性別が入れかわる呪いと、それでも君が好きな件
あらすじ:
「触れた花のせいで、俺の周囲の性別が入れかわり始めた!?」
旅の少年フシが、カザミドリの森で見つけた薄桃色の花畑。うっかり花びらに触れたその瞬間から、彼の日常は大きく崩れ始める。花の力はフシを媒介に広がり、次々と周囲の人や動物の性別を入れかえていく。そして翌朝、フシの兄弟分である大柄な少年グーグーが、なぜか可愛らしい女の子の姿に——しかも仮面をつけたまま——変身していた。
「俺、リーンに会いたい!」
女の子になった途端、なぜか普段は言えなかった想いを叫び、意中の令嬢のもとへ走り出すグーグー。止めようとするフシだったが、性別が変わってもグーグーのまっすぐな性格は何ひとつ変わっていなくて……。
呪いを解く鍵は、あの花畑の奥に潜むノッカー。でもその前に、この性別逆転パニックをどうにかしないと!
体は変わっても、好きな気持ちは変わらない。笑って泣ける性別逆転コメディ、開幕!
性別が入れかわる呪いと、それでも君が好きな件 - 第6話 花よ、咲け! 全部を抱きしめて ― 呪いを溶かす銀髪の光
薄桃色の花びらが、月光に照らされて、静かに揺れていた。
フシは、その花の前に立っていた。シャララカの花畑。大元のテンテン草。七枚の花びら。金色の蕊。周りには、無数のノッカーが、半透明の触手をうねらせている。
(これが、最後の花)
左手の甲の花の痣が、ちかちかと光る。胸の奥が、ずきずきと痛む。仲間たちの顔が、次々と浮かんでは消える。女の体のまま倒れたグーグー。男の体のまま動けないリーン。大人の体で泣いていたマーチ。マーチを庇って倒れたパロナ。
「……みんな」
喉の奥が詰まる。奥歯を噛んでも、顎が震えて止まらない。眦から、水滴が零れ落ちた。
(僕は、何のためにここに来たんだ)
(みんなを、元に戻すためだ)
フシは、手の甲で涙を拭った。銀色の髪が、夜風に揺れる。金色の瞳が、花を見つめる。
「俺が、みんなを元に戻すんだ」
一歩、踏み出す。土を踏む音が、やけに大きく響いた。ノッカーの触手が、一斉にフシの方へ向いた。だが、フシは止まらない。もう、迷わない。
花に、手を伸ばす。指先が、花びらに触れた。
——瞬間。
世界が、白く弾けた。
花の力が、フシの体内へ流れ込んでくる。性別反転の呪い。再生の力。テンテン草の、すべての力が。同時に、花畑の土の下から、無数のノッカーが一斉に飛び出した。
「うわあああああ!」
半透明の触手が、フシの体に四方八方から突き刺さる。胸に。背中に。腕に。足に。首に。口に。鼻に。耳に。傷口に。
「ぐ……あああああああ!」
触手が、体内を這い回る。内臓を、骨を、筋肉を、かき回される。痛い。熱い。体が、内側から食い破られていく。
(負けるな)
(負けるな、僕)
フシは、両腕を広げた。ノッカーを、受け入れる。すべてを、抱きしめるように。
「みんな、戻ってこい!」
絶叫。花畑に、フシの声がこだまする。
「グーグー! リーン! マーチ! パロナ! トナリ! サンデル! ボン! ヒサメ! カハク!」
仲間の名を、叫び続ける。声が、枯れても。喉が、裂けても。
(みんなの笑顔を、見るんだ)
(そのために、僕は)
フシは、再生能力を全開にした。体内の触手を、内側から押しつぶす。花の力を、少しずつ取り込んでいく。歯を食いしばるたび、口の中に血の味が広がった。
「ぐ……ううううう!」
体が、光り始める。薄桃色の光。温かい光。花の力と、再生の力が、混ざり合っていく。
その時だった。
「フシ、無茶すんなよ……!」
遠くから、声が聞こえた。女の子の、高い声。でも、その口調は、確かにグーグーのものだった。
「戻るわよ、みんなで!」
今度は、凛々しい青年の声。でも、その言葉は、確かにリーンのものだった。
「フシーッ! あたし、ここにいるよーっ!」
「フシ、諦めないで! 私達がついてるわ!」
「……フシ、君の勝手でしょ。でも、負けたら承知しないからね」
「フシさん、信じています。あなたなら、必ず」
「フシよ! 我が名を呼ぶとは、光栄に思え! さあ、決めてみせよ!」
「フシ様! フシ様! わたくし、ずっとここにおりますわ!」
「フシ、あと少しだ! お前なら、やれる!」
仲間たちの声。光の中に、確かに届く。
(みんな……)
フシの胸が、熱くなる。涙が、あふれる。
(僕は、一人じゃない)
(みんなが、いる)
(だから、負けられない)
「うわあああああああああ!」
フシは、叫んだ。最後の力を、振り絞る。
体から、まばゆい光が放たれた。性別反転の呪いが、光の波となって、タクナハの街へ伝播していく。
——その時。
タクナハの街で。
倒れていたグーグーの体が、光に包まれた。華奢だった体が、みるみるうちに、大柄な男の体へ戻っていく。短い黒髪。仮面の下の傷。筋肉質な腕。
「お、俺の体……戻って……」
グーグーが、自分の手を見つめる。ごつごつした、男の手。
「グーグー!」
凛々しい青年の姿だったリーンが、光に包まれる。長い金髪が、三つ編みに戻る。青い瞳。小柄な体。女の子の、リーン。
「私、戻れたの……? 本当に……?」
「ああ、戻ったんだ。リーン」
二人は、抱きしめ合った。
「あたしの体! 子供の体に戻ってる! えへへ、すごいでしょ!」
大人の体だったマーチが、元の145センチの体に戻っている。明るい茶色のショートヘア。大きな琥珀色の瞳。
「マーチ……良かった。本当に、良かった……」
青年の姿だったパロナが、元の少女の姿に戻っている。黒髪を後ろで束ねて。切れ長の黒い瞳。
「ふむ、私も元に戻ったか。やれやれ、騒がしい数日だったな」
「トナリさん、良かったですね。私も、元の姿に戻れました」
「おお! 我が体も戻ったぞ! 幽霊たちよ、見たか! これが我が真の姿よ!」
「フシ様……わたくし、元の姿に戻れました……でも、フシ様は……?」
「……フシ」
カハクの左腕のノッカーが、静かに動きを止めた。
「ノッカーが……大人しくなった」
カハクは、驚いたように、自分の左腕を見つめた。
——花畑。
フシの体から放たれた光が、収まっていく。
「はあ……はあ……」
フシは、息を切らしながら、立っていた。銀色の髪。金色の瞳。銀髪の少年の姿。
「……終わった、のか?」
自分の両手を見つめる。左手の甲の花の痣が、静かに光っている。
体の中に、テンテン草とノッカーの記憶が、残っている。性別を、自在に変えられる感覚。
(まだ、完全に元には戻れないのかもしれない)
(でも、みんなは、助かった)
フシは、空を見上げた。
「……みんなに、会いたい」
小さく、呟く。
疲れた体を、引きずって。一歩、また一歩。
タクナハの街へ。仲間たちの元へ。
歩き出す。
薄桃色の花びらが、風に舞って、フシの後を追いかけた。Noveliaとは?
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