この素晴らしい世界に祝福を! if カズマが復讐のダークヒーローになるルート
冒険者サトウ・カズマは、パーティーメンバーのアクア、めぐみん、ダクネスと共に魔王軍幹部ベルディアと戦っていた。
しかし最終決戦直前、アクアの失態により作戦が敵に漏洩。ついにカズマはブチ切れ、「お前ら、最低だ!」と叫び、パーティーを追放し、一人で戦うことを決意する。
「もう二度と誰も信じない」
その誓いと共に、カズマは闇ギルド『シャドウストーカー』に加入。そこで出会ったのは、かつてアクアに騙された元女神の闇神官マリア。彼女から、怒りと恨みを力に変える禁断スキル『怨念武装』を教わる。
カズマは怒りを武器に変え、ベルディアを一撃で撃破。しかしその姿は、もはや英雄のそれではなかった。
一方、アクアたちはカズマの本当の大切さに気づく。ダクネスは「私が彼を連れ戻す!」と宣言し、めぐみんは「私の爆裂魔法だけが彼を救える!」と誓い、アクアは……おにぎりを食べながら泣いていた。
カズマは魔王軍幹部を次々と倒し、ついに単身魔王城へ突入する。待ち受ける魔王は言う。「お前の本当の敵は俺ではない。お前自身の憎しみだ」
その言葉に、カズマは気づく。自分はただ、アクアたちに「ごめん」と言いたかっただけ
この素晴らしい世界に祝福を! if カズマが復讐のダークヒーローになるルート - ふざけんな! ― 最低な仲間たちと俺の限界
「ふざけんなよ、お前ら!」
サトウ・カズマの怒声が、風見鶏亭の二階酒場に響き渡った。
木のテーブルが、ドンッと揺れる。ジョッキが倒れ、泡だったエールが床に広がっていく。誰も声を出せない。周りの冒険者たちが、ビクッとしてこっちを見る。
俺は右手に握りしめていた一枚の紙を、床に叩きつけた。
それは、明日の決戦の作戦書だった。いや、正確には、もう敵に筒抜けになった作戦の残骸だ。
受付嬢のルナから、ほんの五分前に聞かされた。
カズマさん、ベルディア討伐の作戦、全部バレてます。
頭が真っ白になった。
なんで、どうして。
そう問い詰める俺に、ルナは気まずそうな顔で、ひとりの女神の名前を口にした。
アクアさんが、昨日、ここで……酔った勢いで、見知らぬ男に全部ペラペラと。
もう、言葉が出なかった。
せっかく借金30万エリスを返すために、命懸けの大勝負に出ようって時に。この街に、アクセルの街に魔王軍の幹部・ベルディアが攻めてくるっていうんで、どうにか一発逆転を狙ってたのに。
ベルディア。首なし騎士って呼ばれるデュラハンで、全身を包む漆黒の鎧が、触れたものの体温を奪う呪いの冷気を纏っている。冒険者ギルドでもランク付けできない、S級相当の魔将。
その弱点を突くための作戦だった。俺のスキル《ドレインタッチ》で、あいつの魔力を吸い取りつつ、めぐみんの爆裂魔法で一発お見舞いする。その間、ダクネスに盾になって耐えてもらって、アクアの浄化魔法でトドメを刺す。
準備に五日間かけた。俺たちカズマ団、総力を挙げた大勝負だった。
なのに、それなのに。
「えへへ、ごめん~」
透き通るような水色のポニーテールを揺らして、アクアが笑う。大きな青い瞳は、いつも通りにぱっちりと開いていて、悪びれた様子がまるでない。
その顔が、俺の怒りに油を注いだ。
「……ごめん、だけかよ」
低い声が出た。自分でもびっくりするくらい、冷たい声だった。
アクアの笑顔が、少しだけ引きつる。
「だって、しょうがないじゃない!昨日はお酒がおいしくって、ちょっと気分がよくなっちゃって!」
「ちょっと?」
「うん、ちょっと!それで、隣に座ってたおじさんが『君たちはいつも大変だねえ』って言うから、『そうなのよ!明日はデュラハン相手の大仕事でねえ!』って話したら、すごく話を聞いてくれて、それでつい、作戦の内容も話しちゃった!」
「つい、だと?」
「だって、敵のこと聞くから!『どうやって倒すの?』って!教えてあげただけよ!親切で!」
俺は深く息を吸った。
肺いっぱいに、酒場の油のにおいと、倒れたエールの香りを吸い込む。窓の外からは、夕暮れ近いアクセルの街の雑踏が聞こえてくる。馬車の車輪の音、商人の呼び声。
この街は、駆け出しの街って呼ばれてる。冒険者を夢見るやつらが最初に登録に来る場所で、人口はだいたい1万5千人くらい。風見鶏亭っていうここは、1階がギルドの受付と掲示板で、2階が酒場兼食堂になってる。名物は冒険者カレーで、一皿300エリス。俺たちはいつも、このカレーですら奢りあえるかどうかの貧乏生活だった。
思い出したくもない記憶が、脳裏にぽつぽつと浮かび始める。
――依頼料5万エリス。
あの時、俺たちはジャイアントトードを退治した。死ぬほど大変だった。ヌルヌルした巨体に飲み込まれそうになりながら、どうにか倒して、報酬の入った袋をアクアに持たせた。
「落とさないでよ!」と俺が叫んだ瞬間、アクアはにっこり笑って言った。
「大丈夫大丈夫!女神の私を信じなさ――あっ!」
川に落とした。5万エリス。全部泡になって消えた。
――森の中、俺は肩に背負った小さな体をずらしながら歩く。
「く、くそ……爆裂魔法の後の脱力感が……」
背中でめぐみんがうめく。腰まである長い黒髪が、俺の顔にぱさぱさ当たる。紅魔族特有の深紅の瞳は、いつも魔力を込めた後はちょっとだけ色が薄くなる。一発撃っただけで完全に戦闘不能。毎回おんぶして帰るのが当然だった。
「めぐみん、頼むから魔法使う前に考えてくれ……いつもこれじゃ、まともに戦えねえ」
「我が名はめぐみん!爆裂魔法こそ、人間に許された最大の攻撃魔法!それを使わずして何が魔法使いか!」
「あのなあ……」
――城壁の上で、俺は頭を抱えていた。
「ああっ!もっと!もっと私を打ち据えろ、スケルトンナイトォ!」
ブロンドの長い髪をポニーテールにした女騎士、ダクネスが、両手を広げて敵の前に立ちはだかっている。目をつぶって、うっとりした表情で。口元がだらしなく緩んでいる。
せっかくの防衛線が崩壊した。敵の攻撃を全部受けて、鎧がボロボロになって、それでもなお「いい……もっと……」って言いながら突っ立ってるから、スケルトンナイトが二体、三体、こっちに流れてくる。
「お前、絶対わざとだろ!」
俺の絶叫がこだました。
そして、今。
借金30万エリス。
原因はアクアが浄化魔法でうっかり街の結界を一部壊したこと。その修繕費。そいつを返すために、命懸けの作戦を立てた。ようやくチャンスが巡ってきた。
なのに。
「お前ら、ふざけんなよ!」
俺はテーブルを叩き、立ち上がった。
椅子が後ろに倒れる。俺の右手には――まだこの時はなかったはずの、白い刻印のようなものは――いや、それはまだ後だ。今はまだ、ただの怒りだけがある。
「お前ら、今日限りでクビだ。パーティから追放する」
アクアの顔が、ようやく変わった。
「……え?」
「カズマ、それは」
めぐみんが言葉を切る。黒髪の小さな魔法使いは、深紅の目を大きく見開いていた。いつもの「我が名はめぐみん!」というお決まりの口上もない。
ダクネスも、困惑した顔で俺を見ている。
「カズマ……ちょっと冗談が過ぎるぞ」
「冗談で言ってるように見えるか」
俺の声は、静かだった。でも、自分でもわかる。今の俺の目つきは、とても普段のヘタレなジト目じゃないってことが。
「も、もう誰も信じねえ。散れよ。勝手にやってろ」
それだけ言い残して、風見鶏亭の階段を駆け下りた。
後ろから、アクアの泣き声が聞こえた気がした。
――それでも、俺の足は止まらなかった。
ギルドの一階を抜け、扉を押し開ける。
外はもう夕暮れだった。アクセルの街の屋根がオレンジ色に染まっている。石畳の道を、俺はあてもなく歩き始めた。ポカポカ荘には戻れない。戻っても、あの三人がいるかもしれない。
(クソッ……)
心の中で毒づく。
でも、その奥にもっと黒いものがある。
怒り。悲しみ。そして――孤独。全部混ざって、どろどろになったものが胸の中で渦巻いている。
こうなったらもう、全部捨ててやろう。誰も信じない。頼らない。俺一人でやってやる。
そんなふうに考えながら歩いていると。
「――お前の怒り、無駄にするな」
声がした。
振り返る。暗がりの中に、フードを深くかぶった男が立っていた。顔は見えない。だけど、声には妙に冷たい笑みが混ざっている。
「なんだ、お前」
男は答えず、代わりに一枚の紙を差し出した。
古い羊皮紙だ。折りたたまれたそれを開くと、アクセルの街の地下水路の地図が描かれている。商業地区の枯れ井戸の底に、隠し入り口があるって書いてある。
そして、最後の一行。
――怒りを、力に変えろ。
「お前なあ……」
顔を上げた時には、もう男は消えていた。
風が吹き抜ける。秋の冷たい空気が、俺のほっぺたを冷やしていく。
(シャドウストーカー……闇ギルドか)
噂は聞いたことがある。正規のギルドから追放された冒険者たちが、70年くらい前に作った組織だって話だ。禁忌スキルの売買とか、暗殺依頼とか、ろくな噂は聞かない。でも――なんだか、吸い寄せられるように、俺はその地図を持ったまま歩き始めた。
一方、ポカポカ荘では。
アクアは自室のベッドにうつ伏せになって、おにぎりを食べながら泣いていた。
「ひっく……ひっく……なによぉ、カズマのバカぁ……」
両手でおにぎりを握りしめて、米粒を顔にくっつけながら、大粒の涙をぽろぽろ落とす。
「私、私、ただちょっとおしゃべりしちゃっただけなのにぃ……ひっく……なんでパーティ追放されなきゃなんないのよぉ……うぇーん……」
扉の前では、めぐみんとダクネスが突っ立っていた。
「……私、初めてだ」
めぐみんがぽつりとつぶやく。黒髪をいじりながら、深紅の目が潤んでいる。
「カズマが、あんなに怒った顔をするのは」
「……まあ、普段のヘタレぶりからは想像もできんくらい、キレてたな」
ダクネスが腕を組み、うつむく。ブロンドのポニーテールがゆらりと揺れた。
「この私が、恐怖を感じるほどに」
「……それ、ちょっと変な意味で言ってない?」
めぐみんがジト目になる。ダクネスは首を振った。
「いや、本当に。怖かった。あんなに怒るなら、きっと本当に、これまでずっと限界だったんだろう」
しばしの沈黙。
宿の窓の外では、夜の帳が下り始めている。
「――私が、彼を取り戻す」
ダクネスが顔を上げた。真剣な青い目で、二人を見つめる。
「こんな終わり方は、あまりにも惨めすぎる」
「……私もよ」
めぐみんがうなずく。
「我が爆裂魔法の素晴らしさを、あいつにまだちゃんと話してない。それに、カズマがいないと、爆裂魔法撃った後の運搬手段が……」
「それ結局おんぶしてもらう前提じゃない!」
ふたりは、顔を見合わせて、少しだけ笑った。
でも、目は笑ってなかった。
そして夜の闇が濃くなった頃。
俺は、商業地区の枯れ井戸の前に立っていた。
地図の通りだ。井戸の底に、石の階段が続いている。下からはひんやりした風が吹き上げてきて、地面の湿った匂いが鼻をつく。
「ここが……シャドウストーカーの入り口か」
呟いてみる。自分の声が、暗闇に吸い込まれていった。
地図にはまだ、文字がある。
――怒りを、力に変えろ。
その言葉の意味も、わけもわからないまま、俺は一歩、石段を踏みしめた。
足音が、コツンと響く。
闇の奥のほうに、ほのかな紫色の光が見えた気がした。
そこに何があるのか、俺はまだ知らない。
でも、引き返すつもりはなかった。
だってもう、後戻りできる場所なんて、なくなってしまったから。
(俺はもう……誰も信じねえ)
心の中で、もう一度つぶやいた。
石段は、暗闇の奥へ、どこまでも続いているように見えた。
一歩。
また一歩。
俺は、その闇の中へ、ゆっくりと消えていった。
紫色の光が、少しだけ強くなった気がした。Noveliaとは?
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