借金男のハーレム革命 〜ドS魔導書に絶対服従中〜
借金男のハーレム革命 〜ドS魔導書に絶対服従中〜
レオン・クロウフォードは超がつくほどの貧乏冒険者で、借金取りから逃げ回る日々を送っていた。ある日、ギルドのゴミ捨て場から埃まみれの古びた本を拾う。それは伝説の魔導書『黒の黙示録』だった。しかし、契約の挨拶代わりに、そのドSな精霊リリアから平手打ちを食らう!
「この役立たずの虫ケラが!覚悟しなさい、私が一人前の契約者に鍛え上げてやるんだから!」
リリアの容赦ない訓練の下、レオンは涙ながらにスキルを急上昇させていく。初めての本格的な任務で幼なじみで受付嬢のミーシャを救ったことで、彼女の受動的だった恋心は、超積極的な猛アタックへと変貌。さらに事態をややこしくするのが、ギルド最強のSランク戦士エレナ・ヴァレンシュタイン。普段は氷のようにクールな彼女が、レオンが他の女の子と話すたびに、あからさまに不機嫌になるのだ。
突然女の子たちに囲まれるようになった、超がつくほど鈍感なレオンは全く気づかず、「なんで最近みんな俺に冷たいんだ!?」とパニックになるばかり。その隙を突いて、嫉妬に狂った元同僚ザックが、偽のSランク緊急クエストを渡す罠を仕掛ける
借金男のハーレム革命 〜ドS魔導書に絶対服従中〜 - 崩壊の依頼書——罠の廃教会と冤罪追放通告
ギルドの受付カウンターに、朝の光が差し込んでいた。
ミーシャ・アーヴィングは、亜麻色のふんわりボブを揺らしながら、掲示板から外された依頼書の束を一枚一枚めくっていた。緑の大きな瞳が、紙面を素早く走る。いつものルーティンだ。依頼ランクと報酬、内容に間違いがないか、受付嬢として最終確認をする。
「……あれ?」
指が止まった。
一枚の依頼書。グロウデンの森の外れ、廃教会での魔導具回収。報酬は銀貨五十枚。ここまでは普通だ。でも——依頼ランクの欄だけ、墨の濃さが違う。
《D》
その文字だけが、妙に黒々としている。他の文字は少し乾いた色なのに、そこだけ書き直したみたいに新しい。
(なにこれ……)
首をかしげた瞬間——。
「おはよう、レオン!」
ギルドの正面玄関から、聞き慣れた声がした。
ミーシャが顔を上げる。ちょうどレオン・クロウフォードが入ってきたところだった。くすんだ金髪は今日もボサボサだ。左頬の古傷が、朝日に照らされてうっすら浮かんでいる。
そのレオンに、ザックが肩を叩いていた。整った顔立ちの元同僚。でも目つきはいつも陰湿で、ミーシャは正直あまり好きじゃない。
「ほら、例の廃教会の依頼書、受付に出しといたぜ」
「マジかよ! ありがとう、ザック!」
レオンの顔が、ぱっと輝いた。
銀貨五十枚——その数字に目がくらんでいるのが、遠くからでもわかる。借金まみれのレオンにとって、それは天の恵みみたいな金額だ。
(待って、レオン——)
ミーシャは依頼書を手に、カウンター越しに身を乗り出した。
「レオ——」
でも、声が出かかった瞬間、ザックが振り返った。
「あ、それ、俺が昨日差し込んだやつですよ。ランク確認済みだから大丈夫」
にっこりと笑う。Cランク冒険者の余裕の笑顔だ。
「でも、筆跡が——」
「Dランク相当、レオンには余裕っしょ。なあ?」
ザックがレオンの肩をバシバシ叩く。レオンは嬉しそうにうなずいて、ミーシャの方をちらりと見た。
「大丈夫だって、ミーシャ! 俺、頑張るから!」
そう言って、依頼書を受け取ると、そのまま走り出してしまった。
「あっ……」
ミーシャの手が、空を切る。
胸の中に、もやもやした違和感が残った。でも、後ろには依頼の列ができている。確認を急がなきゃ——そう思っているうちに、時間が過ぎていった。
それでも彼女は、カウンターの下でこっそりと、依頼書の写しを自分のポケットに滑り込ませた。
(なにか、おかしい)
心臓が、いやに早く打っていた。
行かないで、と唇が動きかけて——止まる。
レオンの背中は、もうギルドの外に消えていた。
——
グロウデンの森の外れは、昼間でも薄暗かった。
蔦に覆われた廃教会が、木々の隙間から姿を現す。石壁はひび割れ、ステンドグラスは割れ落ちている。周囲の空気が、ひんやりと冷たかった。
「……嫌な気配がする」
半透明の姿で隣に浮かぶリリアが、珍しく強い口調で言った。漆黒のロングヘアが、風もないのにふわりと揺れる。真紅の瞳が廃教会をじっと睨んでいた。
「え? でも依頼書にはDランクって——」
「馬鹿。あのザックって男、何か企んでるって前から言ってるでしょ。入るな」
「でも銀貨五十枚……」
「クズ雑魚。金に目がくらんで死ぬ気?」
レオンは、それでも扉に手をかけた。
ギィィィ……。
錆びた蝶番が、耳障りな音を立てる。
中は薄暗かった。祭壇の前に、朽ちた棺が六つ、横一列に並んでいる。床には古い魔法陣がうっすらと浮かんでいた。
一歩、足を踏み入れる。
——瞬間。
バンッ! バンッ! バンッ!
棺の蓋が、同時に吹き飛んだ。
「なっ——!?」
灰色の肌をした人型の化け物——ワイトが六体、ゆっくりと立ち上がる。空洞のような目が、レオンを捉えた。腐臭が鼻をつく。
「ワイトよ! それも六体! 逃げるわよ、クズ!」
リリアが叫ぶ。でも遅かった。
廃教会の壁に刻まれた紋様が、突然ぼうっと青白く光り始めた。同時に、レオンの体から魔力がすうっと吸い取られる感覚。
「ま、魔力が……!?」
「封印紋様! これは罠よ! 最初からそう仕組まれてたの!」
ワイトが一斉に飛びかかってきた。
爪が、レオンの腹部を抉る。
「があっ!」
血が飛び散った。革鎧が引き裂かれ、中の肌が裂ける。痛みより先に、熱いものが腹から溢れ出す感触。
もう一体が、左肩に噛みつく。
骨が軋む音。肉が裂ける感覚。
「う、ああああっ!!」
地面に倒れ込む。血が石畳に広がっていく。視界が赤く染まる。三体のワイトが、倒れたレオンに覆いかぶさろうとしていた。
(死ぬ——)
「——仕方ないわね、クズ雑魚!!」
リリアの声が、頭の中に響いた。
次の瞬間——。
契約印が、爆発的に光った。
ドォォォン!!
リリアから流れ込んだ灼熱の魔力が、レオンの全身を駆け巡る。血管が焼けるような熱さ。でもその力は、ワイトの群れをまとめて吹き飛ばした。教会の壁が破壊され、外の光が差し込む。
「はあっ、はあっ……!」
レオンは這うように外に出た。草むらに倒れ込む。体中が痛い。血が止まらない。
横に浮かぶリリアの姿が、大幅に薄れていた。
「……あんたのせいで、私の力を無駄遣いした。死ぬ気で帰れ、クズ」
いつもの高飛車な口調。でも声が、かすかに震えていた。
「リリア……」
「呼ぶな。私は少し休む。……絶対に、死ぬなよ」
そう言い残して、リリアは黒の黙示録の中に消えた。
(まだ……街まで……)
レオンは左肩を布で縛り、腹部を押さえながら立ち上がった。
足が震える。
でも、行くしかない。
——
その数時間前。
カナルベルグのギルド支部、三階の支部長室。
「支部長……!」
ザックは青ざめた顔で、バルトス・ヘルマンの執務室に飛び込んだ。
バルトスは五十二歳、元Aランク冒険者の重厚な男だ。白髪混じりの短髪に、鋭い目つき。彼は迷惑そうに顔を上げた。
「どうした、ザック」
「レオンが……俺が預かっていた依頼料の前払い、銀貨二十枚を横領したんです! 止めようとしたら、これです!」
ザックは左頬を差し出した。そこには生々しい打ち傷——自分でつけた傷だ。
「証拠もあります。依頼帳の写しです。ここに銀貨二十枚の受け取りサインが——ないんです」
バルトスは黙って書類を確認し、眉間にしわを寄せた。
その時、廊下から二人の冒険者が顔を出した。ザックが事前に口裏を合わせた仲間だ。
「ああ、俺たちも見ました。ザックさんが殴られてるの」
「止めようとしたら、レオンが逆上して」
バルトスは深いため息をついた。
「冒険者責任法第七条——依頼料の横領、ならびに同僚への暴行。これは重大な違反だ」
——そのやり取りを、偶然廊下で聞いたミーシャは、顔色を失った。
「違います!」
彼女は執務室に飛び込んだ。
「レオンがそんなことするはずない! あの依頼書、筆跡がおかしかったんです! 誰かが書き直した——」
「ミーシャさん、気持ちはわかるけど」
ザックが困惑した顔で遮る。でもその目は、笑っていた。
「感情で言っても証拠にはならないよ」
「証拠はあるのか、ミーシャ」
ミーシャはポケットの依頼書の写しを掴んだ。でも——。
「それ、俺が書いた正規の書類ですよ。ですよね?」
ザックが先に言ってしまった。
バルトスがうなずく。
「では問題ない。レオン・クロウフォードの処分は決定だ」
ミーシャの目が、潤んでいく。拳を握りしめ、彼女は部屋を出た。
廊下で壁に額をつける。息が詰まる。
(レオン……レオンが血まみれで帰ってくる前に……もう追放通告書が用意されちゃう……)
涙が、ぽたりと床に落ちた。
——
夕方。
ギルドの正面玄関に、血まみれのレオンが現れた。
左肩をボロ布で縛り、腹部を押さえている。顔は青白く、立っているのがやっとの状態だ。
「レオン——!」
ミーシャがカウンターを回り込んで飛び出した。レオンの腕を掴む。血と泥と汗の匂い。彼の体温が、服越しに伝わってくる——熱すぎる。高熱だ。
「だいじょうぶ、ちょっと傷が……」
レオンが笑おうとした瞬間——。
バルトスが部下二人を連れて、階段を降りてきた。
「レオン・クロウフォード」
低い声が響く。
「依頼料横領、ならびに同僚への暴行。冒険者責任法第七条に基づき、ギルド除籍および損害賠償金貨八枚の支払いを命じる。三日以内に異議申し立てがなければ確定とする」
一枚の書類が、レオンの前に差し出された。
追放通告書。
レオンは書類をじっと見つめてから、ゆっくり顔を上げた。
「俺……横領なんて、してません。廃教会にワイトが——」
「証拠は」
短い問い。
レオンは言葉に詰まった。
「ないならば、追加の措置を通知する。没収対象として、お前の所有する魔導具——黒革の書物一点を指定する」
「それは……ダメだ!!」
レオンが叫んだ。その瞬間、彼の手の甲の契約印が一瞬だけ赤く光り、黒い魔力の残滓が周囲に漏れた。
「え……今の、なに?」
「黒い魔力が漏れてなかったか……?」
フロアの隅で見ていたGランクの新人冒険者たちが、ひそひそと囁く。
でも、バルトスは気にせず背を向けた。
「支部長! お願いです、もう少し——!」
ミーシャが追いすがる。でも、ザックがそっと彼女の肩を押さえた。
「もういいよ、ミーシャさん」
囁くような声。でもその笑顔の裏側の冷たさに、ミーシャは背筋が凍った。
——この人だ。全部、この人が仕組んだんだ。
その時——。
「あ、ちょっと……!」
レオンが力尽きて、ミーシャに全体重を預けて倒れ込んできた。
「重い重い重いって!」
彼女は叫びながら必死に支える。レオンの腰に腕を回した瞬間、血と泥に汚れたシャツ越しに、彼の鼓動が直接掌に伝わってきた。
ドクンドクンと、必死に生きようとする音。
こんなに傷だらけなのに、それでも心臓だけは、強く強く脈打っている。
(ああ、この人——)
喉が詰まった。ミーシャの目から、涙がこぼれ落ちる。
「リリア……から、もらった本は……渡せない」
意識が朦朧としたレオンが、ミーシャの肩で囁いた。
その声の真剣さに、ミーシャは唇を噛んだ。
絶望しかない。
異議申し立て期限は三日。賠償金貨八枚の工面は不可能。黒の黙示録は没収対象。ザックの偽証を崩す証拠もない。
四重の絶望が、夕暮れのギルドに立ち込めていた。
それでもミーシャは、レオンの体をぎゅっと支えたまま、決して離さなかった。Noveliaとは?
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