この素晴らしい学園に祝福を!
佐藤カズマ、高校二年生。転校初日、うっかり自分を異世界から来た勇者だと自己紹介してしまう。その夜、彼の天井を突き破って全裸の女神アクアが落ちてきた。彼女はカズマをファンタジー世界へ連れて行くはずだったが、書類手続きのミスで、二人とも現代日本の高校生として転生してしまっていた。翌日、中二病の少女めぐみんと、ドMなお嬢様ダクネスもまた、同じ世界から転生してきた者だと判明する。
四人は元の世界へ帰る方法を探しながら共同生活を強いられ、次から次へと騒動を引き起こす。アクアは借金を作り、めぐみんは校庭で爆裂魔法を叫んで気絶し、ダクネスは教師に叱られるたびに興奮する。それでも三人の少女は次第にカズマに惹かれていく。アクアは彼が自分にとって一番大切だと宣言し、めぐみんは彼と共に爆裂の道を歩みたいと願い、ダクネスは彼に自分を罰してほしいと懇願する。そんな中、学園一の美女である生徒会長エリスも彼に近づいてくる。ハーレムは四つ巴の戦場と化す。
文化祭前夜、三人の少女が同時にカズマへ告白し、エリスは彼を屋上に呼び出して、四人が密かに「それぞれが彼に『自分を選ばないで』と伝えて彼を試す」という約束をしてい
この素晴らしい学園に祝福を! - 文化祭前夜、四人の女神と手紙の告白
放課後のチャイムが、冷たい空気に溶けていった。
教室の窓から見える空は、分厚い雲に覆われている。今にも雨が降り出しそうな、重たい灰色だった。
俺、佐藤カズマは、机の上に突っ伏したまま、深いため息をついた。
明日は文化祭。なのに、頭の中はぐちゃぐちゃだ。昨日の夜、アクアが突然、真面目な顔で言った。
「カズマ、明日の放課後、屋上に来て。話があるの」
あの自信満々の水の女神が、声を潜めて、目を逸らしながら言うなんて。何か良くないことが起きているに違いない。
いや、良くないことしか起きていない。ここ最近の俺の人生、全部そうだ。
天井から女神が降ってきて、爆裂狂の中二病が転入してきて、ドMのお嬢様騎士に懇願されて、生徒会長は実は下級女神だった。すべて、この数ヶ月で起きた。
俺の平穏な高校生活は、とっくに粉々に砕け散っている。
「……はあ」
もう何度目か分からないため息をついた時、後ろの席から、聞き覚えのある声がした。
「カズマよ」
振り返ると、黒い眼帯と赤いインナーメッシュのショートボブ。深紅の瞳が、じっとこちらを見つめていた。紅めぐみん。爆裂魔法だけを偏愛する、我がクラスの中二病転入生だ。
「我も、放課後に、話があるのだ。場所は、屋上だ」
「……お前もかよ」
「なんだ、その反応は。我が直々に、貴重な時間を割いてやるのだぞ。光栄に思え」
彼女は、ふん、と胸を張った。肩までの黒髪に混ざった赤いメッシュが、蛍光灯の光を跳ね返す。
「つーか、屋上って、普段は鍵かかってるだろ。なんで行ける前提なんだよ」
「お主は、屋上の合鍵を持っているではないか」
「……なんで知ってんだよ」
「カズマのことは、我が何でも知っておる。お主は、我の運命の同志だからな」
真顔で言う。やめろ。心臓に悪い。
その時、教室の入り口が、こつこつとノックされた。見ると、ウェーブのかかった金髪。碧い瞳。背筋をピンと伸ばした、完璧な立ち姿。霧島ララティーナ先輩。通称ダクネス。
「佐藤カズマさん。少々、よろしいかしら」
彼女は、にこりと微笑んだ。が、その笑顔の奥で、瞳がやけに潤んでいるのを、俺は見逃さなかった。何か良からぬことを考えている時の目だ。
「放課後、屋上で、お待ちしておりますわ。絶対に、いらしてくださいませ」
それだけ言うと、彼女は、くるりと背を向けて去っていった。金色の髪が、ふわりと廊下の空気を巻き上げる。
「……三人目かよ」
俺は、頭を抱えた。絶対に、何かが起きている。
放課後。
俺は、重い足取りで、校舎の屋上へと続く階段を上っていた。
手には、ポケットから取り出した、色あせた銀色の合鍵。転入当初、居場所を求めて、管理室からこっそり複製したものだ。今では、俺と、俺に付きまとう変人たちのたまり場になっている。
鉄製のドアの前に立つ。冷たい取っ手に手をかけた。
ぎぃ、と、油の切れた音が響く。
屋上に出た瞬間、冷たい風が、制服の襟元に吹き込んできた。十一月の陽凪市は、日が落ちるのが早い。空は、さっきよりもさらに暗く、雲が重く垂れ込めている。
そして。
俺は、言葉を失った。
屋上の中央に、四人。
水色の髪の女神、アクア。
黒いマントの爆裂魔法使い、めぐみん。
金髪のお嬢様騎士、ダクネス。
そして、銀色の髪の生徒会長、エリス。
全員が、それぞれ距離を置いて立っている。お互いの顔を見合わせ、視線だけで激しく牽制し合っていた。
沈黙。
重い、痛いほどの沈黙が、屋上を包み込む。
俺は、ごくりと唾を飲み込んだ。額に冷や汗が滲む。
なんだ、この地獄絵図。
「……お前ら、なんで全員いるんだよ」
俺が声を絞り出すと、四人が、一斉に俺を見た。
アクアの青い瞳が、みるみるうちに涙で潤んでいく。
「ちょっと、めぐみん! どうしてあなたがここにいるのよ! 私はカズマと二人きりで話すって言ったのに!」
「それはこちらの台詞だ! 我は、正々堂々、カズマに話があると、約束を取り付けたのだ! 卑怯な真似はやめろ!」
「お二人とも、見苦しいですわ。私は、騎士としての矜持に懸けて、佐藤カズマさんに大切な話をしに来たのです」
三人が、ぎゃあぎゃあと言い争いを始める。普段から騒がしい奴らだが、今日は、その騒々しさの奥に、いつもとは違う、剣呑な空気が漂っていた。
「……皆さん」
その時、エリスが、静かに口を開いた。
彼女の声は、澄んでいて、冷たかった。喧騒を一瞬で鎮める、不思議な力があった。
「皆さんが、ここにいるのは、私のせいですわ」
銀色がかった長い髪を、冷たい風がさらう。深い紫がかった瞳が、まっすぐに俺を見つめていた。
「私が、皆さんにお渡しした手紙を、すり替えさせていただきましたの」
「は? すり替え?」
「皆さんは、それぞれ、佐藤君に、お手紙を書かれていました。本当は、お一人ずつ、別の時間に、別の場所で、お渡しする予定だったはずです」
エリスは、淡々と続けた。
「私が、全員分の手紙を、『同じ時刻に、屋上へ来るように』と書き換えて、お渡ししたのです」
「……なんで、そんなことを」
「こんなことをしても、皆さんは、私を恨むでしょう。でも、それでも、……これは、私のけじめなのです」
エリスは、ぎゅっと、スカートの裾を握りしめた。指先が、白くなっている。
「佐藤君。皆さんは、それぞれ、あなたへの想いを、認めることが、できないでいるのです。だから、身を引こうとしている。……自分が、いなくなれば、誰も傷つかないと、そう考えて」
「身を、引く?」
「四人とも、同じ結論に至った。あなたには、もっと相応しい、別の誰かがいる、と。この状況を、この感情を、終わらせるために、あなたを、『選ばないでほしい』と、頼むつもりでいたのです」
エリスの言葉に、三人が、ぴたりと動きを止めた。
アクアは、大きく見開いた目から、ぽろぽろと涙をこぼし始めた。
「違う……違うの、カズマ。……だけど、私、カズマに、たくさん、迷惑をかけたから。借金も、天井の穴も、ぜんぶ私のせいだから。だから、私がいなくなれば、カズマは、幸せになれるって……そう思ったの」
「我も、同じだ。我は、爆裂道の同志として、カズマの人生を、縛りつけているだけだと。我が、そばにいれば、カズマは、我の爆裂に付き合わされて、迷惑を被るしかないと、そう、思ってしまったのだ」
めぐみんは、深紅の瞳を揺らして、苦しそうに、言葉を搾り出す。
「私もですわ。騎士である私が、主君であるあなたの、未来を曇らせる。そんなことは、決して、あってはならない。……あなたへの、この想いを、胸の奥に、押し込めて、騎士として、身を引こうと、そう、決意したのです」
ダクネスは、普段のうっとりした様子とは打って変わって、真剣な顔で、俺を見つめていた。
三人の、涙と、苦しみが、屋上の空気を、どんどん重くしていく。
「……だからって」
俺の声は、自分でも驚くほど、冷たく、低く、響いた。
「だからって、お前ら、勝手に、身を引くだとか、選ばないでだとか……俺に、何か、一つでも、聞いたのかよ」
四人が、びくりと肩を震わせた。
俺は、四人の顔を、ゆっくりと見渡した。
「さっき、エリスが言った。お前らは、四人とも、同じ結論に至ったんだってな。……自分が、いなくなれば、誰も傷つかない、って」
「……だって」
「だって、じゃねえよ」
俺は、アクアの言葉を、ぴしゃりと、はねのけた。
「お前ら、全員バカか!」
叫んだ。喉の奥から、感情が、爆発した。
「誰か一人を選べ? そんなもん、俺にできるわけねえだろ!」
「……カズマ」
「お前らがいなくなる? 身を引く? ふざけんな!」
冷たい風が、吹き抜けた。
「お前ら全員、いなくなったら、俺は、また、一人に戻るんだぞ! それが、一番、怖いんだよ!」
自分の声が、震えているのが、わかった。
「中学の時、……誰かを信じるのが、怖くなった。期待して、裏切られて、笑われて、……もう、誰にも、期待なんか、しないって、心に蓋をした」
四人が、静かに、俺の言葉を、聞いていた。
「でも、お前らと、一緒に、暮らすようになって、……毎日、うるさくて、振り回されて、胃は、キリキリ、痛えけど」
言葉が、あふれ出る。
「……けど、楽しかったんだよ。お前らが、俺の、帰りを、待っててくれる。俺の、作った飯を、うまいって、食ってくれる。俺の、ツッコミに、笑ってくれる。……それだけで、……良かったんだよ」
視界が、にじんでいく。
くそ。男のくせに、みっともない。
「だから……お前ら全員、まとめて、幸せにしてやる! 誰も、身を引かせねえ! 選ばなくていいなら、五人で、一緒に、いりゃあいいんだよ!」
言い切った。
沈黙。
屋上の、冷たい風の音だけが、聞こえる。
そして。
わっ、と、いう、泣き声。
アクアが、しゃがみ込んで、大声で泣き出した。
「うわあああん! カズマあああ!」
「ふ、ふぐ……我は、我は……」
めぐみんも、眼帯の下から、涙を、ぼろぼろとこぼしている。
「カズマさん……あなたは、どこまで、私を、安心させれば、気が済むのですか……」
ダクネスは、顔を覆って、しゃくり上げている。
そして、エリスは。
彼女は、静かに、微笑んでいた。
深い紫銀の瞳に、涙をいっぱいに、ためて。
「……皆さんの、言う通りですわ」
彼女は、ポケットから、四通の、手紙を取り出した。
「私が、すり替えて、保管していましたの。ほんものは、まだ、皆さんが、お持ちのはず。でも、……もう、どちらでも、同じですわね。佐藤君は、私たちの、手紙の内容を、もう、全部、知ってしまいましたものね」
エリスは、自分も、同じ手紙を書いていたのだと、打ち明けた。
「私は、女神としての任務と、あなたへの恋心の、間で、揺れていました。私が、あなたの近くにいること自体が、四人の絆を、壊してしまう。……そう、思っていましたの」
「……お前も、かよ」
俺は、苦笑した。
「ったく、……四対一で、俺を、試そうって、か。……上等だ」
俺は、エリスの手から、四通の手紙を、ひったくった。
「これ、読ませて、もらうぞ」
一気に、封を切り、中身を、開いた。
どの手紙も、達筆で、あるいは、丸みのある字で、びっしりと、言葉が、綴られていた。
どれも、本当に、同じ趣向の、内容だった。
『カズマは、私なんかより、もっと、ちゃんとした、可愛くて、料理もできるような、女の子と、一緒にいた方が、幸せになれるわ』
『我の、爆裂への偏愛に、付き合わせるのは、心苦しい。同志として、我は、カズマの、未来を、解放したい』
『騎士として、主君の、歩む道を、汚すわけには、いきません。どうか、私のことは、お忘れください』
『私の存在が、あなたと、皆さんの、関係を、壊してしまう。それだけは、何よりも、恐ろしい』
俺は、手紙を、ぐしゃりと、握りつぶした。
「……全員、バカだ」
ぽつりと、呟いた。
「俺が、誰かを、選ぶ? 選べるわけ、ねえだろ。……俺は、お前ら、全員に、必要とされてえんだよ。必要とされたい、って、はじめて、思えたんだ。……お前らの、おかげで」
涙が、一筋、頬を、伝った。
「だから、……この、五人の、関係を、壊すなよ。……守っていく。俺が、絶対に」
俺が、そう、言い終えた、瞬間。
アクアが、飛びついてきた。
「カズマあ! わ、私も、カズマと、離れたく、ないよう……! ご、ごめんね、手紙なんて、かいて、ごめんねえ……!」
「我もだ! 我が、一方的に、身を引くなぞ、爆裂道の、恥さらしも、いいところだった! ……だが、我も、本音を、言うぞ。我は、カズマと、一緒に、いたいのだ!」
「わ、私も、ですわ……! 騎士として、申し上げます。私は、佐藤カズマ様の、剣であり、盾でありたい。……どうか、お側に、置いてくださいませ……!」
三人が、俺に、抱きついてくる。
水色の髪が、黒いマントが、金髪が、俺の制服を、涙で、ぐしょぐしょにしていく。
「……って、おい! お前ら、重い! 熱い! くっつくな! ダクネスに至っては、生き生きすんな! 俺の背中に、胸を、押し付けるな!」
俺が、大声を出すと、三人は、涙で、ぐしゃぐしゃの顔で、ぷっと、吹き出した。
「……えへへ」
「ふはっ、カズマのくせに」
「ええ、幸せですわ……」
そして、エリスが、そっと、俺の、頭に、手を、置いた。
「……佐藤君。あなたは、本当に、お人好しですわね」
彼女の、声は、相変わらず、澄んでいて、でも、ひどく、あたたかかった。
「私も、……混ぜて、いただけませんか?」
彼女は、悪戯っぽく、微笑んだ。
その夜。
俺の自宅、陽凪市桜台2丁目の、築二十年の、一戸建て。
リビングに、五つの、影が、揺れていた。
「では、ただいまより! 第一回、佐藤家主催、『決別の儀式』、もとい、『全員まとめて幸せになろうの会』を、開催いたしますわ!」
アクアが、手に持った、コップの水を、ぶちまけながら、高らかに宣言した。
「水芸の一種ね! さすが、私! ……どう? カズマ? 今の、美しかった?」
「拭けよ! 床が、びしょびしょだろ! ってか、その水芸、以前、『宴会芸』って言ってた奴と、まったく、同じやつだろ! 進歩しろ!」
「どうして、褒めてくれないの!? 私、今、すごく、がんばったのよ!?」
「うるせえ! まず、片付けろ!」
「では、次は、我の、出番だな。我が、爆裂道の、真髄を、詠唱にて、披露しよう。カズマよ、よおく、胸に、刻むのだ」
「てめえ、台所で、火を使うな! 『真髄』を、詠唱だけで、済ませろ!」
「我は、爆裂魔法の、使い手! その、我が、魂を、言葉に乗せる! 『紅魔の、系譜に、伝わりし、爆ぜの、力よ……』」
「ああ、カズマ様! どうか、私にも、その、神聖な、お叱りを、……お叱りを、くださいませ! 今日は、何を、して、お怒りいただけますか? 床を、這って、お許しを、乞いましょうか?」
「同じこと、二回、言ってんじゃねえよ! お前は、ちょっと、正気に、戻れ!」
「ええ、そうですわ。正気など、もう、とうの昔に、失っておりますわ。あなたという、光の、前に」
「……皆さん。少し、落ち着きましょう。せっかくの、お祝いの、席ですのよ」
「エリスは、なんか、楽しそうだな! 一番、他人事みたいな、顔して!」
「まさか。私は、心から、楽しませていただいておりますわ。佐藤君の、ツッコミという、尊い、時間を、共有できて」
「腹黒い笑顔で、すごすごと、楽しんでそうな、物言いを、やめろ!」
俺は、リビングの、床に、座り込んだ。
頭が、痛い。胃も、痛い。
でも、なんだろう。この、騒がしさが、今日は、妙に、あたたかい。
四人が、俺の、周りで、笑って、泣いて、騒いでいる。
……さっきまで、あんなに、重い、空気だったのに。
「カズマあ、……ほんとに、ごめんね。私、カズマが、誰かを、選ぶなら、……私が、身を引けば、いいんだって、思ってたの。……でも、カズマが、全員で、いるって、……言ってくれて、……ほんと、嬉しかったの」
アクアは、隣に座り、俺の、肩に、頭を、預けてきた。
「我も、同じ、気持ちだ。……カズマの、あの、怒鳴り声で、我の、心の、しこりが、吹き飛んだ。我は、カズマという、爆裂道の、同志を、失わずに、済んだ。……それだけで、今夜は、酒が、飲めるな」
「飲むな。お前、十四だろ」
「カズマの、その、正しき、叱責! ああ、私も、十四に、なりたい!」
「ならなくていい! お前は、まず、十八歳としての、常識を、身につけろ!」
「……私たち、五人、きっと、うまく、いきますわ。……佐藤君が、真ん中に、いてくだされば」
エリスが、テーブルの、向こうから、そっと、微笑んだ。
その時だ。
俺の、スマートフォンが、振動した。
画面を、見る。
『宮原先生』
担任の、宮原忠彦。
こんな時間に、電話?
嫌な予感が、背中を、走った。
俺は、通話ボタンを、押した。
『……佐藤君? 私だ。宮原だ。今、大丈夫か』
「……ああ、大丈夫、です。……何か、ありましたか」
『明日の文化祭、……2年3組の、『異世界カフェ』、……中止だ』
冗談、だよな。
そう、思いたかった。
『めぐみんの、爆裂魔法と、ララティーナの、接客態度。……学校に、苦情が、来てるんだ。……悪いな、佐藤君。お前が、一番、苦労しているのは、……先生にも、わかって、るんだが、……学校側の、決定だ』
「……いや、……でも、……明日なんですよ。……今から、……ここから、……なんで、……そんな」
俺の、声は、かすれて、うまく、出てこなかった。
電話が、切れた。
リビングが、静まり返る。
さっきまで、あんなに、騒がしかったのに。
水を、打ったような、静寂。
四人が、心配そうに、俺の、顔を、覗き込んで、いる。
「……カズマ?」
「文化祭の、……中止だ、って。……俺たちの、クラスの、……出し物が」
俺が、そう、言った。
アクアと、めぐみん、ダクネス、エリスの、顔から、さあっと、血の気が、引いていく。
「……そんな」
「我の、爆裂の、せいか。……我の、爆裂の、せいで、……文化祭が」
「いえ、私の、せいも、あるわ。……私が、もっと、自重できていれば」
俺は、スマホを、床に、置いた。
指先が、冷たい。
明日は、文化祭。
あんなに、みんなで、準備したのに。
……全部、無駄になった。
「……どうすんだよ、これ。……はは、……なんで、こう、……俺の、人生、……うまく、いかない、かな」
乾いた、笑いが、漏れた。
絶望が、心の中を、ゆっくりと、浸していく。
「……佐藤君」
その時、エリスが、顔を、上げた。
深い、紫銀の、瞳が、真っ直ぐに、俺を、見据えていた。
「私たち、……五人で、……何とか、しましょう」
彼女の、声は、静かで、力強かった。
「まだ、終わっては、いませんわ。……あなたが、真ん中で、……私たちを、結んで、くれました。……今度は、私たち、全員が、あなたのために、……動くのです」
「……ああ、そうだな! カズマ! 私、なんだか、世界で、一番、美しい、女神の、作戦を、思いついちゃったの!」
「我も、爆裂道の、奇策を、脳内に、組み立て中だ! カズマよ、文化祭、我に、任せろ!」
「私も、騎士の、名誉に、懸けて、この、不名誉を、挽回して、見せますわ。……佐藤カズマ様の、笑顔を、取り戻すために」
四人が、俺の、周りに、集まってくる。
さっきまで、涙で、ぐしょぐしょだった、四人の、瞳は、もう、新たな、決意に、燃えている。
「……お前ら、……やっぱり、バカだな」
俺は、苦笑した。
でも、今度こそ、わかった。
こいつらは、きっと、明日、文化祭を、なんとかするか、それとも、取り返しのつかない、大爆発を、起こすか。
いや。
きっと、両方を、同時に、起こすのだ。
俺は、覚悟を、決めた。
「……よし。……やってやるよ。……お前ら全員、かかってこい」
窓の外では、いつの間にか、雨が、降り出していた。
冷たい、十一月の、雨が、ガラスを、打つ。
文化祭前夜。
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