この素晴らしい世界に祝福を! if カズマが復讐のダークヒーローになるルート
冒険者サトウ・カズマは、パーティーメンバーのアクア、めぐみん、ダクネスと共に魔王軍幹部ベルディアと戦っていた。
しかし最終決戦直前、アクアの失態により作戦が敵に漏洩。ついにカズマはブチ切れ、「お前ら、最低だ!」と叫び、パーティーを追放し、一人で戦うことを決意する。
「もう二度と誰も信じない」
その誓いと共に、カズマは闇ギルド『シャドウストーカー』に加入。そこで出会ったのは、かつてアクアに騙された元女神の闇神官マリア。彼女から、怒りと恨みを力に変える禁断スキル『怨念武装』を教わる。
カズマは怒りを武器に変え、ベルディアを一撃で撃破。しかしその姿は、もはや英雄のそれではなかった。
一方、アクアたちはカズマの本当の大切さに気づく。ダクネスは「私が彼を連れ戻す!」と宣言し、めぐみんは「私の爆裂魔法だけが彼を救える!」と誓い、アクアは……おにぎりを食べながら泣いていた。
カズマは魔王軍幹部を次々と倒し、ついに単身魔王城へ突入する。待ち受ける魔王は言う。「お前の本当の敵は俺ではない。お前自身の憎しみだ」
その言葉に、カズマは気づく。自分はただ、アクアたちに「ごめん」と言いたかっただけ
この素晴らしい世界に祝福を! if カズマが復讐のダークヒーローになるルート - 絆爆裂 ― ごめんと言いたかっただけなんだ
瞼の裏が、チカチカと白んでいた。
遠くで、誰かが叫んでいる。アクアの金切り声と、ダクネスの呻き声と、それから――倒れ込んだめぐみんのかすかな呼吸。
(ああ、俺は……)
右手の甲が、ずきりと疼いた。
でもそれは、さっきまで全身を引き裂いていたあの黒い痛みとは、どこか違う。
「……ん」
ゆっくりと、目を開ける。
視界いっぱいに、埃っぽい石造りの天井が広がっていた。ヴォルガーナ城塞、玉座の間。紫色の瘴気を纏っていた空気が、今は嘘みたいに澄みきっている。
(体が、動く……)
カズマは、自分の右手を持ち上げた。
手の甲に刻まれた呪印の刻印が、ほのかに金色の燐光を放っている。怨念武器化の証だったあのグチャグチャした黒い輝きじゃない。まるで、朝日みたいな、柔らかい光だった。
「カ、カズマー!」
アクアの声が、耳をつんざく。
顔を横に向けると、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で、透き通る水色のポニーテールを振り乱しながら、アクアが転がるように駆け寄ってきた。
「うわあああんカズマ!よかった、ほんとによかったよおお!」
彼女の両手が、カズマの胸にしがみつく。
大きな青い瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれて、カズマの服に染みを作っていく。
「おい、アクア……苦しい……」
「だって!だってカズマが!私、もうカズマが目を覚まさないんじゃないかって……!」
彼女は泣きじゃくりながら、何度も何度もそう叫んだ。
女神のくせに、10歳児みたいな泣き方だった。
「……アクア」
カズマは、ゆっくりと体を起こした。
まだ関節がギシギシと軋む。力を入れすぎると、ひび割れた皮膚が開きそうだった。
視界の端に、もう一人の仲間が映った。
「……ダクネス」
ダクネスは、壁にもたれかかって立っていた。
腰まであるブロンドのポニーテールはボロボロに乱れ、高価な騎士鎧はあちこちがへこみ、肩口からは血が滲んでいる。あの無数の黒い刃を受け止めた時の傷だ。
でも――彼女は、笑っていた。
「目を覚ましたか、カズマ」
その青い目が、泣きそうに歪む。
「よかった……本当に、よかった……」
彼女は傷だらけの体を引きずって、一歩、カズマに近づいた。
「まったく、私だけのおもちゃを逃がすわけにはいかないだろう?それに……ああ、こんな傷だらけの私をカズマはどんな目で見てくれるんだ……殴ってくれるんだろうか……」
「そこは感動するところだろ変態!」
思わず声が裏返った。
でも――それは、いつものツッコミだった。
「……めぐみんは」
カズマの声が、急に固くなる。
視線が、部屋の隅に向いた。
そこに、めぐみんは倒れていた。
パッツンと切りそろえられた黒髪が、血と埃で石床に張りついている。小さな体は、まるで壊れた人形みたいにぐったりとしていて、深紅の目が、今にも消えそうなほどか細く揺れていた。
「めぐみん!」
カズマは、痛む体を無理やり動かして、彼女に駆け寄った。
彼女の小さな手を握る。
冷たかった。
「……カズ、マ……」
めぐみんの唇が、かすかに動いた。
「しゃべるな!今、アクアに治癒魔法を――」
「……我が、爆裂魔法の……素晴らしさを……」
彼女は、震える息で、言葉を紡いだ。
「……まだ、カズマに……語って、いない……のだ……」
小さな手に、かすかに力がこもる。
「だから……死ねない……」
深紅の目から、一筋の涙がこぼれて、こめかみを伝った。
「……っ」
カズマの胸の奥が、ぎゅうっと締めつけられる。
頭の中で、映像がフラッシュバックした。
アクアと、馬鹿みたいに騒いだギルドの酒場『風見鶏亭』。
借金まみれで、納豆ご飯だけの晩飯を三人で囲んだポカポカ荘。
爆裂魔法をぶっ放して動けなくなっためぐみんを、仕方なく背負って帰った夜。
恥辱妄想で息を荒らげるダクネスに、「うぜえよ変態!」って叫んだ日々。
(俺は――)
みんなが、ここにいる。
ボロボロで、傷だらけで、それでも俺を助けに来てくれた。
「……なんで」
自分の声が、震えているのがわかった。
「なんで、お前ら……こんなになるまで……俺は、お前らを追放したんだぞ。めぐみんを、俺が――」
言葉が、喉に張りつく。
目頭が、熱い。
「カズマがいないと、私……」
アクアが、涙で濡れた青い目をカズマに向けて、叫んだ。
「私、ただの駄女神なんだよ!カズマが好きだから来たんだよ!カズマがいないと、私、また引きこもり女神に逆戻りだよ!おにぎり食べて泣くだけの毎日なんてもう嫌なんだー!」
彼女は、カズマの背中に思い切り抱きついた。
「カズマがいないと、ダメなんだよ……!」
その温もりが、冷え切っていたカズマの体に、じわりと染み込んでいく。
「……アクア」
「私も、同じです」
ダクネスが、静かにうなずいた。
「あなたに何度もツッコまれ、何度もバカにされ、それでも……あなたは私たちを見捨てなかった。むしろ、見捨てられたのは私たちの方でした。私はただ、あなたにもう一度言いたかったんです」
彼女は少しだけ間をおいて、それから、傷だらけの顔でいたずらっぽく笑った。
「『カズマ、私を殴ってくれ』と」
「……お前ら」
カズマの目から、涙がこぼれ落ちた。
止まらなかった。
目の前が、ぼやけていく。
「俺は……ただ、ごめんって言いたかっただけなんだ……」
声が、涙でぐしゃぐしゃになる。
「怒って、憎んで、そんなつもりじゃなかった……ただ、寂しくて……もう一度、みんなと冒険したかっただけなんだ……!」
言葉にした瞬間――。
ドクンッ!
カズマの右手の甲が、強く脈を打った。
「……うわっ」
刻印が、まるで心臓みたいに鼓動を始める。
でも――それはもう、黒い痛みじゃなかった。
刻印が、黒から金色に、ゆっくりと変わっていく。
呪いの形が、まるで氷が溶けるみたいに崩れて、光の粒子になって空へと舞い上がっていく。
「これは……!」
【スキル《怨念武器化》が解除されました】
【スキル《怨念武器化》の呪印が消滅します】
頭の中に、無機質な声が響いた気がした。
消えていく。
あれだけ俺を蝕み、取り憑いていた憎しみの力が、光になって消えていく。
代わりに――胸の奥から、温かい何かが溢れ出してきた。
「みんな……」
カズマが顔を上げると、アクアも、ダクネスも、そして倒れているめぐみんも、全員が涙を流していた。
四人の体から、金色の光が溢れ出す。
アクアの青白い浄化の光。
めぐみんの深紅の爆裂の残滓。
ダクネスの白銀の防御の闘気。
そして、カズマの胸から溢れる、温かい金色の光。
それらが、玉座の間の中央で、ぐるぐると一つの渦になった。
「な、なにこれ……!」
「あたたかい……です」
「……これこそが」
めぐみんが、震える目を見開いた。
「真の……爆裂魔法……」
【新スキル《絆爆裂》が発現しました】
光の渦が、カズマの右手に集まっていく。
それは、一本の巨大な光の剣の形をとった。
「これが……新しいスキル……?」
剣を握る手が、震える。
でもそれは、恐怖じゃない。
体中に、力がみなぎっていく。
アクアの、めぐみんの、ダクネスの、想いが全部、この剣に込められている。
「いけー!カズマー!」
アクアが、涙をぬぐって叫んだ。
「私ごと斬っても構わんぞ!いや、むしろ斬ってくれ!ああ、カズマの光の刃が私の肌を切り裂くところを想像すると……はぁはぁ……」
「後半が余計だあああ!」
でも――なんだか、笑えてきた。
「……行くぞ」
カズマは、玉座を見据えた。
そこには、黒髪の青年の姿をした魔王が、静かに微笑みながら座っている。
「それがお前の答えか」
魔王が、ゆっくりと立ち上がった。
「憎しみを越え、絆を選んだか……面白い」
彼は、両手を広げた。
「来るがいい。その力――見せてもらおう」
カズマは、深く息を吸った。
光の剣を、高く掲げる。
アクアの浄化の光が、めぐみんの爆裂の焔が、ダクネスの防御の結界が、カズマの想いと共鳴して、一つに重なっていく。
「みんなの想い……全部乗せて……ぶっ飛ばす!!」
【絆爆裂――】
振り下ろした。
金色の光の奔流が、玉座の間を、魔王を、城全体を、一瞬で飲み込んだ。
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォン!!!
音が、遅れて押し寄せる。
視界の全てが、金色に塗り替えられた。
魔王は、その光の奔流の中で、ただ静かに微笑んでいた。
「……見事だ」
それだけを言い残して、彼の姿は光の粒子となって、空へと溶けていく。
そうして――800年の時を生きた魔王は、静かに浄化されていった。
静寂。
玉座の間は、あの紫色の瘴気が完全に消え去り、長い戦いが終わったことを示すかのように、静まりかえっていた。
「……終わった、のか?」
光の剣が、消える。
体から、力が抜けていった。
――玉座の間の、さらに奥。
物陰で。
薄紫色の長い髪を片側だけ編み込んだ少女――マリアが、立ち尽くしていた。
金色の目が、大きく見開かれている。
「……光に、なった」
彼女の口から、震える声が漏れた。
「憎しみの力が……絆の力に……変わった」
いつもの冷たい薄ら笑いなんて、どこにもなかった。
彼女の目からは、静かに涙がこぼれ落ちていく。
「私も……本当は、ただ……」
小さく、かすれた声で、彼女は呟いた。
「アクアに……認めてほしかっただけだったのに……」
彼女は、涙を拭おうともせずに、くるりと背中を向けた。
「お前は……私とは違ったな、カズマ」
それだけを言い残して、彼女は闇の中へと姿を消した。
アクアが、その背中に気づいた。
「あっ……マリア……!」
何かを言いかけて、でも、そのまま口を閉じる。
彼女の青い目が、少しだけ、悲しそうに揺れた。
「……行っちゃった」
「……ああ」
カズマは、小さくうなずいた。
あの人は、あの人自身の答えを見つけるために、また一人で旅立ったのだろう。
でも――それが、たぶん、彼女にとっての一歩なんだ。
数日後。
アクセルの街は、相変わらずの喧騒に包まれていた。
商人の威勢のいい呼び声。馬車の車輪が石畳を叩く音。どこからか聞こえる子供たちの笑い声。
冒険者ギルド本部、その二階にある酒場兼食堂『風見鶏亭』。
席数約80のテーブルの一つを、四人は囲んでいた。
木のテーブルの上には、ギルドの名物料理である『冒険者カレー』が湯気を立てている。1皿300エリス。それとエールのジョッキが四つ。
「じゃあ、改めて」
カズマが、ジョッキを掲げた。
顔には、まだかすかに傷の痕が残っている。
「……パーティ再結成だ。もう二度と、追放なんてしねえからな」
少しだけ、照れくさそうに言った。
「うぅ……!カズマぁ……!」
アクアが、また目をうるうるさせながら、おにぎりを握っている。いつの間に頼んだんだ、それは。
「もちろんだ!我が爆裂魔法の素晴らしさを、これからもカズマに語らせてもらうぞ!ふはははは!」
めぐみんは、包帯だらけの腕で、それでも偉そうにふんぞり返っている。
「もちろんです。私をこれからも……殴ってくれますね?」
ダクネスは、両手を胸の前で組んで、うっとりとした笑みを浮かべた。
「だから変態は締まらねえんだよ!」
「ふはははは!」
「えへへへ!」
「うふふふ……」
笑い声が、風見鶏亭の二階に響き渡る。
「じゃあ、新パーティ結成の乾杯だー!」
アクアが、勢いよくジョッキを掲げた――その時。
バシャアアアアアン!!
「あっ」
彼女の勢い余ったジョッキが、テーブルの上のカレー皿とエールを、全部まとめて床にぶちまけた。
カレー色の液体が、石床にだばだばと広がっていく。
静まり返るテーブル。
カズマ、めぐみん、ダクネスの三人は、床に散らばった料理と、空の皿と、ベタベタのテーブルと、それから「えへへ」と頭をかくアクアの顔を、順番に見つめた。
「……えへへ、ごめんカズマ、ちょっと手が滑っちゃった☆」
「…………」
カズマは、ゆっくりと立ち上がった。
深く、息を吸った。
「ふ、ざ、け、ん、な、よ!せっかくの祝いの席が台無しだろ!何考えてんだこの駄女神があああああああ!!」
いつものツッコミだ。
でも――その顔は、笑っていた。
頬には涙の跡が残っているけど、それでも、心の底から笑っていた。
「ひどい!カズマがひどい!」
アクアも、涙を流しながら笑っている。
「ふはははは!これこそが我らの日常なのだ!」
「ああ……この散らかった感じ……まるで辱められた後のようで……いい……」
「お前はちょっと黙ってろ変態!」
笑い声と、叫び声と、それから階段を上がってくる呆れた受付嬢ルナのため息が、風見鶏亭に響く。
(これが……俺たちの、いつもの日常だ)
カズマは、心の中でそう呟いた。
失いかけた、かけがえのないもの。
それが今、ちゃんと、自分の手の中にある。
「……ただいま」
「……おかえり、カズマ」
「おかえりなのだ」
「おかえりー!カズマぁ!」
こうして、サトウ・カズマとその仲間たちの、新たな物語が始まった。
――ただし、きっと明日も借金まみれだし、明日もアクアはドジを踏むだろうし、明日もめぐみんは爆裂魔法をぶっ放して動けなくなるだろうし、明日もダクネスは変態発言で俺をキレさせるんだろうけど、でも――それが、俺たちの日常だ。
夕日が差し込む『風見鶏亭』の二階で、カズマたちの笑い声は、まだまだ続いていく。Noveliaとは?
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