シェリン探偵と呪いの女体化事件簿〜チューリップ組の謎解きはパニックの香り〜
シェリン・バーガンディは世界中の謎を追いかける探偵VTuber。今日も今日とて依頼人はゼロ。チューリップ組の仲間たちとだらだら過ごしていた事務所に、一通の謎の手紙が届く。「呪いの花を探せ」。差出人不明、報酬は金貨百枚。シェリンの目が輝く。「これは怪盗の仕業かもしれない」と、彼はその事件に飛びついた。
手紙が導く先は、町はずれにあるノクターン庭園。そこには夜だけ咲く不思議な花があった。シェリンは相棒のエリーゼとルカを連れて庭園へ。奥深くで、黒いバラのような花を見つける。シェリンがそれに触れた瞬間、まばゆい光が爆発した!
「うわ、なんだこれ!?」
光が消えると、シェリンの体は女の子になっていた。それだけじゃない——エリーゼは男の子に、ルカは……なぜか猫になっていた。チューリップ組はパニックに陥る。「声が高すぎる!」「このスカート、スースーする!」「ニャー!」
呪いを解く方法を探すうち、三人は呪いの花を育てた犯人を追うことになる。怪盗のライバルの助けを借りて、シェリンは手がかりを集めていく。しかし、呪いは一つだけではなかった。町中で人々が入れ替わっている——花屋の店主、パン屋のおばさ
シェリン探偵と呪いの女体化事件簿〜チューリップ組の謎解きはパニックの香り〜 - 呪いの花びらの追跡者 ~恋する男の子と、秘密の重さ~
朝の光が、古びた窓枠の隙間から差し込んでいた。
シェリン・バーガンディは、女の子の体のまま、机の前に座っていた。ワインレッドの髪は後ろでひとつに束ねている。琥珀色の瞳は、机の上に広げた紙の束をじっと見つめていた。左目の下の泣きぼくろが、疲れた表情に影を落とす。
あの夜、二通目の手紙が届いてから、もう三日になる。
「これ以上調べるのをやめろ」——差出人は、シェリンの体内に唄の種が宿っていることを知っていた。誰にも話したことのない、いちばん大事な秘密。それが、見知らぬ誰かに握られている。
それでも。
「……やめるわけには、いかないわ」
シェリンは、ぎゅっと拳を握った。女の子の細い指が、白くなる。
街では今、体の入れ替わりが大混乱を起こしている。花屋の店主は若い娘の体になり、パン屋の常連のお姉さんは大男の体になり、果ては街の英雄まで——性別も年齢も種族も、めちゃくちゃだ。
呪いは、広がっている。
「兄貴! 朝飯、買ってきたにゃ!」
灰色の猫が、窓から飛び込んできた。口に小さな紙袋をくわえている。金色の大きな目が、朝の光にきらきらと輝いていた。長い尻尾が、機嫌よくゆらゆら揺れる。
ルカ・ストーン。18歳の獣人の戦士。元は茶色の髪に犬の耳がついた元気な少年だったが、今は全身灰色の毛で覆われた猫の姿だ。それでも明るさは失われない。
「ルカ、お前、猫のくせに買い物できるのかよ」
「にゃはは! パン屋のマリーおばさんが、あたしの目を見て『あら、ルカちゃんね』って。猫でも分かるんだにゃ!」
ルカは机の上に紙袋を置いた。中から、まだ温かい花唄パンが顔を出す。ヴェルクライン名物、花の蜜を練り込んだ甘いパンだ。銅貨3枚。シェリンの財布には、いつもこれが精一杯。
「あーあ。今月も家賃が払えないってのに、呪いの調査でそれどころじゃないし」
シェリンはパンをかじりながら、ため息をついた。
「愚痴ってる暇があったら、手を動かしたらどう?」
奥の部屋から、低い声がした。
銀色の短髪を手でかき上げながら、長身の青年が姿を現す。切れ長の紫の瞳。左耳には銀の花のイヤリング。男物のシャツを着ているのに、どこか中性的な雰囲気が残っている。
エリーゼ・ノクターン。22歳。花唄術師で、チューリップ組の参謀。銀の長い三つ編みが自慢のクールな女性だったが、呪いで男の子の体になっている。
「エリーゼ、今日も朝から機嫌悪いな。男の体、まだ慣れないのか?」
「……慣れるわけないでしょ。声は低いし、肩は広いし、服のサイズも合わないし」
エリーゼは自分の手を見下ろした。男の子の、骨ばった大きな手。花唄魔術を紡ぐ繊細な指先のはずなのに、今は見慣れない形をしている。
「でも、似合ってるぜ。その声も、その顔も」
シェリンが言うと、エリーゼはぴくりと肩を震わせた。
「……余計なお世話よ。それより、今日の予定は?」
エリーゼは顔を背けて、窓の外を見た。耳の先が、ほんの少し赤い。
シェリンは、机の上の紙の束を手に取った。
「今日は、ヴェルクライン探偵協会本部に行く。過去の呪い花関連の事件簿を調べさせてもらうんだ」
「探偵協会? あんた、登録はしてるけど、依頼ゼロの無名ライバーじゃない。閲覧許可なんて、簡単に下りるの?」
「そこを何とかするのが、探偵の腕の見せ所だろ」
シェリンは、いたずらっぽく笑った。女の子の顔で笑うと、なんだか無邪気に見える。
「……また無茶を考えてる顔ね。まあ、いいわ。私も行く。花精の血筋の名前は、多少は役に立つはずよ」
エリーゼは、銀の花のイヤリングに触れた。ノクターン家は、花精の血を引く由緒ある家系。花唄魔術の世界では、その名前は一定の重みを持つ。
「あたしも行くにゃ! 猫の嗅覚で、なんか役に立つかもしれないにゃ!」
ルカが、シェリンの肩に飛び乗った。灰色の毛が、首元でくすぐったい。
「よし、三人で行こう。……二人と一匹、か」
シェリンは立ち上がった。スカートの裾が、ふわりと揺れる。三日経っても、この感覚には慣れない。
ヴェルクライン探偵協会本部は、中央区の石造りの建物だった。
入口には、探偵ライバーたちが行き交っている。皆、一様に忙しそうだ。手に手に依頼書を持ち、早足で歩いていく。中には、シェリンの姿を見て、くすくす笑う者もいる。
「ねえ、あれ、チューリップ組の……」「依頼ゼロの」「女の子になっちゃったんだって」
聞こえよがしの囁き。シェリンは、ぐっと唇を噛んだ。
「気にするな。お前の価値は、あんな連中には分からない」
エリーゼが、シェリンの前に立った。男の子の体で、シェリンを庇うように。
「……ありがとう、エリーゼ」
シェリンは小さく笑って、協会本部の扉を押し開けた。
中は、ひんやりとした空気が漂っていた。高い天井、磨かれた石の床。正面には、長い受付カウンターがある。
カウンターの向こうに、一人の女性が座っていた。
リナ・コール。28歳。探偵協会の受付を務める女性だ。栗色の髪をきっちりとまとめ、真面目そうな顔立ちをしている。書類をめくる手つきは無駄がなく、長年この仕事をしていることがうかがえた。
「……チューリップ組のシェリン・バーガンディさんですね。本日はどのようなご用件で?」
リナは、シェリンを見ると、わずかに眉をひそめた。無名の探偵ライバーが、協会本部に何の用か——そんな表情だ。
「過去五年分の、呪い花関連の事件簿を閲覧させてほしいんです」
シェリンは、背筋を伸ばして言った。
「事件簿の閲覧は、協会ランクが銀以上のライバーに限られています。あなたのランクは……銅。それも、最下位です。お断りします」
リナは、書類に目を落としたまま、淡々と言った。
「お願いします。今、街で起きている体の入れ替わり。あれは呪いの花が原因です。調べないと、被害がもっと広がる」
「そういう依頼は、正式な手続きを踏んでから来てください。無名のあなたが直接来られても、困ります」
リナの声は冷たかった。だが、シェリンは引かない。
「正式な手続きを待っていたら、手遅れになるかもしれない。お願いだ。閲覧だけでも」
シェリンは、深く頭を下げた。女の子の体で頭を下げると、ワインレッドの髪がさらりと落ちる。
「……頭を下げられても、規則は規則です」
「では、私の名前ではどうかしら」
エリーゼが、一歩前に出た。
「あなたは……?」
リナが、初めて顔を上げた。
「エリーゼ・ノクターン。ノクターン家の花唄術師よ。花精の血を引く者として、この呪いの調査に協力している。私の名前で、閲覧許可を取れないかしら」
エリーゼは、銀の花のイヤリングに触れた。その仕草だけで、彼女が只者ではないことが伝わる。
リナの表情が、わずかに変わった。
「ノクターン家の……。分かりました。少し、お待ちください」
リナは奥に消え、しばらくして戻ってきた。手に、古びた鍵を握っている。
「特別に、記録庫への入室を許可します。ただし、閲覧は今日一日だけ。持ち出しは禁止。破られた場合は、協会への出入りを禁止します」
「ありがとうございます!」
シェリンは、ぱあっと顔を輝かせた。
「……あなた、意外と可愛い顔するのね」
リナが、ほんの少しだけ口元を緩めた。
「え?」
「何でもありません。記録庫は地下です。ついてきてください」
リナは、さっさと歩き出した。
エリーゼが、シェリンの耳元で囁く。
「女の子の顔で愛想振りまくのも、たまには役に立つわね」
「……俺は、別に愛想なんて振りまいてないんだけど」
「兄貴、今『俺』って言ったにゃ! 女の子の体で『俺』は変にゃ!」
ルカが、シェリンの肩の上で笑った。
「うるさいな。……私、だ。私」
シェリンは、照れくさそうに言い直した。
記録庫は、地下の薄暗い部屋だった。
壁一面に、古い書類の束が並んでいる。かび臭い匂いと、紙の匂いが混ざった、独特の空気。天井から吊るされた魔光灯が、かすかに明滅していた。
「ここに、過去五年分の呪い花関連の事件簿がある。全部で三十七件。読むのは大変よ」
エリーゼが、書類の束を指さした。
「任せろって! こういう地道な作業は、得意なんだ」
シェリンは、袖をまくり上げた。女の子の細い腕が、魔光灯の光に白く浮かぶ。
それから、三人で手分けして、事件簿を読み始めた。
一枚、また一枚。
過去の呪い花被害者たちの記録。名前、年齢、性別、種族。呪われた日時、場所、症状。そして、その後の経過。
「……おい、これ」
シェリンの手が、一枚の書類で止まった。
「どうしたの?」
「見てくれ。この被害者、三年前に呪われた商人なんだけど、その一週間前に、ノクターン庭園を訪れてる。それだけじゃない。こっちの被害者も、こっちも——」
シェリンは、書類を次々と広げた。琥珀色の瞳が、きらきらと輝いている。推理に集中すると、空気がぴりっと引き締まる。
「全員……ノクターン庭園を訪れてる」
「そうだ! 三十七件のうち、記録が残っている二十九件。その全員が、呪われる前の一年以内に、ノクターン庭園を訪れている。これは偶然じゃない。呪いは、庭園を起点に、意図的に拡散されてるんだ」
シェリンは、早口でまくし立てた。
「……つまり、犯人は庭園にいて、訪れた者に呪いをかけている」
「そういうことだ。謎が解けた! これは面白くなってきたぞ!」
シェリンは、無意識にルーペをくるくる回した。左目の下の泣きぼくろが、興奮でほんのり赤い。
「兄貴、すげえにゃ! やっぱり兄貴は天才探偵にゃ!」
ルカが、シェリンの足元で跳ねた。
「まだ確定じゃない。でも、大きな手がかりだ。庭園の奥に、何かある。呪いの発生源が」
シェリンは、書類の束を見つめた。
「……庭園の奥、か」
エリーゼは、自分の喉に手を当てた。男の子の体になってから、花唄魔術の旋律がうまく紡げない。高音が出ない。低い声で歌おうとすると、喉が締め付けられるように痛む。
(この体で、どこまで戦える?)
エリーゼは、唇を噛んだ。
事務所に戻ったのは、午後遅くだった。
シェリンは、机の上に事件簿の写しを広げた。ルカは、窓辺で丸くなっている。エリーゼは、奥の部屋で何かしている。
「よし、情報を整理しよう。呪いは庭園を起点に広がっている。だが、どうやって? 誰が? 何のために?」
シェリンは、紙に図を書き始めた。
その時、奥の部屋から、かすかな歌声が聞こえてきた。
エリーゼの声だ。男の子の低い声で、花唄魔術の旋律を紡いでいる。
「♪——」
だが、旋律は途中で途切れた。
「……っ、だめ」
エリーゼの声が、苦しそうに震える。
シェリンは、そっと奥の部屋を覗いた。
エリーゼは、机の上に置いた黒い花びらに向かって、何度も歌いかけていた。ノクターン庭園から持ち帰った、呪いの花びら。花精の血を引くエリーゼは、その花びらを花唄魔術で培養し、呪いの性質を調べているのだ。
「エリーゼ、大丈夫か?」
シェリンが声をかけると、エリーゼはびくりと肩を震わせた。
「……見てたの?」
「少しだけ。喉、痛めてるんじゃないか?」
シェリンは、エリーゼの隣に座った。
「……この体になってから、高音の旋律がうまく出ない。花唄魔術は、声の音域がそのまま魔力の出力に直結する。男の子の低い声では、繊細な花の魔力を操れないのよ」
エリーゼは、喉に手を当てた。
「無理するな。花唄魔術が使えなくても、お前は十分役に立ってる」
「……そういう問題じゃないの。私は、あなたを守りたいの。でも、この体じゃ、その力が足りない」
エリーゼの声が、かすかに震えた。
「エリーゼ……」
「私、花唄術師として、役に立ててない気がする。あなたの隣にいる資格が、ないみたいで」
エリーゼは、初めて弱音を吐いた。クールで理論派の彼女が、感情をむき出しにするのは、本当に珍しい。
シェリンは、そっとエリーゼの手を握った。男の子の大きな手。でも、その手は、かすかに震えていた。
「何言ってるんだ。お前がいてくれるだけで、私は助かってる。それに、お前の花唄魔術がなかったら、今頃もっとひどいことになってた。自信を持てよ」
シェリンは、まっすぐにエリーゼの目を見た。
「……シェリン」
エリーゼの紫の瞳が、揺れる。
(好き。あなたのことが、好き)
エリーゼは、口を開きかけた。
でも、自分の低い声と、男の子の体を思い出して、言葉を飲み込んだ。
「……何でもない。それより、実験の結果なんだけど」
エリーゼは、無理に話題を変えた。
「ああ、聞かせてくれ」
シェリンは、エリーゼの変化に気づかず、身を乗り出した。
「この花びら、培養してみて分かったの。呪いの強度は、庭園の中心部に近づくほど、指数関数的に強まる。つまり、庭園の奥に行けば行くほど、呪いは濃くなる。発生源は、庭園の最深部にあると見ていいわ」
エリーゼは、黒い花びらを指さした。花びらは、かすかに脈打つように光っている。
「最深部! やっぱり、庭園の奥に何かあるんだな。よし、今夜、もう一度庭園に乗り込もう」
「今夜? また夜の庭園に? 危険よ」
「危険でも、行くしかない。呪いの発生源を突き止めないと、街の混乱は収まらない」
シェリンの決意は固かった。
その夜、三人は再びノクターン庭園に足を踏み入れた。
街はずれから8キロ。シルバーフォレストの端に位置する、呪いの庭園。夜の庭園は、青白い燐光に包まれていた。昼間とはまるで別世界のようだ。
「……相変わらず、気味が悪い場所ね」
エリーゼが、花唄魔術で小さな光の玉を作り、道を照らした。かすかに震える光。男の子の体では、魔術の制御が不安定なのだ。
「あたしの鼻が、呪いの残り香を追うにゃ! こっちにゃ!」
ルカは、地面に鼻を近づけ、匂いを追い始めた。猫の嗅覚は、獣人の時よりずっと鋭い。呪いの花の甘い腐敗臭が、庭園の奥へと続いている。
三人は、慎重に奥へと進んだ。
木々が生い茂り、月明かりが届かない。エリーゼの光だけが、頼りだった。
「……何か、いる」
ルカの毛が、逆立った。
次の瞬間。
地面が、爆発した。
「なっ——!?」
無数の蔦が、土の中から噴き出した。黒く、ぬらぬらと光る、呪いの蔦。それが、三人に襲いかかる。
「きゃあっ!」
シェリンの足に、蔦が絡みついた。
「シェリン! 下がって!」
エリーゼが、歌い始めた。男の子の低い声で、必死に旋律を紡ぐ。
「♪——花よ、咲け——」
光の花びらが舞い、蔦を焼き払う。だが、蔦は次から次へと生えてくる。
「……っ、ぐ、うぅ」
エリーゼの喉から、血の混じった咳が漏れた。呪いの強度が予想以上だ。唄の種を酷使しすぎている。
「エリーゼ! 無理するな!」
「無理をしないと、あなたが死ぬのよ!」
エリーゼは、さらに声を張り上げた。
その時。
「兄貴! 後ろにゃ!」
シェリンの背後から、鋭い蔦が飛んできた。
ルカが、飛びかかった。
「にゃっ——!!」
蔦の棘が、ルカの左後脚を深く切り裂いた。
「ルカ!」
シェリンは、ルカを抱き上げた。灰色の毛が、血で赤く染まっていく。
「にゃ……にゃあ……痛いにゃ……」
ルカの声が、弱々しい。それでも、シェリンを心配そうに見上げている。
「退くわよ! 今すぐ!」
エリーゼが、最後の力を振り絞って、光の壁を作った。蔦が、光の壁に弾かれる。
「……ごめん、ルカ。ごめん」
シェリンは、ルカを胸に抱き、走り出した。エリーゼの肩を借りながら、庭園を脱出する。
後ろで、蔦がうごめく音がする。
追ってくる。
でも、振り返らない。
ただ、走った。
事務所に戻った時、三人は、息も絶え絶えだった。
「ルカ、大丈夫か? 今、手当てするからな」
シェリンは、ルカを机の上に寝かせ、傷口を布で縛った。手が震える。女の子の細い指に、ルカの血がべったりと付く。
「にゃ……兄貴、泣いてるにゃ?」
ルカが、金色の目でシェリンを見上げた。
「……泣いてない。泣いてないわ」
シェリンは、涙をこらえて、ルカの頭を撫でた。
「エリーゼも、喉、大丈夫? 血が出てたでしょ」
「……大丈夫。これくらい、どうってことないわ」
エリーゼは、喉に手を当てたまま、静かに言った。でも、その声は、ひどくかすれている。
シェリンは、エリーゼに温かい茶を淹れた。
「飲め。喉にいい」
「……ありがとう」
エリーゼは、茶を一口飲んだ。温かさが、傷ついた喉に染みる。
その時だった。
「……なんだ、これ」
シェリンが、机の上を指さした。
いつの間にか、一通の封筒が置かれている。
三人が庭園に出かけている間に、誰かが事務所に侵入したのだ。
「……また、手紙」
シェリンは、震える手で封を切った。
中から出てきたのは、一枚の紙。
『庭園の主は怒っている。止めなければ、次は仲間の命だ』
そして、封筒の中には——。
「……エリーゼの、花びら」
エリーゼが実験で使っていた黒い花びらの切れ端。
「……ルカの、抜け毛」
ルカの灰色の毛が、数本。
「……私たちの、全てを知ってる。私たちの行動を、ずっと見てる」
エリーゼの顔から、血の気が引いた。
「にゃ……こわいにゃ」
ルカが、シェリンの膝の上で震えた。
シェリンは、手紙を握りしめた。
仲間の命が、狙われている。
自分の秘密も、狙われている。
でも。
「……止めるなんて、選択肢はない」
シェリンは、顔を上げた。
「そうよ。やられっぱなしで終わるわけにはいかないわ」
「あたしも! 絶対に負けないにゃ!」
ルカが、傷ついた脚を庇いながらも、力強く鳴いた。
「……ありがとう、二人とも。よし、次の一手を考えよう。この手紙の差出人——庭園の主の正体を、突き止める」
シェリンの琥珀色の瞳が、暗い部屋の中で、ぎらりと光った。
女の子の体。探偵の心。
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