新妹魔王の日常契約
魔王の血を引く義妹との、甘くて危険な二重生活が始まる——。
母を亡くし、海外出張ばかりの父を持つ高校生・東城刃更。ある日突然、父から「お前には義理の妹ができる」と告げられる。しかも、相手は魔族で、一人は先代魔王の血を引いているという。戸惑いながらも、かつて自分も居場所を失った経験から、二人を迎え入れる決意をする刃更。
しかし、妹たちとの日常は、決して穏やかなものではなかった。魔族と勇者の血を引く者が出会うとき、運命の歯車が静かに動き出す。守りたいものと、封印してきた力の狭間で揺れる刃更。そして、義妹たちが抱える秘密とは——。
夕暮れの台所、交わされる契約、紫に輝く瞳。日常の裏側に潜む非日常が、いま幕を開ける。
新妹魔王の日常契約 - 決着の朝、それから~私たちの家族のカタチ~
崩れた校舎の屋上から、朝日が昇る。
東城刃更は、その光をまぶしそうに見上げた。全身が痛い。毒を受けた傷はまだ完全に塞がってはいないし、無理に魔剣を振るった右腕は鉛のように重い。
「……終わった、のか」
「ええ。とりあえずはね」
水色のショートヘアを朝風に揺らして、柚希が隣に立った。手にしていた霊刀・咲耶は、もう消えている。彼女の澄んだ水色の瞳が、刃更の体を心配そうに眺めた。
「刃更、血が出てる。ちゃんと手当てしないと」
「これくらい、かすり傷だ」
「かすり傷で済む量やない。あんた、自分がどれだけ無茶したか分かってる?」
柚希の口調が、ふいに柔らかい関西の響きに変わった。彼女が感情を抑えきれなくなった時の癖だ。
「ほんまに、心配させるんやから……」
小さく、消え入りそうな声で柚希がつぶやいた。
「……ごめん」
刃更は、それしか言えなかった。
「バカ刃更!!」
背中から、怒鳴り声が飛んできた。振り返るより早く、澪が駆け寄ってきて、刃更の胸に飛び込んでくる。
「無茶しないでよ! あんた、また死にかける気!? 私がどんな気持ちで見てたと思ってるの!?」
澪の紫色の瞳は、涙でいっぱいだった。怒っているのに、声は震えている。長い黒髪が、朝日の中で艶やかに揺れた。
「私、あんたが倒れるところなんて、もう二度と見たくないんだから……!」
澪は刃更の服をぎゅっと掴んで、顔を押し付けた。彼女の肩が、小さく震えている。
(ああ、また泣かせた)
刃更は、澪の頭にそっと手を置いた。
「……悪かった。でも、お前が無事でよかった」
「当たり前でしょ……! あんたが守ったんじゃない……」
澪の声は、涙でぐしゃぐしゃだった。
「お兄ちゃん! 私も褒めて!」
ピンクのツインテールが、視界の端で弾んだ。いつの間にか元の姿に戻った万理亜が、無邪気な笑顔で駆け寄ってくる。
「私も頑張ったんだよ! 大人の姿になって、あの刺客と戦ったんだから!」
「ああ、見てた。すごかったぞ」
「ほんと!? えへへ、お兄ちゃんに褒められちゃった♡」
万理亜は嬉しそうに笑うと、刃更の腕に抱きついた。
「ちょっと、離れなさい! 刃更は怪我してるんだから!」
「お姉ちゃんこそ、さっきまで抱きついて泣いてたくせに」
「なっ……! ち、違うわよ! あれは、その、支えてただけよ!」
澪の顔が、一気に赤くなる。
「はいはい、二人とも、刃更を休ませてあげて。ここ、まだ崩れそうなんだから」
柚希が冷静な声で割って入った。でも、その目は澪をじっと見ている。
「澪ちゃん、いつまでくっついてるつもり?」
「な、なによ! あんたには関係ないでしょ!」
「大ありや。刃更はうちの幼馴染やもん」
「幼馴染だからって、何でも許されると思わないでよ!」
二人の間に、バチバチと火花が散る。
「ったく、しょうがねぇな……」
刃更は深いため息をついた。でも、口元には笑みが浮かんでいる。
(この騒がしさが、一番落ち着く)
自分でも変だと思う。でも、これが自分たちの日常で、これが自分が守りたかったものだ。
「……ありがとうな、みんな」
刃更は、三人の顔を見て言った。
「俺一人じゃ、どうにもならなかった。お前らがいてくれて、本当によかった」
澪が、柚希が、万理亜が、一瞬きょとんとした顔をした。
それから、三人同時に、はにかんだ。
「……当たり前でしょ。私、あんたの僕なんだから」
「うちは、刃更の隣にいるって決めたから」
「私も! お姉ちゃんとお兄ちゃんを守るって、お母さんと約束したもん!」
朝日が、四人を包み込む。
長い夜が、ようやく明けた。
──
事件の後、学園は大規模な設備トラブルとして処理された。
「停電と、老朽化した配線のショート。それと、地盤のゆるみによる軽い倒壊。まあ、そんなところで落ち着いたわ」
柚希が、淡々と説明した。
「クレセント・ウォッチャーの情報統制って、ほんとすごいのね」
「こういう時のために、あの組織はあるようなものだから。澪ちゃん、自分の正体がバレなかったこと、もっと感謝して」
「はいはい、ありがとうございます」
澪が、わざとらしく頭を下げた。
「で、学園はしばらく臨時休校。今日から家でゆっくりできるわ」
「やったー! お兄ちゃんとずっと一緒にいられる!」
万理亜が、ぴょんぴょん跳ねた。
「……俺は、ゆっくり寝たい」
刃更は、ソファに倒れ込んだ。東城家のリビング。四人は、ようやく家にたどり着いていた。
体が、悲鳴を上げている。傷の痛みと、極度の疲労。目を閉じれば、そのまま眠ってしまいそうだった。
「だめだよ、お兄ちゃん。お風呂入って、ご飯食べてから寝ないと」
「……あとで」
「だーめ。私が簡単な夜食作ってあげるから、それ食べてからにして」
万理亜は、エプロンを手に取ると、鼻歌を歌いながらキッチンへ向かった。
「万理亜、私も手伝うわ」
「えっ!? お姉ちゃんが!? やめて! お姉ちゃんがキッチンに立ったら、今度は家が吹き飛ぶ!」
「なっ……! そこまで言わなくてもいいでしょ! 私だって、少しは料理できるようになったんだから!」
「この前の卵焼き、炭になってたよね」
「あ、あれは、ちょっと火加減を間違えただけで……!」
澪が、顔を真っ赤にして反論する。
「澪ちゃん、素直に座ってなさい。刃更の隣、空いてるから」
「なんであんたに指図されなきゃいけないのよ!」
「指図じゃなくて、提案。……まあ、座らないなら、うちが座るけど」
「座るわよ! 絶対に座るわ!」
澪は、刃更の隣にどかっと座った。肩が触れ合う距離。澪の甘い匂いが、ふわりと香る。
(近い……)
刃更は、心臓が少しだけ早くなるのを感じた。
「……なによ、じろじろ見て」
「見てねぇよ」
「見てたでしょ。エッチ」
「見てねぇっつーの!」
刃更は、照れ隠しに声を荒げた。澪は、そんな刃更を見て、小さく笑った。
「……あんた、ほんとバカね」
「うるせぇ」
でも、澪の声は、いつもの棘がなかった。むしろ、どこか優しい。
「……ありがと」
澪が、ぽつりとつぶやいた。
「え?」
「だから、ありがとうって言ってるの。私を、助けてくれて」
澪は、前を向いたまま、耳を赤くしていた。
「……お前、素直になると気持ち悪いな」
「はあ!? せっかくお礼言ってるのに、その言い草はないんじゃない!? 百回殺すわよ!」
「はいはい、怖い怖い」
刃更は、笑いながら澪の頭を軽く撫でた。
「……っ! や、やめなさいよ、急に!」
澪は、ますます顔を赤くして、身をよじった。でも、刃更の手を振り払おうとはしなかった。
「……ずるい」
柚希が、二人の様子をじっと見ていた。その水色の瞳が、少しだけ揺れている。
「刃更、うちにも、何かして」
「は? 何をだよ」
「頭、撫でて」
柚希が、真顔で言った。
「……お前、何言ってんだ」
「澪ちゃんにはしたのに、うちにはしてくれへんの? ひどい」
柚希の口調が、また関西弁に変わる。彼女は、少しだけ唇を尖らせた。
「べ、別に、澪にしたって言うか、その、流れで……」
「じゃあ、流れで、うちにもして」
柚希が、一歩、刃更に近づいた。水色のショートヘアから、石鹸の香りがする。
「……わ、分かったよ。ちょっとだけだぞ」
刃更は、観念して柚希の頭に手を伸ばした。さらさらとした髪の感触。
「……ふふ」
柚希が、嬉しそうに目を細めた。普段は無表情な彼女が、こんな顔をするのは、刃更の前だけだ。
「ちょっと、何やってんのよ、あんたたち! 私というものがありながら!」
澪が、二人の間に割って入った。
「澪ちゃんこそ、さっきまで一人でいい思いしてたくせに」
「なっ……! あれは、その、事故みたいなものよ!」
「はいはい、二人とも、喧嘩しないの。ご飯できたよ〜」
万理亜が、お盆に乗せたおにぎりとお味噌汁を運んできた。
「ほら、お兄ちゃん。これ食べて。体力つけないと」
「……ありがとう。いただきます」
刃更は、おにぎりを一口頬張った。温かい。塩加減が絶妙で、疲れた体に染み渡る。
「うまい」
「えへへ。お兄ちゃんの精気が回復するように、愛情込めて握ったんだよ♡」
「……最後の一言、余計だ」
でも、満更でもない。
四人は、リビングのテーブルを囲んで、夜食を食べた。
他愛のない話。今日の戦いのこと。学園が休みの間、何をするか。澪の料理の失敗談。柚希の剣道の話。万理亜の、エッチな妄想。
笑い声が、絶えなかった。
(これが、俺の日常だ)
刃更は、心の中でつぶやいた。
(守りたかったのは、これなんだ)
──
深夜。
刃更は、一人、庭に出ていた。
月明かりが、芝生を青白く照らしている。虫の声が、あちこちから聞こえた。
眠れなかった。体は疲れているのに、頭が冴えている。
「……ようやく、帰ってきたか」
「ああ。お前の顔を見に、な」
庭の隅、物置の影から、男が現れた。黒いシャツに、黒いズボン。カメラマンらしからぬ、無骨な雰囲気。東城迅——刃更の父だ。
「海外の仕事は、どうしたんだよ」
「切り上げてきた。息子が死にかけたって聞いたら、仕事どころじゃないだろ」
迅は、刃更の隣に立った。月明かりに照らされたその顔は、どこか疲れているように見えた。
「……お前、また無茶したな」
「別に。守りたいものを守っただけだ」
「ふん。相変わらず、口だけは一人前だ」
迅は、苦笑した。
「でも、まあ、認めてやる。お前は、よくやった」
迅の手が、刃更の肩に置かれた。大きくて、温かい手。
「……父さん」
「お前が、自分の力で、大切なものを守ろうと決めた。それだけで、俺は十分だ」
迅の声は、優しかった。
「でもな、刃更。これから、もっと厳しい戦いが待っている」
迅の声が、急に真剣なものに変わった。
「ヴァルグリンド派の本隊が、動き出した」
刃更の体が、強張った。
「……本隊?」
「ああ。今までは、斥候や刺客を送り込んでくる程度だった。だが、今回の失敗で、向こうも本気になった。澪の存在を、力ずくで奪いに来るだろう」
「……そうか」
刃更は、静かにうなずいた。
「怖くないか?」
「怖いさ。でも、それ以上に、守りたいものがある」
刃更は、迅の目を見た。
「俺は、大切なものを守るためなら、何でもする。あいつらを、絶対に傷つけさせない」
刃更の声は、揺るがなかった。
迅は、じっと刃更の目を見つめていた。それから、ふっと笑った。
「……そうか。お前は、もう大丈夫だな」
迅は、刃更の肩から手を離した。
「俺は、またしばらく家を空ける。お前たちのことは、頼んだぞ」
「ああ。任せておけ」
「それと、澪たちには、あまり心配をかけるなよ」
「……善処する」
「善処、か。まあ、お前なら大丈夫か」
迅は、背を向けた。
「迅さん」
刃更は、父の背中に声をかけた。
「……ありがとう」
迅は、振り返らなかった。でも、その背中が、わずかに揺れたように見えた。
「……礼を言われるようなことは、何もしてないさ」
迅は、そう言い残して、夜の闇に消えた。
刃更は、しばらくその場に立ち尽くしていた。
(守るためなら、何でもする)
それは、自分自身への誓いだった。
──
翌朝。
霧ヶ丘学園の正門前は、いつものように生徒たちで賑わっていた。
臨時休校は、わずか一日で明けた。
「おはよう、刃更!」
澪が、駆け寄ってくる。長い黒髪が、朝日を浴びてキラキラと輝いていた。
「おう、おはよう」
「あのね、昨日、言いそびれたことがあるの」
澪が、もじもじと指を絡めながら言った。
「なんだよ、改まって」
「その、昨日は、本当にありがとう。あんたが、私を助けてくれたから、今、こうして笑っていられるの」
澪は、顔を赤くしながら、でも、はっきりと言った。
「……お前、やっぱり素直になると気持ち悪いな」
「だから! せっかくお礼言ってるのに、なんでそういうこと言うのよ! 百回殺す!」
澪が、刃更の腕をぽかぽかと叩いた。
「痛い痛い、冗談だって」
「おはよう、刃更。……あら、澪ちゃん、また朝からくっついてるの?」
いつの間にか、柚希が隣に立っていた。水色のショートヘアに、今日もアホ毛が一本、ぴょこんと立っている。
「くっついてないわよ! これは、その、お礼を言ってただけ!」
「ふーん。お礼ね。昨日も散々くっついてたのに、まだ足りないんだ」
「なっ……! 昨日は、あんたこそ、刃更に頭撫でてもらってたでしょ!」
「あれは、澪ちゃんがずるいから、対抗しただけ」
「何よ、それ! 意味分かんない!」
二人の間で、また火花が散る。
「……お前ら、朝から元気だな」
刃更は、深いため息をついた。
「お兄ちゃん、おはよう! 今日も元気に精気ちょうだい♡」
「ちょ、万理亜!? なんでここに!? お前、中学生だろ!」
「だって、お兄ちゃんに会いたかったんだもん。それに、私、この学園の中等部に通ってるんだよ?」
万理亜が、小首をかしげて言った。
「……そうだったのかよ」
「そうだよ。お兄ちゃん、私のこと、ちゃんと見てくれてない」
万理亜が、頬を膨らませた。
「見てるよ。見てるけど、お前の存在を忘れそうになるんだよ」
「ひどい! お姉ちゃん、お兄ちゃんがひどいこと言う!」
「知らないわよ。自業自得でしょ」
澪が、冷たく言い放った。
「……まあ、いいや。それより、見て見て、あれ」
万理亜が、校門の方を指さした。
そこには、腕章をつけた男子生徒たちが、ずらりと並んでいた。
「澪姫ファンクラブ、本日も澪姫のご尊顔を拝し、誠に光栄に存じます!」
「柚希姫ファンクラブ、本日も柚希姫の凛々しきお姿を拝見でき、感無量です!」
二つの集団が、校門の左右で、にらみ合っている。
「……またか」
刃更は、頭を抱えた。
「あいつら、ほんと毎日飽きないわね」
「澪ちゃんのファンクラブの方が、人数が多いのが気に入らないわ」
「あら、それは私の人気が高いからでしょ?」
「……なんでやねん。うちの方が、ファンの質は高いわ」
「はあ? 何よ、それ。質って何よ!」
「あー、もう、うるさい! お前ら、さっさと教室行くぞ!」
刃更は、二人の腕を引っ張って、校門をくぐった。
「あ、待ってよ、お兄ちゃん! 私も行く!」
万理亜が、その後を追いかける。
「ああっ! 澪姫が、あの男に連れて行かれる!」
「柚希姫まで! あの男、許せん!」
後ろから、ファンクラブの悲鳴が聞こえた。
(……また、この騒がしさか)
刃更は、苦笑した。
でも、嫌じゃなかった。
この喧騒が、昨日までの非日常を乗り越えた証だと、そう思えたから。
放課後。
四人は、並んで帰り道を歩いていた。
「……ねえ、刃更」
「ん?」
「私たち、これからも、ずっと一緒にいられるよね?」
澪が、夕焼け空を見上げながら言った。
「当たり前だろ。お前らは、俺の家族なんだから」
刃更は、即答した。
「……家族」
澪が、その言葉を噛みしめるように繰り返した。
「うん。そうだね。私たち、家族だね」
澪の顔に、えくぼが浮かんだ。
「うちも、この家族に混ぜてくれる?」
柚希が、少し不安そうに言った。
「何言ってんだ。お前も、とっくに家族みたいなもんだろ」
「……ほんま?」
「ほんとだよ」
柚希の顔が、ぱあっと明るくなった。
「私も私も! 私も家族だよね!」
「お前は最初から家族だろ。義妹なんだから」
「えへへ、そっか。私、お兄ちゃんの義妹だもんね」
万理亜が、嬉しそうに笑った。
「……でも、家族って言うか、私は、その……」
澪が、突然もごもごと言い出した。
「私は、刃更の、ただの義妹じゃ、いやだな、って……」
「え? なんて言った?」
「な、なんでもないわよ! バカ!」
澪は、真っ赤になって、走り出した。
「お、おい、澪! 急にどうしたんだよ!」
「……鈍感」
柚希が、ぼそりとつぶやいた。
「あ? 何か言ったか?」
「別に。刃更のバカ」
「……なんでお前まで怒るんだよ」
「お兄ちゃんは、ほんと鈍感なんだから」
「……お前ら、さっきから何なんだよ」
刃更は、意味が分からず、首をかしげた。
夕日が、四人の影を、長く、長く、伸ばしていた。
──
その夜。
遠く離れた、人気のない高台。
黒いローブをまとった男が、霧ヶ丘市の夜景を見下ろしていた。
「……報告しろ」
低く、威圧的な声。
「はっ。派遣した刺客は、東城刃更ら四人によって、撃退されました」
背後に控えていた、同じく黒い装束の男が、片膝をついて答えた。
「四人、だと?」
「はい。東城刃更、成瀬澪、野中柚希、成瀬万理亜。四人の共闘です」
「……成瀬万理亜だと? あのサキュバスの小娘が、戦えるのか」
「封印鍵を解放し、大人の姿で参戦した模様です」
「ふん。シェーラの娘か。親子揃って、厄介なことだ」
将軍は、夜景を見つめたまま、しばらく沈黙した。
「……東城刃更。勇者の一族の、出来損ないと聞いていたが」
「はい。ですが、主従契約の逆転により、澪の魔力を利用した戦闘を可能にしているようです」
「契約の逆転、か。面白い。ますます、澪の血を我が手に収めたくなった」
将軍の口元が、ゆがんだ。
「将軍、いかがいたしますか?」
「決まっている。もはや、小細工は不要だ。我らヴァルグリンド派の、真の力を見せてやれ」
将軍が、ゆっくりと振り返った。
その瞳が、闇の中で、ぎらりと光る。
「動け。澪を、連れてこい」
冷たい声が、夜の闇に吸い込まれていった。
──
東城家のリビングでは、刃更が、一人、窓の外を見ていた。
「……何か、嫌な予感がする」
刃更は、無意識に、左腕の腕輪を握りしめた。
腕輪の紋様が、ほんの一瞬、かすかに光った。
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