新妹魔王の日常契約
魔王の血を引く義妹との、甘くて危険な二重生活が始まる——。
母を亡くし、海外出張ばかりの父を持つ高校生・東城刃更。ある日突然、父から「お前には義理の妹ができる」と告げられる。しかも、相手は魔族で、一人は先代魔王の血を引いているという。戸惑いながらも、かつて自分も居場所を失った経験から、二人を迎え入れる決意をする刃更。
しかし、妹たちとの日常は、決して穏やかなものではなかった。魔族と勇者の血を引く者が出会うとき、運命の歯車が静かに動き出す。守りたいものと、封印してきた力の狭間で揺れる刃更。そして、義妹たちが抱える秘密とは——。
夕暮れの台所、交わされる契約、紫に輝く瞳。日常の裏側に潜む非日常が、いま幕を開ける。
新妹魔王の日常契約 - 迫りくる影、消える光
「あんた、また刃更と一緒に帰るつもり!?」
放課後の教室。窓から差し込む夕日が、成瀬澪の長い黒髪を赤く染めていた。彼女は隣の席に立つ野中柚希を、紫色の瞳でまっすぐに睨みつけている。
「……帰る道が同じだから、当然でしょ」
柚希は水色のショートヘアを揺らし、頭頂部のアホ毛をぴくりと動かした。表情は相変わらずの無表情。でも、その声にはほんの少しだけ棘があった。
「私と刃更は同じ家に住んでるのよ!あんたは別の家でしょ!」
「幼馴染として、刃更と話したいことくらいあるの」
「あんたこそ、刃更に迷惑かけすぎやろ!」
——関西弁が飛び出した。
教室に残っていた生徒たちが、一斉にこちらを見た。ざわざわと、小さな声が広がる。
「ちょっと待て、柚希。今のはなんでやねんって話で……」
東城刃更は、二人の間に割って入ろうと立ち上がった。黒髪のショートヘアが夕日に照らされて、右目の下の小さな痣がくっきりと浮かび上がる。
「刃更は黙ってなさい!」
澪が、ずいっと刃更を睨んだ。その瞬間——
パチン。
教室の照明が、一斉に消えた。
「え?」
「な、なに?」
窓ガラスが、ビリビリと震え始める。机の上のスマートフォンが、次々と画面を真っ黒にした。
「うわっ!?」
「なにこれ……!」
教室のあちこちで、生徒たちが頭を押さえてうずくまる。苦しそうな声が、廊下からも聞こえてくる。
「なんで……止まらないのよ……!」
澪が、自分の手を見つめていた。紫色の瞳が、内側から光っている。彼女の体から、目に見えない何かが溢れ出していた。
——魔力暴走。
刃更は、一瞬で理解した。
「澪、落ち着け!」
刃更が澪の肩を掴もうとした。でも、触れた瞬間、バチッと静電気のような衝撃が走る。
「やめて……近づかないで……!」
澪が、後ずさった。瞳から光が溢れ、黒髪が逆立つように揺れている。
「澪ちゃん、深呼吸して。私の声を聞いて」
柚希が、澪の正面に立った。
「あんたに何がわかるのよ……!」
澪の叫びと同時に、窓ガラスが一斉に砕けた。
ガシャアアアアン!!
「きゃああああ!」
「みんな、廊下に逃げて!」
刃更が、うずくまる生徒たちに叫んだ。
「刃更、澪ちゃんから離れて。私が結界を張るから」
柚希の右手に、青白い光が集まっていく。光はやがて一振りの刀の形を取った。
——霊刀咲耶。
柚希が、刀を天井に向かって掲げた。
「封じの結界、展開」
刀から放たれた光が、教室全体を包み込む。窓から漏れ出していた澪の魔力が、見えない壁に阻まれて、校舎一棟に留められた。
でも、澪の暴走は止まらない。
「どうして……どうして私、止められないの……!」
澪の瞳から、涙がこぼれた。
「澪、大丈夫だ。俺がついてる」
刃更が、もう一度澪に近づこうとした。
その時——
廊下の影が、揺れた。
「……見つけたぞ、魔王の娘」
低い、這うような声。
影の中から、黒いローブをまとった男が現れた。顔は見えない。でも、その手に握られた短剣が、毒々しい紫色に光っている。
「ヴァルグリンド派の……刺客!」
柚希が、結界を維持したまま振り返った。
「邪魔をするな、監視員。用があるのは、その娘だけだ」
刺客が、ゆっくりと澪に歩み寄る。
「来ないで……来ないでよ……!」
澪が、恐怖で震えている。魔力が、さらに膨れ上がる。
——その時、刃更が動いた。
「澪には……触らせるかよ!!」
刃更が、澪と刺客の間に飛び込んだ。
「小賢しい」
刺客の短剣が、刃更の肩を貫いた。
ザシュッ。
「ぐっ……!」
刃更の肩から、鮮血が飛び散った。黒い毒が、傷口からじわじわと広がっていく。
「無駄死にだ。人間ごときが、魔族の戦いに首を突っ込むからだ」
刺客が、短剣を引き抜いた。
刃更の体が、膝から崩れ落ちる。
「刃更……刃更!!」
澪の叫びが、教室に響いた。
その瞬間——
澪の視界に、フラッシュバックした。
血。血。血。
養父母の、動かない体。
「また……また私のせいで……!!」
澪の魔力が、爆発的に膨れ上がった。
ドォォォォン!!!
教室の壁が、外側に向かって吹き飛ぶ。天井が、ミシミシと悲鳴を上げる。澪の体から放たれる紫色の光が、校舎の屋上まで噴き上がった。
「澪ちゃん、これ以上は……!」
柚希の結界が、今にも破れそうだ。彼女の額に、冷や汗が浮かぶ。
「お姉ちゃんを止めなきゃ……!」
教室の入り口に、成瀬万理亜が立っていた。ピンク色のツインテールが、魔力の風で激しく揺れている。彼女の後ろには、小さなサキュバスの翼が、うっすらと浮かんでいた。
「私の力じゃ、お姉ちゃんの魔力を吸収しきれない……!」
万理亜が、澪に向かって駆け出そうとした。でも、澪の魔力の壁に阻まれて、近づけない。
「万理亜、澪ちゃんに触れないで。あなたまで吹き飛ばされる」
柚希が、万理亜を制止した。
「でも……でもお姉ちゃんが……!」
万理亜のピンク色の瞳が、涙で揺れている。
その時、柚希のポケットで、通信機が震えた。
——里からの、通信。
柚希は、通信機を見つめた。
(澪ちゃんの暴走を報告すれば……里は、間違いなく抹殺命令を出す)
(でも、報告しなければ……私は監視員の任務を放棄することになる)
柚希の手が、震える。
「柚希お姉ちゃん!どっちなん!?」
万理亜が、柚希に叫んだ。
柚希は、通信機を握りしめた。
——そして。
ガシャン。
地面に、叩きつけた。
「刃更を守るんや!里の命令なんて知らん!」
柚希の叫びが、教室に響いた。
彼女は霊刀咲耶を構え、刺客に向かって駆け出した。
「愚かな。監視員が、任務を放棄するか」
刺客が、短剣を構える。
「あんたこそ、ここで終わりや!」
柚希の刀が、一閃。
ザンッ!
刺客の短剣が、真っ二つに折れた。続けて、柚希の刀が、刺客のローブを切り裂く。
「ぐ……小娘が……!」
刺客が、影の中に逃げ込もうとした。
「逃がさない」
柚希の刀が、影ごと刺客を斬り伏せた。
ドサリ。
刺客の体が、床に崩れ落ちる。
「……終わった」
柚希が、刀を下ろした。
でも、澪の暴走は、まだ止まらない。
「刃更……刃更……!」
澪が、血まみれの刃更に手を伸ばしている。でも、自分の魔力が、それを阻んでいる。
「お姉ちゃん……私、やるわ」
万理亜が、胸元から小さな鍵を取り出した。古びた銀色の鍵。
「お姉ちゃんを止める。お兄ちゃんを守る。両方やるわ!」
万理亜が、鍵を自分の胸に押し当てた。
「封印鍵、解放」
鍵が、眩い光を放った。
万理亜の体が、光に包まれる。ピンク色のツインテールが、背中まで伸びていく。小さな体が、みるみるうちに大人の姿へと変わっていった。
「お姉ちゃん、ごめん。ちょっと痛いかもしれないけど、我慢して」
大人の姿になった万理亜が、澪の魔力の壁に、素手で突っ込んだ。
バチバチバチッ!
「万理亜……やめて……!」
澪が、叫んだ。
「大丈夫。私、お姉ちゃんの妹だもの。これくらい、平気よ」
万理亜が、澪の体を抱きしめた。
澪の魔力が、万理亜の体に流れ込んでいく。サキュバスの力で、澪の魔力を吸収しようとしているのだ。
でも——
「……あ、あれ……?」
万理亜の顔が、苦痛に歪んだ。
澪の魔力が、強すぎる。万理亜の許容量を、はるかに超えている。
「万理亜、離れて!あなたの体が……!」
柚希が、叫んだ。
「でも……離したら、お姉ちゃんが……!」
万理亜の鼻から、血が流れ始めた。
「……俺が、行く」
その時——
血まみれの刃更が、立ち上がった。
「刃更!?動いちゃダメ!」
「お兄ちゃん、毒が回ってるのに……!」
刃更は、ふらふらと、澪に向かって歩き出した。
一歩。また一歩。
澪の魔力が、刃更の体を切り裂く。服が破れ、肌に無数の傷ができる。
でも、刃更は止まらない。
「来ないで……お願い、来ないで……!」
澪が、泣き叫ぶ。
「澪」
刃更が、澪の目の前まで来た。
澪の魔力が、刃更の体を焼く。肩の傷から、血が噴き出す。
「澪、聞け」
刃更が、澪の手を握った。
バチッ。
「やめて……私に触れたら、あんたまで……!」
「お前は、悪くない」
刃更が、澪を抱きしめた。
「俺が、守るって決めたんだ。お前のことも、万理亜のことも、柚希のことも。全部、俺が守る」
澪の体が、びくっと震えた。
「……なんで……なんでそこまで……!」
「家族だからだ」
澪の瞳から、大粒の涙がこぼれた。
澪の魔力が、ほんの少しだけ、収縮した。
——その瞬間、教室の天井が、崩落した。
ゴゴゴゴゴ……!
「危ない!」
柚希が、崩れる天井を、刀で斬り払った。
でも、校舎全体が、もう限界だった。
澪の魔力が、建物の柱を破壊している。
「澪、お前は悪くない。俺が……守るって決めたんだ……」
刃更が、澪の耳元で囁いた。
その言葉が、澪の心に届いた瞬間——
澪の魔力が、さらに収縮した。
でも、それも束の間。
「……見つけたぞ」
廊下の影から、新たな刺客が現れた。一人、二人、三人——。
「援軍……!」
柚希が、刀を構え直した。
「お兄ちゃん、意識が……!」
万理亜が、刃更の顔を覗き込んだ。
刃更の意識が、薄れていく。毒が、全身に回っている。
「……澪……みんなを……頼む……」
刃更の体が、ゆっくりと倒れた。
その時——
刃更の左腕に浮かぶ契約の腕輪が、微かに光った。
澪の瞳が、その光を見た。
「……刃更……?」
腕輪の光は、まるで脈打つように、ゆっくりと明滅している。
澪の魔力が、その光に呼応するように、わずかに揺らいだ。
「おい、あの人間を殺せ。魔王の娘は、生きたまま連れて行く」
刺客たちが、刃更に迫る。
「させない……させないわよ……!」
澪が、刃更をかばうように、両手を広げた。
でも、澪の体は、もう限界だった。
「お姉ちゃん、無理しないで……!」
万理亜が、澪を支えようとする。
「……みんな、下がって」
柚希が、三人の前に立った。
霊刀咲耶が、青白い光を放つ。
「ここから先は、私が守る」
柚希の瞳が、真っ直ぐに刺客たちを見据えていた。
「監視員ごときが、我々に勝てると思っているのか」
「勝てるかどうかじゃない。守るって決めたの」
柚希が、刀を構えた。
その時——
澪の魔力が、再び膨れ上がった。
でも、今度は、違った。
澪の魔力は、外側に向かってではなく、内側に向かって収束していく。
「……私が……私がやらなきゃ……!」
澪が、自分の魔力を、必死に押さえ込もうとしていた。
「澪ちゃん、無理しちゃダメ!」
「でも……でも……!」
澪の瞳から、涙が溢れる。
「大丈夫。私がついてるから」
柚希が、澪の手を握った。
「……柚希……」
「一緒に、乗り越えよう」
澪の魔力が、さらに収束していく。
でも、刺客たちは、容赦なく迫ってくる。
「全員、やれ」
刺客たちが、一斉に飛びかかった。
「させない!」
柚希の刀が、空を裂く。
ザンッ!ザンッ!ザンッ!
三人の刺客が、同時に斬り伏せられた。
「な……この小娘……!」
「これで、最後よ」
柚希の刀が、最後の刺客の胸を貫いた。
「ぐ……ヴァルグリンド派は……必ず……」
ドサリ。
刺客が、床に倒れた。
「……終わった」
柚希が、刀を下ろした。
でも、澪の魔力は、まだ完全には収まっていない。
「……ごめんなさい……ごめんなさい……!」
澪が、泣きながら、何度も謝っている。
「澪ちゃん、謝らなくていいの。誰も、あなたを責めてない」
柚希が、澪の背中を優しく撫でた。
「でも……でも、私のせいで、刃更が……!」
澪が、倒れた刃更を見つめた。
刃更は、もう、動かない。
「お兄ちゃん……お兄ちゃん、起きて……!」
万理亜が、刃更の体を揺さぶる。
「万理亜、落ち着いて。刃更は、まだ息があるわ」
柚希が、刃更の脈を確認した。
「でも、毒が……!」
「私が、応急処置をする。万理亜は、澪ちゃんを頼む」
柚希が、刃更の傷口に手を当てた。
「……毒が、思ったより深い。早く、手当てしないと」
柚希の声が、震えていた。
「お姉ちゃん、大丈夫?立てる?」
万理亜が、澪を支え起こした。
「……刃更は……刃更は……?」
澪が、虚ろな目で、刃更を見つめている。
「大丈夫。私が、必ず助けるから」
柚希が、澪に微笑んだ。
でも、その笑顔は、どこか必死だった。
「……私のせいで……また……また……!」
澪の瞳から、再び涙が溢れた。
澪の魔力が、また、少しだけ膨れ上がる。
「澪ちゃん、顔を上げて」
柚希が、澪の両頬を包んだ。
「あなたのせいじゃない。誰も、あなたを責めてない。刃更も、あなたを守るって決めた。だから、あなたも、自分を責めないで」
澪が、柚希の瞳を見つめた。
「……柚希……」
「大丈夫。私も、万理亜も、刃更も、みんな、あなたの味方よ」
澪の魔力が、ゆっくりと、静まっていく。
「……ありがとう」
澪が、小さく呟いた。
その瞬間——
刃更の左腕の腕輪が、もう一度、強く光った。
澪の魔力が、完全に収束した。
「……光が……」
柚希が、腕輪を見つめた。
「契約の腕輪……刃更とお姉ちゃんの絆が、魔力を抑えたの……?」
万理亜が、驚いたように呟いた。
「……わからない。でも、澪ちゃんの魔力が、静まったのは事実よ」
柚希が、澪の顔を見た。
澪は、静かに、刃更の手を握っていた。
「……刃更……お願い……目を覚まして……」
澪の声が、静かな教室に、溶けていった。
夕日が、砕けた窓から差し込み、四人の影を、長く伸ばしていた。
——遠くで、サイレンの音が聞こえる。
でも、まだ、誰も、動けなかった。
刃更の意識は、深い闇の中に、沈んでいた。
左腕の腕輪が、まるで鼓動のように、静かに、しかし確かに、光を放ち続けていた。Noveliaとは?
Noveliaは、AIでライトノベルや二次創作を「読んで・数タップで作って・キャラクターと会話できる」プラットフォームです。挿絵つきの新作が毎日届き、無料で始められます。