ビートまりおとみんなのゆかいな日常
ここはいつも元気があふれる場所。歌って踊るVTuber・ビートまりおと、その仲間たちが集う陽気な事務所。
ビートまりおは同人音楽サークル「Cool&Create」のボス。東方アレンジで有名な歌い手だ。Live2Dの体は、愛する奥さんをモデルに特注で作ってもらった。だから「嫁が好き」が口ぐせで、朝のあいさつは「こんよめ」、夜のあいさつは「おつよめ」。ボイスチェンジャーは使わず、地声で通す。気さくな人柄で、みんなから親しみを込めて「まりおさん」と呼ばれている。
ある朝、まりおのもとに一通の手紙が届く。それは「VTuber事務所対抗・親睦運動会」の招待状だった。競技は玉入れ、パン食い競走、借り物競走。バトルではなく、みんなで楽しく盛り上がるお祭り的なイベントだ。だが、ひとつだけ大きな問題があった。運動会の当日、まりおには妻との大切な約束があったのだ。
さあ、どうするまりお。仲間たちは大騒ぎ。副代表のあまねは「予定をずらせばいいのでは?」と提案し、マネージャーのつむぎは「奥さんを連れてくればいいじゃないですか」とニヤリ。後輩のそよは「あの日は雨が降ると思います」と心配する。そして、まりお
ビートまりおとみんなのゆかいな日常 - 雨のち、嫁!~借り物競争は大切な人~
朝のリバーサイドひろばは、どしゃぶりの雨だった。
仮設テントを叩く雨音は、まるで太鼓みたいに響いている。芝生広場はあっという間に水浸し。足元はぐずぐずの泥んこだ。
「……うそでしょ」
まりおは、黒の短髪から雫を垂らしながら、空を見上げた。どんよりとした灰色の雲が、容赦なく雨を落とし続けている。
「そよさんの予報、当たっちゃいましたね」
あまねが、紫がかったロングヘアの先から水を滴らせて、スケジュール帳を濡れないように胸に抱えていた。銀色の切れ長の瞳が、じっと空を見ている。
「私、あんまり当たってほしくなかったんですけど」
そよは、水色のふわふわしたセミロングをしょんぼりと垂らして、小さな声でつぶやいた。丸いグレーの瞳が、少しだけ潤んでいる。
「そよちゃんのせいじゃないよ」
まりおは、そよの頭をぽんぽんと叩いた。
そこへ、ブイフェスタ実行委員会のスタッフが、雨合羽を着て走ってきた。
「クールアンドクリエイトの皆さん! 競技は雨天決行ですが、屋外での玉入れは中止です。借り物競争は、徒歩五分のところにある市立体育館に移動して行います!」
「体育館!?」
まりおの声が、雨音に負けないくらい大きくなった。
「はい。玉入れは中止、借り物競争のみ実施。移動は各自でお願いします」
スタッフは、びしょ濡れの名簿を抱えて、次のテントへ走っていった。
「玉入れ、中止かあ」
そよが、小さくため息をついた。
「私、玉入れ楽しみにしてたのに」
「そよちゃん……」
まりおは、肩を落とすそよを見て、ぐっと拳を握った。
「おい、みんな!」
まりおは、あまねとつむぎとそよを、ぐるりと見回した。
「屋根があるなら、大丈夫だ!」
「……え?」
「体育館に移動するんだろ? 雨は関係ない。俺たちは、借り物競争で全力を出すだけだ!」
まりおは、びしょ濡れの顔で、にっこりと笑った。八重歯が、雨の合間の光にきらりと光る。
「まりおさんの言う通りね」
翠色のショートボブを濡らしたつむぎが、金色のたれ目を細めて、口元に手をやった。
「雨だろうがなんだろうが、やることは一つ。借り物競争で、まりおさんが奥さんと走る。それだけよ」
「つむぎさん……」
まりおは、つむぎの言葉に、胸の奥がじわりと温かくなるのを感じた。
「まりおさん。奥さんは、もう会場に来てますよ」
あまねが、スケジュール帳を指でトントンと叩きながら言った。
「えっ、もう!?」
「ええ。声だけの応援のはずが、『やっぱり会場で見ていたい』って、朝から来てくれてます。体育館の客席の、一番後ろの隅っこですけど」
まりおは、体育館の方向を、じっと見つめた。
(奥さんが……来てくれてる)
まりおの胸の奥で、何かがきゅっと締まった。
「よし、行こう!」
雨の中、四人は市立体育館へと歩き出した。
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市立体育館は、思ったより広かった。
バスケットコート一面分のフロアに、パイプ椅子が並べられている。すでに他の事務所のVTuberたちが、あちこちで濡れた髪を拭いたり、着替えたりしていた。
「師匠ーっ!」
体育館の入口で、小さな影がまりおに飛びついてきた。グレイテスト商事の最年少VTuber、チビくんだ。
「チビ! お前も来てたのか」
「はい! 師匠の走る姿、絶対見たくて!」
チビくんは、まりおの腰にしがみついて、目をキラキラさせている。
「チビくん、離れなさいよ。まりおさんが歩けないでしょ」
そこへ、元気すぎる声が響いた。グレイテスト商事のパワーだ。ショートカットの髪をタオルで拭きながら、仁王立ちしている。
「パワーさん! スローさんも!」
「……おはよう」
スローは、のんびりした口調で、ゆっくりと手を振った。まだ眠そうな目をこすっている。
「まりおさん。今日は負けませんからね」
パワーは、びしっとまりおを指さした。
「借り物競争、私が一番にゴールしてみせます!」
「お、おう。頑張れよ」
まりおは、少し押され気味にうなずいた。
「パワーさん。まりおさんには、大事な人がいるんです」
つむぎが、にんまりと笑いながら、パワーの横に立った。
「大事な人?」
「ええ。だから、今日のまりおさんは、誰にも負けないわよ」
つむぎの言葉に、パワーはきょとんとした顔をした。
「……まあいいわ。とにかく、私は全力で走るだけよ」
パワーは、そう言って、準備運動を始めた。
まりおは、そっと体育館の客席の方を見た。
パイプ椅子が並ぶ、その一番後ろの隅っこ。
小さく座っている人影があった。
(奥さん……)
まりおの心臓が、とくんと跳ねた。
奥さんは、まりおの視線に気づくと、そっと手を振った。小さく、恥ずかしそうに。
まりおも、そっと手を振り返した。
「まりおさん、そろそろ競技が始まりますよ」
あまねが、まりおの袖を引っ張った。
「あ、ああ。わかった」
まりおは、奥さんに背を向けて、競技エリアへと歩き出した。
──────────────
借り物競争は、体育館のフロアを端から端まで使って行われた。
スタート地点に、各事務所の代表が並ぶ。まりおは、その中にいた。
「借り物競争のルールを説明します!」
実況の声が、体育館に響き渡る。
「コースの途中に、お題が書かれた箱があります。選手は、箱から一枚カードを引いて、そのお題に合う人や物を連れて、ゴールしてください! 一番早くゴールした人の勝ちです!」
「お題が『大切な人』だったら、どうするんですか?」
パワーが、実況に手を挙げて質問した。
「その場合は、その人を連れてきてください! ただし、会場にいる人に限ります!」
まりおは、その言葉を聞いて、心臓が大きく鳴るのを感じた。
(大切な人……会場にいる人……)
まりおは、無意識に、客席の隅っこを見た。
奥さんは、そこにいた。
「それでは、位置について!」
まりおは、前を向いた。
「よーい……」
まりおは、ぐっと拳を握った。
「スタート!」
まりおは、勢いよく走り出した。
体育館のフロアを、他の選手と並んで走る。パワーは、さすがの速さで先頭を走っている。
(負けない……奥さんのために)
まりおは、お題の箱の前で止まった。
手を突っ込んで、一枚のカードを引く。
カードをめくる。
『大切な人』
まりおの目が、大きく見開かれた。
(大切な人……)
まりおは、一瞬で理解した。
(奥さんだ)
まりおは、振り返った。
観客席の、一番後ろの隅っこ。
奥さんが、そこにいた。
まりおは、迷わずに走り出した。
「まりおさん、どこ行くんですか!?」
パワーが、後ろから叫んだ。
まりおは、振り返らずに、客席へと向かって走った。
パイプ椅子の列を、ひょいひょいと飛び越える。
「すみません、通ります!」
まりおは、観客に声をかけながら、奥さんのもとへと駆け寄った。
奥さんは、まりおが自分に向かって走ってくるのを見て、目をまんまるにした。
まりおは、奥さんの前に、ぴたりと止まった。
息を切らして、手を差し伸べる。
「奥さん。一緒に、走ってくれるか?」
奥さんは、一瞬、ためらった。
人前に出るのが苦手な奥さん。観客席の隅っこで、小さくなっている。
でも、まりおの手を見て、その目を見て、ゆっくりと立ち上がった。
「……うん」
奥さんは、まりおの手を、そっと握り返した。
「行くぞ!」
まりおは、奥さんの手を引いて、走り出した。
「えっ、ちょっと、まりおさん、速い!」
「ごめん! でも、急がないと負けちゃう!」
まりおは、笑いながら走った。
奥さんも、まりおの手を握り返して、一緒に走った。
観客席から、大歓声が上がった。
「おおーっ! まりおさん、奥さんを連れてきた!」
チビくんが、飛び上がって叫んだ。
「師匠、かっこいいーっ!」
「ちょっと、ずるいわよ、まりおさん!」
パワーが、悔しそうに叫んだ。
まりおと奥さんは、そのままゴールテープを切った。
「ゴール! クールアンドクリエイト、ビートまりお選手、一位です!」
まりおは、ゴールした勢いで、そのまま奥さんを抱きしめそうになったが、ぐっとこらえて、奥さんの顔を見た。
「奥さん、ありがとう」
まりおは、奥さんの手を、ぎゅっと握った。
奥さんは、顔を真っ赤にして、うつむいていた。
「……私、何もしてないよ」
「そんなことない。奥さんが一緒に走ってくれたから、勝てたんだ」
まりおは、心からそう思った。
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閉会式は、体育館のステージで行われた。
ブイフェスタ実行委員会の代表が、マイクを持って立っている。
「本日の優勝は、クールアンドクリエイトです!」
大きな拍手が、体育館に響き渡った。
「優勝賞品は、こちら! 巨大トロフィー型抱き枕です!」
ステージの上で、スタッフが、信じられないくらい大きなトロフィー型の抱き枕を掲げた。
その大きさは、まりおの身長ほどもある。
まりおは、ステージに上がって、その抱き枕を受け取った。
ずっしりとした重さと、ふわふわの感触。
まりおは、抱き枕を抱えたまま、客席を見た。
奥さんが、一番後ろの隅っこで、小さく拍手している。
まりおは、マイクを握った。
「これは、奥さんにプレゼントする!」
まりおの声が、体育館に響き渡った。
「俺の嫁、大好き!」
会場が、一瞬静まり返った。
そして、次の瞬間、大爆笑と大歓声が巻き起こった。
「師匠、最高です!」
チビくんが、涙目で叫んだ。
「まりおさん、ぶれないわね」
つむぎが、口元に手をやって、笑った。
「まりおさんらしいです」
あまねも、小さく笑った。
まりおは、客席の奥さんに、抱き枕を掲げて見せた。
奥さんは、真っ赤な顔で、両手を振って応えた。
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運動会が終わり、体育館の前に、全員が集まった。
グレイテスト商事の三人も、クールアンドクリエイトの四人も、一緒に記念写真を撮ることになった。
「みんな、集まって!」
つむぎが、スマホをスタッフに渡して、みんなを呼び集めた。
まりおは、奥さんの手を引いて、みんなの輪の中に入った。
「師匠、もっと真ん中に来てください!」
チビくんが、まりおを引っ張った。
「チビくん、引っ張らないでよ」
パワーが、チビくんの頭をこつんと叩いた。
「いてっ」
「はい、みんな笑って〜」
つむぎの合図で、全員がカメラを見た。
まりおは、奥さんを隣に、にっこりと笑った。
奥さんも、少しだけ笑ってくれた。
パチリ。
シャッター音が、体育館の前に響いた。
「おつよめ!」
まりおの掛け声に、みんなが笑いながら続いた。
「おつよめ〜」
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帰り道、まりおは奥さんと並んで歩いていた。
雨は、いつの間にか、すっかり上がっていた。
空には、雲の切れ間から、夕日がのぞいている。
まりおの腕には、巨大なトロフィー型抱き枕。
「重くない?」
奥さんが、まりおの腕を見て、心配そうに言った。
「全然。奥さんへのプレゼントだからな」
まりおは、にっこりと笑った。
「……ふふ」
奥さんが、小さく笑った。
「まりおさん、今日はありがとう」
「え? 俺の方こそ、ありがとうだよ」
「だって、まりおさんが私を選んでくれたから。あのお題、『大切な人』だったんでしょ?」
奥さんは、まりおの顔を、そっと見上げた。
「私で、よかったの?」
まりおは、立ち止まった。
奥さんの前に、まっすぐ立って、その目を見た。
「奥さん以外に、誰がいるんだよ」
まりおの声は、真剣だった。
「俺の大切な人は、奥さんだけだ。これからも、ずっと」
奥さんは、その言葉を聞いて、目を潤ませた。
「……ばか」
奥さんは、まりおの腕に、そっと寄りかかった。
夕日が、二人の影を、長く伸ばしていた。
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その夜。
クールアンドクリエイトの事務所に、全員が集まっていた。
「今日は、本当にお疲れ様でした」
あまねが、スケジュール帳を閉じて、みんなを見回した。
「まりおさん、奥さんと一緒に走れて、よかったですね」
そよが、にこにこと笑いながら言った。
「ああ。本当によかった」
まりおは、ソファに座って、抱き枕を抱えながら、満足そうにうなずいた。
「でも、まりおさん。運動会の種目、結局一つ減っちゃいましたね」
そよの言葉に、まりおは少しだけ、しょんぼりした。
「まあ、玉入れは中止になったけど……借り物競争ができたから、いいんだ」
まりおは、抱き枕をぎゅっと抱きしめた。
「それに、第2章があるかもしれないしな」
まりおが、そう言った時だった。
「さて、あらすじの続きを語ろうか」
事務所のスピーカーから、あの渋い声が響いた。
「うわっ、謎の声さん、いつの間に!」
そよが、びっくりして跳ねた。
「私はいつでも、君たちのそばにいるよ」
謎の声は、飄々とした口調で言った。
「第1章、完。……だが、物語はまだ終わらない。第2章、始まるかも?」
事務所が、しんと静まり返った。
「第2章って、何があるんですか?」
まりおが、スピーカーに向かって尋ねた。
「それは、私にも分からない。ただ、君たちの日常は、まだまだ続くということだ」
謎の声は、そう言って、静かになった。
まりおは、窓の外を見た。
雨上がりの夜空に、星がきらめいている。
「……そうだな。俺たちの日常は、まだまだ続くんだ」
まりおは、抱き枕を抱え直して、みんなを見た。
「これからも、よろしくな」
「はい!」
「もちろんです」
「ええ、これからもね」
三人の返事を聞いて、まりおは、にっこりと笑った。
窓の外では、星が、静かに輝いていた。
明日も、きっと、にぎやかな一日になるのだろう。Noveliaとは?
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