借金男のハーレム革命 〜ドS魔導書に絶対服従中〜
借金男のハーレム革命 〜ドS魔導書に絶対服従中〜
レオン・クロウフォードは超がつくほどの貧乏冒険者で、借金取りから逃げ回る日々を送っていた。ある日、ギルドのゴミ捨て場から埃まみれの古びた本を拾う。それは伝説の魔導書『黒の黙示録』だった。しかし、契約の挨拶代わりに、そのドSな精霊リリアから平手打ちを食らう!
「この役立たずの虫ケラが!覚悟しなさい、私が一人前の契約者に鍛え上げてやるんだから!」
リリアの容赦ない訓練の下、レオンは涙ながらにスキルを急上昇させていく。初めての本格的な任務で幼なじみで受付嬢のミーシャを救ったことで、彼女の受動的だった恋心は、超積極的な猛アタックへと変貌。さらに事態をややこしくするのが、ギルド最強のSランク戦士エレナ・ヴァレンシュタイン。普段は氷のようにクールな彼女が、レオンが他の女の子と話すたびに、あからさまに不機嫌になるのだ。
突然女の子たちに囲まれるようになった、超がつくほど鈍感なレオンは全く気づかず、「なんで最近みんな俺に冷たいんだ!?」とパニックになるばかり。その隙を突いて、嫉妬に狂った元同僚ザックが、偽のSランク緊急クエストを渡す罠を仕掛ける
借金男のハーレム革命 〜ドS魔導書に絶対服従中〜 - 借金返済と嫉妬の炎——ミーシャの独占宣言とザックの罠の種
財布をひっくり返した。
机の上に落ちてきたのは、銅貨が二枚。カラン、と間抜けな音が、宿「渡り鳥の巣」のボロ部屋に響く。
「まじかよ……」
レオン・クロウフォードはガックリと肩を落とした。くすんだ金髪がボサボサのまま揺れる。今日は返済期日だ。ヴィンセントに銀貨三十枚を渡さなければ、左頬の古傷だけじゃ済まない。指の一本くらい持ってかれる。
ない。どうひっくり返しても銅貨二枚。
窓の外はカナルベルグの朝だ。旧市街の狭い路地に、昨日の雨の名残が溜まっている。ルーゲン河から運ばれる湿った風が、ひび割れた壁を撫でていった。
と、机の上の黒革の古書がボウッと鈍く光った。
銀の錠前に絡みつく鎖がシャラリと鳴り、半透明の少女がふわりと浮かび上がる。漆黒のロングヘア。真紅の瞳。いつもの冷たい目で、リリアがレオンを見下ろした。
「朝から情けない声を出すんじゃないわよ、クズ雑魚」
「だって、銀貨ゼロなんだよ! もう終わりだ、俺の指が……」
「指の一本や二本、くれてやりなさい。どうせドジしかできないんだから、減っても同じよ」
リリアはひらりと手を振った。契約の鎖がレオンの手首をかすめる。
「でも、そんなに嫌なら方法はあるわ。今すぐグロウデンの森に行くのよ。森の東側、岩場の地層には、闇属性の魔力に反応する鉱脈が走ってる。あんたの魔力で探知して掘り出せば、武器屋で売れる」
「鉱石を掘るって……俺、採掘なんてやったことないんだけど」
「今からやるのよ。文句あるなら契約印を——」
「わ、わかった! 行く! すぐ行く!」
レオンは革鎧をひっつかみ、パンを一口かじると、転がるように宿を飛び出した。
――
グロウデンの森は、街の喧騒が嘘みたいに静かだった。
朝の光が木の葉の隙間から差し込み、地面にまだらな影を落としている。湿った土の匂い。どこかで鳥が鳴いた。
「ここでいいわ。しゃがんで、地面に右手を当てなさい」
リリアの指示で、レオンは岩場のくぼみに膝をついた。ごつごつした石に手のひらを押し当てる。
「目を閉じて、魔力をゆっくり流し込むの。闇属性の鉱石は、あんたの魔力を吸い込むように反応するから、引っ張られる感覚を追いなさい」
レオンは目を閉じた。
胸の奥にある、熱い塊をイメージする。昨日の訓練で初めて触れた魔力だ。まだ上手く扱えないけど、感覚は覚えている。
じわり、と手のひらが温かくなった。
途端に、地面の下から何かが呼んでいるような——。
ドオォン!!
「うわあああっ!?」
足元の地面が突然、爆ぜた。
土と小石が吹き上がり、レオンは後ろにひっくり返る。顔から泥まみれ。口の中にも砂が入った。ぺっぺっ、と吐き出す。
「……加減ができてないわね」
リリアは空中に浮かんだまま、涼しい顔でレオンを見下ろしている。彼女の周りだけ、飛び散った土が避けるように弧を描いていた。
「ちょっと! 俺だけ泥かぶったんだけど!」
「当たり前でしょ。私は精霊よ。汚れたくないもの」
「ひどすぎる……」
「さあ、もう一度。今度はもっとゆっくり、少しずつ流し込むの。できなかったら契約印を十倍にするから」
レオンは泣きそうな顔で、もう一度地面に手を当てた。
それから半刻——。
四苦八苦の末に、レオンは岩場のあちこちを爆発させ、三度吹っ飛び、一度は木の枝に引っかかりながらも、ようやく三つの鉱石を掘り出すことに成功した。黒く鈍く光る石だ。手に持つと、ほんのり温かい。
「やった……やったぞ!」
「たった三塊で大喜びとは、安いことで」
でも、リリアの口元がちょっとだけ緩んだのを、レオンは見逃さなかった。
――
カナルベルグの市場通りに戻ったのは、昼を少し過ぎた頃だ。
レオンは足早に「武器屋 鉄牙」の看板をくぐった。カランカラン、とベルが鳴る。
店内は鉄と油の匂いがした。剣や斧が壁に並び、炉の熱気がまだ残っている。
カウンターの向こうで、ドワーフの店主ドルク・アイゼンが顔を上げた。白ひげを蓄えた六十過ぎの頑固職人。太い腕には火傷の痕がいくつもある。
「おや、レオンじゃねえか。また安物の剣が欲しいのか?」
「ち、ちがうんだ! これを見てほしい!」
レオンは布袋から鉱石を取り出し、カウンターに置いた。
ドルクは眉をひそめ、鉱石を手に取る。じっくりと光に透かし、爪でひっかき、最後に小さなハンマーでコンと叩いた。
「……ほう。こいつは闇属性の魔力で熱処理を受けた鉱石だな。精錬が格段に楽になる。質も悪くない」
ドルクは目を細め、レオンの顔をじろりと見た。
「三つまとめて、銀貨三十二枚。どうだ?」
「さんじゅうにまい!? や、やった——!」
レオンは思わずガッツポーズをした。銀貨三十枚で今月の返済。残り二枚でパンが買える。なんとか生き延びられる——。
――
それから小半刻後。
フェルケーテ・カナルベルグ支部のギルド前広場。
レオンは石段に座り込んで、息を整えていた。ヴィンセントに銀貨三十枚を渡し、ようやく肩の荷が下りたところだ。
(でも来月もまた三十枚か……)
財布を覗く。銀貨二枚がチャリチャリ鳴った。まだまだ先は長い。
その時だった。
「あなた、闇属性の魔力の残滓を感じる」
低く、よく通る女性の声が背後から降ってきた。
レオンが振り返ると、長身の女性が腕を組んで立っている。燃えるような赤い長髪を高い位置で束ねたポニーテール。琥珀色の鋭い目が、じっとレオンを見下ろしていた。
肩から掛けたマントの下に、磨き抜かれた銀の胸当て。左腕にはドラゴン退治でできたという大きな傷跡が走っている。
エレナ・ヴァレンシュタイン。
Sランク冒険者。このギルドで最強と噂される女戦士だ。
「え、あ、はい……?」
レオンは間抜けな声で返した。
「珍しい。契約者か?」
エレナは一歩、距離を詰めた。背が高い。レオンより二センチも上だ。彼女の琥珀の瞳が、値踏みするようにレオンを上から下までなめる。
「い、いや、それは……」
リリアのことを話していいのか、わからない。レオンが口ごもると、エレナはわずかに眉を動かした。
「……まあいい。また会うかもしれない」
それだけ言うと、彼女は颯爽とギルドの中へ消えた。
残されたレオンは、ぽかんと口を開けたまま、しばらく動けなかった。
(なんだったんだ、今の……)
——その一部始終を、ギルドの入口でじっと見つめる影があった。
「……レオン」
ミーシャ・アーヴィングだ。亜麻色のふんわりボブが、風にふわりと揺れる。緑の大きな瞳が、いつもの明るさを失って、ぎゅっと細められていた。
受付業務を終えて、レオンに声をかけようと飛び出してきたところだった。
(あの人……エレナ・ヴァレンシュタイン様? Sランクの……)
背が高くて、スタイル抜群で、顔も完璧な年上女性。最強の女戦士。そんな人が、レオンと二人で話していた。レオンが笑顔で応じていた。
胸の奥が、チクリと痛んだ。
(やだ。なにこの気持ち)
ミーシャは小走りにレオンへ近づくと、思い切り彼の腕をぎゅっと掴んだ。
「レオン、今夜、一緒にご飯食べよ。絶対断らないで」
いつもの柔らかい笑顔じゃない。有無を言わせない目だ。
「え、ちょ、ミーシャ?」
「いいから。約束」
ミーシャはレオンの腕を離すと、プイッと横を向いた。彼女の頬がほんのり赤い。
――
夜。
酒場「赤銅の杯」は、冒険者たちの熱気でムンムンしていた。エールの泡がこぼれる音。猪肉の串焼きが焼ける匂い。あちこちから聞こえる笑い声と怒鳴り声。
隅の席で、レオンとミーシャは向かい合っていた。
テーブルに置かれた燭台の火が、二人の顔をふわりと照らしている。
「ねえ、レオン」
ミーシャはエールを一口含んでから、チラリとレオンを見上げた。
「さっきの人、誰? 知り合いなの?」
「え? ああ、エレナさん? 知らない人に話しかけられただけで——」
ミーシャは「ふうん」と小さく呟いて、一瞬だけホッとした顔をした。すぐに誤魔化すように、にこっと笑う。
「そっか。よかった」
灯火の橙色の光の中で、ミーシャの亜麻色の髪がキラキラと輝いている。彼女はそっと、テーブルの上に手を置いた。
その指先が、レオンの手のすぐ隣に近づく。
触れるか触れないかの距離。
(レオン……)
ミーシャの心臓が、バクバクと脈打つ。緑の瞳が潤んで、ろうそくの火を映し込んだ。
「ねえ、レオン。私、ずっと前から——」
声を絞り出した瞬間——。
「おーっ! 二人でいい雰囲気じゃないか!」
突然、明るい声が割り込んだ。
ザックだ。整った顔立ちだが、どこか陰湿な目つき。爽やかな笑顔を貼り付けて、無造作に椅子を引き、レオンとミーシャの間にドカッと座った。
「相変わらず仲良いねぇ、レオン。でもミーシャ、ギルドの先輩として一言言わせてもらうけど——最近レオン、無茶な採掘をしてるらしいぞ? 危なくないか?」
ミーシャの口が、はくはくと動いて止まった。顔がカーッと赤くなる。
「さ、採掘……?」
「そうそう。レオン、今日も森で岩場を掘ってたらしいじゃないか。Gランクが一人で鉱石採掘なんて、無謀だよなあ。ミーシャも受付嬢なら、ちゃんと注意してやってくれよ」
ザックは軽い調子で話しながら、さりげなく話題をすり替えた。
テーブルの下で、ミーシャがぎゅっと拳を握った。かすかに震えている。
(もう少しだったのに……)
レオンは、ミーシャの変化に気づかない。鈍感だからだ。彼はただ「ザックが心配してくれてる」と思って、困った顔で頭をかいている。
「いや、まあ、なんとかなったんだけど……」
「はは、無事でなにより! じゃあ俺は挨拶回りがあるから。ミーシャ、あまり無理させるなよ」
ザックはそう言い残すと、ひらりと席を立った。
残された二人の間に、妙な沈黙が落ちる。
それから少し経って——酒場を出る時。
「レオン」
ミーシャがレオンの外套の裾を、くいっと引っ張った。
振り返るレオンに、彼女は一歩近づく。つま先立ちになって、レオンの耳元に顔を寄せた。
「また、明日ね」
吐息が耳にかかる。くすぐったいような、ぞわっとするような距離。
レオンの首筋が、さっと赤くなった。
「お、おう……」
ミーシャはパッと身を離すと、小さく手を振って走り去っていった。
――
翌朝。
ギルドの依頼掲示板の前で、レオンは銀貨二枚が入った財布を眺めてため息をついていた。
「……あと二十八枚か」
ザックが何気なく近づいてくる。
「レオン、いい話があるんだが」
ザックは声を潜め、周囲に誰もいないことを確認してから続けた。
「グロウデンの森の外れに廃教会があるだろ? あそこに魔導具の回収依頼が出てる。報酬は銀貨五十枚。一人で行っても楽な仕事だ」
「五十枚!? マジか!」
レオンの目が輝く。五十枚あれば来月の返済が一気に楽になる。
「正式な依頼書は、後で俺が受付に出しておく。お前、朝が早いからな。とりあえず口約束でいいか?」
「ありがとう、ザック! 助かるぜ!」
レオンが嬉しそうに去っていく。
その後ろ姿を、ザックはしばらく見つめていた。口元を歪めて、小さく笑う。
——その光景を、半透明の姿で浮かぶリリアだけが、じっと睨んでいた。
「あの男、あなたに近づく時だけ魔力の乱れがあるわ。嘘をついている時の体の癖よ」
「え? ザックが嘘? でも、あいつ俺の元同僚だし……」
「あなたのその致命的な鈍感さ、いつか命取りになるわよ。気をつけなさい」
でも、レオンの頭の中は銀貨五十枚のことでいっぱいだった。リリアの忠告は、右から左へ抜けていく。
その夜。
宿の机の上に、一枚の依頼書が置かれた。ザックが本当に受付に出したらしい。しかし——書かれた依頼ランクの欄だけが、誰の目にも気づかれないよう、巧妙に改ざんされた偽造品だった。
レオンはそれに気づかない。
ミーシャも忙しくて確認できない。
罠の種は、静かに、確実に、蒔かれた。
窓の外で、ルーゲン河のせせらぎが遠く聞こえている。
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