借金男のハーレム革命 〜ドS魔導書に絶対服従中〜
借金男のハーレム革命 〜ドS魔導書に絶対服従中〜
レオン・クロウフォードは超がつくほどの貧乏冒険者で、借金取りから逃げ回る日々を送っていた。ある日、ギルドのゴミ捨て場から埃まみれの古びた本を拾う。それは伝説の魔導書『黒の黙示録』だった。しかし、契約の挨拶代わりに、そのドSな精霊リリアから平手打ちを食らう!
「この役立たずの虫ケラが!覚悟しなさい、私が一人前の契約者に鍛え上げてやるんだから!」
リリアの容赦ない訓練の下、レオンは涙ながらにスキルを急上昇させていく。初めての本格的な任務で幼なじみで受付嬢のミーシャを救ったことで、彼女の受動的だった恋心は、超積極的な猛アタックへと変貌。さらに事態をややこしくするのが、ギルド最強のSランク戦士エレナ・ヴァレンシュタイン。普段は氷のようにクールな彼女が、レオンが他の女の子と話すたびに、あからさまに不機嫌になるのだ。
突然女の子たちに囲まれるようになった、超がつくほど鈍感なレオンは全く気づかず、「なんで最近みんな俺に冷たいんだ!?」とパニックになるばかり。その隙を突いて、嫉妬に狂った元同僚ザックが、偽のSランク緊急クエストを渡す罠を仕掛ける
借金男のハーレム革命 〜ドS魔導書に絶対服従中〜 - ゴミ捨て場の奇跡——最底辺の冒険者と呪われた契約
「今月もたったこれだけか?」
冷たい雨が旧市街の石畳を叩く。路地裏のぬかるみに片膝をついたレオン・クロウフォードは、目の前に突きつけられた革袋を見上げた。中には銅貨が数枚。今月、必死にかき集めた全財産だった。
「元金が金貨十二枚、利子が三枚。合わせて十五枚だ。てめえの月の返済は銀貨三十枚。今んとこ、これで何日分だ?」
借金取りのヴィンセントは、白い歯を見せて笑った。その後ろには無骨な男が三人。雨に濡れた外套の下から、鈍く光るメリケンサックが見える。
レオンは唇を噛んだ。
くすんだ金髪が雨水で額に張り付く。左頬の古い傷跡がひきつれた。十八歳の痩せた体は継ぎ接ぎだらけの革鎧に包まれ、震えている。
(また、これだけだ)
ギルド──フェルケーテの掲示板に張り出される依頼書を思い浮かべる。Gランクの自分が受けられるのは、せいぜい薬草採取か下水のネズミ駆除。報酬は銀貨五枚から十枚。月に三十枚を返すには、三件から六件こなさなきゃいけない。
でも、それだけじゃ足りないんだ。
依頼に失敗すれば賠償金が上乗せされる。これがこの国、フォルステン王国の「冒険者責任法」ってやつだ。ミスは全部、受注者の負担になる。レオンはもともとドジで、罠を見落としたり、薬草と毒草を間違えたり、簡単な討伐依頼で魔物を街中に逃がしたり……数えるのも嫌になるくらいやらかしてきた。
おかげで借金は膨らむばかりだった。
「ああ、そうだ。ギルドの受付で見たぜ。また依頼に失敗したんだってな」
手下たちがくくくと喉を鳴らす。
「グロウデンの森の薬草採取だろ? Gランクでもできる簡単な仕事だ。なのにお前は、そこで転んで崖から落ちかけたんだってな。アホか」
レオンは言い返せなかった。
確かに転んだ。
正確には、崖の上でうずくまっていた幼い獣人の子供を見つけて、助けようとして足を滑らせた。子供は助かったけど、採取した薬草は全部川に流された。依頼は失敗扱いだ。
(誰も信じてくれないけどさ)
ヴィンセントが顎をしゃくる。
「やれ」
次の瞬間、腹に重い一撃がめり込んだ。
息が詰まる。
よろけたレオンを二人目の男が壁に押しつけた。冷たい石の感触が背中に走る。三人目が胸ぐらを掴み、ポケットをまさぐって残りの銅貨四枚を抜き取った。
「来月は、指を一本もらう」
ヴィンセントはそう言って、濡れた石畳の上に唾を吐いた。
そして、振り返りざま――。
ドボン。
派手な水音が路地に響いた。
ヴィンセントが足元の水溜まりに片足を突っ込んだのだ。しかも結構深かったらしく、膝までずぶ濡れだ。彼は一瞬、何が起きたのかわからない顔で立ち尽くし、それから真っ赤になって怒鳴った。
「クソッ! なんだこの水溜まりは!」
手下たちが必死に笑いをこらえる。
レオンは壁にもたれたまま、ぼんやりとそれを見ていた。
(……笑っていいのか、わからない)
痛む腹を抱え、彼は小さく息を吐いた。
雨はまだ、やみそうになかった。
――
フェルケーテ・カナルベルグ支部。
三階建ての石造建築が夜の闇にそびえている。裏手の中庭は、壊れた武具や読み終えた古い依頼書、何に使うのかわからないガラクタで溢れかえっていた。通称、ゴミ捨て場だ。
レオンは塀にもたれて座り込んでいた。
息を吸うたびに、あばらが軋む。左目は腫れて、半分しか開かない。雨が傷口に染みた。
「……痛い」
誰もいない場所で、小さく呟く。
この街──カナルベルグはルーゲン河の中流に広がる商業都市だ。十二万人が住み、河川貿易と冒険者産業で賑わっている。でも、レオンがいるのは旧市街。今は貧民街って呼ばれるエリアで、家賃は月に銅貨三十枚。それすら滞納しがちだった。
(もう、限界なのかな)
頭の隅を、さっきヴィンセントが言った言葉がよぎる。
――このまま払えなきゃ、奴隷契約だ。
この国には「奴隷契約制度」がある。返済不能者は首に魔法の契約印を刻まれ、雇い主に絶対服従する。命令に逆らえば激痛が走る。法的には「労働契約」だが、実際は奴隷と同じだ。
(あれだけは、嫌だ)
レオンは震える手を握りしめた。
その時だった。
視界の端で、何かが光った。
「……?」
顔を上げる。
ゴミの山の奥、雨に濡れているはずなのに、金属的な輝きを放つものがあった。黒革の表紙、銀の錠前――それは明らかに「本」だった。
(なんでこんなところに)
レオンはゆっくりと立ち上がった。
近づいてみると、その古書は不思議と濡れていなかった。雨粒が表面で弾かれている。ずっと昔、誰かに聞いたおとぎ話が脳裏をよぎる。
『七大魔導書』。
約八百年前に同時に現れた、意志と人格を持つ七冊の魔導書。一冊で国を滅ぼす力があるとか、契約者は川のように魔力を引き出せるとか。でも、それは庶民にとってはただのおとぎ話だ。
(でも、なんか……呼ばれてる気がする)
自分でも意味がわからない直感だった。
レオンは震える指を伸ばした。
触れた瞬間――。
カチリ。
銀の錠前が、自動で外れた。
「え」
次の瞬間、古書が光を放った。
漆黒のオーラが吹き上がり、ゴミの山を吹き飛ばす。レオンの体は三メートルほど宙を舞い、石塀に背中から激突した。さっきまで痛めていたあばらが、さらに悲鳴を上げる。
「痛い! なんで今日、二回も壁にぶつかってんの俺!?」
涙目で空を見上げると、夜空に向かって漆黒の光柱が伸びていた。
やがて、光が収束する。
そこに立っていたのは――。
一人の少女。
いや、最初はそう思った。でも違う。身長は百四十センチくらいで確かに小柄だけど、その存在感は圧倒的だった。
漆黒のロングヘアが、風もないのにふわりと揺れる。肌は白磁のように透き通り、対照的に瞳はぎらりと燃えるような真紅。細身の体を包むのは、深紅の刺繍が施された黒いドレス。裾には銀の鎖があしらわれ、かすかな金属音を立てている。
彼女はゆっくりとレオンを見下ろした。
「まあ、最悪ね」
鈴を転がすような声。でも、温度は感じない。
真紅の瞳が、レオンを頭のてっぺんからつま先まで這うように観察する。その視線は、まるでゴミでも見るかのようだった。
「クズ雑魚にも程があるわ。Gランク? 嘘でしょ。ランク外の間違いじゃないの?」
「な、なに言って……」
「私は『黒の黙示録』。七大魔導書の一冊にして、契約者を最強に導く精霊よ」
七大魔導書。
やっぱり、おとぎ話じゃなかったんだ。
彼女──リリアはレオンの手首を掴んだ。細い指は見た目に反して鋼のように強く、体温は火傷しそうなほど熱い。
「あなた、自分がどれだけ奇跡的なことに触れたか分かってる? 今、この世界で契約者になれる人間なんて、ほぼゼロよ。普通、魔導書は相手を選ぶの。でも、これは……」
彼女は一瞬だけ言葉を切り、真紅の瞳を細めた。
「まあ、たまたまよ。たまたま暇だったから、応えてあげただけ」
「意味がわからない! 離せ!」
叫ぶ暇もなかった。
手の甲に、灼熱が走る。
「があっ……!」
レオンがうめくと、そこには黒い紋様が浮かび上がっていた。契約印だ。
リリアの細い指が、焼き印を確かめるように手首から指先へと滑っていく。その仕草は妙に親密で、痛みとは別の理由でレオンの顔がかあっと熱くなった。
「ふうん。印の定着は問題なさそうね」
彼女は口元をほんの少しだけ緩めた。
――
その光柱は、ギルドの建物の中からも見えていた。
「レオン!?」
中庭に飛び込んできたのは、亜麻色のボブヘアを揺らす少女だった。大きな緑の瞳には、驚きと心配の色が浮かんでいる。
フェルケーテの受付嬢、ミーシャ・アーヴィング。十八歳。レオンの幼なじみだ。
白いシャツと紺のスカート──受付の制服が、土砂降りの雨でびしょ濡れになっている。シャツが肌に張りつき、肩のラインがうっすらと透けていた。
「ミーシャ、その……服が……」
「傷! またこんなになって! どうしたの!?」
ミーシャはレオンの言葉を遮り、両手で彼の顔をぐいっと掴んだ。腫れた左目、切れた唇、額の擦り傷を、緑の瞳が一つ一つ確認していく。
その指は温かくて、少し震えていた。
「また借金取りでしょ! 何度言っても一人で抱え込んで!」
ミーシャの声が雨音に消えそうになる。
「ずっと……心配だったんだよ」
彼女は小声でそう言うと、レオンの上着の端をぎゅっと握りしめた。
雨の中、二人の距離が縮まる。
ミーシャの濡れた髪から落ちた水滴が、レオンの手の甲に落ちた。ぽたり。温かい。
レオンはなぜか胸のあたりがそわそわして、うまく呼吸ができなくなった。
(……なんか、今日のミーシャ、雰囲気が違う気がする)
その時だった。
「あら、さっそく拾い食いする気?」
冷ややかな声が、二人の空間を切り裂いた。
ミーシャが顔を上げる。
「え、え、誰この美人!? どこから出てきたの!? ていうか、精霊……? 獣人の人でもないし……ひょっとして幽霊!?」
ミーシャは本気で混乱している顔で、レオンの後ろに立つ黒ドレスの少女を指さした。
(獣人、か)
この世界には獣人──獣の耳と尾を持つベスタ族がいる。人口の一割に満たないけど、昔から差別の対象だった。ミーシャの困惑した反応は、見慣れない存在にどう接していいかわからない、この街の普通の反応でもあった。
「私は精霊よ。しかも最高位の。あなた、レオンの知り合い?」
「知り合いも何も、幼なじみです! あなたこそ何者なんですか!」
二人の視線が、雨の中で火花を散らした。
――
翌朝。
ギルドの正面玄関は、夜明けとともに活気づいていた。
レオンがミーシャに昨夜の礼を言っていると、不意に肩を叩かれた。
「おう、レオン! 昨夜の光柱、見たぜ。すごかったな、何アレ」
振り返ると、整った顔立ちの青年が笑っている。
先輩冒険者のザック。Cランクの実力者で、明るく気さくな性格から周囲に慕われている。今日も軽装の革鎧に、手入れの行き届いた長剣を腰に下げていた。
「大丈夫か? 顔、ひどいぞ」
「あ、はい。ちょっとあって……古い本を拾ったんですよ」
一瞬。
ほんの一瞬だけ、ザックの目が細くなった。
そこに浮かんだのは、喩えるなら昏い光。鋭く、冷たく、何かを値踏みするような視線だった。
「そうか。変なもの拾うなよ」
次の瞬間にはもう、ザックはいつもの人の良さそうな笑顔でレオンの肩をポンと叩いていた。
「何かあったら俺に言えよな」
去っていく背中を見送りながら、レオンは首を傾げた。
(……今の、なんだったんだろう)
――
その夜。
宿「渡り鳥の巣」の一室。
壁のひび割れから冷たい風が吹き込む、月銅貨三十枚のボロ部屋だ。レオンは傷の手当てを終え、「黒の黙示録」を机に置いた。
すると、本から半透明のリリアがすっと浮かび上がる。
「さて、今後の話をしましょうか」
「今後の話……?」
「明日から訓練よ。場所はグロウデンの森の入り口。時間は朝六時。遅れたら半刻、契約印をフル出力するから」
レオンは目を白黒させた。
「フル出力って、どのくらい……?」
「全身が一気に熱くなって、悶絶するレベルよ。死にはしないけど」
「それ、ほぼ拷問じゃないですか!」
「ほぼじゃなくて、拷問よ」
リリアはにっこりと微笑んだ。とても綺麗な笑顔だったけど、目が全然笑っていなかった。
「それから、私を『拾い物』扱いしたこと、忘れてないわよ。七大魔導書と契約者の関係を教えてあげる。普通の魔法使いが魔力をバケツで汲むとしたら、契約者は川ごと手に入れる。ただし――」
リリアはレオンの鼻先に指を突きつけた。
「私が認めた分だけ、段階的に開放するわ。逆らったら契約印で灼く。遅刻もサボりも許さない。覚悟しなさい、クズ雑魚」
レオンは窓の外を見た。
雨はあがっていた。だけど、心の中はどんよりと曇っている。
(三日後に返済期日。訓練は明日から毎日。銀貨は今ゼロ……)
それでも彼は、机の引き出しから革の財布を取り出した。ひっくり返す。
落ちてきたのは、銅貨一枚。
「とりあえず、明日の朝飯代はある……よし」
真顔でそう呟いて、銅貨を握りしめる。
――バカみたいだ、と自分でも思う。でも、これが俺なんだ。
ベッドに横になり、目を閉じる。
すると、なぜかミーシャの声が頭の中でリフレインした。
『ちゃんと寝るんだよ』
鼓動が、ひとつ跳ねる。
(……なんか、今日のミーシャ、雰囲気が違った気がする。いや、気のせいか)
「あら、もう恋愛脳? クズ雑魚のくせに生意気ね」
「うわっ!?」
飛び起きると、本の中からリリアが半透明の顔だけ出して、にやにやしている。
「ずっと見てたんですか!?」
「契約印の監視よ。寝言も筒抜けだから、変な夢を見ないことね。残念だったわね」
レオンは枕に顔を埋めた。
耳の先まで真っ赤だった。
――
翌朝、五時五十五分。
「やばい寝坊したああああ!」
レオンは転がるように宿を飛び出した。
その背中を、一枚の紙切れが風に乗って追いかけてくる。振り返らなくてもわかる。
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