この素晴らしい学園に祝福を!
佐藤カズマ、高校二年生。転校初日、うっかり自分を異世界から来た勇者だと自己紹介してしまう。その夜、彼の天井を突き破って全裸の女神アクアが落ちてきた。彼女はカズマをファンタジー世界へ連れて行くはずだったが、書類手続きのミスで、二人とも現代日本の高校生として転生してしまっていた。翌日、中二病の少女めぐみんと、ドMなお嬢様ダクネスもまた、同じ世界から転生してきた者だと判明する。
四人は元の世界へ帰る方法を探しながら共同生活を強いられ、次から次へと騒動を引き起こす。アクアは借金を作り、めぐみんは校庭で爆裂魔法を叫んで気絶し、ダクネスは教師に叱られるたびに興奮する。それでも三人の少女は次第にカズマに惹かれていく。アクアは彼が自分にとって一番大切だと宣言し、めぐみんは彼と共に爆裂の道を歩みたいと願い、ダクネスは彼に自分を罰してほしいと懇願する。そんな中、学園一の美女である生徒会長エリスも彼に近づいてくる。ハーレムは四つ巴の戦場と化す。
文化祭前夜、三人の少女が同時にカズマへ告白し、エリスは彼を屋上に呼び出して、四人が密かに「それぞれが彼に『自分を選ばないで』と伝えて彼を試す」という約束をしてい
この素晴らしい学園に祝福を! - 転校初日に女神が降ってきた
「だから、お前のせいだって言ってるんだよ!」
目が覚めたら、部屋の天井に大穴が開いていた。
……いや、待て。落ち着け。俺は確か、昨日、埼玉県陽凪市に引っ越してきたばかりの、ごく普通の高校二年生、佐藤カズマ。転校初日を終えて、ベッドで落ち込んでいたはずだ。
なのに、なんで見知らぬ女が、俺の腹の上に座っている?
「やっと起きた! 待ちくたびれたよ、カズマ!」
腰まである透き通るような水色の髪。宝石みたいに明るい青い瞳。毛先がふわふわ跳ねて、白い肌がやけに眩しい。
……で、なんで全裸なんだ。
「うわああああっ! な、なんで裸なんだよ! ちょっと服を着ろ! いや、その前にそこからどけ! つーか誰だお前!」
俺は布団を丸めて壁際に逃げた。心臓が口から飛び出そうだ。
「あはは、そんなに照れなくてもいいのに。私は女神アクア。水を司る、それはそれは美しく尊い女神さまです。カズマ、君を異世界に転生させようと思って来てあげたの」
女神? 異世界? 転生?
寝ぼけてるのか、まだ。そうだ、これは夢だ。昨日の自己紹介の失敗が尾を引いて、おかしな夢を見てるんだ。
「夢じゃないよ。ほら、君がそこの鏡を見ればわかる。この部屋、天井に穴が開いてるでしょ? 私が派手に登場したから」
見たくもないが見てしまった。天井に、直径一メートルほどの綺麗な穴。そこから見える夜空の月が、やけに明るい。
「……夢じゃなさそうだな」
俺は深いため息をついた。
昨日のことを思い出す。
埼玉県の南の方にある陽凪市。都心から電車で五十分ほどの、ごく普通のベッドタウンだ。何の特徴もない、でも住みやすい街。本当はもうちょっと都会の学校に行きたかったけど、親の転勤の都合で、俺だけこの街に残ることになった。
そして、一人暮らしを始めた俺は、陽凪第一高校の二年三組に転入した。偏差値五十二の中堅校で、校舎は古いが、校庭はやたら広い。まあ、普通の学校だ。
問題は、その転入初日。
緊張しすぎた俺は、教室の全員の前で、とんでもないことを言ってしまった。
「佐藤カズマです。あの、えっと……異世界から来た勇者です」
なんでそんなことを口走ったのか、今でもわからない。中学の頃、バカなノリで告白して、クラス中から笑われたあの時の記憶が、頭の中でぐるぐる回っていたせいかもしれない。
教室の空気が、一瞬で凍った。
いや、凍ったならまだマシだった。次の瞬間には、もう……笑いの渦だ。
「え、勇者? 何それ! 中二病?」
「キモイんだけど」
「転校生、面白すぎだろ」
女子はくすくす笑い、男子は腹を抱えて笑った。先生は苦笑いしながら「佐藤君、席に着きなさい」と言った。
ああ、まただ。
また俺は、笑い者になった。
昼休みは一人で屋上へ逃げた。もちろん屋上は施錠されていたから、その手前の階段で一人、コンビニのおにぎりを食べた。
(……どうせ、最初から期待なんかしなければいいんだ)
そう思いながら、味のしなくなったおにぎりを飲み込んだ。
家に帰ってからも、落ち込んだままだった。転校初日からあれだと、明日からが地獄だ。いや、別にいい。どうせ誰にも相手にされない。それならそれで……。
そうやって、ぐるぐる考えていた夜に、天井から女が降ってきた。
……まあ、そんな経緯だ。
「というか、落ち込んでるところに追い打ちかけないでほしかったんだけど」
「えっ、何か落ち込んでたの? 大変だったね。でも大丈夫! 私がいるから! ぜーんぶ忘れて、異世界で楽しくやろう?」
彼女はキラキラした笑顔で言った。無邪気、というか、空気を読まない、というか。
「……で、その異世界とやらは、どこにあるんだよ。つーか、なんで俺なんだよ」
「君はね、ヴェルディナっていう剣と魔法の世界で、魔王と戦う勇者になるはずだったの。私が手続きを担当してたんだけど、ちょーっと順番を間違えちゃって。それで、君がヴェルディナに行く前に、私がこっちに来ちゃったっていうか」
「……は?」
「だからね、今からもう一回、君をヴェルディナに転生させてあげる。だから、心配しないで? 私にまかせなさい。女神ですから」
なんというか、もう、ツッコミどころが多すぎて、頭が追いつかない。
「心配しかないよ! 手続きミスした奴に言われても信用できるか!」
「ひどい! 私はちゃんとやればできるんです! 本来は二百件とか処理してるのに、たまたま君の時だけミスしただけで……」
うるうる。彼女の目に涙が浮かぶ。なんで俺が悪者みたいになってるんだ。
「……わかった。とにかく、その転生とやらをやるなら、さっさとやってくれ。俺は明日も学校なんだ」
「はーい! じゃあ、ちょっと失礼して……あれ? なんか光らない。えっと、えいっ。えいえいっ。……あれ?」
彼女が手をかざすと、本当に光が集まりかけた。だが、すぐに消える。何度も繰り返すが、結果は同じ。
「なんで? 私の力が、なんか、変な感じ……。まるで、こっちの世界に吸い込まれるみたいな……」
次の瞬間。
彼女の体が、淡い光に包まれた。
「えっ、なにこれ、ちょっと、待って? キャアアアッ」
光は強くなり、部屋中を真っ白に染めた。俺は思わず目を覆った。
どれくらい時間が経ったのか。
気がつくと、俺の前に、見知らぬ制服姿の少女が立っていた。
水色の髪は腰まであり、青い目は不安そうに揺れている。身長は一六二センチくらい。陽凪第一高校の紺のブレザーとグレーのスカートが、よく似合っている。
どこからどう見ても、さっきの女神アクア。ただし、服を着ている。
「な、なに、これ……。なんで私、高校生になってるの!? しかも、この服、なんなの!?」
彼女は自分の体をぺたぺた触り、愕然としている。
「もしかして……お前、逆に転生したのか?」
「ひどい! 私、まだ異世界に帰ってない! 私の仕事はヴェルディナでみんなを転生させることなのに、なんで私がこっちで暮らすみたいになってるの!?」
泣きそうな顔で、彼女は俺に訴えてくる。
……なぜだろう。明らかに迷惑な話のはずなのに、その表情を見ると、なんとも言えない気持ちになる。
「まあ、とりあえず……座れよ。事情を整理しよう」
俺はリビングのテーブルを挟んで、彼女と向かい合った。時計は夜の十時を回っている。
それから一時間ほど、彼女の話を聞いた。
要約すると、こうだ。
アクアが使っていたのは、ヴェルディナ神殿庁の転生管理制度と呼ばれるもの。死者を異世界に転生させるためのシステムで、年間二〇〇件ほど処理しているらしい。ただし、今回は手続きを逆に扱ってしまい、アクア自身が現代日本の高校生・天野アクアとして逆転生してしまった。
「でも、どうして俺の家に降ってきたんだよ」
「そりゃあ、君が転生対象者だったから、魂の座標が君とつながってたから……あ、でも、今の私は晴れて日本の高校生! だから、戸籍もちゃんとあるみたいだし、通帳も作れるし、なんならここに住んでいい?」
「なんなら、って……」
話が飛躍しすぎだ。
「だって、こっちに来ちゃったんだから仕方ないでしょ? ヴェルディナに帰る方法がわかるまで、ここに置いてよ! 家賃は、そのうち払うから、ね?」
「そのうちって……」
この女神、全く悪びれていない。むしろ、ここに住む気満々だ。
「それに、ほら、君、あれでしょ? 一人でご飯食べて、一人で寝て、寂しいんでしょ? だったら、私みたいな美少女が一緒にいたら、最高じゃない?」
彼女は小首を傾げて、上目遣いに俺を見た。
ドキッ。
心臓が跳ねた。いや、これはただの不意打ちだ。女神とか言ってる変な女に、動揺してる場合じゃない。
「……勝手に住むんじゃない」
「やった! ありがとう、カズマ! 君は最高の下僕……じゃなかった、同居人だね!」
今、下僕って言わなかったか。
こうして、俺とアクアの奇妙な同居生活が始まった。
だが、まだ終わりじゃなかった。
「そうだ、この格好、すぐに脱ぐからちょっと待ってて。って、あれ? これ、制服? むしろかわいいかも。私、案外似合ってる? ねえ、見て、カズマ。どう?」
彼女はその場でくるりと回った。スカートの裾がふわりと広がる。
「似合ってる似合ってないとかじゃなくて、服を着てるのはいいことだ。それでいいよ」
本当に、それどころじゃなかったから。
「そういえば、今の私は日本の高校生なんだよね。なら、いいものがあるのよ。日本には神の水があるって聞いてたんだけど……あ、カズマ、これ使わせてもらうね」
彼女は俺のスマホを勝手に手に取った。
「ちょっと待て、人のスマホを勝手に……え、通販? 何頼んでるんだよ! 高級日本酒一升ビン二十本!?」
画面には、見たこともない金額が並んでいた。
「未成年だから、カズマの名義で買ったよ。ありがとう! これで神の水を思い切り味わえるわ」
「飲む気満々かよ! つーか、なんで人の名義で! 返品しろ! 今すぐキャンセルだ!」
慌ててスマホを取り返すが、時すでに遅し。発送済み。合計十五万円也。
さらに、天井の修理代が三十万円。
全部で四十五万円。
俺の地獄のような借金生活が、この夜から始まった。
「弁護士呼ぶぞ、お前!」
「な、なんでそんなに怒るの……。私は女神のために尽くすのが当然だと思うけど……」
「思うんじゃない! つーか、お前、それでよく女神なんて名乗れるな!」
もう、何がなんだか。
結局、アクアを一晩泊めることにした。明日から、彼女はどこに泊まるのか。いや、もう色々ありすぎて、考えるのをやめた。
夜中、アクアはさっそく風呂を使った。いや、風呂を浄化した。
「せっかくだから、日本の水ってどんなのか確かめたくって。これはすごい。すごくキレイになった! お風呂のお湯が、宝石みたい!」
風呂場から聞こえる楽しそうな声。そして、浴室から溢れる光。
その後も、アクアは宴会芸を披露すると言って騒ぎ、笑い転げ、俺の布団の上で勝手に寝た。
一睡もできなかった。
翌朝、鏡を見たら、ひどいクマができていた。
「おはよう、カズマ! 学校に行くんでしょ? 私も行く! 戸籍があるってことは、学校も決まってるのかも!」
「……勘弁してくれ」
だが、現実は甘くなかった。
教室に入った瞬間、俺は再び、あの空気を味わった。
「お、転入生の勇者くんが来たぞ」
クスクス。周りから、まだ笑い声が漏れる。ああ、二日目にして、もうこのクラスに居場所はない。
早く地雷を避けて、席に着こう。
そう思った時だった。
「おはようございます。今日からこの学校に通う、天野アクアです。みなさん、よろしくしてくれると嬉しいな」
教室のドアのところに、制服姿のアクアが立っていた。
水色の髪は腰まである。青い瞳はきらきらと輝いている。その可憐さに、一瞬、教室の空気が止まった。
昨日とは違う、静かなどよめき。男子は目を奪われ、女子は「かわいい……」と声を漏らす。
「実は私、カズマと昨日から一緒に暮らしてるんです。一つの屋根の下で、二人きりで」
にっこり微笑みながら、アクアは爆弾を投下した。
教室が、騒然となった。
「ええええっ!? 何それ、同棲!?」
「マジで!? ヤバくない?」
「なんで勇者くんが!? あの転校生と!?」
全員が、全員、俺を見る。
ああ、もう、終わった。俺の学園生活は、完全に終わった。
「俺の、俺の普通の生活を返してくれ……」
俺は机に突っ伏した。額の下で、ひんやりした木の感触がする。
放課後。
俺は、アパートから徒歩十二分の陽凪桜台駅前にある、コンビニ・サンブライト陽凪店の夜勤面接に向かっていた。
借金四十五万円。返すためには、働くしかない。時給九百八十円。夜勤手当を含めれば、月七万円くらいにはなるだろう。
どうして俺ばかり、こんな目に遭うんだ。
夕焼けの公園を抜ける。小学生が数人、ボールを蹴って遊んでいる。親子連れが、手を繋いで歩いている。
あのくらいの頃は、よかった。何も考えなくてよかった。
中学の時のことを、思い出す。
あれは、ただのノリだった。仲間に「告ってこいよ」って言われて、調子に乗った。
結果は、さんざんだった。
「ごめん、無理」
たった一言。
周りからは笑い声。「やっぱりな」「あいつにはムリだって」――。
それ以来、誰かに期待するのが怖くなった。どうせ、裏切られる。どうせ、笑われる。
だから、最初から期待しない。人と深く関わらない。
そうやって、今日まで生きてきた。
でも、昨日から、俺の生活はめちゃくちゃだ。
ろくに働かない女神。破壊と浪費の嵐。借金。
なのに、変な安堵感がある。
中学の頃から、誰にも必要とされてなかった。誰も、俺のことなんて見てなかった。
でも、アクアは、俺を頼る。カズマ、カズマと、えらく懐っこく。
……まあ、頼られてるというか、金づるとして見られてる気がしないでもない。
だが。
(なんでだろうな。ああいう奴のまま、俺は変わってもいいのかもしれない)
そう、一瞬、思った。
夕暮れの空が、ゆっくりと色を変える。
コンビニの看板が、遠くに見えた。
俺は前を向き、一歩を踏み出した。
その時、ポケットのスマホが震えた。
メッセージ。
「カズマ! 今日から、あなたが私のご主人さまで、私はあなたの女神です! これからもよろしく!」
……やっぱり、この生活は間違ってる。
とにかく、まずは面接だ。
俺の、普通じゃない生活が、本格的に始まろうとしていた。Noveliaとは?
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