俺物語!! 〜すれ違いの向こう側〜
朝の満員電車で痴漢から女子高生を救ったのは、身長2メートル・体重120キロの巨体を持つ高校2年生、剛田猛男。ゴリラのような顔立ちゆえに周囲から怖がられ、好きになった女子は3回連続で幼なじみのイケメン・砂川誠に告白されるという、不器用で報われない日々を送っていた。そんな猛男が助けた女子高生・大和凛子から届いた「たけおくん、だよね?」という一通のメッセージ。名前も連絡先も伝えていないはずの彼女は、なぜ猛男を知っているのか——。すれ違う想いと勘違いが織りなす、不器用な男の純情物語。
俺物語!! 〜すれ違いの向こう側〜 - ゴリラ、雨の公園で恋を失う
五月下旬。空は朝からずっと、今にも泣き出しそうな灰色をしていた。
集英高校の廊下を、剛田猛男は重い足取りで歩いていた。身長2メートル、体重120キロ。特注の4Lサイズの紺ブレザーが、湿った空気を吸って、いつもより重く肩にのしかかる。角刈りの黒髪。奥二重の小さな黒い目。ゴリラのような濃い顔立ちに、厚い唇。その巨体が、下駄箱の前で、ぴたりと止まった。
(大和から、メッセージが来てた)
朝、携帯の画面に、大和凛子からのメッセージが表示されていた。『あのね、たけおくん。今日、放課後、ミナトサカ公園に来てほしいの。話があるの。待ってるね』。
たったそれだけの、短い文。
でも、猛男の胸の奥は、朝からずっと、ざわざわと落ち着かなかった。
(話って、なんだ)
(一之瀬のことで、まだ何かあるのか)
(それとも……)
「もしかしたら」という考えが、頭をよぎる。
(やめろ。オレなんかに、あるわけねえ)
猛男は、頭を振った。
あの日、パティスリー・ルミエールで、一之瀬昴に言われた言葉が、まだ耳の奥にこびりついている。『凛子さんに近づくな。君みたいな男に、彼女は釣り合わない』。あの甘いマスクのパティシエは、本気で、そう言った。
(分かってる。オレは、大和にふさわしくない)
(だから、大和は、すなのことが好きなんだ)
(オレは、二人を応援するんだ)
そう、決めたはずだった。
なのに、朝から、心臓が、うるさくて仕方ない。
「剛田、お前、今日、なんか顔色悪くねえか」
教室の入り口で、クラスメイトの一人が声をかけてきた。
「え? あ、いや、大丈夫だ」
猛男は、無理に笑顔を作った。
(顔色、悪いか。そうだよな。一晩中、眠れなかったし)
昨日の夜、ベッドの中で、何度も携帯の画面を見た。凛子からのメッセージを、何度も読み返した。『待ってるね』。その言葉の後ろに、何が隠れているのか。考えれば考えるほど、眠れなくなった。
(大和は、何を話すんだ)
(オレに、話って、なんだ)
授業中も、猛男の頭は、上の空だった。
黒板の文字が、目に入らない。教師の声が、遠くに聞こえる。窓の外の空は、ますます灰色を濃くしていく。
(雨、降るのかな)
(降らなきゃいいけど)
放課後。
猛男は、約束の時間に遅れそうになっていた。
(やべえ。ホームルームが長引いた)
(大和、もう待ってるかも)
猛男は、集英高校の正門を飛び出した。
ミナトサカ駅前の再開発地区を抜け、市役所の南側へ。ミナトサカ公園までは、駅から徒歩12分。走れば、7分。
(待たせたら、悪い)
(大和は、雨の中、待ってるかもしれない)
猛男の巨体が、アスファルトを蹴る。
ドスン、ドスン、と、足音が響く。
通行人が、驚いた顔で振り返る。
「うわ、なんだ、あのデカいの」
「ゴリラみたいな奴が走ってるぞ」
そんな声は、猛男の耳には入らない。
(大和。大和。大和)
頭の中は、それだけだった。
駅前の交差点を曲がり、市役所の前を通り過ぎる。
その時だった。
「剛田くん」
低く、よく通る声が、猛男を呼び止めた。
猛男は、足を止めた。
目の前に、一之瀬昴が立っていた。
明るい茶色の髪を無造作にセットして、首に赤いバンダナを巻いている。甘いマスク。琥珀色の瞳。パティスリー・ルミエールのオーナー兼シェフが、制服姿の猛男を見上げるようにして、腕を組んで、立ちはだかっていた。
「い、一之瀬、さん……」
猛男は、息を切らしながら、その場に立ち止まった。
「凛子さんが、君を待っている。公園でね」
一之瀬は、静かに言った。
「し、知ってる。だから、今、向かってる」
「いや、君が行く必要はない」
一之瀬の声が、冷たく響いた。
「え……?」
「凛子さんが待っているのは、君じゃない。君は、行かなくていいんだ」
一之瀬は、一歩、猛男に近づいた。
「君は、凛子さんの気持ちを、何も分かっていない。君が行っても、彼女を傷つけるだけだ」
(な、なにを、言ってるんだ)
猛男の頭の中が、真っ白になった。
(オレが行くと、大和を傷つける?)
(どういう意味だ)
「で、でも、大和が、オレに、来てほしいって……」
「それは、君に伝えなければならないことがあるからだ。だが、それは、君が聞くべき話じゃない。君には、関係のない話だ」
一之瀬の言葉は、容赦なかった。
「凛子さんは、優しすぎるんだ。君みたいな男に、はっきり言えない。だから、俺が代わりに言う。君は、今日、公園に行くべきじゃない」
猛男の胸の奥で、何かが、ぎゅっと締め付けられた。
(オレには、関係のない話)
(大和は、オレに、言えない話がある)
(そういうことか)
「……でも」
猛男は、うつむいた。
(でも、オレは、大和に、呼ばれた)
(大和が、待ってるって、言った)
(それだけで、オレは、行かなきゃいけない気がするんだ)
「大和が、待ってる」
猛男は、顔を上げた。
「なに?」
「大和が、オレを、待ってる。だから、オレは、行く」
猛男は、一之瀬の横を、すり抜けた。
「待て、剛田くん!」
一之瀬の声が、背中に追いかけてくる。
でも、猛男は、振り返らなかった。
走る。走る。走る。
(大和が、待ってる)
(それだけで、十分だ)
(オレは、大和に、会いに行く)
空から、ポツリ、ポツリ、と、雨粒が落ちてきた。
最初は、ほんの数滴。
でも、すぐに、ザァァァァ、と、激しい雨に変わった。
(雨、降ってきやがった)
(大和、大丈夫か)
(ずぶ濡れになってないか)
猛男は、スピードを上げた。
制服が、雨を吸って、重くなる。
髪から、水滴が、流れ落ちる。
視界が、雨で、ぼやける。
それでも、猛男は、走り続けた。
ミナトサカ公園の入り口に、ようやくたどり着いた。
面積2.4ヘクタール。噴水広場、遊具エリア、桜並木。冬のイルミネーションで有名な、この公園も、今は、雨に煙っている。
(大和は、どこだ)
猛男は、息を切らしながら、公園の中を走った。
噴水広場。
ベンチ。
桜並木。
その、噴水広場の、一番奥のベンチに。
大和凛子が、いた。
肩まで伸びた柔らかな栗色の髪。
ぱっちりとした大きな茶色の瞳。
小泉女学園の制服。
その小さな体が、雨に濡れて、震えていた。
「大和!」
猛男は、叫んだ。
凛子は、顔を上げた。
大きな瞳が、猛男を見つめる。
雨に濡れた前髪が、白い額に、張り付いている。
「たけおくん……」
凛子の声は、雨音に、かき消されそうだった。
猛男は、凛子の元に駆け寄った。
「なんで、傘もささずに、こんなとこで! 風邪ひくぞ!」
猛男は、自分の上着を脱ごうとした。
でも、上着も、もう、ずぶ濡れだった。
「ごめんね。うち、たけおくんに、どうしても、話したいことがあって」
凛子は、震える声で言った。
「話って、なんだ。こんな雨の中、待ってるなんて、おかしいだろ」
「だって、うち、今日、絶対に、たけおくんに、伝えたいの」
凛子は、両手を、胸の前で、ぎゅっと握った。
「たけおくん、聞いて。うちは——」
凛子が、言いかけた。
その時だった。
「凛子さん」
冷たい声が、雨の中に響いた。
猛男と凛子は、同時に、声のした方を見た。
一之瀬昴が、立っていた。
傘もささず、ずぶ濡れのまま。
赤いバンダナが、雨に濡れて、首に張り付いている。
「一之瀬、シェフ……」
凛子が、小さく呟いた。
「凛子さん、もういい加減にしろ。こいつは、お前の気持ちに気づかない、ニブイ男だ」
一之瀬は、猛男を、鋭く睨みつけた。
「違う! うちは、たけおくんが——」
凛子が、叫んだ。
でも、猛男の耳には、その後の言葉が、入ってこなかった。
(一之瀬の言う通りだ)
(オレは、大和の気持ちに、気づかない、ニブイ男だ)
(大和は、オレに、何を言おうとしてるんだ)
(分からない。分からないんだ)
猛男の頭の中は、雨音と、一之瀬の言葉と、凛子の叫び声で、ぐちゃぐちゃだった。
「大和、ごめんな」
猛男は、絞り出すように言った。
「え……?」
凛子の顔が、こわばった。
「オレ、すなを、呼んでくる」
猛男は、そう言って、背を向けた。
「たけおくん! 違うの! うちは、すなかわくんじゃなくて——」
凛子の声が、雨の中を、追いかけてくる。
でも、猛男は、振り返らなかった。
走った。
雨の中を、全力で、走った。
(大和は、すなが好きだ)
(大和は、オレに、すなのことを、話したかったんだ)
(オレが、聞くべき話じゃない)
(オレは、二人を、応援するんだ)
(それで、いいんだ)
雨が、猛男の顔を、叩いた。
目に入る雨が、涙と混ざって、流れ落ちた。
(くそっ)
(なんで、こんなに、苦しいんだ)
猛男は、公園を飛び出した。
その後ろ姿を、凛子は、ただ、見つめていた。
「たけおくん……」
凛子の膝から、力が抜けた。
その場に、崩れ落ちる。
濡れたアスファルトに、手をつく。
雨が、容赦なく、凛子の小さな体を、打ちつける。
「違うの……うちは……たけおくんが……好きなの……」
凛子の呟きは、雨音に、消された。
「凛子さん」
一之瀬が、凛子の隣に、しゃがみ込んだ。
「立てますか」
一之瀬は、凛子の腕を、支えた。
凛子は、一之瀬に支えられながら、なんとか、立ち上がった。
「……ごめんなさい。シェフ。うち、やっぱり、たけおくんに、伝えたかった」
凛子の目から、涙が、雨と一緒に、流れ落ちた。
一之瀬は、何も言わなかった。
ただ、濡れた凛子の肩を、そっと、抱き寄せた。
雨は、まだ、降り続いていた。
——
猛男は、雨の中を、走り続けた。
ミナトサカ公園から、北部の住宅街へ。
剛田家と、隣の砂川家。
猛男は、砂川家のインターホンを、乱暴に押した。
「すな! すな!」
何度も、何度も、押した。
玄関のドアが、開いた。
砂川誠が、立っていた。
さらさらの黒髪。切れ長の涼しげな黒い瞳。整った顔立ち。いつもはクールなその顔が、ずぶ濡れの猛男を見て、わずかに驚いた。
「猛男、どうした。ずぶ濡れじゃないか」
「すな、大和が、お前を、呼んでる」
猛男は、息を切らしながら、言った。
「大和が? 俺を?」
誠の眉が、ぴくりと動いた。
「公園で、待ってる。大和が、お前に、話があるって。早く、行ってやれ」
猛男は、誠の目を、まっすぐに見て、言った。
誠は、一瞬、黙った。
「……分かった」
誠は、それだけ言って、玄関から、雨の中へ、出て行った。
傘もささずに。
猛男は、誠の背中を、見送った。
雨の中を、公園へ向かって、走っていく、親友の背中。
(すなは、かっこいい)
(大和が、すなを好きになるのは、当たり前だ)
(オレなんかが、大和に、釣り合うわけがない)
猛男の胸の奥で、何かが、砕ける音がした。
パキン、と。
ガラスが割れるような、小さな、でも、確かな音。
(やっぱりな)
猛男は、小さく呟いた。
雨が、猛男の巨体を、容赦なく、叩いた。
猛男は、自分の家の前で、立ち尽くした。
(大和は、すなが好きだ)
(オレは、二人を、応援する)
(それで、いい)
(それで、いいんだ)
心の中で、何度も、繰り返した。
でも、涙は、止まらなかった。
雨と涙が、混ざって、猛男の頬を、伝った。
(好きだ)
心の奥底から、叫びが、湧き上がってくる。
(大和のことが、好きだ)
(好きなんだ)
(でも、オレには、その資格がない)
猛男は、ぎゅっと、拳を握りしめた。
爪が、掌に、食い込む。
痛みが、心の痛みを、少しだけ、紛らわせた。
「……大和」
猛男の呟きは、雨音に、かき消された。
——
翌日。
剛田猛男は、学校を休んだ。
朝、目が覚めても、体が、動かなかった。
いや、動かす気になれなかった。
ベッドの中で、天井を見つめる。
雨は、もう、上がっていた。
カーテンの隙間から、朝日が、差し込んでいる。
でも、猛男の心は、昨日の雨に濡れたままだった。
(学校、行きたくない)
(大和に、会いたくない)
(すなにも、会いたくない)
(誰にも、会いたくない)
猛男は、携帯電話を手に取った。
電源を、切った。
画面が、真っ黒になる。
(これで、誰からも、連絡が来ない)
(オレは、一人だ)
猛男は、布団を、頭からかぶった。
「猛男、朝ごはん、食べないの?」
階下から、母の声がした。
「……大丈夫。いらない」
猛男は、布団の中で、答えた。
「あら、具合でも悪いの? 学校は?」
「……休む」
猛男は、短く言った。
しばらく、沈黙が続いた。
「……そう。ゆっくり休みなさい」
母は、それ以上、何も言わなかった。
猛男は、布団から、のろのろと起き上がった。
机の上に、飾られたままの、クッキーの袋。
凛子が、手作りしてくれた、クッキー。
あの日から、まだ、全部は食べられないまま、残っている。
袋の隣には、手書きのメモ。
『たけおくんへ。いつもありがとう。よかったら食べてね。大和凛子』
丸っこい、可愛らしい字。
猛男は、そのメモを、手に取った。
何度も、何度も、読み返した。
「……オレは、大和に、ふさわしくない」
猛男は、呟いた。
心の中では、まだ、叫び続けている。
(好きだ)
(大和のことが、好きだ)
(好きで、好きで、仕方ない)
でも、その想いを、伝える資格は、自分にはない。
(オレみたいな男が、大和に、好きだなんて、言えるわけがない)
(大和は、すなが好きなんだ)
(オレは、二人の邪魔をしちゃいけない)
猛男は、メモを、机の上に、そっと置いた。
窓の外では、小鳥が、鳴いていた。
のどかな、朝の光景。
でも、猛男の部屋の中だけは、昨日の雨が、まだ、降り続いているようだった。
——
同じ頃。
大和凛子は、学校を休まなかった。
小泉女学園の教室で、凛子は、窓際の席に座っていた。
授業中も、ずっと、うつむいていた。
(昨日、たけおくん、走って行っちゃった)
(うちの話、最後まで、聞いてくれなかった)
(うち、ちゃんと、伝えられなかった)
凛子の目は、泣き腫らして、赤くなっていた。
放課後。
凛子は、パティスリー・ルミエールに向かった。
バイトの日だった。
店の裏口から入ると、厨房で、一之瀬昴が、一人で、仕込みをしていた。
「シェフ、おはようございます」
凛子は、声をかけた。
一之瀬は、振り返った。
「凛子さん。今日は、休んでもよかったんだよ」
一之瀬の声は、いつもより、柔らかかった。
「いえ、うち、休みたくなくて。昨日は、本当に、ありがとうございました」
凛子は、深々と、頭を下げた。
一之瀬は、何も言わずに、近づいてきた。
そして、自分の首に巻いていたタオルを、凛子の頭に、そっと、乗せた。
「シェフ……?」
凛子が、顔を上げる。
「泣き腫らした顔で、接客はできないだろう。少し、冷やせ」
一之瀬は、それだけ言って、厨房の奥へ、戻っていった。
凛子は、頭に乗せられたタオルを、そっと、押さえた。
まだ、ほんのりと、温かかった。
(シェフは、優しい)
(でも、うちの気持ちは、変わらない)
(うちは、たけおくんが、好き)
凛子は、唇を、ぎゅっと、噛みしめた。
——
ミナトサカ公園。
雨上がりの午後。
砂川誠は、噴水広場のベンチに、一人で、座っていた。
昨日、猛男に言われて、公園に来た。
でも、そこに、凛子の姿は、なかった。
代わりに、一之瀬昴が、いた。
一之瀬から、すべてを聞いた。
凛子が、猛男に、告白しようとしていたこと。
猛男が、それを、勘違いして、誠を呼びに行ったこと。
凛子が、その場に、崩れ落ちたこと。
(猛男、お前は、なんてことを)
誠は、空を見上げた。
雨上がりの空は、まだ、灰色だった。
(大和は、お前が好きなんだ)
(お前は、大和が、俺を好きだと、勘違いしてる)
(俺が、お前に、真実を伝えれば、すべて、解決する)
誠は、携帯電話を取り出した。
猛男の番号を、表示させる。
でも、発信ボタンを、押せない。
(いや、俺が伝えるべきじゃない)
(大和の気持ちは、大和自身が、伝えるべきだ)
(でも、このままじゃ、二人は、すれ違ったままだ)
誠は、深く、息を吐いた。
「……面倒くせえな」
誠は、呟いた。
でも、その顔は、どこか、決意に満ちていた。
(俺に、できることは、何だ)
(二人を、幸せにするために、俺は、何をすべきだ)
誠は、ベンチから、立ち上がった。
雨上がりの風が、誠の黒髪を、揺らした。
遠くで、噴水の水音が、静かに、響いていた。
——
剛田猛男の部屋。
猛男は、まだ、ベッドに、横たわっていた。
携帯の電源は、切ったまま。
部屋のカーテンは、閉め切ったまま。
薄暗い部屋の中で、猛男は、天井を、見つめていた。
(大和は、今頃、すなと、話してるのかな)
(すなは、大和の気持ちに、気づいてるのかな)
(二人は、うまくいくのかな)
(オレは、応援するって、決めたのに)
(なんで、こんなに、苦しいんだ)
猛男は、自分の胸を、ぎゅっと、掴んだ。
心臓が、痛い。
好きだ。
心の中で、叫ぶ。
大和のことが、好きだ。
でも、その声は、誰にも、届かない。
「……大和」
猛男の呟きが、薄暗い部屋に、溶けていった。
机の上では、凛子のクッキーの袋と、手書きのメモが、静かに、並んでいた。
その隣で、電源の切れた携帯電話が、無機質に、沈黙していた。Noveliaとは?
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