとした。
「や、ま、だ……」
画面に「山田」と表示された。
「……いや、田山だ」
佐々木は、漢字を消して、もう一度入力した。
「た、や、ま……」
画面に「田山」と表示された。
「……これでいいのか?」
佐々木は、首をかしげた。
(山田さんと田山さんは、同一人物なのに)
(俺は、どっちで登録すればいいんだ)
佐々木は、スマホの画面を見つめながら、考え込んだ。
(いや、喫煙所では田山だから、田山でいい)
(でも、店では山田さんだから、山田の方が自然なのか?)
(いや、待てよ。俺は、田山の連絡先を聞いたんだから、田山でいい)
(でも、もし、山田さんが、俺が田山の連絡先を登録したって知ったら……)
(いや、本人が教えてくれたんだから、問題ない)
(でも、山田さんは、俺が正体に気づいてるって、知らないわけで……)
(いや、だから、田山として登録してるんだから、気づいてないフリはできてる)
(いや、待てよ、そもそも、俺は気づいてないフリをしてるんだから、田山の連絡先を登録するのは、気づいてないフリと矛盾しないのか?)
(いや、田山として教えてもらったんだから、田山で登録するのが自然だ)
(でも、山田さんは、俺が田山と連絡先を交換したって知ってるのか?)
(いや、田山が教えてくれたんだから、知ってるだろ)
(いや、田山と山田さんは同一人物だから、田山が知ってるってことは、山田さんも知ってるってことだ)
(いや、でも、俺は山田さんと田山さんが同一人物だって、知らないフリをしてるんだから……)
佐々木は、頭がこんがらがってきた。
「……もう、どっちでもいいか」
佐々木は、スマホをテーブルに置いた。
そのとき。
ピコン、と音がした。
LINEの通知だ。
佐々木は、スマホを手に取った。
画面に、田山からのメッセージが表示されている。
『明日も来る? おじさん』
佐々木は、スマホを落としそうになった。
「うわっ」
なんとか、スマホをキャッチした。
(来た。田山から、メッセージが)
佐々木は、画面をじっと見つめた。
『明日も来る? おじさん』
(明日も来る? おじさん)
(おじさん、か)
佐々木は、その言葉に、なんだか胸が温かくなるのを感じた。
(返信、しなきゃ)
佐々木は、フリック入力で返信を打ち始めた。
「あ、したも、いきます」
(いや、待てよ。これ、変じゃないか?)
佐々木は、入力した文字を見て、首をかしげた。
「あ、したも、いきます」
(「あしたも」が、「あ、したも」になってる)
佐々木は、文字を消して、もう一度入力した。
「あしたも、いきます。おかき、かいに」
(いや、おかき買いに、って、別に報告しなくていいだろ)
佐々木は、また文字を消した。
「あしたも、いきます」
(これでいいか)
佐々木は、送信ボタンを押した。
しかし。
送信されたメッセージを見て、佐々木は固まった。
『あしたも、いきます。おかき、かいに』
(え? 消したはずの「おかき、かいに」が、残ってる?)
佐々木は、画面を二度見した。
(なんでだ。消したはずなのに)
(あ、もしかして、消したつもりで、消えてなかったのか?)
佐々木は、頭を抱えた。
「……最悪だ」
四十五歳の男が、二十四歳の女の子に、「おかき、かいに」と送る。
(恥ずかしすぎる)
佐々木は、スマホをテーブルに伏せて置いた。
ピコン。
また、通知音がした。
佐々木は、恐る恐るスマホを手に取った。
田山からの返信。
『ぷっ、なにその文章。おじさん、スマホ苦手でしょ』
佐々木は、スマホの画面を見つめた。
(笑われた)
でも、不思議と、嫌な気分ではなかった。
『おじさん、スマホ苦手でしょ』
その言葉が、なんだか、田山の声で聞こえてくるような気がした。
(ああ、そうだよ。苦手だよ)
佐々木は、心の中でつぶやいた。
(でも、お前と連絡が取れるなら、スマホも悪くない)
佐々木は、スマホの画面を見つめながら、小さく笑った。
「……ふっ」
蛍光灯の下で、佐々木の頬が、ほんの少し赤くなっていた。
部屋の外では、秋の虫が鳴いていた。Noveliaとは?
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