ストライク・ザ・ブラッド 〜第四真祖は恋愛ができない〜
世界最強の吸血鬼なのに、鼻血は止められない。
絃神島に暮らす高校生・暁古城は、三か月前からちょっとした悩みを抱えていた。夜眠れない、昼は眠い、そしてなぜかちょっとした刺激で鼻血が出る。己の体質に振り回されながら、今日も遅刻寸前で学校へ走る。追い打ちをかけるのは、フリルドレス姿の担任・那月ちゃん(二十六歳自称)の容赦ない補習。親友の基樹には「お前、ほんとに気づかないんだな」と謎の呆れ顔をされ、クラスメイトの浅葱はなぜか顔を赤くして視線を逸らす。
そんなある日、古城の隣の空き部屋に、新しい住人が引っ越してきた。黒髪ボブの、彩海学園中等部の制服を着た女の子。廊下でばったり顔を合わせた瞬間、古城の鼻から生温かいものが滴り落ちる。慌てて弁明するも、「いやらしい人!」と平手打ちが飛んできて——。
世界最強の吸血鬼が、恋も日常もままならない。すれ違いだらけのラブコメが、ここに開幕。
ストライク・ザ・ブラッド 〜第四真祖は恋愛ができない〜 - 宮古島・恋の大波乱!~男嫌いの舞威媛と決死の再告白~
バスが止まった。
「着いたー!」
誰かの声で、車内が一気にざわついた。
暁古城は窓の外を見た。青い。とにかく青い。空と海の境目が分からないくらい、世界が青で埋まっている。
「おお……マジで海だ」
古城は、鼻の頭をかいた。
修学旅行。宮古島。絃神島から南へ、飛行機で二時間。東京から三百三十キロの人工島とは違う、本物の島の空気がそこにあった。
「暁、鼻の下伸びてるぞ」
隣の席から、親友の矢瀬がにやにやと笑う。
「伸びてねえよ」
「伸びてるって。藍羽さんが見たら怒るぞ」
「なんで浅葱が怒るんだよ」
矢瀬はため息をついた。
「……お前、ほんとに分かってないな」
バスの後方。
藍羽浅葱は、小さな手鏡をのぞき込んでいた。金髪のロングヘアを整えて、ターコイズブルーのピアスが光る。
今日こそ、絶対に。
浅葱は、鏡の中の自分に言い聞かせた。
古城に、ちゃんと伝える。
教室での告白は、見事に空回りした。クラスのみんなに冷やかされて、古城には「友達」で片づけられて。
でも、諦めるわけにはいかない。
修学旅行は、チャンスだ。
夕日がきれいなビーチで、もう一度。
浅葱は、拳を握りしめた。
そして、バスの最前列。
姫柊雪菜は、膝の上に置いたノートを見つめていた。黒髪のボブヘアーが、エアコンの風でふわりと揺れる。
私は、監視役。
雪菜は、自分に言い聞かせた。
先輩の監視。それが任務。
それだけ。
でも、胸の奥が、きゅっと痛む。
浅葱が古城に告白した、あの放課後から。この痛みは、ずっと消えない。
なんで、私が。
先輩と藍羽先輩が、どうなっても。
私には、関係ないのに。
雪菜は、ノートの端を、ぎゅっと握った。
バスが、ホテルへ向けて走り出す。
車窓から見える海が、きらきらと光っていた。
――――
ホテル到着。
「すげえ……」
古城は、ロビーで天井を見上げた。
宮古島のリゾートホテル。白い壁に、青い海を映す大きな窓。空気が、潮の匂いで満ちている。
「おい暁、部屋の鍵もらったか?」
「あ、まだ」
「ほら、行くぞ。男子は三階だ」
「ちょっと待てよ、海見てからでいいだろ」
「後でいくらでも見られるだろ。荷物置くのが先だ」
矢瀬に腕を引っ張られて、古城はエレベーターへ向かった。
その背中を、雪菜がじっと見つめている。
「雪菜、何してんの? 行くよ」
「……はい」
雪菜は、小さく返事をして、女子のグループに続いた。
――――
自由時間。
古城は、水着に着替えて、一目散にビーチへ走った。
「海だああああ!!」
白い砂浜。エメラルドグリーンの海。波の音。
古城は、浮き輪を片手に、波打ち際へ突っ込んだ。
ざばーん。
冷たい。でも、気持ちいい。
「最高だな!」
古城は、浮き輪に体を預けて、ぷかぷかと浮かんだ。
空が、青い。目を閉じる。波が体を持ち上げて、また下ろす。耳元で、ざぶざぶと水が鳴る。
平和だ……。
第四真祖とか、監視役とか、告白とか。
全部忘れて、泳ごう。
古城は、目を閉じたまま、潮に身を任せた。
――その時。
「ちょっと、あんた」
鋭い声が、古城の耳に突き刺さった。
「……え?」
古城が目を開けると、砂浜に立つ少女がいた。
茶色い髪を、高い位置でポニーテールにまとめている。長身で、手足がすらりと長い。赤いラインの入った黒いニーソックス。太ももには、何かを巻きつけている。
そして、その目は、まっすぐに古城をにらんでいた。
「あんたが、雪菜に近づいてる男ね」
「は? 雪菜?」
古城は、浮き輪の上で首をかしげた。
「とぼけないで。雪菜に指一本触れたら、その首をへし折るから」
「……へし折る?」
古城は、ぽかんと口を開けた。
なんだ、この子。
急に現れて、いきなり殺すとか言い出すし。
「お前、誰だよ」
「煌坂紗矢華。雪菜の元ルームメイトよ」
紗矢華は、腕を組んで、古城を見下ろした。
「獅子王機関の舞威媛として、雪菜を守るのが私の役目。あんたみたいな、ふしだらな男から」
「ふしだらって……」
古城は、浮き輪から降りて、砂浜に立った。
「俺、別に雪菜に何もしてないんだけど」
「嘘よ。雪菜が、あんたの隣の部屋に住んでるんでしょ。毎日、顔を合わせてるんでしょ。それだけで十分、雪菜に害よ」
「害って……」
古城は、ため息をついた。
話が通じない。
つーか、雪菜の元ルームメイトって。
あの雪菜に、こんな過激な友達がいたのか。
「あのさ、俺はただ、海で泳ぎたいだけなんだよ。雪菜に何かするとか、そういうのは一切ないから」
「信じられないわね。男の言葉なんて、全部嘘に決まってる」
「偏見ひどくない?」
「男は、みんな、そういう生き物でしょ。自分勝手で、乱暴で、すぐ嘘をつく」
紗矢華の声が、少しだけ震えた。
古城は、その変化に気づいた。
この子、なんか。
男に、嫌な思い出があるのか?
「まあ、そういう男もいるかもな。でも、俺は違うから」
「そういうことを言う男が、一番信用できないのよ!」
紗矢華が、古城に詰め寄る。
――その時。
「紗矢華さん!」
雪菜が、砂浜を走ってきた。
「雪菜! 会いたかったわ!」
紗矢華の表情が、ぱっと明るくなった。
雪菜に抱きつく。
「元気だった? ちゃんと食べてる? 痩せてない?」
「さ、紗矢華さん、苦しいです……」
雪菜は、もがきながら、紗矢華の腕から抜け出した。
「紗矢華さん、どうしてここに?」
「任務の合間に、雪菜に会いに来たのよ。宮古島に来てるって聞いて」
「任務の合間って……」
「細かいことは気にしない。雪菜に会えたから、それでいいの」
紗矢華は、雪菜の手を握った。
その隣で、古城は、二人のやり取りをぼんやりと見ていた。
「なあ、雪菜。この人、本当に知り合いなのか?」
「はい。獅子王機関の、元ルームメイトです」
「あんた、雪菜に気安く話しかけないで」
紗矢華が、雪菜を背中にかばうようにして、古城をにらんだ。
「紗矢華さん、この人は監視対象で、その……」
雪菜が、言葉を詰まらせた。
監視対象。
そう言おうとして、でも、なぜか、その言葉が、うまく出てこない。
監視対象。先輩は、私にとって。ただの、監視対象で。
雪菜は、自分の胸に手を当てた。
心臓が、どきどきと脈打っている。
「その……とにかく、先輩は、悪い人じゃないんです」
雪菜は、そう言って、うつむいた。
「雪菜が、男をかばうなんて……」
紗矢華は、驚いた顔で、雪菜と古城を交互に見た。
「やっぱり、あんた、雪菜に何かしたのね!」
「してないって!」
「嘘よ! 雪菜が、こんなに変になるなんて、絶対に何かされたに決まってる!」
紗矢華が、古城に掴みかかろうとした。
「紗矢華さん、落ち着いてください!」
雪菜が、紗矢華の腕を押さえた。
「先輩は、本当に、何もしてないんです。ただ、私の隣に住んでるだけで」
「隣に住んでるだけで、十分すぎるわよ!」
「なんでだよ!」
古城が、思わず突っ込んだ。
「雪菜は、純粋で、かわいくて、男の汚い欲望なんて知らないんだから。あんたみたいな男が近くにいるだけで、空気が汚れるのよ」
「汚い欲望って、俺、何もしてないだろ!」
「してないだけで、いつでもできる状況にいるのが問題なの!」
「意味が分からん!」
古城は、頭を抱えた。
雪菜は、そんな二人のやり取りを見て、小さくため息をついた。
紗矢華さん、相変わらず……。
でも、なんだか、懐かしい。
雪菜は、少しだけ、口元をほころばせた。
――――
夕方。
古城は、ビーチで浮き輪と格闘していた。
「波が、思ったより強いな!」
波に押されて、浮き輪ごと砂浜に打ち上げられる。
「もう一回!」
古城は、浮き輪を抱えて、また海へ走った。
その様子を、遠くから、浅葱が見ていた。
古城、楽しそう。
あたしも、混ざりたい。
でも、今は、その前に。
浅葱は、深呼吸した。
夕日が、海をオレンジ色に染め始めている。
夕暮れのビーチで、告白。
今日こそ、絶対に。
浅葱は、古城の元へ歩き出した。
「古城」
「ん? 浅葱?」
古城は、砂まみれの顔で振り返った。
「ちょっと、話があるんだけど」
「話? なんだよ、改まって」
「……あっちで、話したいの」
浅葱は、少し離れた岩場を指さした。
「おう、別にいいけど」
古城は、浮き輪を砂浜に置いて、浅葱の後を追った。
岩場に着く。
波の音が、近い。
夕日が、海面に、金色の道を作っていた。
浅葱は、古城の方を向いた。
ターコイズブルーの瞳が、夕日に照らされて、きらきらと光る。
「あのね、古城」
浅葱の声が、少し震えていた。
「あたし、この前、教室で言ったこと、覚えてる?」
「この前? ああ、好きだってやつか? 俺も浅葱のこと好きだって言っただろ?」
「そうじゃなくて!」
浅葱が、古城の胸を、ぽんと叩いた。
「あたしは、古城のことが、男の子として好きなの。友達とか、そういうのじゃなくて」
「男の子として?」
古城は、首をかしげた。
「だから、その……付き合ってほしいの。彼女に、してほしいの」
浅葱の頬が、夕日よりも赤く染まった。
「彼女?」
古城は、ぽかんと口を開けた。
頭の中が、真っ白になる。
彼女? 浅葱が? 俺の?
付き合う? 恋人?
言葉の意味を、頭の中で何度も転がす。
そして、出てきた答えは。
「おお、そういうことか! 浅葱は、俺と友達じゃなくて、もっと仲良くなりたいってことだな!」
古城は、笑顔で言った。
「……は?」
浅葱の顔から、表情が消えた。
「いや、だって、浅葱と一緒にいると楽しいし、俺ももっと仲良くなりたいって思ってたんだよ。友達って最高だよな!」
「友達じゃないって言ってるでしょ!」
「え? でも、仲良くなりたいってことは、友達だろ?」
「違う! あたしは、古城の彼女になりたいの! 恋人になりたいの! キスとか、手を繋いだりとか、そういう関係になりたいの!」
浅葱が、叫んだ。
その声が、夕暮れのビーチに響く。
「キス? 手を繋ぐ?」
古城は、まばたきした。
「なんだよ、浅葱。お前、意外とロマンチストなんだな。でも、友達同士でキスはしないだろ。まあ、手を繋ぐくらいなら、してもいいけど」
「そういうことじゃないの!」
浅葱の目に、涙が浮かんだ。
「あたしは、古城のことが、好きなの。恋愛の意味で、好きなの。なんで、分かってくれないの!」
浅葱は、古城の胸を、両手で何度も叩いた。
「お、おい、浅葱、落ち着けって!」
「落ち着けるわけないでしょ! あたし、こんなに勇気出して、ちゃんと伝えたのに!」
浅葱の涙が、砂浜に落ちる。
「……もういい。バカ」
浅葱は、そう言って、走り去った。
「浅葱!」
古城が、手を伸ばす。
でも、浅葱は、振り返らなかった。
金髪のロングヘアが、夕日に揺れて、遠ざかっていく。
古城は、その場に立ち尽くした。
なんだったんだ、今の。
浅葱、泣いてたよな。
なんで、あんなに怒ってるんだ。
古城は、頭をかいた。
――その一部始終を、遠くから、雪菜が見ていた。
岩場の陰。
雪菜は、砂浜に座り込んで、膝を抱えていた。
藍羽先輩、また、告白した。
先輩は、また、気づかなかった。
藍羽先輩、泣いてた。
胸が、痛い。
張り裂けそうなくらい、痛い。
なんで、私が、こんなに苦しいの。
藍羽先輩が、先輩に告白して。
先輩が、それに気づかなくて。
藍羽先輩が、泣いて。
……なんで、私が、泣きそうなの。
雪菜は、自分の胸を、ぎゅっと押さえた。
心臓が、痛いほど脈打っている。
分からない。
この気持ちに、名前をつけられない。
でも、苦しい。
雪菜は、夕日を見上げた。
オレンジ色の空が、海に溶けていく。
先輩。
雪菜は、唇を噛んだ。
――――
夕食。
ホテルのビュッフェ会場。
「あいつ、絶対に許さない」
浅葱は、テーブルいっぱいに料理を並べていた。
ステーキ、唐揚げ、パスタ、カレー、サラダ、デザート。
「藍羽さん、大丈夫ですか?」
雪菜が、隣の席から声をかけた。
「大丈夫なわけないでしょ! あたし、あんなに勇気出したのに、あいつ、友達って!」
浅葱は、ステーキをフォークで突き刺した。
「もう、食べてやる! 全部食べて、あいつのことなんか忘れてやる!」
浅葱は、料理を口に運び始めた。
もぐもぐ。もぐもぐ。
「藍羽さん、食べすぎです……」
「うるさい! あたしは食べるの! やけ食いするの!」
浅葱は、涙を浮かべながら、唐揚げをほおばった。
雪菜は、自分の皿を見た。
料理が、ほとんど減っていない。
食欲が、ない。
藍羽先輩は、泣きながら食べてる。
私は、何も食べられない。
先輩は、何も分かってない。
雪菜は、フォークを置いた。
――その様子を、紗矢華が、離れた席から見ていた。
「雪菜、さっきから元気ないわね」
紗矢華が、雪菜の隣に座った。
「紗矢華さん」
「もしかして、あの男のこと?」
紗矢華の声が、低くなった。
「ち、違います! 私はただの監視役で……」
雪菜は、慌てて否定した。
でも、声が震えている。
「あの男、雪菜に何かしたの?」
「してないです! 先輩は、何も悪くないんです!」
雪菜が、声を張り上げた。
周りの生徒が、ちらちらとこちらを見る。
「雪菜……」
紗矢華は、雪菜の剣幕に、一瞬たじろいだ。
「……ごめんなさい。大きな声を出して」
雪菜は、うつむいた。
「……なら、私がケジメをつけてくる」
紗矢華は、立ち上がった。
「え? 紗矢華さん、何を?」
「あの男に、雪菜を泣かせたら許さないって、言ってくる」
紗矢華は、ビュッフェ会場を出て行った。
「紗矢華さん、待ってください!」
雪菜も、後を追った。
――――
砂浜。
夜の海。
波の音だけが、静かに響いている。
古城は、一人で砂浜を歩いていた。
浅葱、どうしたんだろうな。
夕飯も、すごい量食べてたし。
何か、悩みでもあるのか。
古城は、月を見上げた。
――その時。
「暁古城!」
紗矢華が、砂浜に現れた。
「お前は、昼間の……」
「雪菜を泣かせたら、許さないから!」
紗矢華が、古城に詰め寄った。
「雪菜が泣いてる? どういうことだ?」
古城は、本気で心当たりがなくて、首をかしげた。
「とぼけないで! 雪菜が、夕飯もほとんど食べられないくらい、元気がないのよ! あんたのせいで!」
「俺のせい? 俺、雪菜に何もしてないぞ」
「嘘よ! 雪菜は、あんたのことをかばってた! あの雪菜が、男をかばうなんて、絶対に何かされたに決まってる!」
紗矢華が、古城の胸ぐらを掴もうとした。
――その時。
「紗矢華さん、違うんです!」
雪菜が、走ってきた。
「先輩は、何も悪くないんです! 私が、勝手に、元気がないだけで!」
雪菜が、二人の間に入った。
「雪菜が、かばうなんて……やっぱり、この男に何かされたのね!」
紗矢華が、興奮して、古城に掴みかかろうとした。
古城は、雪菜をかばうように、前に立った。
「話が通じないな。とりあえず、落ち着いてくれ」
古城が、紗矢華をなだめようとした。
――その拍子に。
紗矢華の振り上げた手が、古城の頬をかすめた。
ぱしん。
乾いた音。
古城が、よろけた。
「先輩!」
雪菜が、叫んだ。
「先輩を傷つけないで!」
その声は、夜の砂浜に、大きく響いた。
雪菜自身が、自分の声の大きさに、驚いた。
え?
今、私、何て。
雪菜は、自分の口を押さえた。
紗矢華も、動きを止めた。
「雪菜……」
紗矢華は、雪菜の顔を、まじまじと見た。
古城も、雪菜を見た。
「雪菜、お前……」
古城は、頬を押さえながら、雪菜を見つめた。
三人の間に、奇妙な沈黙が落ちた。
波の音だけが、静かに、繰り返す。
――――
その夜。
ホテルの部屋。
雪菜と紗矢華は、同じ部屋に泊まることになっていた。
「雪菜」
紗矢華が、ベッドに座る雪菜の隣に腰かけた。
「……はい」
「あんた、本気で言ったの? 先輩を傷つけないでって」
「……それは、その」
雪菜は、うつむいた。
「あの男のこと、嫌いなんじゃなかったの?」
「嫌いなわけじゃ、ないです。でも、これは任務で……」
雪菜が、言いかけた。
「任務で、あんな叫び方するわけないでしょ」
紗矢華が、核心を突いた。
雪菜は、言葉に詰まった。
「……わからないんです」
雪菜は、小さくつぶやいた。
「私にも、わからないんです。この気持ちが、何なのか」
雪菜は、自分の胸に手を当てた。
心臓が、まだ、どきどきしている。
「先輩を見ると、胸が苦しくなる。藍羽先輩が先輩に告白すると、もっと苦しくなる。紗矢華さんが先輩を傷つけようとした時、体が勝手に動いた。……なんで、なのか、わからないんです」
雪菜の声が、震えていた。
紗矢華は、複雑な表情で、雪菜を見つめた。
「あんた、本当に鈍いわね」
紗矢華は、雪菜の頭を、そっと撫でた。
「でも、その気持ち、私が一番よくわかってる」
紗矢華は、そう言って、静かに微笑んだ。
雪菜は、顔を上げた。
「紗矢華さん?」
「……何でもないわ。今日は、もう寝ましょう」
紗矢華は、雪菜の肩を抱いて、ベッドに横になった。
「……おやすみ、雪菜」
「おやすみなさい、紗矢華さん」
雪菜は、目を閉じた。
でも、眠れなかった。
胸の奥の、名前のない感情が、ずっと、彼女を眠らせなかった。
窓の外から、波の音が、静かに聞こえていた。Noveliaとは?
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