この素晴らしい世界に祝福を!―めぐみんと過ごすifの日々―
この素晴らしい世界に祝福を!―めぐみんと過ごすifの日々―
アクセルに住む高校生、佐藤和真は、ダスティネスの屋敷で爆裂魔法を愛する少女・めぐみんと出会う。彼女は「紅魔族の天才魔導士」と名乗り、「私の爆裂魔法は一日一回しか使えないけど、その一撃は最強よ!」と誇らしげに宣言する。
和真はアクア、ダクネス、そしてめぐみんと同居することになり、彼女たちの混沌とした日常に巻き込まれていく。めぐみんは和真にまとわりつき、毎日のように爆裂魔法を見せびらかそうとする。「見て見て!すごいでしょ!」「特別に私の魔法を見せてあげる!」
ある日、魔王軍の将軍であるデュラハン・ベルディアがアクセルを襲撃する。和真たちは共に戦うが、ベルディアの強さに圧倒される。そこでめぐみんはとんでもない提案をする。「爆裂魔法を放つわ。でも条件があるの。和真、私のことが好きだと言ったら、やってあげる」
和真は戸惑いながらも、めぐみんの爆裂魔法を目撃する。彼らはベルディアを撃退することに成功する。しかし、魔法は予想以上に強力で、町の一部を吹き飛ばしてしまう。和真は彼女を叱るが、めぐみんは涙ながらに呟く。「私はただ……認めて
この素晴らしい世界に祝福を!―めぐみんと過ごすifの日々― - 魔王軍の幹部、あなたをコレクションにしない?
アクセルの空は、朝から薄い雲に覆われていた。風はなく、市場の匂い——香辛料、干し魚、焼きたてのパン——が街路に滞留している。佐藤和真は、ギルド二階の酒場で一人、木のテーブルに突っ伏していた。
「なんでこうなるんだよ……」
昨夜、ステータス画面に浮かんだ文字が、まぶたの裏から消えない。
『追加効果: 魔力干渉(微弱+)』
朝には「微弱」だった。夜には「微弱+」。たった一日で成長している。このまま進めば、仲間の魔力はどうなる。めぐみんの、あの爆裂魔法は——。
(考えるな。今は、考えるな)
和真は頭を振って、木のコップに残った水を一気に飲み干した。
酒場は昼前だというのに、そこそこの人で賑わっていた。木の床を踏むブーツの音、食器のぶつかる音、冒険者たちの怒鳴り声。どれもが日常の音だった。
——その音が、ふと、一つずつ消えていった。
入口の方から、静寂が波のように広がってくる。
和真は顔を上げた。
「……なんだ?」
階段の上に、一人の男が立っていた。
銀色の長い髪。青みがかった光沢が、薄暗い酒場の中でもはっきりと分かる。金色の瞳は、ゆっくりと店内を一瞥してから、まっすぐに和真を捉えた。
背が高い。百七十二センチはある。黒と銀で仕立てられた貴族風の上着は、一目で高級品と分かる仕立てだった。肩には銀の鎖、指には青い宝石の指輪。
(貴族……? なんでこんな場所に)
男は、和真の隣の席に、音もなく座った。
「君が、佐藤和真だね?」
声は、低く澄んでいた。男のものにしては滑らかで、女のものにしては芯がある。耳に心地よい、不思議な声だった。
「……あんた、誰だよ」
和真は身構えた。背もたれに手をやり、いつでも立ち上がれるようにする。
「失礼。私はシルビア。旅の収集家をしているの。珍しいものを集めて回っているのよ」
「……男が『のよ』って言うなよ。気色悪い」
「あら、口が悪いのね。でも、そういう正直なところ、嫌いじゃないわ」
シルビアは微笑んだ。その笑顔は、男の顔に浮かんでいるのに、どうにも色っぽかった。
周囲の冒険者たちが、ちらちらとこちらを見ている。
「おい、あの貴族、どこの人だ?」
「知らねえ。でも、あの指輪……見たことない紋章だぞ」
「関わるなよ。面倒事はごめんだ」
彼らは、シルビアの指輪を「見たことのない紋章」と言った。だが、誰もそれが何を意味するかまでは、気づいていない。
八魔将。
魔王軍の最高幹部にのみ許された、黒い羽根と絡み合う蛇の紋章。
それを知る者は、この場にはいなかった。
「佐藤和真くん。君のスキルは、『ステータス閲覧』というのだそうね」
「……なんで知ってるんだよ」
「収集家ですもの。情報も、大切なコレクションの一部よ。それでね、君に提案があるの」
シルビアは、白く長い指を組み合わせた。指先は、男のものにしては細く、爪の形まで美しかった。
「ここでは人目があるわ。少し、場所を変えましょう。向かいの宿の個室を取ってあるの」
「いきなり個室って、お前、俺をどうするつもりだよ」
「心配しなくても、食べやしないわ。話を聞いてほしいだけ。損はさせないわよ」
和真は迷った。
(怪しい。怪しすぎる。でも……)
この世界に来てから、自分のスキルを正面から評価されたことなど、一度もない。
「ステータス閲覧は外れ」——ギルドで、街で、誰もがそう言った。
その外れスキルを、この男は「珍しい」と言った。
(ちょっとだけ……話を聞くくらいなら)
和真は、ゆっくりと立ち上がった。
———
宿の個室は、酒場の喧騒が嘘のように静かだった。
木の壁に、蝋燭が一本。揺れる炎が、二人の影を大きく映している。
シルビアは、向かいの椅子に座り、優雅に足を組んだ。
「単刀直入に言うわ。あなた、私のコレクションにしない?」
「……は?」
「あなたの『ステータス閲覧』。あれは、ただの外れスキルじゃない。対象の能力値を可視化する——つまり、成長を数値として捉えられる、極めて希少な補助スキルよ。私のコレクションの中でも、間違いなく一級品になるわ」
シルビアの金色の瞳が、蝋燭の光を受けて、猫のように細められた。
「それだけじゃないわ。あなたのスキルには、隠された力がある」
和真の心臓が、一つ、大きく跳ねた。
「周囲の魔力に干渉する力。あなたはそれを、もう自覚しているのでしょう?」
「……なんで、それを」
声が、かすれた。
自分しか知らないはずの秘密。昨日、ようやく気づいたばかりの、恐ろしい真実。
それを、目の前の男は、当然のように言い当てた。
「ふふ。私の目は、そういう『見えない価値』を見抜くの。あなたの左手の痣——あれは、スキルの過剰発現の兆候よ。魔力干渉が成長するにつれて、あの痣は広がっていくわ」
和真は、左手を握りしめた。
うっすらと浮かぶ、魔法陣のような痣。
「私のところに来なさい。魔王軍——ヴァルグリム統合戦線には、あなたの力を完全に開花させる技術があるわ。制御方法も、応用も、何もかも。あなたの力は、仲間を危険に晒すだけの『呪い』じゃなくなるのよ」
「……魔王軍」
和真は、言葉の重みを、ようやく理解した。
「ええ。私は魔王軍八魔将の一人、シルビア。コレクターのシルビアよ」
シルビアは、指に光る青い指輪を、蝋燭の火にかざした。
蛇と黒い羽根の紋章が、炎に照らされて浮かび上がる。
「お前……魔王軍の幹部なのかよ」
「怖がらなくていいわ。私は交渉に来たの。戦いに来たんじゃない」
シルビアは、身を乗り出した。
甘い匂いがした。花の蜜のような、深くて重い香り。
「あなたの全てが欲しいの。そのスキルも、その痣も、あなたという存在そのものも。私のコレクションの中で、最高の一品になるわ」
シルビアの両手が、和真の右手を包み込んだ。
冷たい。氷のように冷たい指。
それなのに、触れられた場所から、じわじわと熱が広がっていく。
「あなたの力は、きっと、もっと大きなものになる。私が、開花させてあげる」
和真は、息ができなかった。
恐怖と、それから——ほんの少しの、期待。
(こいつは、俺のスキルを、価値があるって言った)
(今まで誰も、そんなこと——)
——バンッ!!
扉が、蹴り破られた。
「その手を離しなさい!!」
真紅の髪を振り乱し、紅い瞳を燃え上がらせた少女が、入り口に仁王立ちしていた。
その後ろには、水色の髪の女神と、金髪の女騎士。
「和真さんを誘拐するなんて、このアクア様が許さないわ!」
「和真様!ご無事ですか!私を盾にしなかったことを後悔していますか!?」
「お前ら、なんでここに……つか、後悔してねえよ!」
シルビアは、和真の手を離さない。
むしろ、指を絡ませるように握り直した。
「あらあら。女の敵は多いのね、君は」
シルビアの唇が、和真の耳元に近づく。
「でも、私は諦めないわ。一週間後、返事を聞かせてちょうだい」
その声は、男の声ではなかった。
女の声だった。
和真は、目の前の相手の本当の性別に、ようやく気づいた。
「お前……女、なのか?」
「さあ、どうかしらね」
めぐみんの顔が、真っ赤になった。
「和真に触るな!この、この——泥棒猫!!」
めぐみんは、背中から杖を抜いた。
黒いローブが翻る。
「我が名はめぐみん。紅魔族随一の魔法使い。その不届きな手を、爆裂の炎で焼き尽くしてくれるわ!」
「おい、めぐみん、やめろ!ここは宿の中だぞ!」
「黙りなさい!私の下僕に手を出した罪、万死に値するわ!喰らいなさい!——爆裂魔法!」
めぐみんの体から、紅い魔力が溢れ出した。
空気が震える。蝋燭の炎が、一斉に揺れた。
——その瞬間。
和真の左手の痣が、痛みを発した。
「ぐっ……!」
痣が、燃えるように熱い。
そして、めぐみんの周囲に渦巻いていた紅い魔力が、突然、形を崩した。
「え……なに、これ……!?」
魔力が、暴走する。
紅い光が、めぐみんの体から制御不能のまま溢れ出し、部屋中を駆け巡る。
「めぐみん!やめろ!魔法を止めろ!」
「む、無理よ!魔力が、私の言うことを聞かない……!体が、熱い……!」
——ドォォォォン!!
爆発。
壁が吹き飛んだ。
いや、壁だけじゃない。窓ガラスが砕け、床がえぐれ、天井の一部が崩れ落ちた。
幸い、着弾点は、めぐみんの意図した場所から大きく外れていた。
宿の中庭。
そこが、半分、消し飛んでいた。
「あ……ああ……」
めぐみんは、その場に崩れ落ちた。
杖が、乾いた音を立てて床に転がる。
「めぐみん!」
和真は、倒れためぐみんに駆け寄った。
彼女の体は、ひどく熱い。呼吸が荒い。紅い瞳から、涙が溢れている。
「私の、魔法が……私の爆裂魔法が……」
めぐみんの指が、和真の服を掴んだ。
「私の魔法が……使えない……」
和真は、言葉を失った。
———
「見た?これが、あなたの力よ」
シルビアは、崩れた壁の向こうに立っていた。
銀の髪に、一片の埃もついていない。
「あなたの魔力干渉は、近くにいる者の魔力を不安定にする。特に、あなたに強い感情を抱く者ほど、その影響は大きい。彼女は、あなたを想うがゆえに、あなたの力で壊れていくのよ」
「……黙れ」
「これは事実よ。あなたが彼女のそばにいる限り、彼女は魔法を使えなくなる。いえ、魔法だけじゃない。命そのものも、危険になるかもしれないわ」
シルビアは、ゆっくりと和真に近づいた。
「だからこそ、私のところに来なさい。あなたの力は、制御できれば最強の武器になる。制御できなければ、周囲の全てを壊す災厄になる。選ぶのは、あなたよ」
シルビアは、和真の手に、何かを握らせた。
黒い羽根。
魔王軍の紋章と同じ、漆黒の羽根だった。
「一週間後、アクセルの東門で待っているわ。返事を聞かせてちょうだい。それまで、ゆっくり考えるといいわ」
シルビアは、背を向けた。
「ちょっと待ちなさい!私の被虐記録をコレクションしてないか聞いてないわよ!」
「女神をコレクションするなんて不敬よ!聖水をかけて浄化してやるわ!」
アクアが、聖水の入った瓶を振りかざした。
「君たち、本当に愉快なパーティね。……面白いわ。ますます、彼が欲しくなった」
シルビアは、微笑みを残して、崩れた壁の向こうへ消えていった。
「待ちなさい!この泥棒猫!私はコレクションじゃない!和真は私の下僕よ!」
めぐみんは、和真の腕の中で、声を振り絞って叫んだ。
「あら、下僕って呼ぶの?面白い関係ね」
シルビアの声が、遠ざかっていく。
「誰が誰の下僕だ!つか、俺はお前の下僕になった覚えはねえ!」
和真は叫んだが、その声は、中庭の残骸に虚しく響くだけだった。
———
ハーティアの館に戻ったのは、日が傾き始めた頃だった。
和真は、めぐみんを背負っていた。
彼女は、魔力の逆流で体が動かなくなっていた。体重は軽い。だが、背中に感じる体温が、やけに重かった。
「和真……」
「……なんだよ」
「私、あなたのそばにいると、弱くなるの……」
和真の足が、止まりかけた。
「あなたが近くにいると、魔力が、ぐちゃぐちゃになる。爆裂魔法が、私の言うことを聞かなくなる。……あなたのせいじゃないって、分かってる。でも……」
めぐみんの腕が、和真の首に回された。
「あなたのそばにいたいのに。私、どうしたらいいの……」
めぐみんは、和真の背中に頬を寄せた。
温かい涙が、和真の服に染み込んでいく。
(違う。違うんだ、めぐみん)
(お前のせいじゃない。全部、俺のせいなんだ)
和真は、言いかけた言葉を、喉の奥で押し殺した。
言えるわけがない。
お前の魔法を壊してるのは、俺だなんて。
———
館の食堂。
「あまりにも無謀よ!魔王軍の幹部に、一人で会いに行くなんて!」
アクアが、テーブルを叩いた。
「一人で行ったんじゃねえよ。勝手に個室に連れてかれたんだよ」
「結果は同じでしょ!あなた、魔王軍に勧誘されてるのよ!?」
「和真様!次からは、ぜひ私を盾にしてください!魔王軍の幹部の攻撃を、この身で受け止めてみせます!」
「お前は何を言ってるんだ。つか、盾になる前に、その変態思考をどうにかしろ」
「変態とは心外です!私はただ、和真様の身を案じて——」
「黙りなさい!ダクネス!」
めぐみんは、椅子に座ったまま、二人を睨みつけた。
「和真。あなた、何か隠してるでしょ」
めぐみんの紅い瞳が、まっすぐに和真を射抜いた。
「……何をだよ」
「私の魔力が不安定になった理由。あなた、知ってるんでしょ。あの女が言ってた。『あなたの力が、彼女を壊す』って」
和真は、目を逸らした。
「……あんな奴の言うこと、真に受けるなよ。お前の魔力が不安定なのは、疲れてるからだ。最近、毎日爆裂魔法の練習してるだろ。休めば治る」
「嘘よ。あなた、今、目を逸らしたわ。私を見て、本当のことを言いなさい」
「本当のことって、何だよ。俺は何も隠してねえよ」
「嘘つき!私、あなたの嘘くらい分かるのよ!ずっと一緒にいたんだから!」
めぐみんが、立ち上がった。
「私、あなたに隠し事されるのが、一番嫌いなのよ!信じてるのに!あなたのこと、信じてるのに!」
和真は、何も言えなかった。
信じてる——その言葉が、胸に突き刺さる。
(信じてもらえる資格が、俺にあるのかよ)
(俺のせいで、お前の魔法が壊れてるのに)
「……疲れたんだよ。今日は、もう寝る」
和真は、食堂を出た。
めぐみんの泣き声が、背中に追いかけてきた。
———
自室に戻った和真は、ベッドに倒れ込んだ。
天井を見つめる。
左手を持ち上げた。
魔法陣のような痣。
朝より、少しだけ、広がっている気がする。
ステータス画面を開いた。
『ステータス閲覧 Lv.1 対象の能力値を可視化する』
『追加効果: 魔力干渉(微弱++)』
「……微弱++」
和真は、声に出して読んだ。
また、成長している。
朝は「微弱」。昼は「微弱+」。夜は「微弱++」。
仲間と一緒にいるだけで、勝手に強くなっていく。
そして、強くなるほど、仲間の魔力を壊す。
「俺は……みんなの足を引っ張るだけだ」
めぐみんの涙。
アクアの怒声。
ダクネスの、的外れな心配。
みんな、俺のことを心配して、俺のそばにいてくれてる。
なのに、俺は、その全員を危険に晒してる。
「俺がいたら、ダメなんだ」
和真は、ベッドから起き上がった。
窓の外を見る。
月が、薄い雲の向こうで、ぼんやりと光っていた。
「俺は……出て行くしかない」
和真は、静かに荷物をまとめ始めた。
着替え、財布、ステータスカード。
全部、小さな鞄に詰め込む。
(一週間後、シルビアが迎えに来る)
(それまでに、俺は、ここを離れる)
(仲間のそばから、遠くへ)
和真は、部屋の扉に手をかけた。
——その時。
廊下の向こう、物陰から、こちらを見つめる気配がした。
和真は、振り返らなかった。
めぐみんが、そこにいることは、分かっていた。
それでも、振り返れなかった。
振り返ったら、もう、行けなくなるから。
和真は、扉を開けた。
夜の闇が、静かに、彼を包み込んだ。
物陰で、めぐみんは、和真の背中を、ただ見つめていた。
紅い瞳が、月明かりに濡れている。
「……行かないで」
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