FAIRY TAIL もしもナツが幽鬼の支配者に奪われたルーシィを救わなかったら
星霊魔導士ルーシィ・ハートフィリアは、ある夜、謎の魔法陣によってギルドの裏手から姿を消した。同じ頃、修行の旅に出ていたナツとハッピーは、遠く離れた地でその報せを受ける。しかしナツは、ルーシィを救うために戻ることを選ばなかった——。「俺は強くなってから帰る」。その決断が、妖精の尻尾の運命を、そしてルーシィの運命を大きく変えていく。幽鬼の支配者に囚われた少女は、やがてこの世界の真実に触れることになる。異世界転生/転移が絡み合う、もうひとつのFAIRY TAIL。これは、救われなかった少女の物語。
FAIRY TAIL もしもナツが幽鬼の支配者に奪われたルーシィを救わなかったら - 届かぬ星霊の声——父の病と囚われの第二の罠
湿った空気。カビと鉄錆の匂い。牢の石壁から染み出る冷気が、ルーシィ・ハートフィリアの背中にじわじわと沁み込んでくる。
グラン・ノワールの地下牢。闇ギルド「幽鬼の支配者」の本拠地。あの夜、ギルドの倉庫で紫色の魔法陣に飲み込まれてから、もう二日が経とうとしていた。
(二日……)
ルーシィは膝を抱えたまま、ぼんやりと天井を見上げた。高い位置にある小さな明かり窓から、かすかな外気が流れ込んでくる。昼なのか夜なのか、それすらもはっきりしない。ただ、見張りの足音が遠ざかっていくのを、彼女は静かに待っていた。
交代の時間だ。
コツ、コツ、と石畳を打つ音が、廊下の向こうへ消えていく。新しい見張りが来るまでの、ほんのわずかな空白。
ルーシィは素早く腰のポーチに手を伸ばした。
革の感触。そして、冷たい金属の重み。
(ある。まだ、あるわ)
星霊の鍵。金色に輝く、水瓶座の紋様が刻まれた一本の鍵。彼女の指先が、それをそっと取り出した。
手首には、分厚い鉄の枷。魔力を吸い上げる、忌まわしい拘束具。だが、鍵はまだ手元にある。この二日間、見張りたちは彼女のポーチを奪おうとはしなかった。いや、正確には、奪っても意味がないと知っているのだ。星霊の鍵は、使い手の意思にのみ反応する。他人が奪ったところで、ただの金属片に過ぎない。
(だから、私が使うしかない)
ルーシィは鍵を両手で握りしめ、目を閉じた。
「アクエリアス……」
声に出さず、心の中で呼びかける。
(お願い。私の声、届いて)
体内のマナを、意識して鍵へと流し込む。大気中のエネルギーを吸収し、魔力として出力する。魔導士なら誰でもできる、基本中の基本。
だが。
手首の枷が、途端に熱を帯びた。
(あ……)
流れ込むはずの魔力が、指先に届く前に、根こそぎ吸い取られていく。体内のマナが、水が低きに流れるように、枷の中へと消えていく。
鍵が、ほんの一瞬だけ、かすかに光った。
それだけだった。
「……どうして」
声が震えた。
(また、失敗。この二日間、何度も試してるのに)
鍵を握る手に、力が入る。指先が白くなる。悔しさで、唇を噛みしめた。鉄の味が口の中に広がる。
(魔力が……枷に吸われて、鍵まで届かない)
星霊魔法は、使い手の魔力と鍵を媒体にして、星霊界の精霊を召喚する古代魔法。魔力を封じられてしまえば、鍵があっても何の意味もない。
分かっている。分かっているのに。
(諦めたくない)
ルーシィは、枷をじっと見つめた。
黒い金属。手首の皮膚に食い込む重み。この二日間、彼女はこの枷のことを、ずっと観察してきた。
(この枷は、私の魔力を吸い上げてる)
魔力の流れを、意識して感じ取る。体内のマナが、ゆっくりと、しかし確実に、手首の枷へと吸い込まれていく。
(吸い込むなら……どこかに、溜まる場所があるはず)
枷の表面を、指先でそっと撫でる。継ぎ目はない。完全に一体化した金属の輪。だが、よく見ると、枷の内側、手首に触れている部分に、ごく小さな、髪の毛ほどの細さの溝がある。
(この溝が、魔力を吸い上げる回路……)
そして、その溝は、枷の外側へと続いている。
「……吸い上げた魔力を、外に逃がしてるんだわ」
つまり、この枷は、吸い上げた魔力を大気中に放出することで、装着者の魔力を枯渇させる仕組みなのだ。
(魔力を吸う仕組みには、必ず綻びがあるはず)
頭の中で、一つの考えが形を成し始めた。
(吸い上げる力が働いているなら、逆に……)
「私の魔力を、一気に流し込んだら、どうなるのかしら」
枷が魔力を吸い上げる速度には、限界があるはずだ。ならば、その限界を超える量の魔力を、一気に叩き込む。そうすれば、枷は耐えきれずに、壊れるかもしれない。
(でも、今の私には、そんな大量の魔力を生み出す力はない)
枷に吸われ続けて、体内のマナはほとんど空っぽだ。
(でも……)
ルーシィは、鍵を握り直した。
(アクエリアスの力は、水。水は、流れを操る。ならば、枷が吸い上げる魔力の流れを、逆流させることだって……)
そこまで考えて、ルーシィは首を振った。
(だめよ。今の私に、そんな高度な魔法制御ができるわけない)
でも。
(諦めるのは、まだ早い)
その時だった。
「おい、何してやがる」
突然の声に、ルーシィの肩が跳ねた。
鉄格子の向こうに、見張りの男が立っていた。交代で来た新しい見張り。痩せ型で、薄汚れた外套を羽織り、腰に剣を下げている。黄色い歯をむき出しにして、ニヤニヤと笑っていた。
「鍵でも握って、星霊でも呼ぼうってか? 無駄だって、まだ分かんねえのかよ」
ルーシィは、鍵をポーチにしまおうとした。だが、男は鉄格子をガンッと蹴りつけた。
「隠すんじゃねえ! 見せてみろよ、その鍵を!」
男の声が、牢の中に響き渡る。ルーシィは、唇を噛みしめながらも、鍵を握った手を、ゆっくりと男の方へ差し出した。
「へっ、素直じゃねえか」
男は、鉄格子の隙間から、ルーシィの手を覗き込む。金色の鍵が、かすかに光を反射した。
「きれいな鍵だな。だが、お前の魔力がなきゃ、ただの鉄くずだ。その枷が、全部吸い取ってくれるからな。ククク……」
男の嘲笑が、牢の壁に反響する。
「……あなたたち、いったい何が目的なの? 私を捕まえて、どうするつもり?」
声を震わせながらも、ルーシィは男を睨みつけた。
「目的? お前には関係ねえよ。マスターの命令に従うだけだ」
男は、そう言って、また鉄格子を蹴った。
「お前は、ここでおとなしくしてればいいんだよ。余計なことをすると、痛い目を見るぞ」
男は、そう言い残すと、廊下の向こうへと去っていった。
ルーシィは、男の足音が遠ざかるのを待ってから、小さく息を吐いた。
(怖かった……)
心臓が、まだ激しく脈打っている。手のひらに、じっとりと汗をかいていた。
(でも、負けない)
ルーシィは、鍵を握りしめた。
(絶対に、ここから出てみせる)
その時だった。
足音が、再び近づいてきた。今度は、さっきの男とは違う。もっと複数人。そして、その足音は、ルーシィの牢の前で止まった。
「お嬢さん、お目覚めかな?」
低く、よく通る声。
ルーシィの全身が、強張った。
鉄格子の向こうに立っていたのは、長身痩躯の男だった。赤紫色の長髪を後ろで束ね、白いスーツに身を包んでいる。口元には口髭。冷たい灰色の瞳が、牢の中のルーシィを、じっと見下ろしていた。
ジョゼ・ポーラ。幽鬼の支配者のギルドマスター。聖十大魔道の一人。
「少し痩せたかな? 食事は口に合わないかい?」
ジョゼは、紳士的な微笑みを浮かべたまま、ゆっくりと牢の前に立った。その笑顔の裏で、何を考えているのか、ルーシィには読めない。
「……あなたが、ジョゼ・ポーラ」
ルーシィは、震える声で言った。
「おや、私の名前をご存知か。光栄だよ、お嬢さん」
「あなたの目的は何? 私を捕まえて、どうするつもりなの!」
ルーシィの問いに、ジョゼは、ますます笑みを深くした。
「目的? それは、君のお父上から聞いているはずだがね」
「……お父様が、あなたに依頼したっていうの?」
「そうだよ。愛しい娘を連れ戻してほしいとね。まったく、親子の喧嘩に、闇ギルドを雇うとは、お父上も相当焦っておられるようだ」
ジョゼの言葉に、ルーシィは唇を噛んだ。
(お父様が……私を連れ戻すために、こんなことを)
父、ジュード・ハートフィリア。ハートフィリア商会を営む、セレンディア王国の大商人。ルーシィが家出したことを知り、金の力で闇ギルドを雇った。
(お父様は、私を家に連れ戻して、政略結婚させようとしてる)
ルーシィは、父の顔を思い浮かべた。仕事に打ち込み、娘を顧みなかった父。母が死んでから、ますます仕事に没頭するようになった父。
(私は、お父様の言いなりにはならない。自分の道は、自分で選ぶ)
そう決めて、家を飛び出した。妖精の尻尾に飛び込んだ。
「だがね、お嬢さん」
ジョゼの声が、ルーシィの思考を遮った。
「残念ながら、お父上は、今、それどころではないようだ」
「……どういう意味?」
ルーシィの声が、低くなる。
ジョゼは、ゆっくりと、牢の鉄格子に手をかけた。
「お父上は、重い病に倒れられた。医師の診断では、余命いくばくもないそうだ」
ルーシィの頭が、真っ白になった。
「……うそ」
声が、掠れる。
「嘘ではないよ。これは、つい先ほど、王都の我々の息のかかった医師から、通話水晶で知らせがあった。お父上は、君の行方を探すことすら許されないほど、衰弱しておられる」
「お父様が……そんな」
ルーシィの足から、力が抜けていく。その場に、へたり込みそうになるのを、必死に堪えた。
(お父様が、病気……)
父のことを、嫌っていた。母の死後、仕事に打ち込み、自分を顧みなかった父を。政略結婚を勝手に決めた父を。
でも。
(死ぬなんて、そんなの)
目の奥が、熱くなった。
「だが、安心したまえ、お嬢さん」
ジョゼは、優しげな声で言った。
「君が素直に従えば、お父上の最期に会わせてあげよう。財産相続の書類に署名をしてもらうだけだ。簡単なことだろう?」
ルーシィは、顔を上げた。
「……署名? 何の書類なの」
「ハートフィリア家の財産を、我々が管理するための書類さ。何も心配はいらない。君のお父上が亡くなった後も、君の生活は保障しよう」
ジョゼの言葉に、ルーシィの全身が震えた。
(財産……この人、お父様の財産を狙ってる)
ようやく、ジョゼの真の目的が見えた。
(お父様の依頼につけ込んで、ハートフィリア家の財産を、根こそぎ奪おうとしてるんだわ)
「……ふざけないで! そんな書類に、署名するわけないでしょ!」
ルーシィは、声を張り上げた。
「おや、それは残念だ」
ジョゼの笑みが、消えた。
「では、お父上は、君の行方を知らぬまま、孤独に死ぬことになる。それでもいいのかね?」
「……!」
ルーシィの喉が、引き攣る。
(お父様を、盾に取るなんて)
怒りと、悲しみと、恐怖が、胸の中で渦巻く。
「よく考えたまえ、お嬢さん。君の返事次第で、お父上の最期が決まるのだよ」
ジョゼは、そう言い残すと、ゆっくりと廊下の向こうへと消えていった。
ルーシィは、その場に崩れ落ちた。
「お父様……」
涙が、止めどなく溢れてくる。
(どうして。どうして、こんなことに)
父の病。ジョゼの脅迫。二重の枷が、ルーシィの心を締め付ける。
(私が、素直に家に帰っていれば、お父様は、こんなに心配しなかったのかもしれない)
後悔が、胸を刺す。
(でも……)
ルーシィは、涙を拭った。
(でも、だからって、ジョゼの言いなりになるわけにはいかない)
(お父様の財産を、あんな人に渡すなんて、絶対に嫌)
(それに……)
ルーシィは、ジョゼの笑顔を思い出した。
(あの人の笑顔の裏には、もっと別の何かがある気がする)
ジョゼは、財産だけが目的ではない。もっと深い、別の狙いがある。そんな気がしてならなかった。
(でも、それが何なのか、今の私には分からない)
ルーシィは、ポーチから星霊の鍵を取り出した。
(アクエリアス……)
鍵を握りしめる。
(お願い。力を貸して)
その時だった。
牢の床が、かすかに光り始めた。
「……え?」
見ると、床に、紫色の紋章が浮かび上がっている。古い、魔法陣のような模様。それが、ルーシィの足元から、牢全体に広がっていく。
「へっ、気づいたか?」
いつの間にか、見張りの男が、牢の前に立っていた。手に、小さな魔導具を持っている。
「マスターの命令でな。お前の鍵の力を、完全に封じさせてもらうぜ」
男が魔導具を操作すると、床の紋章が、一層強く輝いた。
「なに……これ」
ルーシィは、床の紋章を見つめた。
(星霊封じの紋章……)
古代魔法の一種。星霊の力を封じるための、特殊な紋章。これが、牢の床に刻まれていた。
(そんな……)
ルーシィは、鍵を握る手に、力を込めた。
(でも、まだ、試してない)
鍵に魔力を込めようとする。だが、今度は、手首の枷だけでなく、床の紋章が、魔力を吸い上げていく。
(あ……)
体内のマナが、急速に失われていく。
「……やめて!」
ルーシィは、鍵を離した。
鍵が、冷たい床に落ちる。
「どうだ? これで、お前の星霊は、完全に封じられた。おとなしく、マスターの言うことを聞くんだな」
男の嘲笑が、牢の中に響き渡る。
ルーシィは、床に落ちた鍵を、震える手で拾い上げた。
(二重の封印……)
魔力を吸う枷と、星霊を封じる紋章。二つの枷が、ルーシィの力を、完全に奪っていた。
(これじゃ、もう、何もできない)
絶望が、ルーシィの心を覆い尽くす。
(お父様は、病気で。私は、ここから出られなくて。星霊も、呼べなくて)
涙が、再び溢れてきた。
(もう、どうすればいいの)
ルーシィは、膝を抱えて、声を押し殺して泣いた。
―――
その頃。
ヴェルミリオン山脈の山中。
「ちくしょう! なんで、こんな時に限って、嵐なんだよ!」
ナツ・ドラグニルは、崩落した山道の前で、地面を拳で殴りつけた。
桜色のツンツン頭。黒い瞳。首には、イグニールからもらった白い鱗のマフラー。右腕には、妖精の尻尾の紋章。
滅竜魔導士、ナツ・ドラグニル。ルーシィの相棒であり、今は、修行のために山にこもっている。
「ナツ、落ち着くです」
青い毛並みの小さな猫、ハッピーが、ナツの肩に乗っていた。背中には、小さな翼を出すことができる。エクシードという種族の、喋る猫だ。
「落ち着いてられるかよ! ルーシィが、幽鬼の支配者に攫われたんだぞ!」
ナツは、ハッピーに怒鳴り返した。
つい先ほど、旅人から聞いた噂。幽鬼の支配者が、マグノリアで少女を攫ったという。その少女の特徴が、ブロンドのツインテール、17歳くらい、星霊の鍵を持っている——ルーシィと、完全に一致していた。
「でも、山道が崩れてるです。馬車も、人の足も、通れないのだ」
ハッピーの言う通りだった。前夜の嵐で、山道が崩落し、道が完全に塞がれている。
「じゃあ、どうすりゃいいんだよ! ルーシィが、今ごろ、どんな目に遭ってるか……」
ナツは、歯を食いしばった。
「僕が、空を飛んで、先行するです」
ハッピーが、翼を広げた。
「お前、本気か? マグノリアまで、180キロ以上あるんだぞ」
「でも、ルーシィが心配なのだ。僕、頑張るです」
ハッピーの黒い瞳が、真剣にナツを見つめる。
「……だめだ。お前の魔力じゃ、途中で落ちちまう。それに、もしものことがあったら、俺は……」
ナツは、ハッピーを抱きしめた。
「ナツ……」
「くそ! 通話水晶は、山間部で電波が届かねえし! 何か、何か方法はねえのかよ!」
ナツは、ポケットから通話水晶を取り出した。魔導具の一種で、離れた場所と会話ができる。だが、山間部では、その通信が不安定になる。
「……つながらない」
水晶からは、雑音しか聞こえてこない。
「ちくしょう!」
ナツは、水晶を地面に叩きつけそうになり、寸前で思いとどまった。
「ナツ、焦っても仕方ないのだ。道が通れるようになるまで、待つしかないのだ」
「待てるかよ! ルーシィが、今も、どこかで……」
ナツは、言葉を詰まらせた。
(ルーシィ……)
相棒の顔が、脳裏に浮かぶ。明るくて、おっちょこちょいで、でも、仲間思いで。
(俺が、ギルドにいなかったから)
後悔が、胸を締め付ける。
(俺が、もっと早く、修行から戻っていれば)
「……ナツ」
ハッピーが、ナツの頬を、そっと舐めた。
「……ああ、分かってる。今は、できることをやるしかねえ」
ナツは、深く息を吐いた。
「まずは、道をなんとかする。それから、ギルドに連絡を取る方法を探す」
「アイアイ! 僕も、手伝うのだ」
ハッピーが、元気よく返事をした。
「ルーシィ、待ってろよ。俺が、必ず助けに行く」
ナツは、崩落した山道を見据えた。
―――
牢の夜。
ルーシィは、壁にもたれて座り込んでいた。
涙は、いつの間にか乾いていた。
(泣いてるだけじゃ、何も変わらない)
ルーシィは、床に刻まれた星霊封じの紋章を、じっと見つめた。
紫色の、古い模様。魔力を帯びて、かすかに発光している。
(この紋章が、私の鍵の力を封じてる)
ルーシィは、紋章の構造を、観察し始めた。
(紋章の中心から、魔力が流れ出て、枷と連動してる……)
手首の枷に意識を集中する。枷が吸い上げた魔力が、床の紋章へと流れ込み、紋章の中で循環している。
(紋章と枷が、お互いに魔力を供給し合って、封印を維持してるんだわ)
つまり、枷が吸い上げた魔力が、紋章の力の源になっている。
(ならば……)
ルーシィの頭の中で、一つの仮説が浮かび上がった。
(紋章を傷つけるか、枷の魔力を逆流させれば、封印を一時的に解けるかもしれない)
しかし、それには、紋章に直接触れる必要がある。
(でも、見張りの目がある)
廊下の向こうから、見張りの男の足音が聞こえる。
(今は、無理)
ルーシィは、ポーチから星霊の鍵を取り出した。
金色の鍵。水瓶座の紋様。
「アクエリアス……」
鍵を握りしめる。
(今は、まだ、届かない)
(でも、絶対に、諦めない)
(お父様のことも、ジョゼのことも、この封印のことも)
(全部、私が、自分の手で、なんとかする)
ルーシィは、鍵を胸に抱きしめた。
父の病という枷。ジョゼの第二の罠という枷。二つの鎖が、彼女を縛り付ける。
だが、その鎖を断ち切る方法を、彼女は、まだ探し続けている。
牢の外では、夜の闇が、音もなく深まっていく。Noveliaとは?
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