この素晴らしい世界に祝福を!―めぐみんと過ごすifの日々―
この素晴らしい世界に祝福を!―めぐみんと過ごすifの日々―
アクセルに住む高校生、佐藤和真は、ダスティネスの屋敷で爆裂魔法を愛する少女・めぐみんと出会う。彼女は「紅魔族の天才魔導士」と名乗り、「私の爆裂魔法は一日一回しか使えないけど、その一撃は最強よ!」と誇らしげに宣言する。
和真はアクア、ダクネス、そしてめぐみんと同居することになり、彼女たちの混沌とした日常に巻き込まれていく。めぐみんは和真にまとわりつき、毎日のように爆裂魔法を見せびらかそうとする。「見て見て!すごいでしょ!」「特別に私の魔法を見せてあげる!」
ある日、魔王軍の将軍であるデュラハン・ベルディアがアクセルを襲撃する。和真たちは共に戦うが、ベルディアの強さに圧倒される。そこでめぐみんはとんでもない提案をする。「爆裂魔法を放つわ。でも条件があるの。和真、私のことが好きだと言ったら、やってあげる」
和真は戸惑いながらも、めぐみんの爆裂魔法を目撃する。彼らはベルディアを撃退することに成功する。しかし、魔法は予想以上に強力で、町の一部を吹き飛ばしてしまう。和真は彼女を叱るが、めぐみんは涙ながらに呟く。「私はただ……認めて
この素晴らしい世界に祝福を!―めぐみんと過ごすifの日々― - どん底、そして立ちはだかる ~外れスキルが仲間を壊すなら、俺は一人で戦う~
朝の光が、ハーティアの館の窓から差し込んでいた。白いカーテンが風に揺れている。鳥の声が遠くに聞こえた。
佐藤和真は、ベッドの上で目を開けた。天井を見つめる。体が重い。昨夜は一睡もできなかった。
(今日、全部終わらせる)
和真はゆっくりと起き上がった。黒髪は寝癖でぐちゃぐちゃだ。深い茶色の目は、くまができてげっそりしている。
机の上に、一枚の紙を置いた。
『お世話になりました。探さないでください』
たったそれだけの書き置き。何度も書き直した。もっと色々書こうとした。でも、書けなかった。
書けば書くほど、情けなくなるから。
和真は小さな鞄を手に取った。着替えと財布とステータスカード。それだけ。
部屋を出る。廊下は静かだった。みんな、まだ寝ている。
(めぐみん……)
一瞬、足が止まった。隣の部屋から、小さな寝息が聞こえる。
昨夜、めぐみんが物陰から見ていたこと。和真は知っていた。振り返らなかった。振り返ったら、もう行けなくなるから。
(ごめんな)
心の中でだけ呟いて、和真は歩き出した。
玄関の扉を、音を立てないように開ける。外の空気が冷たかった。朝露の匂いがする。
振り返らずに、門をくぐった。
アクセル冒険者ギルドは、朝早くから開いていた。
一階の受付には、いつものようにルナが座っている。銀色の髪を後ろで束ねた、優しそうな顔立ちの女性だ。ギルドの受付嬢であり、このギルドの頭取でもある。
「あら、和真さん。おはようございます。今日は早いですね」
ルナが微笑んだ。和真は、その笑顔をまっすぐ見られなかった。
「ルナさん。お願いがあるんだ」
和真は、ステータスカードをカウンターに置いた。
「冒険者登録を、解除してください」
ルナの手が、止まった。
「……え?」
「聞こえた通りだ。冒険者を、辞める」
「ちょ、ちょっと待ってください。どうして急に?何かあったんですか?」
ルナが身を乗り出してきた。その声に、周りにいた冒険者たちがちらちらとこちらを見る。
「おい、あいつ、冒険者辞めるってよ」
「最近あいつ、様子おかしかったもんな」
「借金返せなくなったんじゃないか?」
ひそひそ声が聞こえる。和真は無視した。
「個人的な事情だ。詳しくは言えない」
「そんな……和真さん、あなた、最近すごく頑張ってたじゃないですか。大カエル討伐も、キラープレデターの群れも。ギルドとしても、あなたの貢献を評価しているんですよ」
「評価、ね」
和真は、小さく笑った。
(評価されてるのは、俺じゃない。俺の周りにいる、あいつらだ)
(俺は、みんなの足を引っ張ってるだけだ)
「とにかく、解除してほしい。頼む」
「……本気なんですね」
ルナは、和真の目をじっと見つめた。和真は、目を逸らさなかった。
「ああ、本気だ」
「……理由を、聞かせてもらえませんか。衝動的な決断なら、引き止めたいんです」
「俺がいるせいで、みんなが危険になる」
和真は、ぽつりと漏らした。
「……え?」
「俺のスキルが、仲間を壊すんだ。俺がそばにいるだけで、あいつらの力がおかしくなる。だから、俺は……いない方がいい」
ルナが、息を呑んだ。
「和真さん……それは、あなたが全部背負うことじゃないですよ」
「背負うも何も、原因は俺なんだ。俺が消えれば、全部解決する」
「でも……」
「頼む。解除してくれ」
和真は、頭を下げた。
ルナは、長い沈黙の後、ゆっくりと頷いた。
「……分かりました。手続きを進めます。ただし、最終的な解除にはギルド長の承認が必要です。今日中に手続きは完了しますが、取り消しはいつでもできますから」
「取り消す気はない」
「……そう、ですか」
ルナが、書類を取り出した。
その時だった。
ギルドの扉が、勢いよく開いた。
「和真!!!」
真紅の髪が、朝の光を受けて燃えるように輝いている。紅い瞳は、怒りでぎらぎらと光っていた。左目の眼帯が、走ってきた勢いでずれている。
「あなた、何考えてるのよ!冒険者を辞めるって、本当なの!?」
めぐみんが、和真の前に立った。身長差があるから、思い切り見上げる形になる。それでも、気迫は和真を押し潰しそうだった。
「……本当だよ。お前には関係ない」
「関係ないわけないでしょ!私、あなたのパーティーメンバーよ!勝手に辞めるとか、ふざけないで!」
「パーティーは解散だ。俺はもう、冒険者じゃない」
「なんでよ!なんでそんなことするのよ!私、何かした!?私が嫌いになったの!?」
めぐみんの声が、震え始めた。怒りの中に、悲しみが混ざり始めている。
「お前が悪いんじゃない。俺の問題だ」
「だったら説明してよ!なんで勝手に決めるのよ!私のこと、信じてくれないの!?」
めぐみんの紅い瞳が、涙で潤み始めた。
和真の胸が、締め付けられる。
(信じる?信じられないんだよ。俺は、お前を壊す側なんだ)
(お前の爆裂魔法を、俺のスキルが狂わせてるんだ)
「俺は……みんなの足を引っ張るだけだ」
和真は、外れスキルへの劣等感だけを口にした。魔力干渉の真実は、隠した。
「足を引っ張るって、何よそれ!あなたがいたから、私たちはあのキラープレデターの群れを倒せたんでしょ!あなたのステータス閲覧があったから、連携ができたんでしょ!」
「あんなの、誰でもできる。俺じゃなくてもいい」
「違う!あなたじゃなきゃダメなのよ!私の爆裂魔法は、あなたのために撃つって言ったでしょ!あなたがいなくなったら、私……私……」
めぐみんの言葉が、涙で途切れた。
和真は、めぐみんの腕を掴む手を、振り払った。
「ごめん」
たった一言。それだけだった。
めぐみんの顔から、血の気が引いていく。
「……ごめん、じゃないわよ。なんで……なんでよ……」
めぐみんが、和真の腕を掴んだ。
「逃げるなら、爆裂魔法を撃つわよ!この場で!ギルドごと吹き飛ばすわよ!」
「やめとけ。また借金が増えるぞ」
「借金なんてどうでもいいわ!あなたがいなくなる方が、ずっと嫌なのよ!」
「……勝手にしろ」
和真は、めぐみんの手を振り払った。
「和真!待って!和真!!」
めぐみんの叫び声を背中に、和真はギルドを出た。
ギルドの前の通り。朝の市場が、活気づき始めていた。
和真は、人混みをかき分けて歩く。
「和真様!お待ちください!」
金髪のロングヘアを揺らしながら、ダクネスが駆け寄ってきた。白い肌に青い瞳。鎧を着た女騎士だが、その表情はなぜか嬉しそうだった。
「お前も来たのかよ」
「聞きました!和真様が冒険者を辞めるとか!それなら、私を盾にすればいいのです!私は何度でもボコボコにされてみせます!和真様の代わりに、私が傷つきましょう!」
「お前の変態趣味に付き合ってる場合じゃないんだよ!」
「変態趣味ではありません!これは献身です!和真様のために、私は喜んで痛みを受け入れます!」
「余計にタチが悪いわ!つか、お前は黙ってろ!」
「そうよ!ダクネス、あんたは黙ってなさい!」
水色の長い髪を揺らしながら、アクアが現れた。白と青の衣装が、朝の光に透けて見える。自称女神の少女は、怒った顔で和真を見た。
「和真!あんた、本気で辞めるつもりなの!?借金はどうするのよ!私への返済は!?」
「借金は、ギルドに一括返済の手続きをしてきた。お前への借りも、ちゃんと返す。心配すんな」
「そういう問題じゃないでしょ!なんで急に、そんな……めぐみんちゃん、泣いてたわよ!あんた、何したのよ!」
「何もしてない。俺は、俺の道を行くだけだ」
「あんたねえ、自分勝手にもほどがあるわよ!仲間がこんなに心配してるのに!」
「仲間、ね。俺は、お前らの仲間なんかじゃない。ただの同居人だ」
「和真!あんた、それ本気で言ってるの!?」
アクアの目が、怒りで燃えている。
「和真様!私を鞭打って、気を晴らしてください!痛みと共に、迷いも吹き飛びます!」
「だから、お前の変態趣味は関係ないんだよ!」
「ダクネス、あんたは少し黙ってなさい!和真、あんた、逃げてるだけじゃない!みんな、あんたのことを心配してるのよ!」
「そうよ!和真!私の話を聞きなさい!」
めぐみんが、ギルドから追いかけてきた。目が赤い。涙の跡が、白い頬に残っている。
「あんたたち、真面目にやりなさいよ!和真が変なことになってるんだから!」
「私は真面目ですよ!和真様の盾になるという、崇高な使命に燃えているのです!」
「燃えなくていいわ!あんたの使命は、今はお呼びじゃないの!」
「ちょっと、二人とも喧嘩しないで!今は和真の問題でしょ!」
三人が、ギルドの前で騒ぎ始めた。通行人が、何事かと振り返る。
和真は、その隙に、人混みに紛れた。
「……悪いな、お前ら」
和真は、振り返らずに歩いた。
日が沈み、アクセルの街に明かりが灯り始めた。
和真は、ハーティアの館に戻り、荷物をまとめた。
小さな鞄一つ。着替え、財布、ステータスカード。それだけ。
(ここで、お別れだ)
和真は、自分の部屋を最後に見渡した。
(短い間だったけど、悪くなかった)
(めぐみんの爆裂魔法、最初に見た時は腰抜かしたな)
(アクアの駄女神っぷりも、ダクネスの変態っぷりも、今思えば……)
和真は、首を振った。
(考えるな。行くんだ)
館を出る。庭園を抜け、門をくぐる。
振り返らなかった。
アクセルの門へと続く道を、一人で歩く。
街は、夜の賑わいを見せていた。酒場からは笑い声が聞こえる。屋台からは、美味しそうな匂いが漂ってくる。
大カエル肉の串焼き。200エリス。
(最後に、一本食っとくか)
和真は、屋台に寄った。
「おや、兄ちゃん。今日は早いね。一本かい?」
「ああ。最後になるかもしれないから、二本くれ」
「最後って、大げさだな。ほら、熱いから気をつけな」
和真は、串焼きを受け取った。香ばしい匂いが、鼻をくすぐる。
一口かじる。熱い。うまい。
(この味も、もう……)
和真は、串焼きを食べながら、ギルドの前に差し掛かった。
「和真」
ギルドの前の街灯の下に、アクアが立っていた。
水色の髪が、夜風に揺れている。青い瞳が、まっすぐに和真を見つめていた。
「……お前、こんな時間に何してんだよ」
「待ってたの。あんたがここを通るって、分かってたから」
「女神様は、先読みもできるのかよ」
「できるわよ。だって、あんた、ここを通るしかないでしょ。門に行くなら」
アクアが、一歩、和真に近づいた。
「逃げるの?こんなに仲間がいるのに?」
和真は、答えられなかった。
アクアの目を、見ることができない。
「あんたが抜けたら、めぐみんちゃんは、また一人になるよ」
和真の心が、揺れた。
(めぐみんが、一人になる)
(あいつは、紅魔の里から出てきて、ずっと一人だったんだ)
(俺と出会って、ようやく……)
「俺がいたら、みんながもっと危険になる」
和真は、呟いた。
「それって、あんたのスキルのこと?」
「……知ってたのか」
「なんとなくね。あんた、最近ずっと悩んでたでしょ。私、女神だから、そういうの分かるのよ」
「駄女神のくせに、そういうとこだけは鋭いんだな」
「誰が駄女神よ!今はあんたの話でしょ!」
アクアが、頬を膨らませた。
「……俺は、めぐみんに笑っていてほしいんだ」
和真は、初めて本音を漏らした。
「……え?」
「あいつが、爆裂魔法を撃った後、得意げに笑うだろ。あの顔が、俺は好きなんだ。でも、俺がそばにいると、あいつの魔法が壊れる。あいつが、笑えなくなる」
「だったら、逃げちゃだめだよ」
アクアが、優しく言った。
「あんたがいたから、めぐみんちゃんは笑えるようになったんでしょ。あんたが逃げたら、あの子、二度と笑えなくなるよ」
「……でも」
「解決策は、きっとあるわ。一人で抱え込まないで。私も、ダクネスも、めぐみんちゃんも、あんたの仲間でしょ」
和真は、何も言えなかった。
「……私は、あんたを信じてる。女神としてじゃなくて、友達としてね」
アクアが、微笑んだ。
その笑顔が、夜の闇の中で、淡く光っているように見えた。
和真は、目を逸らした。
「……ごめん」
和真は、アクアの横を通り過ぎた。
「和真……」
アクアの声が、背中に追いかけてきた。
振り返らなかった。
振り返れなかった。
和真は、アクセルの門をくぐった。
城門の外は、静かだった。月明かりが、草原を青白く照らしている。
(これで、いいんだ)
和真は、自分に言い聞かせた。
(これで、みんなが安全になる)
(俺のスキルが、仲間を壊すことはない)
(めぐみんの爆裂魔法も、元に戻る)
(アクアも、ダクネスも、俺のせいで危険になることはない)
(……それで、いいんだ)
和真は、夜道を歩いた。
どこへ行くか、決めていない。
ただ、遠くへ。
仲間のそばから、遠くへ。
翌朝。
アクセルの空は、薄い雲に覆われていた。
中央広場に、一人の人影が立っていた。
銀色のストレートロング。青みがかった光沢が、曇り空の下でもはっきりと分かる。金色の瞳が、楽しそうに細められている。
黒と銀で仕立てられた貴族風の上着。肩には銀の鎖、指には青い宝石の指輪。
シルビアだった。
「佐藤和真、返事を聞きに来たわ」
シルビアの声が、広場に響き渡る。
市場にいた人々が、一斉に振り返った。
「なんだ、あいつ?」
「貴族か?でも、見たことない顔だぞ」
「おい、あの指輪……まさか」
ざわめきが広がる。
シルビアは、優雅に微笑んだ。
「あら、佐藤和真はいないのかしら。残念だわ。ならば、あなたの大切な人たちから、固めさせてもらうわ」
シルビアが、白く長い指を掲げた。
「石化魔法──ペトリフィクス」
指先から、灰色の光が放たれた。
光は、広場にいた一人の男に命中した。
「うわっ!なんだ、これ──」
男の叫び声が、途中で止まった。
足元から、灰色の石が這い上がる。
一瞬で、男は石像に変わった。
「きゃああああ!!」
「なんだ、あれ!人が、石に!」
「逃げろ!魔王軍だ!」
広場が、パニックに陥った。
人々が、悲鳴を上げながら逃げ惑う。
シルビアは、楽しそうに笑った。
「あはは、素敵。逃げる姿も、なかなかコレクションの価値があるわね。でも、逃がさないわ」
シルビアが、次々と石化魔法を放つ。
逃げる人々が、次々と石像に変わっていく。
「た、助けてくれ!」
「母さん!母さん!」
「おい、応戦しろ!冒険者だろ!」
数人の冒険者が、剣を抜いてシルビアに斬りかかった。
「あら、勇敢なのね。でも──」
シルビアが、指を鳴らした。
灰色の光が、冒険者たちを包み込む。
「ぐあっ──」
冒険者たちも、石像に変わった。
「邪魔をしないでくださる?私が欲しいのは、あなたたちじゃないの」
シルビアが、広場の中央で、ゆっくりと回った。
「佐藤和真。出てきなさい。あなたのせいで、街の人々が石になっていくわよ」
その声が、街中に響き渡る。
「あんた、何してるのよ!」
めぐみんが、広場に駆けつけた。真紅の髪が、風に逆立つ。紅い瞳が、怒りで燃えている。
「あら、紅魔族のお嬢さん。あなたも、和真のコレクションの一部にならない?」
「ふざけないで!あんたなんかに、和真は渡さないわ!私の爆裂魔法で、吹き飛ばしてやるんだから!」
めぐみんが、杖を構えた。
「我が名はめぐみん。紅魔族随一の魔法使いにして、爆裂魔法を操る者なり!汝、悪しき者よ、我が最強の一撃を受けよ!エクスプロージョン!!」
めぐみんが、呪文を唱え始めた。
魔法陣が、足元に広がる。
「あらあら、本当に撃つのかしら。でも──」
シルビアが、金色の瞳を細めた。
「あなたの魔力、不安定になっているわ。和真の魔力干渉のせいでね」
「……なんで、あんたがそれを」
「知ってるわよ。あなたたちの関係も、和真のスキルも、全部。だから言ったでしょ。和真は、私のコレクションにふさわしいって」
「黙れ!和真は、私の下僕なのよ!あんたなんかに渡さない!」
めぐみんが、呪文を続けた。
魔法陣が、赤く輝き始める。
しかし──
「な、なに、これ……魔力が、制御できない……」
魔法陣が、歪み始めた。
赤い光が、不安定に明滅する。
「くっ……なんで、今、こんな時に……」
めぐみんの顔が、苦痛に歪む。
爆裂魔法が、暴発寸前だった。
「無理よ。あなたの魔力は、和真のスキルに干渉されて、制御を失っている。今、魔法を撃てば、あなた自身が吹き飛ぶわ」
「そんな……なんで……私、和真のために……!」
めぐみんの瞳から、涙が溢れた。
「かわいそうに。あなたは、和真に壊されているのよ。彼の存在そのものが、あなたを壊す。それでも、彼のそばにいたいの?」
「……いたい。和真のそばに、いたい」
めぐみんが、力なく呟いた。
魔法陣が、消えた。
めぐみんは、膝から崩れ落ちた。
「ふふ、健気ね。でも、無駄よ。あなたの想いは、彼を追い詰めるだけ」
シルビアが、めぐみんに手を向けた。
「あなたも、石にしてあげる。和真が来なければ、街ごと全部、私のコレクションよ」
「……和真」
めぐみんが、小さく呟いた。
その時だった。
「やめろ!!!」
和真の叫び声が、広場に響き渡った。
和真は、走っていた。
門をくぐった後、夜通し歩いて、隣町に着いた。
そこで、朝を迎えた。
(これで、終わったはずだ)
(俺は、もう、あいつらとは関係ない)
和真は、宿のベッドに寝転がっていた。
だが、胸の奥が、ざわざわと騒いでいた。
(めぐみん、泣いてたな)
(アクア、俺を信じてると言ってた)
(ダクネス、あの変態、最後まで変態だったな)
和真は、目を閉じた。
(これで、いいんだ)
(これで……)
その時、宿の窓から、遠くの空が見えた。
アクセルの方角。
灰色の光が、空に立ち上っていた。
「……なんだ、あれ」
和真は、ベッドから飛び起きた。
窓に駆け寄る。
灰色の光。それは、魔法の光だった。
(あの方向は、アクセルだ)
(あの光……まさか)
和真の脳裏に、シルビアの顔が浮かんだ。
『一週間後に、迎えに来る』
(一週間……今日が、その日だ)
(あの女、本当に来たのか)
和真は、鞄を掴んで、部屋を飛び出した。
「兄ちゃん、どうした!?」
「すみません、宿代、置いときます!」
和真は、エリスをカウンターに叩きつけて、外に飛び出した。
アクセルへと続く道を、全力で走る。
(なんで俺は、走ってるんだ)
(もう、関係ないはずだろ)
(俺がいなければ、みんな安全なはずだ)
(なのに、なんで……)
和真の足は、止まらなかった。
「やめろ!!!」
和真が、広場に飛び込んできた。
息が切れている。汗が、額から流れ落ちる。
「あら、和真。来てくれたのね。嬉しいわ」
シルビアが、優雅に微笑んだ。
「てめえ……街の人たちを、よくも……」
和真は、広場を見渡した。
石像になった人々が、そこかしこに立っている。
逃げる途中の姿勢のまま、石になっている者。
悲鳴を上げたままの顔で、石になっている者。
地面に倒れたまま、石になっている者。
「……くそ」
和真の手が、震えた。
「あなたが来なかったからよ。あなたが悪いの。あなたが逃げたから、街の人々が石になったの」
シルビアが、和真に近づいた。
「でも、安心して。あなたが来たから、もう大丈夫。私のコレクションになってくれれば、みんな、元に戻してあげる」
「……俺が行けば、みんなを元に戻すんだな?」
「ええ、約束するわ。私は、約束は守るのよ。コレクターとして、ね」
「……分かった」
和真は、ゆっくりとシルビアの前に立った。
「和真!ダメよ!行っちゃダメ!」
めぐみんが、地面に座り込んだまま叫んだ。
「めぐみん。お前は、そこで見てろ」
「なんでよ!なんで、あんたが行くのよ!私が、私が戦うから!」
「お前の魔法は、今、使えない。俺のせいでな」
めぐみんの目が、大きく見開かれた。
「……え?」
「俺のスキルが、お前の魔力を不安定にしてるんだ。俺がそばにいる限り、お前は爆裂魔法を撃てない」
和真は、真実を口にした。
「な、なんで……そんな……」
「だから、俺は、お前のそばから離れようとした。お前を、壊さないために」
「……そんなの、知らなかった。私、和真のせいで魔法が使えなくなってたの?和真は、それを一人で抱えてたの?」
めぐみんの声が、震える。
「ああ。お前には、言えなかった。言ったら、お前が自分を責めるだろ」
「当たり前でしょ!私、和真を責めたりしない!和真のせいじゃない!スキルのせいよ!和真が悪いんじゃない!」
「……でも、原因は俺だ。俺が、このスキルを持ってる限り、お前を危険に晒す」
「それでも、私は、和真のそばにいたい!スキルがなんだって言うのよ!私は、和真のことが──」
めぐみんの言葉が、涙で途切れた。
「あらあら、感動的な場面ね。でも、そろそろ、私のコレクションになってもらうわよ」
シルビアが、和真に手を差し伸べた。
「さあ、和真。私と来なさい。あなたのスキルは、私が正しく使ってあげる。あなたの価値を、世界に示してあげる」
和真は、シルビアの手を見た。
白く長い指。青い宝石の指輪。
(この手を取れば、みんなが助かる)
(俺のスキルも、誰かを傷つけずに済む)
(でも──)
和真の脳裏に、めぐみんの笑顔が浮かんだ。
爆裂魔法を撃った後、得意げに笑う、あの顔。
アクアの、信じてると言った時の、あの顔。
ダクネスの、変態だけど真剣な、あの顔。
(俺は、逃げない)
(もう、逃げない)
(俺の力が、みんなを危険にしても)
(俺は、もう、逃げない)
和真は、心の中で誓った。
「……シルビア」
「なあに?」
「俺は、お前のコレクションにはならない」
シルビアの金色の瞳が、一瞬、冷たく光った。
「あら、どうして?みんなを助けるためには、私の手を取るしかないのよ」
「お前の手を取っても、みんなは助からない。お前は、俺を手に入れたら、今度は別の何かを要求する。そういう奴だろ、お前は」
「ふふ、鋭いのね。でも、今は、あなたに選択肢はないわ。私の手を取るか、それとも──」
シルビアが、指を掲げた。
「この街を、全部石にするか。どちらかよ」
「……どっちも選ばない」
和真は、シルビアをまっすぐ見据えた。
「俺は、お前を倒す。このスキルで、お前を倒す方法を見つける」
「あはは、面白い!外れスキルのあなたが、私に勝てるとでも?」
「外れスキルでも、使い方次第で、世界を変えられるんだろ。お前が言ったんだぜ。俺のスキルは、この世界で最も希少な力だってな」
シルビアの笑みが、深くなった。
「ええ、言ったわ。だからこそ、あなたは私のコレクションにふさわしい。でも、あなたには、その力を扱う知識も技術もない。私の手を取るしか、道はないのよ」
「知識も技術も、これから身につける。仲間と一緒にな」
「仲間?あなたの仲間は、あなたのスキルに壊される運命なのよ。それでも、仲間と一緒にいるつもり?」
「ああ。俺は、仲間を信じる。俺のスキルが、仲間を壊すなら、壊さない方法を探す。一緒に、強くなる」
その瞬間だった。
和真の目の前に、ステータス画面が浮かび上がった。
『ステータス閲覧 Lv.1 対象の能力値を可視化する』
『追加効果: 魔力干渉(微弱++)』
そして、その下に、新しい文字が浮かんでいた。
『スキル進化条件:仲間の信頼』
「……なんだ、これ」
和真は、画面を見つめた。
『スキル進化条件:仲間の信頼』
その文字が、淡く光っている。
(仲間の信頼?それって、どういう意味だ?)
(俺のスキルが、進化するのか?)
「あら、何かしら。ステータス画面に、何か出たの?」
シルビアが、興味深そうに和真を見た。
「……お前には関係ない」
和真は、画面を閉じた。
(意味は分からない。でも──)
(仲間の信頼。それが、俺のスキルを進化させる条件だって言うなら)
(俺は、仲間を信じる。そして、仲間に信じてもらえるように、戦う)
和真は、シルビアを睨みつけた。
「シルビア。俺は、お前には渡らない。仲間と一緒に、お前を倒す」
「ふふ、いいわ。ならば、あなたの仲間ごと、石にしてあげる。あなたが、自分のスキルのせいで、仲間を失う瞬間を、見せてあげる」
シルビアが、両手を掲げた。
灰色の光が、彼女の周りに集まっていく。
「和真!」
めぐみんが、和真の名前を叫んだ。
和真は、振り返った。
めぐみんが、地面に座り込んだまま、和真を見上げている。
紅い瞳が、涙で濡れている。
「めぐみん。お前は、そこで待ってろ。俺が、お前の魔法を守る」
「……和真」
和真は、シルビアに向き直った。
「来いよ、シルビア。俺が、お前の相手をしてやる」
シルビアが、笑った。
「あはは、最高だわ。やっぱり、あなたは私のコレクションの中で、最高傑作になる。その恐怖に歪む顔も、絶望に染まる瞳も、全部、私のものよ」
シルビアの金色の瞳が、獲物を見つけたように輝いた。
灰色の光が、広場を包み込んでいく。
和真は、拳を握り締めた。
(俺は、逃げない)
(仲間を守るために、戦う)
(たとえ、俺のスキルが、仲間を壊す運命だとしても)
(俺は、仲間を信じる)
和真の左手の甲で、魔法陣のような痣が、静かに光っていた。
『スキル進化条件:仲間の信頼』
その文字が、和真の脳裏に、はっきりと刻まれていた。
意味は、まだ分からない。
でも、和真は、もう迷わなかった。
「……行くぞ」
和真は、一歩、前に踏み出した。
シルビアの石化魔法が、和真に迫る。
灰色の光が、視界を埋め尽くす。
それでも、和真は、目を逸らさなかった。
「和真──!!」
めぐみんの叫び声が、広場に響き渡った。
その声は、石像と化した街の人々の沈黙の中で、ひときわ鮮やかに、和真の背中を押していた。Noveliaとは?
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