この素晴らしい学園に祝福を!
佐藤カズマ、高校二年生。転校初日、うっかり自分を異世界から来た勇者だと自己紹介してしまう。その夜、彼の天井を突き破って全裸の女神アクアが落ちてきた。彼女はカズマをファンタジー世界へ連れて行くはずだったが、書類手続きのミスで、二人とも現代日本の高校生として転生してしまっていた。翌日、中二病の少女めぐみんと、ドMなお嬢様ダクネスもまた、同じ世界から転生してきた者だと判明する。
四人は元の世界へ帰る方法を探しながら共同生活を強いられ、次から次へと騒動を引き起こす。アクアは借金を作り、めぐみんは校庭で爆裂魔法を叫んで気絶し、ダクネスは教師に叱られるたびに興奮する。それでも三人の少女は次第にカズマに惹かれていく。アクアは彼が自分にとって一番大切だと宣言し、めぐみんは彼と共に爆裂の道を歩みたいと願い、ダクネスは彼に自分を罰してほしいと懇願する。そんな中、学園一の美女である生徒会長エリスも彼に近づいてくる。ハーレムは四つ巴の戦場と化す。
文化祭前夜、三人の少女が同時にカズマへ告白し、エリスは彼を屋上に呼び出して、四人が密かに「それぞれが彼に『自分を選ばないで』と伝えて彼を試す」という約束をしてい
この素晴らしい学園に祝福を! - 上級生はドM騎士!教員室の惨劇とお嬢様の秘密
「おいカズマ、起きなさいよ! 学校遅れるわよ!」
朝のリビングに、キンキン声が響く。
俺、佐藤カズマは、ソファから体を起こした。首が痛い。昨日も夜勤明けで、ろくに眠れていない。布団で寝た記憶すらあやしい。
「……うるせえな。今起きる」
目をこすりながら時計を見る。午前七時四十分。やばい。一限目に間に合わない。
「カズマよ。朝餉はまだか。我は腹が減って死にそうだぞ」
テーブルの前にちょこんと座った小柄な少女が、深紅の瞳をこちらに向けている。黒い眼帯、右手の包帯、そして朝からマントを羽織る姿。相変わらずだ。
「自分で食え。パンなら戸棚にあるだろ」
「カズマは女神である私を、パンで済ませろとおっしゃるの? 朝からお米とお味噌汁と焼き魚が食べたいわ」
アクアは腰まで届く水色の髪を揺らして、不満げに唇をとがらせた。濡れたような髪が、朝の光を反射してきらきらしている。美しいのは認めるが、言ってることは一国の姫か何かだ。
「知るか。魚なんかあるわけねえだろ。つーか、お前ら二人とも、俺に朝飯作らせるのやめてくれない? 俺はお前らの母親じゃないんだぞ」
「勿論わかっている。カズマは我が唯一無二の契約者にして、爆裂道の同志。母ではないな」
「そういう問題じゃねえんだよ!」
朝から大声を出して、頭に血が上った。ああ、疲れる。
俺の佐藤家には、今、二人の居候がいる。元女神の天野アクアと、元爆裂魔法使いの紅めぐみん。二人とも、異世界ヴェルディナから現代日本へ、手続きミスで転生してきた奴らだ。
そして、二人とも全く働かない。アクアは働く気ゼロ。めぐみんは「爆裂魔法の研究が忙しい」と言い訳して、学校から帰ると万年床で魔法書らしきノートを読みふけっている。
家計は火の車。借金はまだ四十五万円近く残っている。コンビニの夜勤を週三回こなして、それでも食費を削る毎日だ。
なのに、だ。
「カズマ! 今日のお弁当は何を作ってくれるの? 卵焼きと唐揚げがいいわ!」
「我は、こんがり焼いた鮭と、梅干しが入った白米を希望する!」
「……二人とも、給食だ。高校に弁当持って行く奴なんかいねえよ」
俺は冷蔵庫を開けて、中身の少なさにため息をついた。ウインナー、卵、キャベツ、豆腐。あと、味噌の残り。これでやりくりするしかない。
結局、テキトーに卵を焼いて、ウインナーを炒めて、即席の朝食を並べた。二人は文句を言いながらも、綺麗に平らげた。
学校へ行く支度を整え、自転車を漕ぎ出す。十月の陽凪市は、朝晩冷える。風が冷たい。
校門をくぐり、二年三組の教室に入る。いつもの席、窓際の一番後ろに座る。もう周囲の視線に怯えはない。どうせ、転校して一月も経てば、クラスメイトの興味も薄れる。俺は「中二病転校生」として、クラスの隅で静かに過ごすのが定着しつつあった。
一限目、国語。担任の宮原忠彦、四十二歳。温厚そうな顔の先生は、いつものようにゆっくりとした口調で教科書を読み上げる。
まぶたが重い。
昨夜も夜勤で、ほとんど眠れなかった。意識が遠のく。教卓の向こうに、宮原先生の顔がぼやけて見える。
ダメだ。眠い。
俺は、夢うつつの中で、こっくりこっくりと舟を漕いだ。
「――佐藤君」
はっ、と顔を上げる。宮原先生が、困ったような顔で俺を見ていた。
「佐藤君、後で職員室に来なさい。話があるから」
教室のあちこちから、くすくすと笑い声が聞こえる。ああ、まただ。俺は小さくため息をついて、机に突っ伏した。
昼休み。
俺は重い足取りで職員室へ向かった。
職員室は、本館二階の中央にある。ドアを開けると、コーヒーの匂いと、大量の書類のインクの匂いが混ざった、独特の空気が鼻をつく。
宮原先生の席は、窓際の一番奥だった。
「佐藤君、こっちへ」
呼ばれて、そちらへ向かおうとした、その時。
「――だから、君は! 何度言ったら分かるんだ!」
隣の席から、どなり声が飛んできた。生活指導の教師が、一人の女子生徒を叱りつけている。
見た感じ、上級生だ。ウェーブのかかった金髪。背筋をピンと伸ばした姿勢。首元には赤い宝石のネックレス。横顔は、モデルか何かかと思うほど整っている。
だが。
その整った顔が、今、だらしなく緩んでいた。
教師が怒鳴るたびに、彼女の頬は上気し、碧い瞳はうっとりと潤んでいく。唇が、ほんの少し、震えている。
「君は、どうして、そう、問題ばかり起こすんだ!」
「は、はい……申し訳ありません……」
謝罪の言葉とは裏腹に、彼女の声は、どこか甘く、弾んでいた。
……何だ、あれ。
思わず、目が釘付けになった。怒られるたびに、喜んでいる? いや、喜んでいるどころか、恍惚としている。
背中を、冷たいものが走った。
(……かかわるな。見なかったことにしろ)
本能が叫んでいる。あれは、関わってはいけないタイプの人間だ。
俺は、音を立てずに、くるりと体を反転させた。
その時。
ガタンッ。
椅子が倒れる音がした。
振り返るより早く、誰かが俺の前に回り込んでいた。金の髪が、ふわりと揺れる。あの、上級生。
「あなたが、佐藤カズマさん……ですね?」
彼女は、俺の手を、両手でぎゅっと握りしめた。手は熱く、汗ばんでいた。
「なっ……え? 何で俺の名前を」
突然のことに、声が裏返る。
「私は、二年三組の教室で、あなたの輝かしいツッコミを、何度かお見かけしました。クラスメイトの、めぐみんさんや、アクアさんと、それはそれは、見事なやり取りを」
彼女は、うっとりとした表情のまま、さらに一歩、俺に近づいてきた。
「あの、突然で、誠に、図々しいお願いなのですが……私を、どうか、この場で、いえ、二人きりの場所で構いません。私を、クズ、と、罵ってくださいませんか」
……は?
俺の頭は、一瞬、完全にフリーズした。
「お願いです。カズマさん。あなたの、あの、容赦ない、心に突き刺さるようなお言葉で、私を、ぎゅうぎゅうに、していただきたいのです」
彼女は、食事に誘うような気軽さで、とんでもないことをのたまった。碧い瞳は、期待に爛々と輝いている。
「……無理」
絞り出した声は、ひどくかすれていた。
そして、俺は、走った。
「あっ、お待ちください、カズマさん! そんなに激しく逃げられると、追いかけたくなってしまいますわ!」
追いかけてくるな!
職員室を飛び出し、廊下を全力疾走する。後ろから、パタパタとスリッパの音が追いかけてくる。
なんでだ! なんで追いかけてくるんだ!
俺、佐藤カズマ。高校二年生。ごく普通の、平穏な暮らしを望む男。なのに、なぜかいつも、こうなる。
廊下の角を曲がり、階段を駆け下りる。息が切れる。足がもつれる。運動不足がたたっている。
振り返ると、あの金髪の上級生は、なんと、スリッパを脱ぎ捨てて、裸足で猛追してきていた。
「カズマさあん! 待ってくださいまし! 私、あなたに、思い切り、カス、ゴミ、役立たず、とおっしゃっていただきたいだけですの!」
「やめろ! 廊下で叫ぶな! 追いかけてくるな!」
俺は、ついに、校舎の外、中庭に出た。
しかし、そこで、俺は足を止めてしまった。
「む……そこの、生意気な変人め」
中庭には、めぐみんがいた。昼休みのおかずを探して、廊下をうろうろしていたらしい。俺と、俺を追うララティーナを見て、深紅の瞳を細めた。
「カズマよ。何故お主が、見知らぬ女に追われている? まさか、我という最高の同居人がいながら、他の女に目を移した、など、いうのではないであろうな」
「違う! 全然、違うから!」
「あ、あの、カズマさん。こちらのお小さなお嬢さんは、どなたですの? まあ、眼帯をして、マントを羽織って、なんて、可愛らしい」
「お小さくない! 我は紅魔族の天才魔法使い、めぐみんである! 見知らぬ、色香を振りまく、金髪の魔女よ、カズマから、離れろ!」
ララティーナは、怒るめぐみんを見て、一瞬、目を見開いた。
そして、次の瞬間。
「はっ……」
彼女の頬が、ぶわっと、真っ赤に染まった。
「こ、これは……本物の、殺気……! ああ、小さな体で、精一杯の脅し……なんて、素敵……!」
「何だ、この女は! 気持ち悪い!」
俺は、頭を抱えた。
もう、だめだ。
理解の外側にいる。この女は、アクアやめぐみんと、また違うベクトルで、壊滅的に、変人だ。
「……はあ」
深い、深いため息をついた。
ララティーナと名乗った上級生は、俺の反応を見て、感激の声を上げた。
「その、何もかもを諦めたような、魂のこもったため息……! 素晴らしいですわ! 私、初めてです。私を見て、そんなに、深く、落胆してくださった殿方は!」
「褒めてない! お前を褒めてるわけじゃないからな!」
「わかっておりますわ。これが、叱咤、激励、いえ、無関心と軽蔑が、絶妙にブレンドされた、神の、否、カズマさんだけが到達できる、至高の境地……。もっと、もっと、お願いします。私を、虫けらと、お呼びくださいまし!」
ララティーナは、両手を胸の前で組んで、うっとりと、天を仰いだ。
ああ、もう、無理だ。
放課後。
俺は、全てをあきらめて、ララティーナを家に連れて帰ることにした。正確には、追いかけてきたララティーナが、勝手に、佐藤家の場所までついてきた。
家の前につくと、ララティーナは、感極まったように言った。
「ここが、カズマさんのお住まい……。私、運命を感じますわ」
「感じるな。帰れ」
「勿論、帰る気はありませんわ。それに、カズマさん。私は、ただ追いかけてきたのではありません。あなたに、大切なお話があるのです」
彼女は、急に真剣な顔になった。
「私の、本当の名は、ダクネス。ヴェルディナ王国の、名門貴族、ダスティネス家の令嬢にして、王国騎士団の、元騎士ですわ」
……ああ、やっぱり。
俺は、予感していた。この、頭のおかしな上級生も、アクアやめぐみんと、同類。
俺は、家の鍵を開けながら、ララティーナ、いや、ダクネスの言葉に、耳を傾けた。
「私は、この世界に来てから、ずっと、探していたのです。私の、この、どうしようもない、この、奮い立つような、叱られることへの、穢れた喜びを、受け止めて、裁いてくださる方を。しかし、この世界の方は、どなたも、優しすぎる。私を、本気で、叱ろうとしない。だから、私は、探し続けていたのですわ」
ダクネスは、熱っぽく語る。
「あなたの、ツッコミは、素晴らしい。容赦がなく、無慈悲で、しかし、どこか、暖かくて。これよ! これが、私の求めていた、叱責! カズマさん、どうか、私にも、その、愛のムチを!」
「……愛のムチじゃねえよ。ただの説教とツッコミだよ」
俺の一言に、ダクネスは、ぴょんと、飛び跳ねた。
「あはあっ……さらに、容赦なく、訂正、なさった……! 私の、恥ずかしい、言い間違いを、正して、くださった……! ありがとうございます……! もっと、もっと、ダメ出しを、してくださいまし……!」
「キモい! マジでキモい! なんでこうなるんだよ!」
ガチャリ、と鍵を開けて、玄関に入る。ダクネスも、ずかずかと、後ろから、ついてきた。
「ただいまー」
リビングから、バタバタと、二人分の足音がした。
「おかえりなさい、カズマ! って、え? ちょっと、誰よ、その、性悪そうな、金髪の女!」
アクアが、玄関に飛び出してきた。水色の髪を、ゆらゆらと揺らしながら、目を三角にして、ダクネスを指さす。
「え、な、何? どういうこと? カズマが、私以外の女を、家に、連れ込んだ……?」
アクアの声が、みるみる、涙声に変わる。
「お、落ち着け、アクア。紹介する。このドМは、ダクネス。新しい、同居人だ。よろしく」
俺が言うと、アクアは、ばっと、身を乗り出した。
「同居人!? なんで、そんな、金髪の、エロそうな、変な女と、同居しなきゃいけないのよ!? カズマ、あなた、正気? 私という、最高の女神が、いるでしょうが!」
「アクアよ、うるさい。カズマは、我という、至高の、爆裂魔法使いを、差し置いて、このような、魔獣を、飼う、と、言うのなら、我は、嫉妬に、狂ってしまうぞ」
廊下の奥から、めぐみんも、ひょこひょこと、現れた。眼帯の下の深紅の瞳が、ダクネスを、じろりと、睨んでいる。
「あら、あなたは、昼間の、眼帯の、お嬢さん。それに、水色の髪の、女神さま。ふふ、私は、霧島ララティーナ。カズマさんの、新しい、叱られ役ですわ。以後、お見知りおきを」
ダクネスは、二人の敵意を、ものともせず、優雅に、お辞儀をした。
「は? 叱られ役? 何それ、バカなの?」
「バカではありませんわ。私は、ただ、カズマさんに、私のすべてを、委ね、その、愛の、お叱りを、受けたい、と、願っているだけですの」
「き、キモイ! この女、キモイわよ、カズマ!」
アクアが、ぴょんぴょん跳ねながら、叫ぶ。
「落ち着け。俺も、キモイって、思ってるから」
「でも、カズマ、あなた、この女を、家に、入れたでしょ? もう、私のこと、必要、なくなりましたの……?」
アクアの瞳に、涙が、にじむ。
「そうじゃない。そうじゃなくて、だな。こいつも、俺と、同じで、ヴェルディナの、転生者で、帰る家が、ないんだよ。ほっとけるわけ、ないだろ」
俺が、ぶっきらぼうに、言うと、アクアは、口を、への字に、曲げた。
「……はあ。カズマの、そういう、お人好しなところ、私、嫌いじゃないけど、好きなんだけど、でも、なんか、ムカつく。しかも、こんな、美人の、おっぱいの、大きな女、かばうとか、なおさら、ムカつく」
アクアは、ダクネスの、豊かな胸を、じとっと、見つめた。
「おっぱいの大きな女とは、失礼ですわ。ですが、カズマさん、私を、かばって、くださる、と? ああ、なんて、優しい。でも、私は、優しさではなく、もっと、厳しい、お言葉を、かけていただきたい、のです」
「もういい。全員、中に入れ。夕飯、作るから」
俺は、頭を、ぼりぼりと、かきながら、リビングへ、向かった。
夜。
夕飯は、節約のため、豆腐とキャベツの味噌汁、卵焼き、ウインナーだけ。四人分にしては、あまりに、質素な、食卓だった。
「ちょっと、カズマ、おかず、少なすぎない? これじゃ、私の、美しい、肌が、荒れちゃうわ。肌が!」
アクアが、箸を、持ったまま、文句を、言った。
「我も、肉が、食べたい。カズマよ、これは、爆裂魔法使いへの、虐待であるぞ」
めぐみんも、頬を、膨らませる。
「この、ウインナー、香ばしくて、美味しいですわ。カズマさん、料理、お上手なのね」
ダクネスだけは、なぜか、褒めて、くれた。
食事が終わると、ダクネスは、おもむろに、自立して、うろうろし始めた。
しばらくして、彼女が、洗面所の、壁に貼り付けてある、紙の束を、見つけて、俺は、ぎょっとした。
それは、ダクネスが、持っていた、バイトの、面接不採用通知の、写しだった。
俺は、夕食前に、何気なく、彼女の、紙袋を、覗いて、見つけてしまったのだ。
書類には、こう、書かれていた。
『不採用理由:面接中、不適切な発言があったため』
『不採用理由:自己PRの内容が、当社の求める人物像と、著しく、乖離していたため』
何枚も、何枚も、ある。
俺は、ダクネスに、紙束を、突きつけた。
「おい、ダクネス。これ、全部、お前の、面接、落ちた、通知だよな? なんで、こんなに、たくさん、持ってるんだ?」
ダクネスは、照れ笑いを、浮かべた。
「ええ。私、アルバイトの、面接を、三十二軒、受けまして、全部、落ちましたの。面接官の方に、『何か、一言、どうぞ』と、言われたので、正直に、『私は、叱られることに、この上ない、喜びを、感じる、変態です』と、申し上げたのが、いけなかったかしら」
ちなみに、最初の、二軒は、大人しく、受け答えを、したのだが、その、二軒は、受かってしまった、らしい。
すると、彼女は、採用の、電話を、断った、という。
「採用、されたら、叱られる、機会が、減ってしまいますもの」
ドヤ顔で、言い切られた。
「お前、それ、どういう、理屈だよ! 働けよ! 面接受かれ! なんで、わざわざ、落ちに、行くんだよ!」
俺が、ぴしゃりと、言うと、ダクネスは、ふにゃりと、笑った。
「ああ、また、叱っていただけた……。そうですわ。これですわ。この、世界で、私を、正しく、扱ってくれる、殿方に、やっと、会えたのです。カズマさん、私、働きますわ。あなたに、毎日、叱っていただけるなら、私、いくらでも、働いて、見せますわ。だから、どうか、私を、あなたの、隷属騎士、いえ、家族に、してください」
……こいつ、働く、と言った。
でも、その理由が、これだ。
俺は、頭を、抱えて、反省した。ああ、そうか。俺は、この、三人の、変人に、囲まれて、生きていくんだ。
しばらく、無言で、食器を、片付けていると、後ろから、衣擦れの音がした。
振り返ると、ダクネスが、居間の、中央で、体育座りをして、ぷるぷると、震えていた。
「……お前、何してんだ」
「すみません。私、正座を、したかったのですが、正座は、気持ちよすぎて、腰が、抜けて、しまいまして」
「変態か。もういい。風呂、沸かしたから、入って、さっさと、寝ろ。お前の部屋は、二階の、書庫として、使ってた、六畳だ。布団、敷いておいた」
俺が、言い放つと、ダクネスは、ゆらりと、立ち上がり、俺の、手を、取った。
「カズマさん。ありがとうございます。私、この恩は、一生、忘れませんわ。必ず、あなたを、お守りします。騎士として、この、身が、砕けるまで、あなたのために」
彼女の、碧い瞳は、潤んで、真剣だった。
ほんの、一瞬、何かが、くすぐったくて、目を、逸らした。
「……はいはい。風呂、沸かしたから、入れよ。あと、そこで、いちいち、大げさな、口上を、述べるな」
俺が、そっけなく、言うと、ダクネスは、にっこり、微笑んで、風呂場へ、消えた。
時計を見る。午後九時。
夜勤は、午後十一時からだ。それまでに、少し、休んでおくか。
リビングの、ソファに、座る。テレビをつけると、バラエティ番組が、流れていた。
アクアが、相変わらず、テレビの前で、ゲラゲラ笑っている。
めぐみんは、ソファの、端で、器用に、居眠りしている。
風呂場からは、ダクネスの、鼻唄が、聞こえる。
俺は、ふと、思う。
中学の、失恋。告白して、笑われて、それから、ずっと、誰かを、信じるのが、怖かった。
でも、今。
ここに、めちゃくちゃに、振り回す、三人の、居候が、いて。
それが、なんだか、妙に、騒がしくて、妙に、あたたかくて。
俺は、今日も、これから、夜勤へ、行く。
「カズマよ! 明日も、我の、爆裂を、見に、来るの、じゃぞ……むにゃ……」
寝言。
「あら。これは、夢かしら。カズマ様と、二人きり。こんな、幸せな、夢を、見るなんて、私、どうしてしまったのかしら」
同じく、寝言。
こいつら、なんで、揃いも揃って、そんな、寝言を。
俺は、小さく、笑って、立ち上がった。
玄関で、靴を履く。
「……行ってくるか」
誰に言うでもなく、そう、呟いて。
俺は、冷たい、夜の空気の中へ、自転車を、押し出した。Noveliaとは?
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