アブソリュート・デュオ if 〜もう一人の双刃〜
妹を殺した男を追って、焔牙使いの名門・昊陵学園に入学した九重透流。しかし彼が顕現させた焔牙は、攻撃能力を持たない「楯」だった。入学式の会場に響く嘲笑。それでも透流は耐える。守るために強くなる、と。たとえその力が、復讐のためだけに研ぎ澄まされていたとしても。
これは、武器にならない楯を抱えた少年が、それでも前に進もうとする物語。資格の儀で対峙する明るい少女・永倉伊万里。不気味な笑みを浮かべる幼き理事長・九十九朔夜。そして、胸の奥に沈めた妹の記憶。彼の楯が、やがて多くの少女たちの運命を狂わせていく——。
これは、もう一つの「双刃」の物語。復讐と守護の狭間で揺れる少年の、静かな幕開けです。
アブソリュート・デュオ if 〜もう一人の双刃〜 - 穂高みやびの告白 ― 迫り来る七曜の凶刃
製鉄所跡地での任務から、数日が経っていた。
学園には、いつもの日常が戻っている。昼休みの教室には、生徒たちの笑い声と、購買で買ったパンの匂いが漂っていた。
九重透流は、自分の席でぼんやりと窓の外を見ていた。碧霞山脈の稜線が、青い空に溶けるように続いている。
(七曜……か)
理事長・九十九朔夜の言葉が、まだ耳の奥に残っていた。
――七曜があなたたちを試した可能性が高い。
製鉄所跡地で見つけた謎の紋章。あれは、七曜という組織のものだという。第二次焔牙戦争で壊滅したはずの、危険な集団。その残党が、自分たちを監視している。
透流は、左手首の黒いリストバンドを右手でそっと撫でた。
(気にするな。俺の目的は、ただ一つだ)
復讐。妹の音羽を殺した鳴皇榊を見つけ出し、その手で終わらせる。それ以外のことは、全部どうでもいい。
そう、思っていた。
「透流くん、お昼、一緒に食べない?」
ふわり、と柔らかな声が降ってきた。
顔を上げると、そこには穂高みやびが立っていた。
ふんわりとした栗色のセミロングを、大きなリボンで結んでいる。優しげな琥珀色の瞳が、透流をじっと見つめていた。胸の前で、小さな手を組んでいる。いつもの彼女の癖だ。
「みやび……」
透流は、少しだけ身構えた。
みやびは、巴の元パートナーだ。絆双刃の組み替えで、今は巴と別々のペアを組んでいる。だが、彼女は何かと透流に話しかけてくる。そのたびに、透流はどう反応していいのか分からなかった。
みやびの後ろから、もう一人の影がひょいと顔を出した。
「あんた、また一人で食べるつもりだったの?」
橘巴だ。
ストレートロングの黒髪を、今日は後ろで一つに結んでいる。凛とした漆黒の瞳が、透流をまっすぐに見ていた。眉間にうっすらと皺が寄っている。真剣な時の、彼女の癖だ。
「別に、一人でも構わない」
「駄目よ。絆双刃なんだから、一緒に食べるに決まってるじゃない」
巴は、有無を言わせない口調で言った。
透流は、小さくため息をついた。
(こいつは、いつもこうだ)
強引で、真っ直ぐで、こっちの都合なんてお構いなし。でも、その強引さに救われている自分がいるのも、事実だった。
「あの、私もご一緒していいですか? お弁当、多めに作ってきたんです」
みやびが、遠慮がちに言った。
透流が返事をする前に、巴が口を開いた。
「もちろんよ! みやびの料理は美味しいんだから、透流も楽しみにしなさい」
「……分かったよ」
透流は、観念して頷いた。
三人は、教室の隅にある空いた机を囲んで座った。
みやびが、丁寧に包まれた弁当箱を二つ取り出す。一つは巴に、もう一つは透流に差し出した。
「はい、どうぞ。……あの、口に合うか分からないんですけど」
みやびの頬が、ほんのりと赤い。
透流は、弁当箱を受け取った。蓋を開けると、中には色とりどりのおかずがぎっしりと詰まっている。卵焼き、唐揚げ、ポテトサラダ、ほうれん草のごま和え。そして、白いご飯の上には、梅干しが一つ。
(……すごいな)
素直に、そう思った。
「これ、全部手作りか?」
「はい。……あの、透流くん、唐揚げが好きだって聞いたので、多めに入れてみました」
みやびは、胸の前で手を組みながら、恥ずかしそうに言った。
透流は、一瞬、言葉に詰まった。
(俺の好物を、知ってるのか?)
誰から聞いたのかは分からない。でも、みやびが自分のために、わざわざ好物を入れてくれた。その事実が、透流の胸の奥をくすぐった。
「みやびの唐揚げ、本当に美味しいのよ。透流、遠慮しないで食べなさい」
巴が、無邪気に笑った。
透流は、唐揚げを一つ口に運んだ。
衣はカリッとしていて、中はジューシー。醤油ベースの味付けが、ご飯によく合う。
「……美味い」
思わず、本音が漏れた。
みやびの顔が、ぱあっと明るくなった。
「本当ですか? よかった……」
みやびは、心から嬉しそうに微笑んだ。
その笑顔を見て、透流はなぜか、目を逸らした。
(なんだ、この感じは)
胸の奥が、むずがゆい。
みやびの視線が、ずっと自分に向いている。その熱さに、透流は居心地の悪さを感じていた。
「透流、どうしたの? 顔が赤いわよ」
巴が、首をかしげた。
「……赤くない」
透流は、慌てて顔を背けた。
「何よ、照れてるの?」
「照れてない」
「ふふ、照れてるわ。あんた、分かりやすいんだから」
巴が、楽しそうに笑った。
みやびも、くすくすと笑っている。
透流は、二人の笑い声に包まれながら、弁当を食べ進めた。
(悪くない……か)
心の中で、そう呟いた。
放課後。
透流と巴は、いつものように訓練場「焔武館」へ向かった。
広さ5,000m²の屋内訓練施設。模擬戦用の結界が張られていて、思い切り焔牙を振るっても周囲に被害が出ないようになっている。
今日は、そこにみやびも一緒だった。
「あの、透流くん。私も訓練に混ぜてもらってもいいですか?」
みやびが、おずおずと申し出た。
透流は、巴の顔を見た。
「私は構わないわ。みやびの騎兵槍、久しぶりに見たいし」
巴は、あっさりと頷いた。
「……分かった。でも、無理はするなよ」
透流は、みやびに言った。
「はい、ありがとうございます」
みやびは、嬉しそうに微笑んだ。
三人は、訓練場の中央に立った。
「じゃあ、始めるわよ。透流、楯は出しておきなさい」
巴が、右手を前に突き出した。
瞬間、彼女の手から銀色の光が溢れ出る。光は瞬く間に形を変え、一本の鎖へと変わった。
巴の焔牙「鉄鎖」。橘流十八芸の跡継ぎが操る、攻撃に特化した焔牙だ。
透流も、左手を前に出す。
深緑の光が収束し、彼の左手に巨大な楯が出現した。
透流の焔牙「楯」。攻撃力のない、異端の焔牙。
「私も行きます」
みやびも、両手を胸の前で組んだ。
琥珀色の光が弾け、彼女の手に一振りの騎兵槍が現れた。
みやびの焔牙「騎兵槍」。リーチの長さを活かした突きと薙ぎ払いが得意な、バランスの取れた焔牙だ。
「まずは、私が攻めるわ。透流、みやび、合わせなさい」
巴が、地面を蹴った。
鉄鎖が、蛇のようにしなり、透流の楯の横をすり抜けて前方へと伸びていく。
透流は、楯を構えて巴の動きを追った。
みやびも、騎兵槍を構えて巴の後ろから駆け出す。
「そこっ!」
巴の鉄鎖が、空気を裂いて打ち下ろされる。
透流は、楯を斜めに傾けて、巴の攻撃を受け流す。
ガキンッ!
金属音が響き、火花が散った。
「次は私です!」
みやびの騎兵槍が、透流の脇腹を狙って突き出される。
透流は、半歩後ろに下がりながら、楯の縁で槍の穂先を弾いた。
キンッ!
軽い音。みやびの槍は、わずかに軌道を逸らされる。
「いいわ、みやび! 息が合ってきたじゃない!」
巴が、嬉しそうに叫んだ。
みやびは、少し息を弾ませながら、笑顔で頷いた。
「はい。透流くんの楯の動きが分かると、すごく合わせやすいです」
みやびの視線が、透流を捉える。
その瞳には、尊敬と、そして別の何かが混ざっているように見えた。
透流は、その視線から逃れるように、楯を構え直した。
「まだまだ行くわよ!」
巴の鉄鎖が、再び襲いかかる。
三人の模擬戦は、日が傾き始めるまで続いた。
訓練が終わり、三人は訓練場の隅で休憩していた。
透流は、タオルで汗を拭きながら、壁にもたれかかっていた。
巴は、鉄鎖を手入れしながら、満足そうに頷いている。
みやびは、水筒の水を一口飲んでから、透流の隣にちょこんと座った。
「透流くん、今日はありがとうございました。私、もっと透流くんと一緒に戦いたいです」
みやびが、真剣な瞳で透流を見上げた。
透流は、その言葉に、ドキリとした。
(一緒に戦いたい……か)
みやびの瞳は、琥珀色の光を宿していて、吸い込まれそうなほど美しかった。
「……ああ、俺も、お前の槍は頼りになると思った」
透流は、素直な感想を口にした。
みやびの顔が、ぱっと輝いた。
「本当ですか? 嬉しいです……!」
みやびは、胸の前で手を組み、体を小さく揺らした。
その仕草が、小動物のように可愛らしくて、透流は思わず笑ってしまった。
「お前、そんなに嬉しそうにすると、こっちが照れるだろ」
「え、あ、ごめんなさい……」
みやびは、顔を真っ赤にしてうつむいた。
「何やってるのよ、あんたたち。早く片付けるわよ」
巴が、呆れたように言った。
だが、その口元は、わずかに笑っていた。
その夜。
透流は、寮の自室で一人、窓の外を見ていた。
巴は、風呂に行っている。部屋には、静かな夜の空気だけが流れていた。
コンコン。
突然、ドアがノックされた。
透流は、立ち上がってドアを開けた。
そこには、みやびが立っていた。
「……透流くん。今、大丈夫ですか?」
みやびは、周囲を気にするように、声を潜めていた。
「みやび? どうしたんだ、こんな時間に」
「あの……少しだけ、話したいことがあるんです。屋上に来てもらえませんか?」
みやびの瞳は、真剣そのものだった。
透流は、少し迷ったが、頷いた。
「分かった。行こう」
二人は、誰にも見つからないように、寮の屋上へと向かった。
屋上には、冷たい夜風が吹いていた。
空には、無数の星が瞬いている。碧霞山脈の黒い稜線が、星明かりを背に浮かび上がっていた。
みやびは、手すりに手を置き、空を見上げた。
透流は、その隣に立った。
しばらく、沈黙が続いた。
「……透流くん」
みやびが、ぽつりと口を開いた。
「私、透流くんのことが好きなんです」
透流は、動けなくなった。
みやびは、ゆっくりと透流の方を向いた。
琥珀色の瞳が、涙で潤んでいる。
「巴ちゃんのパートナーだった私が、こんなこと言っちゃいけないって、分かってるんです。……でも、気持ちを伝えたくて。ずっと、伝えたくて」
みやびの声は、震えていた。
「透流くんが巴ちゃんと組んでから、私、透流くんのことばかり見てました。透流くんの楯、すごく優しくて、強くて……私、透流くんのことが、どんどん好きになってました」
みやびは、一気に言葉を紡いだ。
「私、透流くんと一緒に戦いたい。透流くんの隣で、力になりたい。……これは、巴ちゃんを取られたからじゃないんです。私、本当に、透流くんのことが好きなんです」
みやびの告白は、まっすぐで、痛いくらいに真摯だった。
透流は、言葉を失った。
(俺を……好き?)
頭の中が、真っ白になった。
誰かに好意を向けられるなんて、考えたこともなかった。
透流の人生には、復讐しかなかった。
「……みやび」
透流は、やっとの思いで口を開いた。
「俺は、復讐のためにここに来た。誰かと付き合うとか、そういうのは……考えられない」
透流は、正直に答えた。
これが、自分にできる精一杯の誠意だった。
みやびは、一瞬、泣きそうな顔をした。
でも、すぐに、ふわりと微笑んだ。
「……はい。分かってました。透流くんは、そういう人だって」
みやびの声は、優しかった。
「答えは、急がないです。でも、私、諦めませんから」
みやびは、涙をこらえながら、笑った。
その笑顔は、痛々しいほどに美しかった。
透流は、みやびの強さに、心を打たれた。
(この子は、こんなに強いのか)
振られても、泣かない。むしろ、前を向いて笑う。
透流には、その強さが、まぶしく見えた。
「……ごめん」
透流は、それしか言えなかった。
「謝らないでください。私が勝手に好きになったんですから」
みやびは、首を振った。
その時だった。
――――ッ!!!
学園中に、けたたましい警報が鳴り響いた。
「な、何!?」
透流は、身構えた。
「緊急警報……!?」
みやびも、顔を青ざめさせた。
透流の焔牙端末が、震えた。
画面には、赤い文字が表示されている。
【緊急事態発生。七曜の反応を確認。全生徒は直ちに最寄りのシェルターへ避難せよ】
「七曜……だと」
透流の血の気が、引いた。
「透流くん、巴ちゃんは……!?」
「巴は、訓練場にいるはずだ!」
透流は、走り出した。
「透流くん、待ってください! 危険です!」
みやびの声が、後ろから追いかけてくる。
だが、透流は止まらなかった。
(巴! 無事でいろ!)
心の中で、叫んだ。
訓練場「焔武館」に駆け込んだ透流は、その光景に足を止めた。
巴が、いた。
鉄鎖を構え、何かと対峙している。
そして、その対面には――。
一人の男が、立っていた。
黒い装束に身を包み、両手に異形の剣を提げている。剣の刃は、不気味な光を放っていた。
装鋼。
外部兵装を身にまとった、敵。
「おや、もう一匹来たわね」
男は、透流を見て、嗤った。
「透流! こいつ、強いわ! 気をつけて!」
巴が、叫んだ。
彼女の額には、汗が浮かんでいる。鉄鎖を持つ手も、わずかに震えていた。
「お前、七曜の……月読か」
透流は、男を睨みつけた。
「ご名答。七曜の一人、月読よ。九重透流……見つけたわ」
月読は、舌なめずりをした。
「透流、下がって! こいつは私が――」
巴が、鉄鎖を振りかぶった。
だが、月読の動きは、それをはるかに上回っていた。
「遅い」
月読の姿が、かき消えた。
次の瞬間、巴の目の前に、月読の剣が迫っていた。
「――っ!?」
巴は、とっさに鉄鎖を交差させて防御した。
ガキンッ!!
激しい火花が散る。
だが、月読の斬撃は止まらない。
二撃、三撃と、息をつく間もなく繰り出される。
巴の鉄鎖が、悲鳴を上げるように軋んだ。
「ふふ、鉄鎖ごときで、私の剣を止められると思った?」
月読は、嘲笑った。
「黙りなさい!」
巴は、鉄鎖を振るって反撃した。
だが、月読はひらりと身をかわす。
「遅い、遅すぎるわ。橘流十八芸も、大したことないのね」
月読の剣が、巴の肩をかすめた。
「くっ……!」
巴の制服が裂け、血が滲む。
「巴!!」
透流は、楯を展開して月読に突進した。
「おっと、楯の出番か」
月読は、透流の楯を蹴りつけた。
ドゴッ!
重い衝撃。透流は、数メートル後方に吹き飛ばされた。
「透流! 大丈夫!?」
巴が、透流に駆け寄ろうとした。
その瞬間、月読の剣が、巴の背中を斬り裂いた。
「ああっ!!」
巴の悲鳴が、訓練場に響き渡った。
彼女の体が、ゆっくりと倒れていく。
「巴――ッ!!!」
透流は、地面を蹴って立ち上がった。
楯を構え、月読に立ち向かう。
「ほう、まだ立てるのね。でも、その楯、もうひび割れてるわよ」
月読の指摘通り、透流の楯には、無数のひびが入っていた。
「それでも……お前を止める!」
透流は、楯を前面に押し出し、突進した。
「無駄よ」
月読は、剣を振り下ろした。
バキッ!!
透流の楯が、真っ二つに砕け散った。
「な……!?」
透流の体が、宙に浮いた。
月読の蹴りが、透流の腹にめり込んだ。
ドゴォッ!!
透流は、壁に叩きつけられ、ずるずると崩れ落ちた。
「ふん、楯か。つまらんな」
月読は、倒れた透流を見下ろした。
「お前が九重透流か。鳴皇榊が待っているぞ」
その名前を聞いた瞬間、透流の全身に、稲妻が走った。
「榊……だと……?」
透流は、血を吐きながら、月読を睨み上げた。
「そうよ。あの方が、お前を待っている。せいぜい、早く強くなりなさい。今のお前では、話にもならないわ」
月読は、そう言い残すと、煙のように姿を消した。
訓練場には、静寂が戻った。
「……榊……あの男が……ここに……」
透流は、震える体を起こし、倒れた巴に駆け寄った。
「巴! しっかりしろ! 巴!!」
透流は、巴の体を抱き起こした。
巴の背中からは、血が流れ出ている。制服が、赤く染まっていた。
「……透流……」
巴が、うっすらと目を開けた。
「あんた……無事なの……?」
巴は、透流の顔を見て、安心したように微笑んだ。
「俺は大丈夫だ。お前、喋るな。すぐに医務室に――」
「……良かった……」
巴は、そう呟いて、再び意識を失った。
「巴! 巴!!」
透流は、叫んだ。
だが、巴は目を覚まさなかった。
透流は、巴を背負い、訓練場を飛び出した。
(榊が……あの男が、ここにいる)
復讐心と、そして、底知れない恐怖が、透流の心の中で渦を巻いていた。
巴は、医務室に運ばれ、手当てを受けた。
幸い、傷は深くなく、命に別状はないという。
透流は、巴のベッドの横で、一晩中、彼女の手を握っていた。
「……榊……」
透流は、何度も、その名前を呟いた。
(あの男が、この学園にいる)
月読は、そう言った。
(ならば、俺は……)
透流の心は、復讐の炎に焼かれていた。
だが、その炎の奥には、別の感情もあった。
(また、守れなかった)
巴を、守れなかった。
楯が、砕けた。
(俺は、また……)
音羽の顔が、脳裏をよぎる。
「お兄ちゃん、ごめんね」
あの日の声が、耳の奥で響いた。
透流は、巴の手を握る力を、強くした。
朝が来た。
巴は、まだ眠っていた。
透流は、静かに立ち上がった。
「……ごめん、巴」
透流は、巴の額に、そっと手を触れた。
そして、医務室を後にした。
寮を抜け出し、校舎裏の古い倉庫へと向かう。
榊の気配を探すために。
透流の心は、復讐の炎に支配されていた。
(榊……どこにいる。出てこい)
透流は、倉庫の扉に手をかけた。
その背後で、小さな影が動いた。
九十九朔夜だった。
「……面白くなってきたわね」
朔夜は、不気味な笑みを浮かべて、透流の後ろ姿を見つめていた。
透流は、まだ知らない。
榊との再会が、彼の全てを奪うことを。Noveliaとは?
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