FAIRY TAIL もしもナツが幽鬼の支配者に奪われたルーシィを救わなかったら
星霊魔導士ルーシィ・ハートフィリアは、ある夜、謎の魔法陣によってギルドの裏手から姿を消した。同じ頃、修行の旅に出ていたナツとハッピーは、遠く離れた地でその報せを受ける。しかしナツは、ルーシィを救うために戻ることを選ばなかった——。「俺は強くなってから帰る」。その決断が、妖精の尻尾の運命を、そしてルーシィの運命を大きく変えていく。幽鬼の支配者に囚われた少女は、やがてこの世界の真実に触れることになる。異世界転生/転移が絡み合う、もうひとつのFAIRY TAIL。これは、救われなかった少女の物語。
FAIRY TAIL もしもナツが幽鬼の支配者に奪われたルーシィを救わなかったら - 囚われの星霊姫——届かぬ声、それでも手の中の鍵
朝の光が、マグノリアの白い石畳を照らし始めていた。
フィオーレ川の水面がきらきらと輝き、川沿いのマグノリアの並木が朝風に揺れている。市場の商人たちが店を開く音、荷馬車の車輪が石畳を転がる音、そして遠くから聞こえる子供たちの笑い声。
いつもと変わらない、マグノリアの朝だった。
でも。
妖精の尻尾ギルド本部の一階、ギルド酒場は、その朝に限って妙に静かだった。
いつもなら、朝から酒をあおる連中の怒鳴り声や、依頼の取り合いで喧嘩する声が聞こえてくる。なのに今は、二十卓あるテーブルのあちこちに人が座っているのに、誰も口を開かない。
重い空気が、広間全体に沈殿していた。
カウンターの奥では、バーのマスターであるオルガが、無言でグラスを磨いている。その手の動きだけが、やけに規則正しい。
「……ねえ、ルーシィ、まだ来ないの?」
小さな声でそう言ったのは、青い髪を短く切りそろえた小柄な少女だった。
レビィ・マクガーデン。妖精の尻尾に所属する魔導士で、古代文字の解読を得意とする頭の良い娘だ。大きな丸眼鏡の奥の瞳が、不安そうに揺れている。
「昨日の夕方から、姿が見えないんだよ」
レビィの隣に立っていた男——ジェットと呼ばれる魔導士が、腕を組んだまま低く答えた。彼はレビィと同じチーム「シャドウ・ギア」の一員で、素早い動きが武器の青年だ。
「ギルドの裏手で、あの子のポーチが落ちてたんだって」
「ポーチって、星霊の鍵が入ってる、あの?」
レビィの声が、少しだけ震えた。
「ああ。それと、地面に変な模様が焼き付いてたって話だ。紫色の、魔法陣みたいな」
「魔法陣……」
レビィは、ぎゅっと自分のスカートの裾を握りしめた。
ルーシィ・ハートフィリア。ブロンドのツインテールを揺らして笑う、明るくて、ちょっとおっちょこちょいな星霊魔導士の女の子。ついこの間ギルドに入ったばかりで、まだ依頼の失敗も多いけれど、誰に対しても優しくて、仲間思いで。
その彼女が、昨夜から戻っていない。
「マスターはまだか」
別のテーブルから、苛立った声が上がった。
「落ち着けって。今、評議会と連絡を取ってるんだろう」
「落ち着いてられるかよ! ルーシィが攫われたんだぞ!」
「攫われたって決まったわけじゃ……」
「それ以外に何があるんだよ! あの魔法陣は明らかに転移系だろ!」
言い争いが、少しずつ大きくなっていく。
その時だった。
二階へと続く階段の上から、こつん、と杖をつく音が聞こえてきた。
広間の全員が、一斉に口を閉じる。
視線の先に立っていたのは、小柄な老人だった。
白い髪。白い長い口髭。身長は百五十センチほどしかない。だが、その体から放たれる空気は、広間の誰よりも重い。
妖精の尻尾三代目マスター、マカロフ・ドレアー。
聖十大魔道の一人に数えられる、このギルドの絶対的な支柱だ。
マカロフは、ゆっくりと階段を下りてきた。一歩、また一歩。その足音だけが、静まり返った広間に響く。
カウンターの前まで来ると、彼はオルガに目配せをした。オルガが無言で、水の入ったグラスを差し出す。
マカロフはそれを受け取らず、広間の全員をぐるりと見回した。
「……わしの可愛い子たち」
低く、よく通る声だった。
「今朝方、ギルド裏手の倉庫周辺を調べた者たちから報告を受けた。地面に刻まれていたのは、転移と拘束を組み合わせた、かなり高度な罠の魔法陣じゃ。一晩かけて、な」
広間が、ざわめいた。
「そして、通話水晶の履歴も確認した。昨夜、ルーシィが最後に使った通話水晶の記録が残っておった。相手は……マグノリアの北東、国境方面じゃ」
「北東って……」
誰かが呟いた。
「グラン・ノワールか」
ジェットの声に、広間の空気が一瞬で凍りついた。
グラン・ノワール。マグノリアから北東へ約百八十キロ、ヴェルミリオン山脈の麓にある廃鉱山都市。今はもう、まともな人間が住む場所ではない。
そしてそこは——闇ギルド「幽鬼の支配者」の本拠地があると噂される、無法地帯だった。
「幽鬼の支配者……あの、聖十大魔道のジョゼがマスターをやってるっていう」
レビィの顔から、血の気が引いていく。
「ああ。まず間違いあるまい。ルーシィは、幽鬼の支配者に連れ去られた」
マカロフの言葉に、広間が一瞬、静まり返った。
そして次の瞬間。
「ふざけんなよ!!」
若い魔導士が、テーブルを蹴り上げた。木の皿が床に落ちて、派手な音を立てる。
「幽鬼だかなんだか知らねえが、俺たちの仲間を攫ってタダで済むと思ってんのか!? マスター、今すぐ俺たちに突入命令を出してくれ! ルーシィを助けに行くんだ!」
「そうだそうだ!」
「俺も行く!」
「ルーシィちゃんを返してもらおうぜ!」
怒号が、あちこちから上がる。
ギルドのモットーは「仲間を信じること」。仲間が攫われたとあれば、黙っていられる連中ではない。
だが。
マカロフは、その怒号の波を、じっと黙って聞いていた。
やがて、ぽつりと口を開く。
「……お前さんたちの気持ちは、ようく分かっておる」
その声は、先ほどよりもずっと低く、重かった。
「じゃが、聞け。グラン・ノワールは、廃鉱山の坑道を改造した要塞じゃ。正面入口は一つ。周囲は断崖絶壁。見張り塔が何本も立っておって、外部からの侵入者を感知する結界まで張られておる」
マカロフは、そこで一度言葉を切った。
「加えて、今このギルドには、グレイもエルザもおらん。二人とも遠方の任務で、すぐには戻れん。ナツもハッピーも修行に出たままじゃ。戦力が、足りなすぎる」
「だからって、諦めろって言うのかよ!」
「そうは言っておらん」
マカロフの声が、ぴしゃりと広間を打った。
「わしは今、王国魔法評議会に正式な報告を上げておる。幽鬼の支配者の関与が確定すれば、評議会から騎士団の派遣要請も出せよう。だが、それには時間がかかる」
「時間がかかるって……それまでルーシィはどうなるんだよ!」
「お前さんたちの気持ちは分かると言うたじゃろう」
マカロフの目が、すっと細くなった。
「じゃがな、もし今、わしらが独断でグラン・ノワールに突入して失敗すれば、どうなる? ギルドは闇ギルドとの私闘を理由に、認可を取り消される。最悪の場合、解散じゃ。そうなれば、ルーシィを助けるどころか、お前さんたち全員の居場所まで失うことになる」
「そ、それは……」
「わしは、ギルドマスターじゃ。お前さんたち一人ひとりの命と、このギルドの存続に責任がある。感情だけで動くわけにはいかんのじゃ」
マカロフの言葉に、反論できる者はいなかった。
誰もが、唇を噛みしめている。拳を握りしめている。怒りと無力感が、広間を満たしていた。
「……軽率な行動は、誰にも許さん。いいな」
マカロフは、それだけ言うと、くるりと背を向けて階段を上っていった。
その背中が、いつもより小さく見えた。
広間には、重い沈黙が残った。
誰も、何も言えなかった。
ただ、レビィだけが、小さく呟いた。
「ルーシィ……」
その声は、誰にも届かなかった。
———
場所は変わって、グラン・ノワール。
地下三階層目。
黒ずんだ岩壁に囲まれた牢屋の中で、ルーシィ・ハートフィリアは目を覚ました。
冷たい。
頬に触れる石の床が、氷のように冷たい。
体を起こそうとして、両手首に嵌められた鉄の枷がガチャリと音を立てた。鎖が壁に繋がれていて、自由に動けない。
「……また、ここ」
掠れた声が、自分のものとは思えなかった。
喉が渇いている。唇が乾いてひび割れている。頭の奥がずきずきと痛む。
(どれくらい、寝てたのかしら)
明かり窓から差し込む光は、昨日と同じ橙色をしていた。
いや、あれは夕方の光だった。今は、朝の光かもしれない。
(わからない)
時間の感覚が、すっかり狂ってしまっている。
ルーシィは、ゆっくりと周囲を見回した。
石造りの狭い部屋。鉄格子。壁の高い位置にある小さな明かり窓。カビと鉄錆と、何かが腐ったような匂い。
何も変わっていない。
昨日と同じ、牢屋。
「……はあ」
ため息が、自然と漏れた。
腰のベルトに手を伸ばす。ポーチの感触。
(鍵は、まだある)
星霊の鍵が入ったポーチは、無事だった。
でも。
(魔力が……全然、回復してない)
手首の枷が、相変わらずルーシィの魔力を吸い上げ続けている。体内のマナは空っぽで、星霊を呼ぶどころか、簡単な魔法の一つも使えない。
その時だった。
コツ、コツ、と、廊下の向こうから足音が聞こえてきた。
昨日と同じ、複数人の足音。
ルーシィは、壁際に体を寄せた。鎖がガチャリと音を立てる。
鉄格子の向こうに、男たちの姿が現れた。
昨日の二人とは違う。一人は長身で、黒いローブを羽織っている。もう一人は小太りで、手に何かを持っていた。
「おや、お目覚めですか、お嬢さん」
長身の男が、鉄格子越しに笑いかけてきた。口調は丁寧だが、目が全く笑っていない。
「……何の用?」
ルーシィは、精一杯の虚勢を張って男を睨みつけた。
「いやあ、そんなに怖い顔をしないでくださいよ。今日は、お嬢さんにいいお知らせを持ってきたんですから」
「いいお知らせ?」
「ええ。あなたのお父上、ジュード・ハートフィリア様のことです」
ルーシィの体が、びくりと固まった。
「お父様が……何か」
声が、震える。
「ジュード様はね、今、王都の屋敷で病に伏せっておられるそうですよ。かなり、重い病だとか」
「……え?」
頭の中が、真っ白になった。
父が、病。
「まあ、それだけ聞けば、娘としては心配になるでしょう? だから、うちのマスターがおっしゃってるんですよ。素直にこちらの質問に答えれば、お父上に会わせてあげてもいい、ってね」
「……質問に、答える?」
「ええ。たとえば、あなたの家に伝わる『秘宝』について、とか」
長身の男の目が、ぎらりと光った。
「……秘宝? 何のこと? 私、そんなもの聞いたことないわ」
ルーシィの言葉に、長身の男は肩をすくめた。
「まあ、今すぐ答えられなくても結構ですよ。時間はたっぷりありますからね。ただし、お父上の命がもつかどうかは、分かりませんけど」
「——っ!」
ルーシィは、カッとなって叫んでいた。
「ふざけないで! 父を盾に取るなんて、最低よ! そんなやり方で、私が言うことを聞くと思ってるの!?」
「おやおや、元気がいい。でもね、お嬢さん。あなたに拒否権はないんですよ」
長身の男が、小太りの男に目配せをした。
小太りの男が、鉄格子の隙間から、何かを投げ入れてきた。
それは、パンだった。
いや、パンと呼ぶのもおこがましい、黒く固まった塊。床に落ちて、ぽてん、と音を立てた。
「今日の食事です。残さず食べてくださいね。あなたが元気でいないと、お父上に会わせる約束も果たせませんから」
長身の男は、そう言って、くつくつと笑った。
「そうだ。それと、その腰のポーチ。星霊の鍵が入っているんでしょう?」
ルーシィは、とっさにポーチを隠した。
「隠さなくてもいいですよ。どうせ奪えないことは分かってますから。星霊の鍵は、使い手の意思にしか反応しない。無理に奪っても、ただの金属の塊だ」
「……だったら、何の用?」
「確認ですよ。あなたが鍵を手放していないかどうかのね。まあ、手放していないようで安心しました。マスターが、あなたの鍵に興味をお持ちなので」
ルーシィの背筋に、冷たいものが走った。
ジョゼ。
あの、笑顔の裏で何を考えているか分からない、幽鬼の支配者のマスター。
あの男が、私の鍵に興味を持っている。
「では、お嬢さん。お父上のこと、よく考えておいてくださいね。賢い選択を期待していますよ」
長身の男は、そう言い残して、小太りの男と一緒に廊下を去っていった。
足音が、遠ざかっていく。
やがて、完全に静かになった。
ルーシィは、壁にもたれかかったまま、しばらく動けなかった。
「……お父様が、病」
声に出して、呟いた。
父、ジュード・ハートフィリア。
ハートフィリア商会を一代で大きくした、やり手の商人。
母が死んでから、父は仕事にしか興味がないように見えた。私のことを、娘としてではなく、家を継ぐための道具としか見ていないように感じた。
政略結婚。
あの縁談を押し付けられた時、私は家を飛び出した。
それ以来、父とは一度も会っていない。
(会いたくない、と思ってた)
でも。
(でも、死んでほしいなんて、思ったことない)
ルーシィは、ぎゅっと目を閉じた。
胸の奥が、きゅうっと締めつけられる。
父が病に倒れている。
それが本当なのか、嘘なのかは分からない。
あの男たちのことだから、私を動揺させるための嘘かもしれない。
でも。
(もし本当だったら)
もし本当に、父が重い病で、もう長くないのだとしたら。
私が会わないまま、父は死んでしまうかもしれない。
「……いや」
ルーシィは、首を振った。
(だめよ。あいつらの思う壺じゃない)
父を盾に取る。そんな卑怯なやり方に、屈してはいけない。
それに。
(秘宝って、何?)
さっきの男が言っていた。
「家に伝わる秘宝」。
私、そんなもの、一度も聞いたことがない。
(お父様は、私に隠し事をしてたの?)
それとも、あの男たちの作り話?
分からないことだらけだった。
ルーシィは、ゆっくりと顔を上げた。
そして、腰のポーチから、金色の鍵を一本取り出した。
水瓶座の紋様が刻まれた、アクエリアスの鍵。
「……アクエリアス」
小さく呼びかける。
鍵は、冷たいままだった。
(魔力が、枷に吸われて、鍵まで届かない)
ルーシィは、両手首の枷に目を落とした。
黒い金属。手首の皮膚に食い込む重さ。
(この枷が、私の魔力を吸い上げてる)
魔力の流れを、意識して感じ取る。
体内のマナが、ゆっくりと、しかし確実に、手首の枷へと吸い込まれていく。
(吸い込むなら、どこかに溜まるはず)
ルーシィは、枷の表面を、指先でそっと撫でた。
継ぎ目はない。完全に一体化した金属の輪。
でも。
(魔力っていうのは、ただ吸い込まれて消えるわけじゃない。必ず、どこかに流れていく)
目を閉じる。
枷に触れた指先から、かすかな振動を感じる。
(……ここ)
枷の内側。手首に触れている部分。そこに、ごく小さな、髪の毛ほどの細さの溝がある。
(この溝が、魔力を吸い上げる回路)
そして、その溝は、枷の外側へと続いている。
「吸い上げた魔力を、外に逃がしてるんだわ」
つまり、この枷は、吸い上げた魔力を大気中に放出することで、装着者の魔力を枯渇させる仕組みなのだ。
(魔力を吸う仕組みには、必ず綻びがあるはず)
ルーシィの頭の中で、一つの考えが形を成し始めた。
(吸い上げる力が働いているなら、逆に——)
「私の魔力を、一気に流し込んだら、どうなるのかしら」
枷が魔力を吸い上げる速度には、限界があるはずだ。
ならば、その限界を超える量の魔力を、一気に叩き込む。
そうすれば、枷は耐えきれずに、壊れるかもしれない。
(でも、今の私には、そんな大量の魔力を生み出す力はない)
枷に吸われ続けて、体内のマナはほとんど空っぽだ。
(でも……)
ルーシィは、鍵を握りしめた。
(諦めるのは、まだ早い)
「私は……誰かに助けてもらうのを、待ってるだけじゃない」
小さな声で、自分に言い聞かせるように呟いた。
「私の道は、私が選んだ。だから、私が自分で、切り開くの」
ナツもハッピーも、ここにはいない。
グレイもエルザも、助けには来られない。
マカロフさんだって、ギルドのことを考えれば、簡単には動けない。
だから。
(自分でやるしかない)
ルーシィは、枷の構造を、もう一度、じっくりと観察し始めた。
魔力の流れを感じ取り、枷の弱点を探す。
まだ、何も解決していない。
でも、ルーシィの心には、確かな決意が生まれていた。
———
夜が来た。
明かり窓から差し込む光が、完全に消えた。
牢屋の中は、闇に包まれている。
ルーシィは、冷たい床の上で膝を抱えて座っていた。
昼間に投げ入れられた黒いパンは、まだ手をつけていない。
(お腹は空いてるけど……あれはちょっと)
食欲が湧かない。
それに、あのパンに何か仕込まれている可能性だってある。
(慎重にいかないと)
そう思って、ルーシィは目を閉じた。
その時だった。
「……おい、聞いたか?」
牢の外から、男の声が聞こえてきた。
見張りだ。
廊下の向こうにある見張り部屋から、話し声が漏れ聞こえてくる。
ルーシィは、息を潜めて耳を澄ませた。
「聞いたって、何をだよ」
「マスターの話だよ。あの娘っ子を捕まえた本当の目的」
「本当の目的? ハートフィリア家の身代金だろ?」
「それもある。でもな、マスターが本当に狙ってるのは、ハートフィリア家に伝わる『秘宝』らしいぜ」
「秘宝?」
「ああ。なんでも、星霊魔法に関係する、とんでもない代物らしい。マスターは、それを手に入れるために、あの娘っ子を人質にしたんだとよ」
「はあ……でも、あの小娘、秘宝のことなんて知らなさそうだったぜ」
「だから、聞き出すんだろ。父親が病で死にかけてるって言えば、少しは素直になるかもしれねえしな」
「……ふん、まあ、どっちにしても、あの娘に選択肢はねえよ」
男たちの笑い声が、廊下に響いた。
ルーシィは、壁に背中をつけたまま、じっと動かなかった。
(秘宝……星霊魔法に関係する、とんでもない代物)
そんなもの、本当に家にあるの?
(お父様は、知ってたの?)
私には、何も教えてくれなかった。
(私が、知らなかっただけ?)
それとも、父も知らなかったの?
分からない。
でも、一つだけ、はっきりしたことがある。
「……私は、あいつらの駒なんかじゃない」
ルーシィは、声に出さずに、心の中で呟いた。
父の病。家の秘宝。
二つの謎が、重くのしかかる。
でも。
(私がここで諦めたら、全部、あいつらの思い通りになる)
ルーシィは、ポーチから星霊の鍵を取り出した。
暗闇の中で、金色の鍵が、かすかに光っているように見えた。
(アクエリアス……お願い。力を貸して)
鍵を握りしめる。
手のひらに、鍵の冷たさが染み込んでいく。
でも、その冷たさの奥に、ほんの少しだけ、温かいものを感じた気がした。
(次に、抵抗する機会を)
ルーシィは、目を閉じた。
(必ず、掴んでみせる)
牢の外では、夜の闇が、音もなく深まっていく。
その闇の向こうで、何かが、ゆっくりと動き始めていた。
ルーシィの運命を、さらに残酷な方向へと捻じ曲げるための、暗い計画が。Noveliaとは?
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