キルラキルIF 〜鮮血が燃え尽きなかった世界〜
――鮮血は、死んでいなかった。
本能字学園での決戦から半年。纏流子は輪廻堂高校の教室で、ただ漫然と午後の授業を受けていた。頭の中は、あの黒いセーラー服のことばかり。宇宙空間で燃え尽きた相棒の欠片を探して、流子は週の半分以上を欠席し、各地を飛び回っている。それでも、見つかったのは何一つない。
そんなある日、下駄箱に一通の封筒が置かれていた。差出人は、針目縫。あの決戦で消えたはずの女からだった。
『鮮血を生き返らせたかったら、本能字学園にいらっしゃい。ただし、お前の大切なものを賭ける覚悟で来ること』
封筒を握りつぶし、流子は走り出す。行くしかない。鮮血を取り戻すために。
本能字町に降り立った流子を待っていたのは、かつて廃棄されたはずの極制服をまとった生徒たちと、あの無邪気な笑顔だった。縫の手には、赤く光る鮮血の右目。そして告げられる。鮮血は死んでいない。七つに分かれた欠片を集めれば、縫い合わせてやると。
「せいぜい楽しませてね、流子ちゃん」
校門が開く。数十人の極制服が、一斉に力を解放する。片太刀バサミを構え、流子は笑った。鮮血がいなくても、戦える。鮮血のためなら、なんだって
キルラキルIF 〜鮮血が燃え尽きなかった世界〜 - 鮮血よ、還れ ― 姉妹共闘と縫の逃走
地下闘技場の空気は、重く、熱く、ねっとりと肌に張り付いた。
壁という壁にびっしりと刻まれた無数の傷跡。床に染み込んだ古い血の匂い。天井から吊るされた照明が、ちかちかと不規則に明滅している。
流子は、その光の下で、片太刀バサミを握りしめていた。右腕だけが、やけに重く感じる。左肩から先は、包帯の下で、まだ何かが疼くような感覚があった。
「……来るぞ」
隣に立つ皐月が、低く言った。長い黒髪が、風もないのにわずかに揺れる。紫がかった鋭い瞳が、闘技場の中央をじっと見据えていた。
その視線の先。
針目縫が、立っていた。
薄桃色のゆるふわツインテール。大きな青い瞳。左目を隠す前髪。指先にはめられた指抜きグローブ。その姿は、まるでおとぎ話から抜け出した人形のようだった。
だが、その手の中にあるものだけが、異様だった。
赤い光を宿した、布の欠片。
鮮血の、最後の欠片。
「ねえねえ、流子ちゃん」
縫は、欠片を指先で弄びながら、首を傾げた。
「これ、最後の一個なんだって。すごいでしょ? あたし、ちゃんと七つ全部、集めちゃった」
「……返せ」
流子の声は、怒りで震えていた。
「返せ、縫。それは、私の相棒だ」
「あはは、やだなあ。返すわけないでしょ? だって、これから使うんだもの」
縫は、にこりと笑った。目は、まったく笑っていない。
「見せてあげる。あたしの最高傑作を」
縫は、欠片を自分の胸に、ゆっくりと押し当てた。
その瞬間。
赤黒い光が、縫の全身を包み込んだ。
「——起動」
縫の声が、それまでの甘ったるい口調から、低く、冷たいものに変わった。
赤黒い糸が、縫の体から溢れ出る。いや、違う。縫の体が、赤黒い糸を吐き出している。無数の糸が、うごめき、絡み合い、縫の全身を覆っていく。
「な、なにこれ……!」
闘技場の入り口近く、瓦礫の影に隠れていたマコが、悲鳴のような声を上げた。茶色のボサボサしたショートヘアを震わせ、丸くて大きな黒い瞳をいっぱいに見開いている。
「マコ、下がってなさい! 絶対に顔を出すんじゃないわよ!」
乃音が、マコを庇うように前に出た。金髪のツインテールが揺れる。首にかけたヘッドホンが、かたかたと音を立てていた。
縫の体は、もう、人間の形をしていなかった。
赤黒い繊維が、脈動している。心臓のように、ドクン、ドクンと。その表面には、無数の目のような模様が浮かび、ぎょろぎょろと動いている。
鮮血の面影を宿した、歪な神衣。
模造神衣。
「あははははは!」
縫の笑い声が、闘技場に響き渡る。声は、どこから出ているのか分からない。繊維の塊の、あちこちから、同時に聞こえてくるようだった。
「これよ! これがあたしの、模造神衣! 鮮血の力を、完璧に再現した、最高傑作! ねえ、流子ちゃん、どう? あたし、似合ってる?」
「……ふざけんな」
流子は、片太刀バサミを構えた。怒りで、指先が白くなる。
「鮮血を、あんな、おぞましいものに、変えやがって……!」
「おぞましい? ひどいなあ。これは、神衣の進化形なのに」
縫の繊維が、ざわざわと波打つ。
「ねえ、皐月ちゃんも、そう思わない? あたしたち、昔、一緒に神衣の研究をしたじゃない? あの頃は、楽しかったわよねえ」
皐月は、答えなかった。ただ、縫を睨みつけている。
「……無視? つまんないの」
縫の声が、わずかに低くなる。
「まあいいわ。お人形ごっこの続き、始めましょう?」
次の瞬間。
縫の体から、無数の糸状の刃が、放たれた。
赤黒い糸が、鋭く、速く、空気を裂いて飛んでくる。
「流子!」
「分かってる!」
流子と皐月は、同時に左右に跳んだ。糸の刃が、さっきまで二人がいた場所に突き刺さる。石の床が、まるで豆腐のように削れた。
「あはは、避けた避けた! でも、これだけなら?」
縫が、両腕を広げた。いや、繊維の塊が、無数の触手を広げた。
糸の刃が、全方位から、降り注ぐ。
「くそっ!」
流子は、片太刀バサミを振るった。ギン、ギン、と金属音。糸の刃を、次々と弾き飛ばす。だが、数が多すぎる。
「流子、下がれ!」
皐月が、流子の前に出た。純潔の力が、皐月の体を包む。白い光が、糸の刃を弾く。
「姉さん、無理すんな!」
「無理ではない。お前こそ、その体で無茶をするな」
皐月は、糸の刃を弾きながら、縫に突進した。
「あらあら、皐月ちゃん、相変わらず無茶するのね」
縫の繊維が、皐月の動きを阻むように、床から生えた。足に絡みつく。
「くっ……!」
皐月が、足を取られた。その隙に、糸の刃が、皐月の右脚を狙う。
「姉さん!」
流子が叫んだ。だが、間に合わない。
糸の刃が、皐月の右脚を、貫いた。
ザシュッ。
肉を裂く音。血が、飛び散る。
「……っ!」
皐月が、膝をついた。右脚から、赤い血が、どくどくと流れ出る。
「あはは! やった! 皐月ちゃん、動けなくなっちゃった!」
縫の声が、歓喜に震えている。
「さあ、これで、流子ちゃんは一人ぼっちね。お人形の片割れを失ったお人形。かわいそう。でも、大丈夫。あたしが、ずっと一緒にいてあげる」
「……姉さんに、触るな」
流子の声が、低く、地の底から響くようだった。
「触るな。縫。お前が、姉さんに、何をした」
「何って、ちょっと足を刺しただけよ。死んではいないわ。でも、もう戦えないでしょ? あたしの糸は、癒絹の糸。ただの糸じゃないの。刺された傷は、普通の傷より、ずっと治りが遅いのよ」
縫は、笑いながら、繊維をうごめかせた。
「さあ、流子ちゃん。次は、あんたの番よ。あんたの、残った右腕も、もらってあげる」
流子は、縫を睨んだ。
怒りで、頭が、真っ白になる。
(こいつは、姉さんを、傷つけた)
(こいつは、鮮血を、奪った)
(こいつは、私の、全てを、奪おうとしている)
「……許さない」
流子の体が、熱くなる。
体内の生命戦維が、激しく共鳴し始めた。
「許さない。お前だけは、絶対に、許さない……!」
その瞬間。
流子の左腕の断面が、赤い光を放った。
包帯が、内側から、弾け飛ぶ。
「な、なに……!?」
縫の繊維が、ざわつく。
闘技場に散らばっていた、三つの鮮血の欠片。流子が回収したはずの、右目、左目、胴体の欠片が、流子の体へと、吸い込まれていく。
いや、吸い込まれているのではない。引き寄せられているのだ。流子の体内の生命戦維が、鮮血の欠片を、呼んでいる。
「あ……ああ……」
流子の左腕の断面から、赤い戦維が、噴き出した。
糸のように、光の筋のように、赤い戦維が、うごめき、絡み合い、形を成していく。
腕の形に。
不完全な、赤い光を放つ、腕の形に。
「流子……聞こえるか」
頭の中に、直接、声が響いた。
懐かしい、声。
「鮮血……?」
流子の目から、涙が、こぼれた。
「鮮血……鮮血なのか……?」
「ああ。俺だ。……随分と、心配をかけたようだな」
鮮血の声は、少しだけ、笑っているようだった。
「すまない、流子。俺は、まだ完全ではない。だが、お前が、俺を呼んでくれた。それだけで、十分だ」
「鮮血……鮮血……!」
流子は、泣きながら、新生した左腕を、握りしめた。
赤い光の腕。まだ、完全ではない。指の形も、ぼんやりしている。だが、確かに、そこに、ある。
鮮血の、温もりが。
「あはははは! すごい! すごいわ、流子ちゃん! その状態から、鮮血を再構成するなんて! あたしの予想を、はるかに超えてる!」
縫は、狂喜の声を上げた。
「でも、不完全ね。その腕、まだ、戦える状態じゃないでしょ? あたしの模造神衣には、勝てないわよ」
「……勝てるかどうかは、やってみなきゃ分からねえだろ」
流子は、片太刀バサミを、逆手に持ち替えた。
「鮮血。行くぞ」
「ああ。お前の体は、まだ万全ではない。だが、俺が支える。思い切り、やれ」
流子の全身に、鮮血の戦維が、巡る。
人衣一体。
失っていた感覚が、戻ってくる。
(これだ。この感覚だ)
(鮮血と、私が、一つになる感覚)
流子は、地面を蹴った。
「はああああっ!」
縫に向かって、一直線に突進する。
「あはは! 来なさい! お人形の意地、見せてもらおうかしら!」
縫の糸の刃が、流子を迎え撃つ。
だが、流子は、避けなかった。
新生した左腕で、糸の刃を、掴み取った。
「なっ……!?」
縫の声が、初めて、驚きに染まる。
赤い光の腕が、糸の刃を、しっかりと掴んでいる。
「お前の糸は、鮮血の欠片でできてる。なら、鮮血の力で、掴める」
流子は、掴んだ糸を、力任せに引き寄せた。
「う、うそ……!」
縫の巨体が、バランスを崩す。
「今よ! 乃音!」
皐月が、倒れたまま、叫んだ。
「分かってるわよ!」
乃音が、縫の背後に回り込んでいた。極制服の能力で、縫の注意を引く。金髪のツインテールが、風を切る。
「こっちよ、縫! あんたの相手は、あたしもいるんだから!」
縫の繊維が、乃音の方に向く。
「邪魔しないでくれる? あたしは今、流子ちゃんと遊んでるの」
縫の糸が、乃音に襲いかかる。だが、乃音は、それを軽やかにかわした。
「流子ちゃん!」
マコの声が、闘技場に響く。
「右! 縫ちゃんの右側、糸が薄いよ! あたし、見えてる! あそこを狙って!」
マコは、瓦礫の影から、必死に叫んでいた。その丸い瞳は、縫の繊維の動きを、食い入るように見つめている。
「……右か」
流子は、マコの言葉を信じた。
迷わず、縫の右側に、踏み込んだ。
「させるか!」
縫の繊維が、流子を阻もうとする。だが、マコの言う通り、右側の糸は、薄い。
「うおおおおっ!」
流子は、片太刀バサミを、逆手のまま、全力で振り抜いた。
新生した左腕と、右腕。両方の力で。
鮮血の戦維が、刃に宿る。
「武滾流猛怒……!」
一撃。
縫の模造神衣の、右脇腹に、叩き込まれた。
ギャアアアアアアアッ!
模造神衣が、悲鳴のような音を立てた。
赤黒い繊維が、裂ける。破れる。弾け飛ぶ。
「あ……ああ……!?」
縫の声が、苦しみに歪む。
模造神衣が、崩れていく。鮮血の欠片が、縫の体から、弾け飛んだ。
「やった……!」
マコが、飛び上がって喜んだ。
「流子ちゃん、やった! やったよ!」
縫は、よろめきながら、元の姿に戻っていく。薄桃色の髪。青い瞳。人形のような姿。
だが、その笑顔は、まだ、崩れていなかった。
「……あはは。やるじゃない、流子ちゃん」
縫は、口元の血を拭いながら、笑った。
「でも、覚えてなさいよ。お前の正体を知っているのは、あたしだけじゃない。……あの人も、知ってるんだから」
「あの人……?」
流子が、問い返す。
だが、縫は、答えなかった。
「じゃあね、流子ちゃん。また、遊びましょう」
縫は、笑顔のまま、瓦礫の中へ、消えた。
「待て! 縫!」
流子は、追おうとした。
「流子、待て!」
皐月の声が、流子を止めた。
「姉さん……!」
流子が振り返る。皐月は、右脚を押さえたまま、苦しそうに息をしていた。血が、まだ、流れている。
「……追うな。お前の体も、鮮血も、まだ完全ではない。それに、私の足では、足手まといだ」
「でも……!」
「流子ちゃん、皐月ちゃんの言う通りだよ! 今は、治療が先!」
マコが、駆け寄ってきた。
「あたし、応急処置できるよ! お父さんが、闇医者だから、そういうの教えてくれてるんだ!」
マコは、皐月の右脚に、手際よく包帯を巻いていく。その手つきは、意外なほど、しっかりしていた。
「……助かる」
皐月が、小さく言った。
「縫の逃走経路は、あたしが確認するわ。あんたたちは、先に地上に出てなさい」
乃音が、縫が消えた瓦礫の方へ、走っていく。
「乃音、気をつけろよ」
「バカ流子に言われなくても、分かってるわよ。あんたこそ、皐月様をしっかり支えなさい」
乃音は、振り返らずに、そう言い残した。
流子は、皐月の肩を、支えた。
「……姉さん。歩けるか?」
「ああ。お前の肩を借りれば、問題ない」
皐月は、流子の肩に、体重を預けた。
「……重くないか」
「重いわけないだろ。私を誰だと思ってる」
流子は、少しだけ、笑った。
四人は、地下闘技場を後にした。
---
本能字学園の屋上に、夜風が吹いていた。
学園都市・本能字町の灯りが、眼下に広がっている。三方を低い山脈に囲まれ、南に海を望む、この町。再建された学園の屋上からは、その全てが見渡せた。
「……きれいだな」
流子は、フェンスに寄りかかりながら、呟いた。
左腕には、赤い光の腕。まだ、完全ではない。時々、ちかちかと瞬いている。
だが、確かに、そこに、鮮血の温もりがあった。
「流子ちゃん、見て見て! 海が、月の光で、キラキラしてるよ!」
マコが、フェンスに張り付いて、はしゃいでいる。
「ああ、そうだな」
流子は、マコの隣に立った。
「……流子」
皐月が、ゆっくりと、歩いてきた。右脚には、マコが巻いた包帯。まだ、痛むはずだ。だが、皐月は、顔に出さない。
「姉さん。足は、大丈夫なのか?」
「問題ない。お前こそ、その腕は、どうなのだ」
「……まだ、完全じゃない。でも、鮮血の声は、聞こえる。それだけで、十分だ」
流子は、左腕を見つめた。
赤い光が、まるで、呼吸するように、ゆっくりと明滅している。
「……なあ、姉さん」
流子は、皐月の方を向いた。
「ごめん。私、一人で突っ走って。姉さんに、何も相談しないで。そのせいで、姉さんに、怪我をさせた」
流子の声が、震えていた。
「謝るのは、私の方よ」
皐月が、静かに言った。
「お前を、一人で戦わせた。お前が、どれほど苦しんでいたか、私は、気づいていたのに。何も、できなかった」
皐月の声も、わずかに、震えていた。
「姉さん……」
流子の目から、涙が、あふれた。
「ごめん……ごめん、姉さん……」
流子は、皐月の手を、握った。
皐月も、流子の手を、握り返した。
二人の涙が、夜風に、散っていく。
「……あたし、何だか、泣けてきちゃった」
マコが、鼻をすすった。
「あんたが泣いてどうすんのよ」
乃音が、屋上の入り口から、現れた。
「乃音、どうだった?」
「縫の姿は、もう、どこにもなかったわ。でも、あいつの言ってた『あの人』ってのが、気になるわね。あたし、心当たりを探ってみる」
乃音は、そう言って、流子の方を向いた。
「バカ流子。次は、もっとマシな戦い方しなさいよ。あんた、いつも、無茶ばっかりなんだから」
乃音の声は、毒舌だった。だが、その表情は、どこか、安堵していた。
「……うるせえな。分かってるよ」
流子は、少しだけ、笑った。
「鮮血。……まだ完全じゃないけど、ありがとな」
流子は、左腕に、話しかけた。
「ああ。俺も、お前ともう一度戦えて、嬉しいぞ。……流子、お前は、一人じゃない。忘れるな」
鮮血の声が、流子の頭の中に、優しく響いた。
「……ああ」
流子は、空を見上げた。
星が、瞬いている。
---
その夜。
糸港市。
貿易港として栄える、人口二十五万の港湾都市。その外れにある、古びた倉庫街。
誰もいないはずの倉庫の奥で、一つの影が、動いていた。
「……ええ。鮮血の欠片は、四つ回収されました」
縫は、暗闇の中で、何かと通信していた。手に持った小さな端末が、かすかに青い光を放っている。
「でも、問題があります。流子の体内の戦維が、予想以上に活性化しています。このままでは、計画に支障が出るかもしれません」
縫の声は、いつもの甘ったるい口調ではなかった。低く、真剣な、報告者の声。
「ええ。分かっています。……次の段階に進みます」
通信が、切れた。
縫は、端末をしまい、暗闇の中で、にこりと笑った。
その背後で。
倉庫の、さらに奥の闇。
何かが、脈動していた。
巨大な、戦維反応。
ドクン。
まるで、生き物の心臓のように。
縫の背後に、別の影が、動き出す。
---
本能字学園の屋上。
流子たちは、夜明けを迎えようとしていた。
東の空が、うっすらと、白み始めている。
「……夜明けだ」
流子は、空を見つめた。
「流子ちゃん、どうしたの? 難しい顔して」
「……なんでもない。ただ、なんとなく、嫌な予感がする」
流子は、左腕を、ぎゅっと握りしめた。
赤い光が、強くなる。
「鮮血。お前は、どう思う?」
「……分からん。だが、縫の言葉が気になる。『お前の正体を知っているのは、あたしだけじゃない』。あの言葉には、何か、裏がある」
「ああ。私も、そう思う」
流子は、海の向こうを見つめた。
糸港市の方向。
「何かが、動き出してる。……きっと、これから、もっと、大変なことになる」
「流子ちゃん、大丈夫だよ! あたしが、ついてるから! 乃音ちゃんも、皐月ちゃんも、鮮血も、みんな、いるんだから!」
マコが、流子の背中を、ぽんと叩いた。
「……ああ。そうだな」
流子は、マコの方を向いて、笑った。
「ありがとな、マコ」
「えへへ。どういたしまして!」
マコが、満面の笑みを浮かべる。
「……バカ流子。あんた、笑うと、少しはマシな顔になるのね」
乃音が、ぼそりと言った。
「うるせえな。余計なお世話だ」
流子が、言い返す。
「流子。……強くなれ。お前は、まだ、戦わなければならない。だが、一人で戦うな。お前には、仲間がいる。私もいる。それを、忘れるな」
皐月が、流子の目を、まっすぐに見つめて言った。
「……ああ。分かってる。姉さん」
流子は、皐月の手を、もう一度、握った。
夜明けの光が、四人の姿を、照らし出した。
流子の左腕の赤い光が、朝日に、溶けていく。
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